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悪役王子は、元聖女のために全てを壊すおつもりです  作者: 白波さめち【カクヨムコン11 受賞】


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33話 元聖女と逃亡の失敗


 警告の鐘が鳴り響く。

 爆発を待っていたかのように、周囲が一気に慌ただしくなった。


 遠巻きに配置していたのだろう。

 すでに周囲は兵で囲まれている。

 

 爆発音を聞きつけ戻ってきたカイルが、倒れたアルフレッドを見て目を見開いた。


「ギルバート様……! これは」


「話は後だ! すでに罠に嵌っている!」


 兵が到着したその瞬間、第一王子の暗殺を図った狂王子の罪ができあがる。

 

 脇腹に木片が刺さったままのアルフレッドを、肩に担ぎ上げた。

 

 重たい。

 暗殺の証拠にならなきゃ、ここに捨てていきたい。


 不謹慎なことを思い浮かべながら、ボタンに仕込んだ水の魔法陣を起動した。

 青の光と共に発生した蒸気が辺り一面を白く変えていく。

 燃え盛る炎も消し去って、周囲の視界を白に染めた。


 完全に俺達の負けだ。

 もう、逃げるしかない。


 ベアトリスとの約束は果たせなかった。

 それだけが心残りだが、もう逆転することは不可能だ。


 事件の痕跡だけを残して、狂王子と第一王子は失踪。

 それでも、レイヤードの最終目標は達成できる。

 逃亡先はトリスカ国が妥当だろうか。


 追手を必死に撒きながら、教会の前に集まる馬車から馬を奪って離宮へと走らせた。

 

 逃亡準備は常に整っている。

 アルフレッドの手当てをしたら、国外へと姿を眩ますしかない。


 ……アルフレッドも付いてくるけど。


 まだ、離宮が囲まれていないことを確認しながら、正門を潜った。

 従者が気づくより先に、玄関扉を押し開ける。


「全員、退避準備!」


 大声を張り上げたと同時に、奥から真っ青な顔をした使用人が飛び出してきた。

 声も出ないほど肩で息を切らして、背後を振り返る。

 そこには、小さく震えるシーナが立っていた。


「ギルバート様……すいません!!」


「ベアトリスは!?」


 シーナは、震える指を真っ直ぐ、俺の背後に指し示した。

 俺の後ろ、玄関扉の向こう側から微かに見える王宮に——


♦︎ ♦︎ ♦︎


 研究室の長椅子の上で眠っていたアルフレッドは、咽せ返りながら起き上がった。

 気付け薬代わりに、無理やりアルコールを口から流し込んだせいだ。


 起き上がった彼は、包帯の巻かれた自身の傷口に手を当てハッと顔を上げる。


「起きたか」


「こ……ここは」


「俺の離宮だ。時間がない。レイヤードになんて言われた」


 その一言で、アルフレッドは小さく息を呑んで、俯きながら口を開いた。


「俺を……王位につけると。しかし状況がどんどん変わって、何かおかしいと気づいたんだ。気づいていたのに……!」


「あの小屋に呼び出されたのか」


「……ギルバートを使って俺に王位を取らせる策があると呼び出された。それを説明すると……!」


「はぁ……似たようなものだな」


 ため息を吐くと、部屋にノックが響いた。

 扉を開けたカイルの手には、王宮の印が押された書簡がある。


「なんて書いてある」


「ギルバート様とその妻を異端審問会にかけると。ベアトリス様は捕縛されたようです」


「異端審問会……ゾーイが見つかったか」


「そうかもしれません。明日、王宮へ参上するようにと」


 アルフレッドを殺し、俺は第一王子を暗殺した罪に問われるはずだった。

 それが失敗したから、次の手を打ってきた。

 本当によく出来た策謀でいっそ感心する。

 

