第六話-剣術を教えてもらおう。-
物語は三話後に加速する。
「その顔は………どうやら、後悔は無くなったみたいだな。」
父が俺の顔を見て安堵の表情を見せる。
「うん、もう大丈夫だよ。」
もう後悔も、迷いもない。
「それは良かった………」
そう言うと、父は自分の木の元へと戻って行った。
俺も、薪割りを再開するとしよう。
『カン』『カン』『カン』
薪の割れる音が澄み切った早朝の空気を切り裂き、辺りを響かせる。
正直、もう何時間も経っている感覚だったが………どうやらまだ一時間しか経っていなかったらしい。
………待てよ、今目の前には大量の木の束がまとめられている………目視でざっと、二百本ほど。
もしかして………これを全部、やるのか?
俺がそんなことを考えていると、
「本当に、良かった。」
そう、父が呟いているのが聞こえた。
「カルトは………剣自体が嫌いなわけじゃないんだろ?」
「まぁ、そうだね。」
確かにそうではあるんだが………いつ知られたんだ?
「俺がこの剣で薪割りをする時に、良い表情で俺を見てるのが見えたから、それで何となく………な。」
………流石、としか言いようがないな………やはり、俺の最初の父親ではないにしろ、父親は父親のようだ。
「それで………今なら剣は持てそうか?」
「うん。大丈夫………だと思う。」
「そうか………それなら良かったが………嫌になったら、すぐに辞めてもらっても構わんから、すぐに言ってくれ。」
「うん、わかった。」
そんな会話を終え、俺たちは黙々と薪割りを続ける。
そうして………二時間ほど経っただろうか。
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「まぁ、このくらいか。」
「つかれた……………」
腕が………いや、腕だけじゃない。足、腰、背中。全てがバッキバキだ。
極度の疲労。明日に筋肉痛が襲ってくることが目に見える。
というか、この世界の人間の体力は無尽蔵なのか………?父は疲れているようには見えない。
「さぁ、帰るぞ。」
父は腰に剣をしまい、地面に転がった薪たちを集め、帰路へと着く。
その時に見えた背中は、ここに来た時よりも大きくなったように感じられた。
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◼︎
木剣と木剣が衝突し、鈍い音を立てる。
「どうした。こんなものか?」
「まだ………まだっ!」
片方の木剣が、拮抗した状態を脱するために力の向きを変え、相手の頭上方向へと木剣を滑らせる。
(来た…!)
相手の剣は、まだ構えきれていない。そしてこちらの剣は、相手の頭部に確実に打ち込める位置にある。
後は、振り下ろすだけ———
「その技は、当たれば強いだろう。だが、隙が大きすぎる。」
「ゔぇ」
木剣ではなく素手でちょうど横隔膜の近くを突かれた俺の口から苦痛の声が漏れる。
「まだまだだな。」
攻撃によって木剣を落とした俺に向かって相手………すなわち父は、治癒魔法をかけてくれた。
現在、俺は剣術を教えてもらっている最中である。
あの日から、三カ月ほど経った。
週に三日ほど剣術を教えてもらってはいるが、強くなったという実感はあまりない。
というより、父がスパルタすぎるのだ。
常に父が全力で仕合おうとするものだから、初心者の俺は一切足元にも及ばずぶちのめされるだけで、自分の強さがいったいどのくらいなのか、一切わからない。
それと、治癒魔法をかけてくれるのはありがたいんだが………少々脳筋すぎではないだろうか。
いい人には違いないんだが………日本人の常識から見てみると、ただの暴力男にしか見えない。
まぁここは異世界だし、この教え方が正解だとは思うけどな。
俺が疲労により地面に倒れこんでいると、
「わぁ………今日も大変そうだね………」
この庭の外から、声が聞こえてくる。
俺はその声に、「なんだ………キールくんか………」そう、応えた。
ここに来て、新キャラだ。
彼の名前はキール。この村に住む子供のうちの一人で、俺がこの世界で初めてできた友達だ。
あの日の後、俺は暇なときは頻繁に家の外………すなわち村を探索していた。
その時に出会った子供のうちの一人が、キールだ。
薄い金髪で、端正な顔の少年。異世界あるあるのイケメンだ。
ちなみに、キールの年齢は今の俺とほぼ変わらない八歳なんだが、年齢に反して頭がとても良い。
高校生レベルの知能を持つ俺と同等だと思えるほどだ。
「もう少し………優しくしてあげても良いんじゃないですか?」
「いや………父である俺を超えるほどに強くならなければ、外の世界では通用しないだろう。
———もう少し厳しくても良いぐらいだ。」
外の世界………要は村の外ってことなんだが、どうやらこの世界は思ったよりも厳しいらしい。
そもそも、どうして父がここまで厳しく俺に剣術を教えているかというと………
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◻︎三ヶ月前-薪割りの帰り道
「村の外に出たい、か………」
父が俺の身勝手な願いを聞いて、呟く。
身勝手な願いの詳細は、
俺は村長になりたくない。村の外に出てみたい。世界を探検したい。
大体こんな感じだ。
要は、この人生を楽しむのと同時に、魔法を学ぶ時間が欲しいということだ。
村長になってしまえば、色々な面倒が付きまとうことになるだろう。
