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悪役王子は、元聖女のために全てを壊すおつもりです  作者: 白波さめち【カクヨムコン11 受賞】


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30話 狂王子と選定式


 王妃は、晩餐の席で毒を盛られ倒れたらしい。

 

 第一王子アルフレッドと第五王子レイヤードが次期国王を巡り、王宮内での地盤固めに奔走する中で起きた、暗殺未遂事件だった。


 次々と起こる王子の不祥事と王妃の暗殺未遂が重なったことで、国王も気が張り詰めているそうだ。


 ベアトリスの知っている未来が変わってきている。


 何が起こってもおかしくはないと警戒していたつもりだったが、あり得ない人物が暗殺されかけたという事実に嫌な汗が滲んだ。

 

 第一王子のアルフレッドの周囲は、突然頭角を現した第五王子の存在に慌てるばかりで不穏な影はなかった。


 瓦解した第二王子派や第四王子派の貴族達を必死に取り込もうとしていたくらいだ。


 一体誰が、どんな目的で?


 不確定な未来に忍び寄る陰謀の影。

 

 選定式の朝。

 俺は、睨みつけるベアトリスに向けて静かに言い放つ。


「連れて行くことはできない。留守番だ」


「嫌よ。何が起こるか分からないのよ?」


「だから留守番しろと言ってる。危険だってわかってるだろ。君は今日、腹を下して選定式を欠席する」


「ちょっと! もう少しデリカシーとかないわけ!? 選定式に行けなくするわよ?」


 ダンッと床に打ちつけた彼女の靴音が玄関ホールに響き渡った。


 ベアトリスの肩で、ゾーイが「やるか?」とばかりにニタリと笑みを深める。

 

 俺の背後には馬車。

 呪いを喰らった瞬間、馬車が大破するのは目に見えていた。


「やめろ……面倒を起こすな」


「レイヤード王子の暗殺を止めるなら一緒に行く。教会内部のことなら私の方が詳しいって分かっているでしょ?」


 ベアトリスは必死に自分を連れて行く利点を並べるが、聞く気はない。腰に手を当て、お得意の圧倒的な悪役顔で凄んでみせる。


「そもそも闇の精霊を連れて、教会に乗り込むなんて自殺行為だ。教えに違反してると言っただろ。見つかったらどうする」


「侍女に紛れて、ゾーイと離れておけばいいじゃない。わからないわよ」


「ゾーイと離れて、ベアトリスに何ができるんだ」


 ベアトリスはうぐっと声を詰まらせた。

 ゾーイの姿を体現化させておくため、ベアトリスは常に魔力を消費している。


 ゾーイの力がない彼女は、戦闘力という面でも戦力にならない。

 

 レイヤード暗殺の可能性が払拭しきれない中で、何かが起こった時、彼女を守れないリスクを考えれば置いて行く方が安全だ。


「何かあった時は、離宮を囲まれる前に逃げろよ」


「そういう……不吉な事言うのやめてよ。冗談にならないでしょ」


 いや、これまでの陰謀や、彼女が体験した王宮の炎上事件を考えれば十分起こり得るだろ。

 後ろ盾のない俺が大罪を犯せば、塔へ幽閉なんて生温い処置じゃ済まされない。使用人も全員捕縛され、処刑台送りだ。

 

「あとは頼んだ。じゃあ、三日後に」

 

 背を向けると、ドンっと背中に衝撃が走る。

 回された腕が優しく俺を包み込んだ。


「ちゃんと帰ってきてよね」


 行きたくなくなった。

 もう全てを放棄して、今すぐベアトリスと部屋にこもってイチャイチャしたい。


 せめてあと一日早く! 抱きついてくれれば!!!


