表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役王子は、元聖女のために全てを壊すおつもりです  作者: 白波さめち【カクヨムコン11 受賞】


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/46

35話 狂王子の手が届く先


 王座の間、高すぎる天井から巨大なシャンデリアが轟音と共に落下してくる。


 必死に手を伸ばしても、魔術を発動しても間に合わない。


「——ベアトリスッ!」

 

 俺の叫びが、広い王座の間に虚しく反響した。

 

 その刹那。

 引き寄せられたベアトリスは、咄嗟に俺の贈った柘榴石のペンダントを握りしめる。


 直後──眩い緑の光と共に旋風が巻き起こった。

 

 周囲を拒絶する凶暴な風が、レイヤードと落下してきたシャンデリアを力任せに吹き飛ばす。

 レイヤードの手から、ベアトリスを捕らえていた鎖がジャラリと離れ、床に叩きつけられた。

 

 吹き飛ばされたシャンデリアが轟音を立てて激突し、粉々に砕け散る。


 飛び散る鋭利な金属片は、まるで意思を持った刃の群れとなってレイヤードへと襲いかかった。


「……これは、タチが悪すぎる!」


 襲いかかる金属片を風の魔術とマントで防いだレイヤード。


 彼はすぐさま剣を抜き、ベアトリスに向けて迷いない足取りで真っ直ぐ刃を突き出した。


 地面を蹴った俺は——


 考えるよりも先に、床に伏せたベアトリスの前に身を投げていた。


「ギルバート!!」


 鋭い金属が腹を貫く嫌な音。

 凄まじい衝撃と激痛が遅れて脳を駆けた。


 ベアトリスの悲鳴。


 レイヤードが容赦なく剣を引き抜くと、傷口からどっと血が溢れ出す。

 視界が歪み、膝から崩れ落ちた俺に向かって、彼女はなりふり構わず駆け寄ってきた。


「ははっ。今回は……間に合ったんじゃないか?」


「嫌っ……嫌だ。嘘でしょ、こんなの嫌!!」


 深さを確かめるように傷口に伸ばされる震えた手。

 取り乱す彼女の目から、温かい雫が降ってくる。

 

 ああ、やってしまった。

 もう泣かせないって誓ったのに。

 ベアトリスが泣いてる。


「あはは、兄上に勝った。僕が一番だ。僕が一番になった! 誰もできなかった狂王子を、僕がやっつけた! 母上に教えてあげなきゃ、あとは母上の大切なアルフレッドを目の前で処刑して……」


 無邪気に喜ぶレイヤードの声が耳鳴りのように鼓膜を叩く。

 それを打ち消すように、ずっと、ずっとベアトリスが俺を呼んでいた。


 その必死な姿に、これはもう完全に夫婦だな、なんて不謹慎な感情が胸をよぎる。


 ベアトリスの嗚咽で満たされた空間に、レイヤードの軽い靴音が響いた。彼は片手に血濡れた剣を握ったまま、いつもの人懐っこい笑顔を彼女に向けている。


「ベアトリス様、僕と取引しましょう」


 先程の出来事なんてなかったかのような軽い声に、沈みかけた俺の意識と、ベアトリスの嗚咽がぴたりと止まった。


「……とり……ひき?」


「ええ、闇の精霊の呪われた力を振り撒く貴女を、ここで殺したことにしてあげます。姿を変え、僕に従い、僕だけの呪いになってください。その代わり、今すぐ教会から聖女を呼び寄せて兄上の命を助けてあげます」


 ……は?

 ふざけるな。

 それじゃあ、本当にただの道具だ。


 ベアトリス! 話なんて聞くな! さっさと逃げろ!

 一か八かでいい、扉まで走れ!


 言葉にしたいのに、口から溢れる血が喉に詰まり声が出ない。


 俺は血に塗れた手でベアトリスの手首を掴み、必死に入り口の方へと引っ張った。でも、彼女は縫い止められたように動かない。


「それは……本当?」


「本当ですよ。兄上は処刑じゃなく幽閉にしてあげます。気軽に会うことはできませんが、ベアトリス様が、僕の敵を呪い続けてくれさえすれば、一生僕が面倒をみてあげますよ」


 手首を掴む俺の手の甲に、温かい雫がぽたり、ぽたりと落ちた。


 ベアトリスの瞳から溢れた大粒の涙。

 彼女の金色の瞳は、真っ直ぐ俺を見ていた。


 やめろ。そんなこと聞かなくていい。


 咽せるように必死に口の中の血を床へと吐き出した。

 もう一度、彼女の腕を引くが、ベアトリスは何も言わない。


 ただ静かに唇を結んで、悲しげに目を細めるだけ。


 ベアトリスは、ゆっくりと顔を寄せて、俺の額にそっと優しい口付けを落とした。


「ごめんね」


 静かにそう呟くと、俺の髪をそっと撫でて立ち上がる。


 殆ど黒く染まりかけた視界の向こうで、レイヤードが満足げに微笑んでベアトリスに手を伸ばしていた。


 勝手に、どいつもこいつも。

 何をやっても、どれだけ努力しても、邪魔をされる。

 

 やっとベアトリスがこの手に落ちてきたのに。

 それを横から掠め取るなんて許せるわけがない。


 体内に残った血液が沸々と、沸騰するように熱くなる。

 力の入らない腕を、鉛のように重たい足を執念だけで無理矢理動かし立ち上がった。


 殆ど闇に塗りつぶされた視界の中で、地面を蹴り、真っ直ぐレイヤードの顔面に拳を振り抜く。


 ゴッ——


「俺の妻だ。悪役の執着を舐めるなよ」


 やっぱり、魔術より殴った方が早い。

 最後の言葉を吐き切って、俺の意識は真っ暗な闇に沈んでいった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