 アルフレッドは全く理解していない顔で「どういうことだ」と喚き散らす。

 こいつは一から十まで説明しなきゃ理解ができないのか。


 もう我慢の限界だと、喚くアルフレッドの頭を片手で鷲掴んだ。


「どういうことかまだ分からないのか。嵌められたんだ。死なずに逃げおおせたお前には、おそらく王妃暗殺の罪で召喚状が届いてるだろうな」


「何を言ってる! 私は——!」


「やってもいない罪を人に被せて功績を作っていたお前達が言えるセリフじゃないな」


 ギチギチとアルフレッドの頭蓋が音を立てる。

 殺してしまっては意味がないと、彼の叫びが泣き声に変わる前に手を離した。


「……気のせいじゃないのだな。やはり、レイヤードは」


「最初から、自分が王位を取るつもりだった。一切の憂いをなくすため、王子を皆殺しにしてな」


 言い捨てると、アルフレッドは長椅子の上で身体を縮こめ震え始めた。


 どうすれば、と嘆いている場合じゃない。

 これだから後ろ盾だけしかない第一王子は。


 俺は絶望し震え続けるアルフレッドの頭を叩いた。

 我に返った彼は縋るような目を俺に向けるが、きっと望むような救いのある話じゃない。


「ここからは時間だけが勝負だ。悪いがもう逃げる選択肢はない」


「えっ!?」


「ベアトリスがいるからな」


「はい!?」


「お前も逃すつもりはない」


「はぁぁぁあ!?」


 アルフレッドは俺に掴みかかる勢いで前のめりになった。

 カイルが腰の剣に手を伸ばし「切り捨てますか」とばかりに冷たく見据えるのを、手を挙げて制止する。


 こいつ意外と元気じゃないか。


「分の悪い賭けだが、王族も聖女も貴族らも今は教会に集まってる。王宮には、捕えられたベアトリスと手薄な警備だけだ。そこに攻め込む」


「私は行かぬぞ! それでは完全な逆賊に……」


「ああ、お前にはここから第五王子の離宮に攻め込んでもらうからな」


「はいぃ!?」


 命を助けてやったのだから、対価は命で返すのが相当だろう。俺は、アルフレッドが大嫌いな最高の笑みを彼に向けた。


「レイヤードは、王宮か教会どちらかだ。今第五王子の離宮は最も警備が手薄になってる。そこに攻め入って、証拠を取ってこい」


「証拠……」


 策を張り巡らせるためには準備が必要だ。

 ましてや、これほど大きな策。

 証拠も残さず成し遂げるなんて不可能に近い。


 隠し部屋、地下室、離宮のどこかに必ず証拠がある。


「俺がレイヤードに渡したトリスカ国のとの取引に関する書簡、スラムの情報、薬物や毒物の研究結果、人を狂わせる妙薬の情報もあるかもな。なんでもいい。裏で糸を引いていた証拠を探し出してかき集めてこい」


 アルフレッドはやはり絶望の表情を浮かべた。

 これまで命令を下すだけだった彼にとって、泥臭く自分で動く経験なんてないのだろう。


 ましてや、失敗は死に直結する。

 まぁ、断ってもこの場で斬り殺されるだけだから、彼に選択肢なんてない。

 

「カイル、アルフレッドが裏切りそうになったら切り殺せ」


「かしこまりました」


「おい!」


「お前は先陣を切って突っ込んでいけ。後ろの兵を死なせるなよ」


「私は死んでもいいのか!」


「当たり前だろ。何度も殺してやりたいと思っていたからな」

 

 アルフレッドはさらに顔を青くして俯いた。

 それを肯定と捉え、ふんと鼻を鳴らす。

 イグナーツを始めとする、スラムのごろつき達、平民の魔術師も戦力の足しにするため、すでに呼び寄せてある。


「さあ、圧倒的に不利な逆転劇を始めるか」


 不利な状況には、これ以上になく慣れている。

 俺は机の上に書き散らした魔法陣を握りしめて立ち上がった。

 


ギルバートは逃亡に失敗しました!

ベアトリス奪還作戦開始します!

アルフレッドが味方(手駒)に加わった!


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