世界の成り立ち
どうしてこうなった。
今僕の頭の中の九割を占めているのは、このひと言に尽きます。今日は教皇と僕とレオニールで極秘会談を行うはずではなかったのでしょうか。
なのに目の前にはずらりと並んだマテアスの大神官の皆様方が、領主屋敷の質実剛健な大食堂で一心不乱にメモを取るシュールな光景が広がっています。
ちなみに大食堂の入口には、『元魔王様講演会会場』という冗談のような文字がでかでかと掲げられていました。
そして僕はといえば、俗に言うお誕生日席なるポジション(実際には領主の椅子だそうですが)に座らされて、長い食卓の角を挟んだ右隣から教皇が次から次へとぶつけてくる質問に答えること四半刻ほど。
「次は主神のお好きな食べ物について教えてください」
「リグヴァルド様の好物は、スイカの皮の浅漬けですね」
「……意外と質素なものを好まれるのだな。いや、それとも小さき昆虫に共感するための主神の慈愛の証なのか?今年からは供物に欠かさないようにしなければ」
教皇、今思いっきりカブトムシっぽいと思いましたね?そして慈愛関係ないですよね。こじつけ良くない。
でもスイカの皮がお好きなのは事実なんです。夏が来るたびに、半強制的にスイカダイエット(果肉部分)を強いられる僕が言うのですから、間違いありません。皮部分の浅漬けを作るのももちろん僕ですし。
「あ、供物はあまり必要ないと思います。上司は常々、捧げられても神殿に忍び込まないと食べようがない、それこそ夏の夜にそっと砂糖水を差し出された虫の気分だとこぼしていらっしゃいますから」
「主神もそのまま飛んで火に入る夏の虫ってくださればよろしいものを」
信仰する神に夏の虫らせてどうするのでしょうか。捕獲するのか、それとも暗闇から鑑賞するのか、地味に気になります。
しかしご覧の通り、教皇も大神官の方々も、異様にフレンドリーというか気さくな方々でした。こんな珍妙な動詞をぽろりと使うあたり、気さくというよりはむしろ『変人』という括りのほうがいいのかもしれませんが。
でもそれもこの状況を説明する理由にはなってませんよね。
「あのー、僕からも質問してよろしいでしょうか」
「おお、もちろん!何なりと」
「今日は貴方と僕とで一対一の会談をすると聞いていたのですが……」
すると教皇はパチパチと音がしそうな勢いで目を瞬かせて、可愛らしく小首を傾げました。
建前上は世俗から離れているはずの聖職者の頂点に立つ人間だからなのか、先ほどから見ていると、時折妙に可愛らしい仕草をするのですよね、この教皇猊下は。一見すると、どこにでもいそうなぽっちゃり系のおじさんなんですが。
しかし続いたひと言に、今度は僕が目を瞬かせる番でした。
「おや、主神から連絡が行っておりませんでしたか」
「え、何も聞いていませんが」
「昨日の朝、『魔王から世界の成り立ちについて学ぶべし』という託宣が神殿に下されましてな。それで至急近場の大神官をかき集めてこのような形になった次第」
リグヴァルド様、相変わらずホウレンソウの出来ない子ですよね……。
報告、連絡、相談。これができるようになればと、クリスティルダに赴任した当初、僕がどれだけ験を担いでほうれん草料理ばかりリグヴァルド様の食卓に載せたことか。ちっとも結果が出ないので、四半世紀ほどで僕の方が飽きて諦めましたけど!
しかしマテアスの人びとに『世界の成り立ちについて学べ』とはどういう意味なんだろう。リグヴァルド様らしくない、意味深な託宣です。
「うむ、『主神様ファンクラブ』からの質問はこれくらいにして、そろそろ本題の世界の成り立ちについてお聞かせください」
……しゅしんさまふぁんくらぶ?
教皇の口から漏れた珍妙な団体名の活動趣旨を理解したくなくて、一瞬脳が変換を拒否しましたが、深くつっこんだららきっと後悔する気がします。うん、聞かなかったことにしましょう。
「えーと、どこから始めれば良いのか……。まず、世界には『自然発生型』と『デザイン型』があって、自然発生型は名前のまんま、自然にできちゃった世界。デザイン型は、ひとりないし複数の神族が、何らかの目的を持って意図的に創り出した世界。で、クリスティルダは自然発生型です」
大きなどよめきが大食堂を満たしましたが、まあ気持ちはわからないでもありません。この方々はずっと、リグヴァルド様が「光あれ」みたいなことを言って世界を作ったのだと信じていたのですから。
ちなみに「光あれ」は別の世界管理者の『始まりの言葉』だったのですが、あまりにも人間が想像するところの神様らしい台詞に、一時期管理者の間での流行ワードになっていました。
その後、一部の管理者たちが『光あれごっこ』なんてものを始めたせいで、大勢の協会職員が光過敏性発作による体調不良に陥り、大問題に発展したんですよね。世界管理者って大概どうしようもない人たちです。
「なんと、この世界は主神が創造したもうたものではなかったのか」
さすがの教皇もショックを隠せないようで、顔から血の気が引いていました。大神官の中には、信じたくないとばかりに恐慌状態に陥って泣きわめいている人も見られます。
「はい。自然発生型の世界は空席のまま放置しておくと、人間種のような知的生命が繁栄を始めた時点でどうしても荒れやすくなりますから、協会が時期を見計らって管理者を派遣するのです。リグヴァルド様は、この世界の管理者としては二代目ですよ」
「二代目!?」
今度は大食堂のそこかしこから悲鳴に近い叫び声があがりました。
あー、リグヴァルド様の言う『世界の成り立ち』って、ひょっとしたら初代様のことかもしれません。僕たち魔王種が作られるきっかけになった、クリスティルダの最初の管理者。
今は亡きクォルツェニア様のこと――。
ややご無沙汰いたしております;
引き続きお付き合い下さってありがとうございます。
時間と体力共に相変わらず欠如気味なので、まだ不定期更新が続きそうです(汗)
週2を目指したいところですが、断言する勇気もないへたれでしたりorz
それでも完結目指して頑張りたいと思います。




