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2人の贖罪-世界+ ~命《いきる》を選んだその先は~  作者: 【表現者の蕾】/ようかの夜
第2章

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同じ席についた日-1






 地下牢から出た後、ルピナスたちとは一旦別れた。


『ここがこれからのアイトくんの部屋ね。好きに使っていいから』


 そう案内されたのは、オレが寝かされていたのとは別の部屋だった。


 一人用の机と椅子。

 壁際には先ほどより一回り小さめの、シングルサイズのベットが置かれている。


 必要最低限の家具だけ、といった質素な部屋。



 机の上には、オレが着ていた服を畳んで置いてくれていた。



「よかったぁ……」



 愛用のパーカーが捨てられていなかったことに、ほっとした。


 洗面台の前に立ち、蛇口をひねる。

 流れ出す水を両手ですくい、顔を洗う。


 顔全体にすっと広がる冷たさが、目元や口元に残る不快感を流してくれた。


 これを数回繰り返して、息を整える。



「またちょっと増えたかな……」



 ふと鏡を見ると、映っているのはどこか気の抜けた自分の顔。

 目元にはわずかに赤みが残っているが、ちゃんと“自分だ”。


 夢じゃない。


 村で起きたこと、監禁されたこと。

 非現実じみたことが続いたが、ようやく地に足がついた気がする。


 机の上に置かれた服に手を伸ばし、いつもの格好に着替える。


 そして、部屋を出た。



 幾波乱を乗り越え、オレは今度こそ新しい日常に足を踏みいれていく――。




「確か、一階だったっけ」



 投獄前の雰囲気とは打って変わって、廊下は既に明るい。

 窓から光が差し込み、床に影を落としている。



「もう昼過ぎ、か」



 ルピナスの話を踏まえると、どうやらオレはあの時馬車のなかで気絶するように眠りにつき、そのまま次の夜明け前までずっと眠っていたようだ。


 ほぼ丸一日くらいか。


 何日も日を跨いでしまったのではと覚悟していたので、それだけで済んだのはまだマシだった。


 とはいえ、無駄にたくさん眠ってしまった時の“時間を無駄にした感”はどうにも落ち着かない。

 時間を取りこぼしたような、時間に置いていかれたような。

 そんな感覚。


 別に生き急ぐ理由なんてないはずなんだけども。



 ぼんやりと取り留めのない思考に身を任せていると、前方の部屋の方から食欲をそそる匂いが漂ってきた。

 その温かい香りに、お腹は正直に反応する。



「やっぱオレだったのかな…」



 わずかに気恥ずかしさを覚えながら、ぼそりと溢し、オレはダイニングと思しき広間の前で立ち止まる。 

 そして、静かに扉を開けた。




「お、やっと来た!」




 ルピナスが手招きしながら、オレに声をかけてくる。


 広間の中央には、八人くらいは座れそうな大きな食卓が据えられて、その一席に既にルピナスは腰掛けていた。

 その斜め向かいの席には、先ほどの少女――アエリスが背筋を伸ばし行儀よく座っていた。


 そしてもう1人。


 食卓のそばで、ちょうど配膳を終えた様子の人物が目に入る。

 眼鏡をかけ、襟付きの白いシャツをきっちりと着こなした、物腰柔らかそうなオジ様だ。


 執事のような人、だろうか。


 そんな広間の様子を見渡していると、アエリスがひょいと片手をあげて、挨拶代わりにこちらにニコッと微笑んでくれた。



「お、お待たせ~……シマシタッ」



 新しい仲間に対して、オレも陽気な感じで挨拶を試みたのだが、最後にひよって妙な敬語が付着してしまった。


 まぁこれからどんどん距離を縮めていければいいか。



「アイト殿、具合はいかがですかな?」

「…あ、はい! もう平気です!」

「それはよかった」



 貫禄のある声にいきなり話しかけられて少し驚いたが、オレは軽く答えつつ、食卓のほうへと歩み寄る。


 このオジ様も、既にオレのことは聞かされてるとみてよさそうだ。

 


