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呼び出し


 「とりあえず何か食うものを出してもらおうか。話はそれからだ」


 仲間たちに帰宅を報告して居間に入るなり、子羊に食べ物をカツアゲもとい要求されました。一応立場的にも魔王のほうが御使いより上なんですけど、これってどうなの。


 「いや、まずは仕事をしましょうよ。ご褒美はその後でしょう」

 「何のために『前払い』って言葉があると思ってるんだ」

 「少なくとも御使いのためじゃないですよね。御使いに利用料金発生しませんし。それに働く動物は労働の対価として餌を貰うんです。雪国のソリ犬をご覧なさい。丸一日ソリを引いた後でないと餌が貰えないんですよ?」


 まあ、ソリ犬の場合は食べたら寝る習性があるので、先に餌をあげてしまうと梃子でも動かなくなってしまうんですけどね。


 「んなこと言ったら猫なんかどうなるんだよ。アイツら、まったく働かないで食っちゃ寝を繰り返して、グルーミングどころか定期的に清掃されるトイレまで保証されているんだぜ?どこの極楽だよ」

 「猫は愛玩動物ですからね……可愛いくあることが仕事というか?」

 「アンタの首に巻きついているソイツだって何もしてないだろう!」


 あ、それは激しく同感です。このウロボロス、普段はずっと眠っているくせに、ご飯の時だけちゃっかり目を覚まして食事を要求するんですよね。おとなしく自分の尾を食んでいてくれればいいのに、最近は味覚に執着していて大変です。

 すると自分のことが話題になっているのがわかったのか、寝ていたはずのウロボロスの目がぱちりと開きました。


 「我だって仕事しているぞ、世界リセットのために力を蓄えるという立派な仕事をな」

 「なんだよ、その『まだ本気出してないだけ』的な詐欺みたいな仕事は」


 不覚にも子羊の言葉に頷いてしまった僕に対して、ウロボロスは子羊の言葉を挑戦状と受け取ったのか、珍しく自主的に僕の肩から降りて羊を睨みつけます。

 傍目には純白の子羊と愛嬌溢れる短足竜のじゃれあいの図ですが、当然僕の心を癒してくれるようなものであるはずもなく、舌戦の火蓋が切られました。


 「迷子になるしか能がない子羊ごときに、世界リセットの壮大なロマンがわかるものか」

 「いつまでたっても自分の尻尾をおしゃぶりしてる短足竜に言われたかないね!悔しかったらお前も早く断尾して一人前になるんだな!」


 あー、家畜の羊は子供のうちに不衛生になりがちな尻尾を切って短くしてしまうんでしたっけ。でもウロボロスはいくら尻尾を切っても、またすぐに再生しちゃいますし……。それ以前に世界リセットにロマンなど感じてくれるな。


 「断尾など尾を清潔に保てない惰弱者のすることよ。なんなら感染も壊死もせぬように、我がお前の尻肉ごと齧りとってやろうか」

 「短足の嫉妬はみっともないぜ!オレ様の肉を食っても脚は長くならねーよ!」


 あまりにも不毛な会話に頭が痛くなりそうです。業腹ですが、これは餌で釣って仲裁するしかなさそうですね……。


 「あー、もう。子羊は菜園のラムズレタスを摘んでこさせますから、その間にお仕事してください。それなら時間の節約にもなりますし、お互いに効率的でしょう」

 「ラムズレタス!そんなご馳走があるならもっと早く言えよ!」

 「主、羊だけずるいぞ!我にも何か食わせろ!」

 「はいはい……。ウロボロスはキッチンのカウンターの上にミートパイがありますから、萌黄に食べさせてもらいなさい」

 

 大きなざるを持った珊瑚が菜園に向かい、萌黄に連れられたウロボロスが部屋を出て行くと、俄然乗り気になった子羊は素直にメッセージの玉を渡してくれました。


 これを受け取るまでが異様に長かった……。子羊が御使いとしての仕事を頼まれない理由って、もしかしたら方向音痴のせいではなく、この面倒臭い性格が原因ではと思うのは僕だけですかね。

 後でみんなの意見も聞いてみましょう。


 御使いの玉はいつも通りするすると解けると、意外なことにふたつの像を結びました。てっきりリグヴァルド様個人からのメッセージだと思っていたのですが、どうやら違ったようです。


 『蒼くん、先日ぶり』

 『蒼の魔王、いつも苦労をかけてすまんな』


 手の平サイズの姿で再現されたのは、相変わらず軽いノリのリグヴァルド様と手の平サイズになってもまだ厳めしいダーヴァラ様。


 『体の調子はどうだい?そろそろ同調を戻しても良い頃合だと思うんだけど、どうかな?』


 あー、同調に関してはこのままずっと忘れていてくれればと思っていたのですが、さすがのリグヴァルド様も覚えていたようです。この解放感をもう少し味わっていたかったのに、残念。


 『リグヴァルドのメッセージに便乗するような形で悪いが、私からも全員に話があるので、そちらの次の満月の夜に『奥の院』まで来てほしい』


 『奥の院』って……この次元の要とも言える、文字通り協会の最深奥じゃないですか。

 そんな場所を指定される理由がわからず、思わず紅と翠のほうに視線をやりますが、彼らも戸惑いを隠せない様子で首を振るばかりです。


 『僕との同調の受け渡しもその時に一緒でいいよ。あ、そうそう、大事なことを忘れるところだった。全員っていうのは、君のところにいる元勇者くんも連れてきてっていうことだからね』

 『蒼も他の魔王たちも、聞きたいことは色々とあるだろうが、その時すべてを話そう』

 『じゃ、待ってるからね』

 『頼んだぞ』


 それだけを言い残して、管理者たちの像はあっけなく消えてしまいました。

 奥の院に人間のレオニールまで連れて来いとは、一体どんな要件なのか。そもそも協会の敷地内に唯人が足を踏み入れることすら滅多にないのに。

 それに『すべてを』というのはどういう意味なのか。

 今日の教皇との会談と同じく、上司の意図がわからないことに言いようのない不安が募りますが、それも次の満月には解消されるのでしょうか。


 困惑に思考を囚われた僕たち三人は、一仕事終えた子羊がまた褒美を催促しはじめたことにも気付かないほど、珊瑚が外から戻るまでただ呆然とそこに座っていたのでした。



いつも読んで下さってありがとうございます。

更新遅くて本当に申し訳ありませんorz


ブラック会社ならぬ自営業にありがちなセルフブラック(=依頼詰め込みすぎ)に陥っておりまして、もう少し亀更新が続きそうです。

加えて完結まであともう少しというところまで来てしまったので、取りこぼしがないよう、最後まで書き終えてから一気にアップすることも考えています。

なので更に更新が停滞するかもしれませんが、引き続きよろしくお願いいたします;;

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