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2人の贖罪-世界+ ~命《いきる》を選んだその先は~  作者: 【表現者の蕾】/ようかの夜
第2章

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同じ席についた日-2




「申し遅れました。(わたくし)、この古館の管理や家事などを任せられております。

 ――ペル・リメッツと申します」



 こうして正面から見て分かったが、彼がかけている眼鏡は、左右で形が違う風変わりなものだった。

 片方は四角形のフレームで、もう片方は六角形のフレーム。


 一度気づいてしまうと、どうしても目線がそこに引っ張られてしまうな。


 丁寧な所作だが、堅苦しさは感じない。

 ……そういえば、牢の中でも名前が出ていた気がする。



 ペル爺…。



 ん。


 あ。この人か。

 オレが気を失っている間に、運んだり着替えさせたりしてくれていたって言ってた人だ。



「その件は多大なご世話をおかけしました。ルピナスさんから聞きました、いろいろと面倒をかけたみたいでごめんなさい」



 軽く立ちあがり、オレは慌てて改めてお礼を述べる。



「大したことではございませんよ。お気になさらず」



 本当に気にしていない様子で、ペル爺は皺の刻まれた目尻をやわらかく下げた。



「ただの雑用だよ、雑用。むしろもっとこき使ってあげて」

「はは。確かに、これからは私どもの仲間になるのですから。

 アイト殿もどうぞ、肩の力を抜いて接してくださいな」

「はい…」



 ルピナスの軽口を、落ち着いた笑顔で受け止めるペル爺。

 普段から、こんな風にラフな関係性なのだろう。



「ルピナス様はもっと自重しても良いのですけどね」

「おお? 言うようになったねえ、アエリスちゃんも」



 仲睦まじいやり取りを交わす彼らを眺めつつ、オレは食事を再開。


 次は肉料理に手を伸ばした。


 ナイフを入れると、スッと刃が通る。焼き目の下は柔らかい。

 一切れを口に運び、噛む。

 脂がほどけ、旨味がじゅわっと広がった。



「……うま」



 思わず息が漏れた。

 体の力が抜けていくような感覚だった。


 無意識に、フォークが次の一切れへと伸びる。



 スープ。


 パン。


 お肉。



 空腹だったこともあって、気づけば夢中で食べ進めていた。

 美味いものをたべると、やっぱり自然と気持ちも晴れやかになってくる。


 というか、この広そうな家もそうだし、この豪勢な食事もそうだ。

 執事みたいな人までいる。


 ひょっとしてルピナスって、結構名の知れた人物だったりするのかな。


 どっかの貴族だったり領主だったり……。




「――イトくん、ア・イ・トくん!」


「――。あっ…?」



 呼ばれていることに気づかなかった。

 そうだった、オレはアイトなんだった。



「ふふっ…。ごめんごめん。どうした?」

「どんだけ食うのに夢中になってんねん! 

