終幕の裏側
時間は少し遡る。
派閥ブラドリーナと派閥ルピナスの異議決闘が行われた、あの日。
ヴァル・モクスフッドの襲撃があったのと、ほぼ同じ頃のことだった。
地下の決闘場を出て、地上へ戻り、大図書館からも離れた都市の通路。
人通りの少ないその道を、四つの影が歩いていた。
一人は、長いマントを揺らす男。
角張ったキノコのような髪型。
無駄に多い装飾品。
そして、その背を飾る三本の線
青。
赤。
黄。
その三色をそれぞれ背負うように、同じ色の装飾を重装に刻んだ三人の従者を連れ、男――ダステンは堂々と歩いていた。
評議は終わった。
そしてその後の異議決闘も、決着した。
「まさか、あのルピナス様が敗北なさるとは、意外な結果でしたね」
「……う~む」
派閥ブラドリーナの勝利。
派閥ルピナスの敗北。
その結論をもって、あの場は解散となった。
頭の中には、その結果だけがあった。
そもそもの発端は、派閥ブラドリーナに属する、血の気の多い少年の告発だ。
派閥ルピナスに新しく加わった少年が、自分たちの派閥代表を出し抜くため、襲撃を企てているところを目撃した――。
そんな容疑を唐突に掲げ、彼は派閥ルピナスへと噛みついた。
当然ルピナス側はそれを完全に否認した。
話し合いで収められたはずだった対立は、気づけば異議決闘という形へ流れ込んでいた。
ルピナスがそうであったように、当然暴力で物事を解決することを全員が望んでいるわけではなかった。
それでも、決闘は無情に始まった。
当のダステンも、無関係ではいられなかった。
戦いの開始を告げる役目を任され、その場に立たされた。
そして今。
その異議決闘は終わり、彼らは帰路についている。
まるで、ただ評議に出席して帰るだけだったかのように。
あまりにも普通に。
決着がついた。
結論が出た。
だから、終わった。
何も不自然なことはない。
なのに。
――否。
だからこそ。
ダステンの足が、止まった。
「……いいや、おかしい」
その場で立ち止り、ダステンは真正面を見つめた。
けれど、その眼差しはどこか遠い。
目の前の景色ではなく、先ほどの決闘場に置き去りにされたままのようだった。
「おかしいですぞ」
二度目に口にしたそれは、疑問ではなかった。
確信を帯びた声だった。
「ダステン様?」
鮮黄色の意匠が施された鈍色の重鎧を纏う女――メリッサが声をかけた。
普段からダステンが不可解な行動をとること自体は、珍しくはない。
だが、今のそれはいつもの奇行とは少し違うように、彼女は感じていた。
「……うむ」
ダステンは振り返る。
メリッサの問いに答えるためではない。
自分たちが歩いてきた道。
評議が行われたあの大図書館。
あの地下にある決闘場へと続く方角。
そこへ視線を戻したのだ。
まるで、何か大切なものを置き忘れてきたことに、今さら気づいたように。
「どうかなさいましたか」
今度は、血赤色の意匠が入った重鎧を纏う大男――クラフトが問いかける。
「……少々待ちなさい、己よ」
「……?」
返ってきたのは、クラフトの言葉への返答ではなかった。
切なくも、立て続けに聞き流されてしまったメリッサとクラフトは目を合わせ、わずかに首を傾げる。
その二人とダステンの様子を、さらに一歩後ろから見ていたのは、群青色の意匠があしらわれた戦装束の男――ノワーレだった。
いつもの奇行か。
そう片付けるのは簡単だった。
だが今回は、三人の誰も笑わなかった。
彼らがダステンに仕えてから、もう短い時間ではない。
この男は、普段から妙なことを言う。
本人は真面目なつもりで、芝居がかった態度を取り、自分の髪型に異常なこだわりを持ち、ルピナスの話になると面倒なくらい熱を帯びる。
従者として、困らされることも多々ある。
しかし、突拍子もない発言の奥に、時折ひどく鋭いものが混ざることを、三人はよく知っていた。
「――絶対におかしいですぞ」
ダステンは眉間に皺を寄せ、今度は呟きではなく、三人へ語り掛けるように強く言い放った。
「何がでしょう……?」
「――ルピナス嬢が敗北など、ちゃんと考えればありえませんぞぉ!!」




