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悪役王子は、元聖女のために全てを壊すおつもりです  作者: 白波さめち【カクヨムコン11 受賞】


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27話 元聖女と闇の精霊2


 全ての家具を撤去させた殺風景な部屋。

 その床に出来上がったばかりの魔法陣を広げた。


 羊皮紙に書き込める量じゃなかったため、代わりとして用意した白いシーツには目一杯、図形と方程式を書き込んである。


 これで聖なる泉と同じ環境を作り出せるはずだ。

 

 火、水、風、土。


 四大元素全てが複雑に絡み合うこの魔法陣は、書き込むにも発動するのにも魔力消費量が大きいが、不必要な要素は後で取り除けばいい。


 必要なのは精霊の姿が暴けることを確認する事。


「カイル、部屋を密封しろ」


 閉じた扉の隙間にカイルが布を詰め込んだのを確認し、ベアトリスと魔法陣の前に進み出た。


 隣に視線を送ると、彼女は覚悟を決めた顔で頷く。

 俺達は屈んで描いた魔法陣の上に右手を乗せた。


 全力で送り込む二人分の魔力。

 掌を中心に黒の線が白く色を変えていく。


 全てが満たされると、魔法陣が眩いばかりの白い光を放った。


「空気が……聖なる泉と同じだわ」


 どこか静謐な冷たい空気が部屋を満たす。

 ベアトリスの呟きすら妙に響くこの空間は、注ぎ込んだ魔力を魔法陣が使い果たすまで聖なる泉と同じ環境だ。


「あっ……」


 カイルの呟きに振り向くと、精霊がいた。


 視線を彷徨わせるベアトリスの肩に、掌くらいの大きさの人がちょこんと乗っている。


 いや、人というと語弊があるな。外見的特徴が似ているだけだ。薄いガラスのように複雑に色を変える羽を背中に生やして、ぼうっと黒く光る人間なんていない。


 霧の中のものを見るように輪郭すらもあやふやなその姿は確かに幻想的という言葉でしか表現できなかった。

 

 契約の儀式で聖女候補が着るような無地の服。

 男か女か分からない外見。


 可視化されていることに気づいていないのか、ベアトリスと同じように視線を彷徨わせている。


 ベアトリスの側に歩み寄った俺は——


「ようやく姿を現したな……!」


 そいつを掴み上げた。


「えっ!?」


 ようやく肩の精霊に気付いたベアトリスが飛び上がる。驚きに目を見開いた精霊は俺の手の中でバタバタと手足を動かした。


 軽い。質量を感じないのに確かに触れられる不思議な感覚を確かめながら精霊を引き寄せる。


「ハハハハ! 触れられると思っていなかったのか? 残念だったな。お前は見えないだけの生物だということはすでに知っている。遠隔で呪われる時、いつも窓や扉が開いていた。すり抜けることはできないのだろう?」


 手の中で(もが)きながら、精霊は俺を睨みつけた。

 必死に口を動かしているが、声にはなっていない。

 やはり、声を聴くには今の魔法陣と方程式じゃダメらしい。


「ベアトリスに触れていないと魔力を貰えないよなぁ? ということは力も使えない。ベアトリスの側から離された今、お前は無力なただの精霊だ。これまでの礼として、たっぷり可愛がってやろう」


 軽く脅すと、精霊は震え上がった。

 そうだ。その顔が見たかった。

 

「ギルバート様、ベアトリス様が引いてます。そろそろおやめになった方がよろしいかと」


「えっ」


 ベアトリスを見ると、彼女まで精霊と同じ顔で震えていた。その顔で自分のやりすぎを悟る。


「とまあ、冗談はこれくらいにしてやろう」


「誤魔化せていません」


 カイルの冷静な指摘に冷や汗をかきながら、手の中の精霊を紐で縛り上げ、壁掛け式の燭台に吊し上げた。


 おそらく教会の関係者が見たら卒倒する光景だ。

 ベアトリスはおずおずとその精霊に顔を近づける。


「貴方と話してみたかったの。ギルバートが乱暴なことをしてごめんなさい」


 精霊はパタパタと羽だけで暴れながら、必死にベアトリスに何かを訴えた。そして俺に舌を突き出す。

 悪態をついているのはなんとなくわかるが、これでは会話にならない。


「ベアトリス、少し試してみてほしい」


「何を?」


「契約の文言だ。アレは、精霊との境界線……波長を合わせる方程式のようなものだと思うんだ」


 原理は分からない。ただベアトリスから聞いた儀式の話を聴くと現象論的な何かが見えてくる。

 ベアトリスは小さく頷いて掬うように両手を前に出した。


「彼誰時、黎明の空に集う者達よ。秘色の水を敬愛する者達よ。我は灰を投じず、声と心を捧げる者也。相愛の縁、妄愛に溺れ、我と誼みを結びたまえ――」

 

 ベアトリスから感じる魔力が足元から床に広がっていく。吸われていると言った方が正しいかもしれない。


 その魔力が魔法陣と混ざり合って、部屋の空気がまた少し変わった。輪郭があやふやだった闇の精霊の姿が、ゆっくりと形造られていく。


「ベアトリス! これ解いてよ! ギルバート! お前、本当に許さないからな!!」


「喋った」


 ベアトリスは目を丸くして精霊を見た。

 精霊も、それに気づいて目を丸くする。


「ベアトリス……?」


 感動的な光景だとは思う。

 ただ、感傷に浸る時間はない。魔力と時間は有限だ。

 二人の間に、すっと割って入った俺は精霊に笑顔を向けた。


「さあ、お前のことを洗いざらい話してもらおうか」


 

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