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【第2章まもなく完結!】2人の贖罪-世界+ ~命《いきる》を選んだその先は~  作者: 【表現者のツボミ】/ようかの夜
第2章 求める者と阻む者

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断たれる帰路




「――背信者かどうかを見極める手間は、省けたようですぞ」



 ダステンは、ブッキーたちを見据えてそう言った。


 しかし、その瞳に浮かんでいたのは、単なる敵意だけではない。


 確信。

 そして、わずかな困惑。


 ダステンが追っていたはずの相手は、確かに目の前にいる。


 重(・)さ(・)を忍ばせた相手。

 違和感の元凶だと睨んだ相手。

 自分たちの認識を欺いたかもしれない、何者か。


 だが、今ダステンが相対している者たちは、彼の頭の中にあった姿とはまるで違っていた。


 似ても似つかない。

 顔も、背丈も、纏う雰囲気も違う。



 だからこそ。


 それだけで、十分だった――。



 姿が違う。

 想定と違う。


 その現実こそが、疑惑を黒と判断するには十分すぎる材料だった。




「お前さんは……あぁ、あの時の」




 ブッキーがぽつりと漏らした。



 その一言を、ダステンは聞き逃さない。


 そして、鼻で笑う、


 大仰に。

 いかにも、勝ち誇るように。



「ふんっ! 語るに落ちましたぞ、小僧」

「……っ、ちっ」



 ブッキーもすぐに自分の失言に気づいたらしい。


 表情から、軽さが少しだけ消える。

 いつもの飄々とした雰囲気を残したまま、それでも確かに、ダステンを見る目の鋭さが増した。



「我々に近づいた理由、我々を欺いた理由。

 いろいろとお聞かせ願いたいところですが――」



 その言葉に合わせるように、メリッサが一歩前へ出た。


 大盾へ手をかけ、すぐにでも動ける姿勢を取る。



「ダステン様。こいつらが黒なのは確定ですよね。

 すぐに全員始末してしまってもよろしいでしょうか」

「殺してしまっては情報が取れない。素姓と目的を聞き出すべき」



 ノワーレも横から淡々と口を挟んだ。


 前に出ようとするメリッサの横へ腕を差し出し、冷静に制する。



「ん」



 クラフトも重く頷く。




「ちょいちょい、待ってくれよ」




 ブッキーは軽く両手を上げた。


 降参の仕草ではない。


 勝手に話を進められることへの抗議。

 それくらいの軽さを装った動きだった。



「いきなり物騒な話じゃねぇか。俺ちゃんたちがなんかしたか?」

「先ほど申し上げたでしょう? ――我々を欺いた、と

 その一点だけで、追及の理由としては十分ですぞ」

「なんでか確信してる感じか……? こりゃ誤魔化すのは厳しいな。無血解決は難しそうか」



 ブッキーは面倒そうに息を吐いた。

 その手が、自然な動きで背中へ回る。


 だがダステンは、それを見逃さなかった。




「――では行きなさい。お三方!」




 その号令と同時。



 最初に踏み込んだのは、意外にも大盾を背負ったメリッサだった。


 防御を担う重兵。

 その印象とは裏腹に、彼女の動きは速い。


 背に収めていた大盾を、まるで剣を抜くかのような動作で前へ引き出す。


 下へいくほど鋭く絞られた盾の下部。

 それを剣先のように構え、メリッサはそのまま突撃した。



「お前は主人を守る役目じゃねぇのかよっ!」



 ブッキーは咄嗟に叫びながら、背中に回していた手で刃を抜く。


 鉤(かぎ)のように曲がった、奇妙な片刃の短刀。

 真っ直ぐ斬るための刃ではない。


 引っかける。

 逸らす。

 隙間へねじ込む。


 持ち主の性根をそのまま形にしたような、ひねくれた刃だった。



 メリッサの盾が正面から横薙ぎに振られる。


 ブッキーは蛇曲刃でそれを受け流し、盾の縁に足をかけた。

 そのまま前転するようにメリッサの頭上を越える。


 斜め後方へ着地。


 そして振り抜きざまに、首筋へ刃を走らせた。


 届く――。


 そう思わせる軌道だった。


 だが、刃が皮膚へ触れる寸前。

 横から伸びた手が、その腕を掴んだ。



 その手の主は――クラフトだった。




「……っ、馬鹿力すぎるだろ!」




 ブッキーは腕を引き抜こうとする。


 だが、びくともしない。