「ちょっと遅くなっちゃったけど食べようか」

「はいっ! アイト様もどうぞこちらへ。ペル爺のお料理はどれも美味しいのですよ!」


「……じゃあ、失礼して」



 促されるまま、オレはアエリスの隣、ルピナスの正面の席に腰を下ろした。


 ルピナスの隣には、もう一人分の食器が用意されている。

 まだ誰か来るのだろうか。


 ルピナスたちが食べ始めたのを横目に、オレもテーブルに並べられた料理に手を伸ばす。



「いただきみぁす」



 焼きたてのパン。

 表面はこんがりと色づき、香ばしさが視界から伝わってくる。


 その隣には、深めのお皿に入ったスープ。 

 香草の香りが湯気と一緒にふわりと漂い、鼻腔をくすぐる。


 大きめのお皿にはメインの肉料理と、その横にちょっとした副菜が添えられている。

 ほどよい焼き色と、きらりと光る脂。切り分けられた肉からじわりとにじむ肉汁が、さらに食欲を掻き立てる。


 いかにも貴族の飯といった雰囲気のあるラインナップだ。


 パンを1つ手に取り、一口サイズにちぎって口に運ぼうとしてると、変な視線を感じた。



「……?」



 ルピナスとアエリスが、揃って変なものを見るような目でオレのことを見ている。


 な、なんだ…そんな目で見るな。



「ど、どうかした?」

「いや、今の何?」

「今の…?」

「いただきむぅす、ってやつ」

「……何かの詠唱ですか?」



 あー、なるほど。

 よくあるやつだ。


 ルピナスの再現にはツッコミを入れたいところではあるが……それはそれとして。

 この文化は日本特有だったりするもんな。



「なんていうのかな…。食事の前にする簡単な挨拶、みたいなものかな。ちな食べ終わった後は『ごちそうさみぁ』ね。

 オレの前いた世……というか、生まれ故郷の慣習だよ」

「挨拶……? 食べ物に挨拶するの?」

「んんん、なんか違うかも。

 その食材の命とか、作ってくれた人とか、食べられる環境とかに感謝の気持ちを述べる、的なのが一応形式的な理由かな」



 2人揃って「へー」と理解したような声を漏らす。



「そういう習わしは良いですね! こなたもこれから取り入れてみます」



 そう言ってアエリスは、手を合わせ「いただきみぁす」

 と小さく呟く。


 それから再び、自分の皿へ手を伸ばした。



「まあ、普段からちゃんとそれを意識してるかと言われれば、あんましてないんだけどね。

 なんとなく流れで言ってる感は否めないかも」



 そんな雑談を挟みながら、今度こそちぎったパンを口に運んだ。



 表面の薄い皮がぱりっと音を立て、中はふんわりと柔らかい。

 ほんのり甘い小麦の香りが、口の中に広がる。


 次にスプーンを手に取る。

 スープをすくい口元に運ぶと、湯気がほわっと顔に触れた。


 ――温かい。


 ポタージュの滑らかさと、やさしい塩気が舌を包む。

 中には柔らかく煮込まれた野菜が入っていて、口の中でほろっと崩れた。


 もう一度、さっきよりも少し大きめにパンをちぎり、そのままスープに浸してみる。

 吸ったスープがジュわっと染み出すのを見て、思わず一口で頬張ってしまった。


 予想以上に美味しい……。



 料理もそうだが、この館の家事とかは全部あのイケオジ様が一人で回しているのだろうか?


 そんなことを思いつつ、卓のそばに立つ男へ視線を向けると、その視線に気づいて軽く一礼を返してきた。



「申し遅れました。(わたくし)、この古館(ふるやかた)の管理や家事などを任せられております。

 ――ペル・リメッツと申します」






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