↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第2章まもなく完結!】2人の贖罪-世界+ ~命《いきる》を選んだその先は~  作者: 【表現者のツボミ】/ようかの夜
第2章 求める者と阻む者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

109/116

疑念の先へ




「――ルピナス嬢が敗北など、ちゃんと考えればありえませんぞぉ!!」



 そう、自分の中にあった一番大きな違和感を、はっきりと掴み取ったのだった。




「……」




 やっぱりいつも通りではないか。


 メリッサは一瞬、なんともいえない感情を露骨に顔に出した。


 ルピナス絡みの、いつものあれ。

 そう思わずにはいられなかったからだ。


 けれど同時に、ただの戯言として流すには、ダステンの目が妙に真剣だったのも確かだ。


 だからメリッサは、ため息を飲み込み、確かめるように問い返す。




「それは……ダステン様の個人的な願望では?」


「願望、ですか。……うむ。愚問ですな」



 ダステンは重々しく頷いた。



「それは否定はできませんぞ」

「……はぁ、認められてしまうんですね」



 そんな拍子抜けさせられる返答に、メリッサは額に手を当てかけた。


 やはり真面目に聞くべきではなかったかもしれない。

 そう悔いるところだった、その時。




「――しかし、それだけではありませんぞ」


「え?」




 ダステンはいつもの癖のように髪を整えようとして、途中でその手を止めた。




「なぜ、小生はここまでそれを当たり前のように受け入れていたのですか?」




 その問いは、三人へ向けたものでもあり、自分自身へ向けたものでもあった。



「決闘の結末を……ですか」

「ダステン様がルピナス様を気にかけらおられることは、存じております。

 だからこそ、目を背けたくなるお気持ちも分かります。

 ですが、事実は事実です。あの異議決闘においては、派閥ブラドリーナが一枚上手でした。

 ……そう、受け止めるべきかと」

「ええ。派閥ブラドリーナが勝利した。派閥ルピナスは敗れた。だから、あの場はそれで解散となった。

 その結果は、確かに小生の頭の中にあります」



 思い返すように瞼を一度伏せたダステンの声が、そこで一段低くなる。



「――ですが、最後に誰が勝敗を宣言しましたか?」



 沈黙。



「ルピナス嬢はあの後、どうなりましたか? それを確かめた者はいませんか?」



 誰も答えない。

 というより、答えられないのだろう。



「小生らを含め、あの場にいた者たちは、何を確認して解散したのですか?」



 メリッサが、記憶を辿るように目を細めた。

 クラフトも腕を組み、唸るように視線を上げる。



「最後に、ルピナス様たちが謝罪をして終わった……ような気がします」

「え、謝罪なんてしてたか?」



 クラフトが眉を寄せる。

 メリッサも言い切れないまま、口を閉ざした。


 二人の記憶は微妙に噛み合っていない。



 そこで、ここまで一歩引いてやり取りを見守っていたノワーレが口を開いた。




「――これこそがまさに、ダステン様がおっしゃっていた違和感……そう捉えるべき」


「その通りですぞ、ノワーレ氏」




 ダステンは頷く。



「ですが、それはあくまで、あなた方へ説明するための材料に過ぎませんぞ」

「材料……?」

「ええ。そんなことより、もっと根本的な問題がありますから」



 ダステンはそこで、芝居めかして小さく笑った。


 それは無論、ルピナスの敗北を笑ったわけではない。

 困惑する臣下たちを笑ったわけでもない。


 あまりにも間抜けな自分自身を、己の愚かさを、嘲るような笑みだった。




「――何より、小生が一生を捧げると決めた相手がそんな窮地に陥っているかもしれない状況で、まんまと帰路についているのが、一番おかしいでしょうがぁぁぁ!」


「……」




 その勢いに、どう反応したものか分からず、メリッサたちはただ主を見つめる。


 それらの視線に促されるようにダステンが続けた次の言葉で、三人はようやく主の真意を理解した――。




