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悪の起源 2

後半で台所をカサカサする黒い悪魔に関する記述があります。

字面を見るのもイヤ!という方は、全身全霊を込めてブラウザバックをクリックすると良いと思います。



 「しかし当時の人びとは、なぜそこまで庇護してくださった神を殺めるなどという大罪を犯したのですか……」

 「人同士の争いの収拾がつかなくなり、ついには世界そのものが危うくなるほどの力が暴走したそうです。初代様はその巨大な破壊エネルギーを自身を犠牲にして相殺し、消滅しました」


 当時の人びとが使っていた技術の知識は彼らが自力で辿りつき掴み取ったものではなく、みんな初代様に教えてもらったものでしたから、当然穴だらけです。その頃の人間社会は、喩えるなら壮大なネタバレの上に乗っかった文明って感じでしょうか。

 それだけに、僕としてはあれは起こるべくして起こった事故だったと感じてしまうのですが、初代様はなぜこの結末を予期しておられなかったのか、それほどまでに人間種を愛し、信用されていたのか。何度考えてもしっくりこないことばかりです。


 「このことがあって、世界管理者協会は人間種の監督を各管理者の自己裁量に任せるのではなく、細かい規定やガイドラインを作って慎重に取り仕切るようになりました。僕たち魔王システムもその一環で、人口増加の抑制と文明の制限、それに人間社会にある程度の団結力を持たせることを目的としています」


 まあ、そのシステムももう破綻が見えてきちゃったんですけどねー。

 しかし改めて振り返るまでもなく、代わりとなるシステム案なんて影も形も見えてきません。

 アクシデントに次ぐアクシデントの対応に走りまわって、小手先の小細工を重ねてきただけで、スタート地点からまったくと言っていいほど前に進めていないわけでして。あ、強制リセット機能は手に入れたというか押しつけられましたけど。


 なんとなくダーヴァラ様にも匙を投げられた感がありますし、今後どうすればいいのか一度上とじっくり話し合う必要がありそうです。猛烈に面倒臭いですけど。この場で即ナマケモノに生まれ変わって、こき使われ続けることへの抗議として発熱死したいくらいに面倒臭いですけど!

 と、今後の段取りを脳内で反芻していると、片手で顔を覆った教皇が呻くように絞り出した言葉が耳に届きました。


 「――『悪の起源は無知にある』、ですか……。主神様は、私たちに無知を克せと仰せなのでしょうか」

 「いえ、それはないでしょう。人の身で無知を克服することは不可能です。強いて言うなら、『無知であることを知れ』程度の話だと思いますよ。何せ、リグヴァルド様自身も知らないことだらけですからね」


 僕たち魔王や管理者だって全知とは程遠く、日々勉強や研究で知識の研鑚に努めているのです。

 あ、料理とか好きなものの研究ばかりしているわけではありませんよ?ちゃんと他の世界の情報収集もしますし、クリスティルダの自然環境や生態系、それに国際情勢と新技術の動向には特に熱心に注目しています。


 「主神様にもご存知ないことが……?」

 「ええ。先日もシロアリが蟻ではなく、ゴキブリの仲間だってことを知りませんでしたしね。いつも勉強をサボってばかりで困ります」


 そう、シロアリと台所の黒い悪魔の関係も謎です。

 シロアリが同じ一族に属しながらも、白くなって他人のフリをしたくなるくらいにゴキブリが嫌われているのか。それとも連中はトレードマークの色を隠し、まったく新しい角度から台所や住居の主を謀ろうとする黒い悪魔の仲間、いやむしろ進化系なのか。もしくは黒と白の両方を備えれば、自然界の人気者であるパンダに一歩近づけるとでも思ったか。


 答えが聞けるものなら首根っこをひっつかんでガクガク揺すってやりたい気分ですが、生憎いかに魔王種といえど動植物と直接会話する手段は持ち合わせておりません。

 というわけで、ヤツらの関係性も、これまたいくら考えてもしっくりこないことのひとつなんですよね。あ、シロアリ・ゴキブリ問題を、初代様と人間問題と同列に並べちゃった。これはさすがに不敬に当たりますかね。

 そんなことを考えていたら、教皇の声で現実に引き戻されました。


 「魔王様は、まるで主神様の母君のようですな」

 「はいー?」

 思わず間の抜けた返事が飛び出してしまいましたが、教皇猊下は生温かい微笑みを浮かべるだけで、それ以上は何も答えてはくれません。あんな出来の悪い子のオカンなんて、頼まれてもお断りですっ。


 「それはそうと、先ほどのお話を聞いて、我々もこれから為していかねばならないことを考えます」

 「何かお考えがおありですか」

 「まずは我々が無知であることを知り、果てのない知識の海に乗り出すための環境を作らなければなりません。時間はかかりますが、先人の轍を踏まぬよう、この世界と共栄するための知識を磨く学び舎を作ろうと考えています」


 無知も不完全な知識も、どちらもきっと悪を生む土壌なのでしょう。でも無知であることを知ってさえいれば、不完全な知識も磨かれ続け、きっと悪以外の果実ももたらしてくれるはずです。


 「なるほど。経過に注視させていただきます」

 「むしろ特別講師としてお招きしたいものですが」

 「うーん……それはやはり上と相談しないとお返事できないかと」


 人間種がただ一方的に管理されるだけではなく、自らこの世界の維持に関与すること――それがリグヴァルド様のご意向なのかもしれません。

 こうして教皇との会談もとい僕の講演もどきは幕を下ろしたのでした。

 そしてたくさんの宿題を抱えて魔王城に戻ってみれば、そこには相変わらずでかい態度の迷える子羊が――。


 「お前の城、相変わらず見つけにくいんだよ!もっと案内標識出せよ、一メートルおきくらいによォ!」


 きっとろくでもない報せだと、今から腹を括っておくべきなんでしょうね……。

ご無沙汰しております&引き続き読んで下さって本当にありがとうございます。


今回の話の補足:

ナマケモノは動きすぎると熱を出して死んでしまいます。

なので、常々ブラック会社に抗議するにはナマケモノに変身すべきだと考えます。


シロアリ&黒い悪魔:

事実です。ヤツらは親戚関係。アリではないんですね。

ついでにアザラシやアシカは熊と共通の先祖を持つらしい。

こちらは言われてみれば結構似ている気がします。


完結まであともう少し?だと思いたいところまで来た気がしますので(←断言する勇気がない)、もう少しお付き合いいただければ幸いです。

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