だから、村長の息子としては随分身勝手なことであるが、俺は村長にはなりたくない。
問題は、両親が村長以外の道を許すかどうかだが………
「あぁ、勿論良いぞ。」
全然、OKだった。
「そもそも、誰にも伝えずに村から逃げ出した過去をもつ俺に、お前を否定する資格はない。」
そうか、それなら、良かった。
後は、母に許可を貰えば———
「ただし、だ。」
「外の世界は、お前が想像しているよりずっと厳しい。数年………いや、数十年ほど心身を鍛える必要があるだろう。俺は、何も考えずに外に出たせいで、死にかけた。お前には死んで欲しくない。だから、外に出るのは準備を全て終わらせてからにしてくれ。」
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◼︎
だ、そうだ。
そして…鍛錬の日々が始まった。
実用的な魔法、剣術、サバイバル術………とにかく色々だ。
辛くはある。だが、楽しくもある。
俺はいち早く村を出て世界を探索するために、全力で鍛錬をした。
現在、三ヶ月目。
幸いにも俺の頭脳は高校生。サバイバル術や魔法に関しては殆どを一発で習得した。
だが………剣術に関しては、どうにもダメだ。
前世で剣道をやっていたせいなのか、はたまたトラウマがまだ残っているのか、どうにも動的な異世界の剣術と相性が悪いらしく、苦戦を強いられている。
だから、父がスパルタなのだ。
まぁ、それでも体自体は鍛わってきた気がする。剣道をやめて弛んでいた高校生の頃の筋肉とは比べ物にならないだろう。
しかし、なぁ。『自由に生きる』この目的を達成するためには、いち早く村を出る必要がある。だが、村を出るためには父の許可が必要であり、俺はまだまだその基準に達していないし達しそうにもない………困ったな。
もっと……… 手っ取り早く強くなる方法はないだろうか………
なんか、こう。
魔力を使ってどうにか…………あ。
「お父さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど………」
「何だ?」
「魔力で体を強化することって………できるの?」
俺の質問に、父とキールが顔を合わせる。
………何でキールも?
「お前が言っているのは………帝国で開発された身体強化魔法のことか?」
「多分、そんな感じかな。」
てか、あるのか。母の授業では教わらなかった………気がする。
「昔、本で読んだことがあるんだが………身体強化魔法には副作用があるらしい。だが、長年使い続けることでその副作用は段々と消えていくそうだ。だから帝国では、子供の頃から常に使わせることによって副作用をなくすそうなんだが………もしかしたら、カルトもまだ間に合うかもしれないな………」
副作用、か。だが俺はまだ六歳。年月をかければ副作用が消えるということならば、余裕で間に合うのだろう。
しかし、俺もこの世界に馴染み勉強したことによって、この身体強化魔法を使うという提案の中には、重大な問題があることは理解できる。
それは———
「だが、ここに身体強化魔法の理論を教えられるような奴はいないぞ?」
そう、ないのだ。
理論が、ないのだ。
この世界の魔法を行使するにおいて最も大切なのは、すべての元となる理論だ。
術式は、最悪どうとでもなる。だが、理論はそうはいかない。
そもそも理論がなければ、発動すらできないのだ。
しかし、しかしだ。
理論とは、言い換えてみれば想像力、そしてイメージ。
前世である俺の現代知識を用いれば、何となく行ける気がする。
未知の力で身体を強化するってのは、あるあるだしな。
「なんかできそうな気がするから………一回やってみても良い?」
「………あぁ、だが一応、気をつけろよ。」
許可は、もらった。
ここからはイメージの時間だ。
まずは、自らの肉体を認識してみる。
これは簡単だ。教科書とか、人体模型とかで、具体的なイメージは定着しているからな。
………もしかするとこの世界の人々には、そこが厳しいのかもしれない。
次に、魔力をイメージする。
魔力………何だか、液体のイメージが強いな。
この世界の人々も、魔力を『流す』と言っていたし、このイメージは正解なんだろう。
さて、ここからだ。
どうやって、身体を強化するか………
どうせなら、イメージがしやすい方法にしたいな。
イメージがしにくいと、理論も安定せず、一度きりの発動となってしまうこともある。
これは母に教わったことだ。
んー………筋肉…かな。
ゲームとかのバフってより、筋繊維を強化するイメージでやってみよう。
俺はこれでも、昔は剣道を嗜んだ男だ。使う筋肉は大体わかる。
まぁ、部位ごとにすることで魔力を節約できたら良いなという魂胆だ。
ひとまず、一度やってみよう。
「それじゃあ、やるよ。」
今回は、詠唱とかはなしにして、ただただ集中するだけにしよう。それでも、術式として見做されるからな。
俺は目を閉じ、全身に魔力が駆け巡るイメージをする。
使用頻度が高い部位には、強い魔力を。低い部位には、弱い魔力を。
そうイメージしたんだが………難しいな。
どうしても、ムラが出てしまう。
まぁ………最初にしては上出来か。
俺は目を開き、強化状態の維持を試みる。
………うん、何とかいけそうだ。
えーっと、効果を確かめてみたいんだが………
「これで、どう?」
おぉ、キールが土の壁を作り出してくれた。これを、殴れってことか。
………ちょっとまて。お前、俺よりも魔法の扱いが上手くないか………?