 クラフトは何も答えない。


 ただただ、握る力をさらに込めた。


 骨が軋む音。

 ブッキーの顔が歪む。



「メリッサ。衝動で突っ走りすぎ。相手は手練れ。警戒すべき」



 後方からも、ノワーレが淡々と告げる。


 片手で口元の布を直しながら、ゆっくりと歩く。

 飛び出したメリッサの代わりに、ダステンの前を埋めるような位置へ。



「冷静にだぞ」

「うるさいわね、分かってるっての!」



 メリッサが少し口を尖らせるように返す。


 そのわずかなやり取りの隙を、ブッキーは逃さなかった。


 掴まれていない方の袖口を、クラフトの顔へ向ける。

 袖の奥から、小さな矢が射出された。


 真っ直ぐ顔面へ飛ぶ。



 ――しかし、クラフトは寸前でそれを指で挟み止めた。




「まだ終わりじゃないぜ」




 ブッキーの口元がわずかに歪む。



 ――次の瞬間、クラフトが受け止めた矢の先端が爆ぜた。


 小さな爆発。

 だが、顔のすぐそばで炸裂すれば、十分に致命的になり得る威力だった。


 爆風がクラフトの顔を打つ。


 わずかに怯む。

 その一瞬だけ、掴んでいた手の力が緩んだ。


 ブッキーは即座に腕を抜き、後方へ跳ぶ。


 距離を取った先は、倒れていた二人の仲間の近く。

 人動車を引いていた、男女のもとだった。




「おい、起きてるんだろ。お前らも手伝えよ」




 ブッキーはクラフトたちへの警戒を切らないまま、倒れている女の身体を足先で軽くつついた。


 しかし、反応はない。



「嘘だろ……」



 ブッキーは顔を引きつらせ、今度はもう一人の、長い髪を垂らした男の方へ足を延ばす。


 肩をつつくと、こちらはゆっくりと身体を起こした。



「ヘーモンは起きてたか。起きてるなら一緒にやってくれ。さすがに分が悪ぃわ」



 ヘーモンと呼ばれた男は、黙って頷く。



「アリア―は……お前はマジで落ちてんのかよ」



 ブッキーは倒れた女の襟を掴み、起こそうとする。

 しかし、彼女は本当に意識を失っているようだった。




「うわ、想定以上にやるみたいじゃねぇか、お前ら」

「奇しくも――」



 メリッサが、改めて大盾を構え直す。



「お互いがお互いの実力を、実際より低く見積もっていたようね」

「舐め合っていた、か。ヒィッ、笑えるな」



 ブッキーはふざけた調子で笑った。



「ならば、ここからは遠慮はなしだ」



 クラフトが拳を合わせる。

 金属の籠手(こて)がぶつかり、重い金のような音が鳴った。


 その威嚇に、ヘーモンは低く構える。

 四肢を地面に近づけ、獣のように。



「大盾女の方は俺ちゃんが相手する。ヘーモン、でか物を頼むぜ」



 ヘーモンは言葉で返さない。

 ただ牙を覗かせるように口元を歪め、クラフトへ一直線に跳んだ。


 噛みつくような突進。


 クラフトは横へ身をずらす。

 ヘーモンは着地と同時に体勢を反転し、即座に再び襲いかかる。


 だが、その動きへ合わせるように、クラフトの拳が入った。

 重装を纏った拳。


 鉄魂にも似た一撃が、ヘーモンの身体を叩く。


 鈍い音。


 まともに食らったヘーモンの身体が吹っ飛んだ。

 だが、彼は空中で身を捻り、足から着地する。


 今の音と衝撃から受ける印象ほど、効いてはいないようだ。



「ほう」



 クラフトは感心したように、声を漏らし、目を鋭くする。



「身技で身体を固めているか。こっちもなかなかの使い手と見た」



 ヘーモンの皮膚の表面には、淡い命力の流れが浮かんでいた。


 無口な男は、喉の奥で低く唸った。



「それならば、俺も向きあわなければなるまい」



 クラフトの拳に命力が集まる。


 重装の上からでも分かるほどの圧が、その腕へ集中していく。




「身技――『集命爆拳』!」




 咆哮と共に、クラフトの拳が地面へ叩きこまれた。


 石路が割れる。

 罅(ひび)は一瞬で広がり、足場そのものがめくれ上がった。


 石片が跳ねる。

 ヘーモンの身体も、足場ごと宙へ浮き上がる。


 ――しかし、ヘーモンは舞い上がった石片を蹴った。


 割れたはずの足場を、次の踏み台へと変える。

 そのまま空中で軌道を変え、さらに加速。



 重装の巨漢と、四足獣のような男。


 二つの荒々しい力が、真正面からぶつかり始めた――。







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