 まあいいけどさ、本当に大丈夫なの? 馬車の中でいきなり倒れたでしょ?」



 呆れたように少し笑いながら、そう心配してきたルピナス。



「ん? だから体調はもう平気だって――」

「命力切れの方は多分大丈夫だと思うけど、そっちじゃなくて妙獣にやられてた方。

 なかなかえっぐい怪我だったよ、お腹」

「お腹? ……あっ!」



 オレは慌てて服をめくり、自分の腹部を確認する。


 痛みはもう全く感じていなかったので、すっかり忘れていたが、あの鈍器人間みたいな妙獣に一発もらった時の負傷だ。


 お腹の無事を確かめ、傷が残っていないことにほっと息をつく。



「セントラディアに着いてから、ナタリアさんに治してもらってさ。そんでその後ルピナがここに運んだの。

 ルピナが、ね!」

「お、おう。ありがとう……」



 ナタリア…。

 村でルピナスにも回復の魔法をかけてあげていた人か。


 たしかセントラディアの学院で働いてる的なことを言っていたはず。

 またどこかで会えたら、ちゃんとお礼を言わないとな。


 それはそれとして、今のルピナスに言い方にはちょっと引っかかる部分がある。



「ここって、やっぱセントラディアって国の中じゃないよね?」

「あ、気づいた?」



 ルピナスの発言もそうだが、さっき目覚めた時のことだ。


 窓から外を見たが、周囲には他の家や建物とかが全然見当たらなかった。

 それが少し気になっていた。



「一応、管轄でいえばセントラディアの国内ではあります。けど中央都市からは外れた

場所に位置しているのですよ」



 食具を一度置き、アエリスがそう言葉を添えた。



「中央都市?」

「はい。セントラディアの一番の主要都市です。ここから少し行ったところに、大きな星形のような外堀に囲まれた街があります。

 けど、都市の中は特殊な作りが施されていまして、住みづらいと思う人はそこから出た郊外に住んでいるのですよ。こなたたちもその1人ですね」

「この辺は森が多いかな」

「……森? 森って妙獣の生息区域なんでしょ? 危なくないの」

「危ないって言われてるのは、デュムールって国の周辺だけですね。

 もちろん、そこ以外には全く妙獣がいない、という話ではありませんが、少なくともこの辺りは安全なはずです。敷地内なら特に」

「あーそっか。アイトくんあそこの近くの村に住んでたもんね」



 なるほど。

 たしかにそんな話もどこかで聞いた記憶があるようなないような。


 デュムールは妙獣の国だとかって話。


 ともかく、気になっていたことが1つ解消された。

 近々そのセントラディアの中央都市とやらにもいってみたいな。



「それにしてもさ」



 ルピナスがパンを口に放り込みながら、オレを見た。



「あの襲撃のとき、よくあんな冷静に立ち回れてたよね、アンタ。

 何か経験とかあるの? なくてあれならマジですごいよ。才能ある」

「そ、そうか? 照れるな~」



 内心、全く冷静ではなかったんだけどな。

 傍から見れば、そう映っていたのだろうか。



「うん。あんな状況でルピナに大型妙獣の倒し方とか伝えてきたりさ。

 本当に驚いたわ、あれ」



 あの時。

 大型妙獣なんて化け物との遭遇があっても、結局オレは逃げなかった。それどころか、ルピナスを補助する行動をとろうとさえしていた。


 それが引っかかっていたのだろう。



「へぇ! 期待の新入りになりそうですね!」

「えへへ。やめてよ~大げさだよ」



 期待されればされるほど、その期待に応える働きができなかったときの落ち込みは大きくなる。

 できれば「こいつは雑魚枠」くらいにでも考えといてほしいものだ。



「元々なんかやってたりしたのー?」

「いいや。特に何も」

「じゃあどうして?」

「さあ。どうしてだろう」



 まあ真剣に考えてみれば、一般人のくせして異常事態でも比較的パニックになっていないように見えてた原因は、いくらでも思いつく。


 多分オレ心の根っこの部分には、生きることへの執着があまりないんだと思う。


 死にたいと思ってるわけじゃない。けれどどこかで『最悪死んでもいいや』の気持ちがずっとある。

 だから命の危険が迫る場面でも、普通の人ほど取り乱しづらいのかもしれない。



 生きることは苦痛である。



 オレはそんな考えを心の奥に持っている人間だ。

 あの日を除けば、今まで自殺こそしたことないし自ら死のうと思ったことも基本的にはないが、外的な要因で、不可抗力で死ねるのなら――それはそれで構わない。

 仕方なかったと言い訳にもなるし、この辛さからも解放される。


 そんなふうに思っているのだろう。



 もっとも。

 自分の人生に新しい風が吹き始めてるのを肌で確かに感じてる今、死にたくないという気持ちの勢力も、だんだん増してきてはいるけどな。



「本当にただの村暮らしの人?」

「うん、本当にそうだよ。

 自分が魔法を使う日が来るなんて絶対ありえないと思ってたくらいには本当にマジのマジで凡人未満」



 ……まあ、ゲームをやったり、漫画やアニメを散々見てきたことも、非現実的なことを事前に履修できいてたという意味では大きいのかもしれないな。


 と、今さらながらに振り返って考えてみたり。



「あるとすればあとは、オレよくファンタジーものの作――」



 いや、待て。


 オレがこの世界の人間でないことは、打ち明けてしまっていいのだろうか。


 この世界で『異世界人』というのがどういう扱いなのかが分からない。

 他にも異世界人はいるのかどうか。

 いるならどういう立ち位置なのか。


 危険視され、人々から迫害される存在なのか、それとも勇者のようにいい意味で特別扱いされる存在なのか。

 もし他に異世界人が存在しないのなら、それはそれで、「異世界人です」なんて言ったらオレは頭がおかしい奴だと思われてしまう。


 最悪、せっかく手に入れたこの居場所から、即追放されることだってあり得る。

 ルピナスたちがそんなことをするタイプとは思いたくないが、正直リアクションは読みづらい。

 思わぬ地雷を踏む可能性がある以上、軽率に話すべきではない。


 とりあえず、今はまだ伏せておいた方が無難かもしれないな。



「――? どした?」

「……いや、なんでもない。てかルピナ……ルピーナの方が只者じゃないでしょ」

「はっ、そいやそう呼ぶって話してたな」



 最後の一切れの肉を頬張りながら、ルピナスが軽く笑う。


 まだ口が言い慣れていない感じがして、なんだか小恥ずかしいが、まあ呼んでるうちにいずれ慣れるだろう。


 

「そりゃ当然でしょ! 最強の魔法使いになるんだから。只者なわけないでしょーて」

「また言ってる…」



 しかし、いつか本当になってもおかしくないよな。

 そう思わせる何かを、この人は持っている。


 まだ出会って間もないが、それでもあの襲撃の日からどこかで思ってる。


 ……この人は、カッコいい。


 リスペクト、とでもいうべき感情だろうか。そんな気持ちを抱いている。

 こんなこと本人に伝えたら、間違いなく調子に乗るだろうから、口には出さないが。



「魔法もそうだしこの家もそうだけど……ルピーナってだいぶお金持ちっぽいよね。どっかの名家のお嬢様だったりするの?」

「いやあ? 別にそういうわけじゃないよ。ここも譲ってもらったものだし。……まあいろいろあるんよいろいろ」

「ほぉ……」



 いろいろある、か。

 そういう言い方をされてしまえば、なんとなくこれ以上踏み込みづらい。



「まあとりあえず、アイトくんが大丈夫そうなら問題なし! じゃあ近いうちにまた旅に出発できるね。

 その前にいろいろやることはあるけどさ」

「旅……」



 そう。旅だ。


 オレがルピナスの新たな仲間となって、こっちに来た理由。

 そのことについてちゃんと聞いておかなければいけない。




 別に誰かがそうしようとしたわけではないのだろうが、不思議と誰も口を開かず、ふと沈黙の時間が流れた。


 皿の触れ合う音。


 アエリスがグラスを持ち、水を一口飲む。


 小さな音だけが、静かな部屋に残る――。



 オレにとっては、ここからが本題となる話だろう。




「――ねぇ。旅の目的って言ってた、 “探してるもの”って何なの?」

「ああ。そいえばまだちゃんと説明してなかったね」



 料理を平らげ、フォークを皿の端に掛けると、ルピナスはすっと表情を改めた。



「ルピナたちが探してるのは、とある書物だよ。

 名は――『世改の書』」






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