———あとでお話しタイムだな。
だが今はいい。
さっさと効果を確かめよう。
「セイッ!」
ちょっとダサいが、掛け声は一応言っておく。
さぁ、俺の拳は全力で放たれ、土の壁へと激突を———『バキッ!』
え?えーっと………これは、どっちだ?
俺は、咄嗟に思考を巡らせ………たかったが、脳は考えることを許してくれなかった。
「ッ!いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
俺は身体をくねらせ地面を這う。
痛い、痛い、痛い。副作用とかじゃなくて普通に痛い!負傷、負傷だ。
そして先程の明らかにやばい音!あれはどっちだ!どっちなんだ!
壁か?骨か?
どっちだなんだ!!!
目の前には、上下にブチ折れた土の壁と、俺の父。
「………成功はしたようだが………折れたな。」
正解は……… どっちもだった。
—————————
「ごめん!カルト君ならできると思って………本当に、ごめん!」
父の治癒魔法によって少し骨折を治され、一応とのことで腕を固定された俺に、キールが謝る。
まぁ………いいよ。俺も、調子に乗ったしな。
どうやらキールは、少し壁を硬くしていたらしい。密度を上げたとのことだ。
俺にはまだできないことだから、少し憧れる。
だとすると………凄い威力を出せたもんだな………腕は折れたが。
恐らく、筋繊維を強化したのは良いものの、強度が足りなかったんだろう。
イメージ不足………ってわけだ。
やっぱり、理論の構築は難しいんだな………
そうすると、四大魔法って凄いな………尊敬する。
「すまなかった………俺が、先に止めていれば………」
父が、謝る。
俺が調子に乗っただけなので、もちろん大丈夫だ。
ちなみに、骨折のことを知った母はブチギレ、説教を始めた。
俺と、父と、キール。三人セットでだ。
だから、現在の俺たちはセンチメンタルモードだ。
簡単に言えば、元気がない。
………いける、気がしたんだがなぁ………もう使わないでおこう。
とりあえず、今日の剣術指導は終わりだ。
ただ、身体強化が出来ないとなると………これまた村を出るのはだいぶ先になりそうだな………
ま、しょうがない。頑張ればいいだけだ。
—————————
◼︎数ヶ月後………
いつもの庭にて、いつも繰り広げられる無数の攻防。
だが今日は、様子が少し違うようだ。
「さて、どうくる?」
父が俺を挑発する。
「それじゃあ………『風斬!』」
俺が魔法を唱え、発された風の刃が父の首筋に迫る。
「なるほど………そうくるか。であれば!」
だが父はそんなものをくらうことはない。
父は村長であるとは言え、歴戦の戦士とも言える。
俺が放った風斬は父の木剣によって一瞬でかき消される。
だからこそ、狙いはそこじゃない。
四大魔法の理論を用いるが型を用いず、ただただ風を生み出すために魔法を発動する。
これは、この数ヶ月間で俺が身に付けた父への対抗手段。
まだまだ子供でリーチの短く、力の弱い俺を手助けする追い風………
追い風によって急加速した俺が、父が風斬をかき消した隙に後方へと回り込む。勿論、バレているだろう。
だが俺が欲しいのは、一瞬の意識だ。
「後ろ、だろう?」
父は振り向く。振り向いた。振り向かせた。
俺を見ている父の後ろには、後ろに回り込むギリギリのところで発動した火矢これは…当たる。
「だがこれも読めている。」
火矢と俺の、挟み撃ち。だが、父は強い。
強いので………火矢はいとも簡単に握りつぶされた。
「ごえ」
ついでに、ぶん殴られた。
だが俺も殴られ慣れている。受け身を取ることは容易く、ダメージも少ない。だが、指導のための試合としては、ここで終わりだ。
「勝てないなぁ………」
地を背中で踏みしめながら呟く。
「いや、前と比べると動きは良くなった。後は、勝つ気力と体力………それと戦略だな。」