「……っ。行ってくる」


 楽しみは後に取っておくしかない。

 名残惜しい気持ちに全力で蓋をして、振り返る事なく馬車に乗り込んだ。


 ゆっくりと馬車が走り出す。

 生い茂る蔦に覆われた石造の門を潜り、王宮を挟んで反対側にある聖なる泉と教会を目指す。


「やっぱり……顔を見てから出ればよかった!」


「厨房にとっておきのお菓子で気を引くよう指示を出しておきましたから、戻ってもホールには誰もいませんよ」


「こういう時に的確な指示を出すな!」


 宮廷用のお仕着せ……従者用の礼服に身を包んだカイルが俺の心を折りにくる。

 

 もう帰りたい。帰ってベアトリスを抱きしめたい。


 揺れる馬車の中で、一刻も早く全てを片付け夫婦として過ごすのだと俺は固く心に誓った。

 

♦︎ ♦︎ ♦︎


 聖なる泉のほとりに佇む教会。

 ここでは、聖女候補の少女達が十八歳で迎える『契約の儀式』まで、日夜祈りを捧げ勉学に励んでいる。

 時間の流れを感じさせる蔦が張った煉瓦の壁。冬が近づき生い茂る葉は周囲の木の葉同様、赤く染まっていた。

 

 上空から見れば、巨大な鳥が左右に翼を広げ、聖なる泉を抱きかかえているように見えるだろう。

 

 優美な王宮や離宮とは違う、どこか静謐で厳かな気配を纏っている。


 普段は厳重に警備され、教会関係者の巡礼にも王宮の許可を必要とする禁足地。だが、この日だけは多くの馬車が行き交い、異様な活気に包まれていた。


 豪華な馬車から降りてくる八歳から十二歳ほどの少女達が、この選定式に参加する選び抜かれた貴族の令嬢達だ。どの令嬢も生まれつき魔力量が多い。


 皆一様に不安げな表情を浮かべ、付き添いの大人に手を引かれながら、正門をくぐっていく。


 俺が婚外子にも関わらず処分を免れたのも、生まれてすぐに測られる魔力測定で魔力量が多いと判断されたから。


 いざ他国と戦争となった時、魔力は魔法陣と組み合わせることで兵器になる。

 産まれてくる子供の魔力も高くなる可能性が高い。

 

 法則に基づかれた魔法陣を組み立てるのは、最悪魔力がなくてもできる。しかし、魔力量だけは個人の努力ではどうにもならない才能なのだ。


 我が子の栄光を願う聖女候補の実家や、聖女を娶りたいと願う貴族の高官達。


 それぞれの思惑と野心が入り乱れ、聖なる泉のほとりを騒がしく埋め尽くしていた。


「相変わらずだな」


「一目ベアトリス様の姿を見るためだけに毎年参加されていたギルバート様が言えた義理はないかと」


「今は一刻も早く帰りたいがな」


 参列する王子のために用意された天幕へと向かいながら、周囲に視線を走らせる。


 王族の天幕には、すでに国王の姿があった。

 ただそこで違和感に気づく。

 

 ——彼の隣に王妃の姿がない。


 暗殺未遂があったのは知っている。

 

 でも、王妃は治癒の力を使うことのできる聖女でもあるのだ。


 どのような傷も、病も、それが毒だとしても、彼女なら魔力と引き換えに一瞬で回復できる。王宮には、聖女だっているはずだ。


 何故いない?

 暗殺の恐怖で引きこもるような女じゃないはず。


 王妃の姿はないが、聖女達は選定式に参加していた。

 実家の当主と共に国王の周囲で挨拶の順番を待っている。

 

 一方で貴族達の為に拵えられた天幕の中では、優秀な聖女候補の親とレイヤードが握手を交わしているのが見えた。


 違和感だけが、静かに募っていく。


「ギルバート……」


 名前を呼ばれ、振り返るとアルフレッドが立っていた。

 彼も天幕へと向かう途中だったのだろう。


 豪華な金髪はどこか艶をなくし、いつもの覇気がない。


「このような場所にいていいのか? ロベルトが失脚した今、焦って聖女を娶る必要もないが、優秀な聖女候補がレイヤードに奪われるぞ」


「……ッ! 貴様は何故それほど悠長に構えていられるんだ。あれほど悪辣な手で王宮を引っ掻き回しておいて、ここに来て王位に興味がないとでも言うつもりか」


 王位には興味がないからな。

 特に今は、レイヤードが即位した後の己の立場を確かなものにするために、やたらと目立つ訳にはいかない。


「王子はみんな国王を望むと思ってるのか。お花畑め」


「ふざけたことばかり抜かすな……やはりお前はどうしようもないな」


 悪態をついたアルフレッドは、俺を追い越し、与えられた天幕へと消えていった。


 感じた違和感を拭えぬまま、しばらくして国王の開会宣言と共に選定式が開始される。


 

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