「――まるで、誰かの掌で踊らされているみたいですぞ」




 クラフトの表情が引き締まる。

 メリッサが大盾の把手(はしゅ)へ手を伸ばす。

 ノワーレの眼差しがわずかに鋭くなる。



「何者かの干渉、ということですね」

「可能性は、高いですぞ」

「まさか……あの場にいた全員へ、ですか」

「断言はできません。しかし少なくとも、小生らの認識に何かが差し込まれた。

 そう考えた方が自然ですな」



 メリッサは、背中の大盾へ手をかけた。



「では、今すぐにあの場に戻りますか」

「戻るのも、一手」



 そう答えながらも、ダステンはゆっくり首を横に振る。



「しかし今戻っても、すでに事は進んでいるかもしれません」

「では?」

「小生たちは、もう一つ気になっていた方を追うことにいたします。

 その方が賢明ですぞ」

「……もう一つ?」

「ええ。往時の一幕より、ずっと気にかかっていた者がおりましてな。

 そやつらが関係していると、小生は見ていますぞ」



 言いながら、ダステンは懐から小さな鏡を取り出した。

 いつも身だしなみを整えるために使っている鏡だ。


 三人が一瞬身構える。


 しかし、ダステンはその鏡で自分の髪型を確認しただけだった。




「……」


「よし」




 ダステンは満足そうに鏡をしまい、今度は掌を上へ向ける。


 そしてその掌を、中心都市の街並みを背にする方角へ向けた。



「こんなこともあろうかと、その嫌疑者にはほんの少しだけ、ささやかな重さを送っておきました」

「……!」

「使われたのですね」

「ええ。気づかれぬ程度に、ほんの少し。

 肩が凝ったかな、身体がだるいかな、と思う程度の干渉ですぞ」



 ぴたりと一方向を示すダステンの掌。

 三人も、その先へ顔を向ける。


 そこでようやく、四人の意思が同じ方向を向いた。



「小生が施したその小さな重力の歪みで、その者の行方を辿れます。

 まだ遠くはありませんな」

「これからその者を追う、ということでいいですね」

「ええ、もちろんですぞ」



 ダステンはマントを翻し、掌を向けていた方角へ身体ごと向き直る。


 そして、今度は指先でその先を示す。

 芝居がかった、いつもの調子で。


 けれど、その目だけは真剣で――



「ルピナス嬢を侮辱するに等しい結果を、小生が安易に受け入れるはずがない。

 そして、小生たちの目を欺いた者がいるならば、相応の礼を返してやらねばなりませんぞー!!!」

「了解!」



 クラフトが太い声で応じる。



「いつものことながら、動悸に若干の不純さが混じってるのがあと一歩惜しいところですね」



 メリッサは呆れたように溢しながらも、大盾を背負い直した。


 しかし、ノワーレだけはまだ動かなかった。



「よろしいのですか?」

「何がですかな?」

「もし我々が何者かの干渉を受けていたのだとすれば、今のこの瞬間にも、ルピナス様は危機に陥っている可能性があります」



 その指摘に、メリッサとクラフトの表情がわずかに強張る。


 ――だが、ダステンは動じなかった。



「ふっ。なんにも問題はありませんぞ」



 ノワーレの方へ、少しだけ顔を向ける。


 傾きかけた夕光が背後から差し込み、ダステンの輪郭を淡く縁取っていた。




「――そんな得体の知れない雑輩(ざっぱい)に、ルピナス嬢が負けるはずがありませんからな!」




 堂々と。

 一切の疑念なく。


 ダステンはそう言い放ったのだった――。



「そうと決まれば早いところ追いますぞ、お三方」



 ダステンは大きく一歩を踏み出す。



「欺瞞(ぎまん)の手品師へ、代金を請求しに参りますぞ!!

「ん。一刻も早く追跡すべき」



 ノワーレが短く頷き、



「承知しました」



 メリッサが軽く頭を下げ、



「っす」



 クラフトが拳を鳴らした。



 三者三様の返事を受け、こうして四人は進路を変えた。



 地下の決闘場へ戻るのではない。


 現在進行形で都市の外へ向かう、ある一つの影を追って――。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。