父の言葉に対して「まだまだ足りないとこあるじゃん。」と言いたいが、かえって自分が虚しい気持ちになりそうなのでやめる。
———俺は、七歳になった。
七歳にしては成長しすぎな気もするが、魔力の影響か何なのかは知らないが、どうやらこの世界の人間の成長スピードは俺が元いた世界の人間よりもずっと早いらしい。
俺の感覚だと、大体1.5倍程だ。
つまり、大体十歳。
まぁ、それにしても剣術とか少々過激なような気がするが、ここは異世界なのでしょうがない。そう思うことにしよう。
因みに、数ヶ月前に紹介した俺の友達のキールなんだが………即退場となった。
別に、死んだとか捕まったとかじゃない。
実はあいつは俺の母と同じく教師になりたかったようで、王都へと旅立ったとのことだ。
王都というのは、ウェグドート一帯を領地に持つ国家、コルティア王国の丁度ど真ん中であり、所謂首都の役割を持つ王都クェルティーユのことだ。
恐らく、持ち前の頭脳を生かして楽しい日々を過ごしているのだろう。
それはさておき、俺は………強くなった。父には敵わないにしろ、強くなった。
もう一度言う、俺は強くなった。
この数ヶ月間に行われた多数の母による授業、そして父による指導。それが積み重なり、六歳になりたての頃からは比べ物にならないほど強くなった。
母の授業の賜物で中級魔法まで使えるようになったし、剣術も進化した。戦闘に魔法を取り入れることもできる。
ただ、治癒魔法だけは習得できなかった。
これに関しては、使える理論がないのだ。
自分で作ることは可能なんだが、理論がはっきりと構築されず、無駄に魔力を消費するにも関わらず効果も薄いというゴミでカスみたいな性能だったので、やめにした。
父に教えてもらおうともしてみたが、父も他人の理論を流用しているだけなので、教えることは難しいとのこと。
これは残念だ。
それを加味しても、俺はとてつもない成長を遂げた———筈なんだが………
この世界基準で見るとまだまだらしい。
なんとも悲しいことだ。
そんなわけで、俺はまだまだ鍛錬の日々を行なっている。
そしてある日の朝———
「カルト、ちょっと良いか?」
「どうしたの?お父さん。」
今から、剣術指導の時間なのだが、今日は少し違うらしい。
「俺が、村長の仕事の一環で、村の近くに出た魔獣を討伐しているのは知っているよな?」
「知ってるけど………あ、もしかして!」
まさか、遂に来たのか。
「あぁ、今日は俺の魔獣狩りに着いてきてもらう。」
よっしゃぁ!
遂に、村の外へと出れる。まぁ………一時的だがな。
それにしても、魔獣狩りか。これは、俺の実力をそこそこ認めたという事だろうか。もしそうであれば嬉しい限りだ。
「用意は済んでいるか?」
えーっと、必要なのは、魔法の杖………いや、本当に必要か?よーく考えたら、一度も使ってないじゃ ないか。
母に『魔法の杖は魔法に慣れてから使ったほうがいいから、まだ必要ないよ』と言われ、ずっとしまっていた筈だ。じゃあ………持ってかなくても良いかなぁ………
でも、武器は必要だな………あれ?俺の武器………無くね?
「えっと、僕の武器がないね。」
「武器は、後で俺が渡すから大丈夫だ。それ以外は?」
「うん、大丈夫だと思う。」
「それじゃあ、出発だ。」
父は、俺を連れて家から出た。
ちなみに………この世界は、6日を一週間、60週間を1年としている………んですけど、都合によってこの設定は跡形もなく消え去る可能性があります。メンゴ
あれれぇ?ジリスが魔力を纏って強化してた描写があったよねぇ?どういうことなのぉ?
って思うかもしれませんが、ちゃんと理由あります。黙って見てなさい。
追加情報
治癒魔法はジェリルが開発したわけじゃないよ!傭兵団で使われてた理論だよ!
治すは治すけど、完全に治り切るまでは脆いよ。
あの、誕生日にもらった杖はいつ使うの?




