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契約



 さてここで問題です。


 Q: 魔王種の仕事とは何でしょう?

 A: 人間種が世界バランスを破綻させないように、リアルタイムで人間社会や自然環境の調整を行うこと。


 要するに、世界のリセットなど必要ないように保つのが僕の仕事です。

 その僕が、何が悲しくてリセットボタンそのものと契約しなければならないのか……!


 「大掃除なんてうちの世界にはもっとも必要のない機能です。そもそも君は数千年前に消滅したと思われていたウロボロスと同一の個体なのですか?それとも同種の別の個体ですか?」

 「同一の個体であるとも言えるし、そうでないとも言える。何せ前回の契約時の反省を込めて、この体には相当に改良を加えたからな」

 記憶があるということは同一の個体だと考えて良さそうですし、この老獪さというかふてぶてしさの説明もつきます。子供だと思って侮ると痛い目に遭いそう――ってもう僕は遭った後でした。


 「え、ちょっと待ってください!世界と共に消滅したと思われていたウロボロスが、どうしてこの幻獣開発課の新しい素体から生まれてくるのですか!?」

 ウロボロス本人がさらりと明かした衝撃の事実は、開発者ふたりに相当なショックを与えたようです。


 「我を誰だと思っている。死と再生を象徴する竜だぞ?我の体たりえる素体が作られたから、我の魂がそこに宿って己を再構築したのだ。まあ、だいぶ手は加えさせてもらったが」

 「それって単なる素体泥棒じゃないですか。リセット機能とかまったく要らないので、もう少し役に立つ見返りが欲しかったですね」


 少し突っかかるようにしてそう言えば、隣で紅が頭痛を堪えるかのようにこめかみを指で揉みほぐしながら、強力な援護射撃をくれました。

 「蒼、望まぬ契約を迫られた場合は、まずはクーリングオフを求めるんです。それでもって少し落ち着いてください。いつものあなたらしくないですよ?」


 クーリングオフ――文字通り頭を冷やすこと。どうしてその制度を最初に思い出さなかったのだろう。

 最初に契約の不意打ちを食らったせいだと思いますが、ウロボロスと話しているとどうにも自分のペースが保てないんですよね。ここは努めて平静を意識しないと。


 と思ったのも束の間、敵(?)は涼しい顔でのらりくらりと僕たちの要求をかわしてくれやがりなさいました。

 「我との契約はクーリングオフの対象外だ。何せ我は契約時の魔力を消費してこの眼球を作るからな、途中解約すれば元本割れになってしまう」


 まさかこいつ、それを見越してあんな契約の方法を取っているんですかね?だとしたら本当に恐ろしい確信犯……!

 気分はもはや人間種の悪徳商人と問答している時のそれです。魔力量に元本割れも何もないでしょうに。何なの、このペテン師まがいの見た目美少年、本性胴長短足蛇は!

 って、いかん。また頭に血が上りかけています。


 すると僕の醜態を見るに見かねたのか、紅が会話を引き継いでくれました。

 「現実問題として、守護者とウロボロス両方の面倒をみるのは難しいのですよ」

 しかし意外にもウロボロスの子供は守護者という言葉に興味を示しました。


 「先ほどからそなたらが口にする『守護者』というのは何だ?」

 「蒼や私たちが導入しようとしている新しい人間管理用のシステムの一環です。あ、ちなみに蒼というのがあなたの契約者の名前で、クリスティルダという世界を担当する魔王種です」


 ちょっと待った。紅は僕の援護射撃をしてくれているのではなかったのですか。何故に契約が固まったかのように僕を紹介をしているんですかっ。


 「ふむ。して、その守護者というのは何をすればいいのだ?」

 「予定では領域を持って、その地域の環境バランスが人間に破壊されないよう監視し、必要とあれば警告や制裁を与える。人間種が反撃に出る可能性も高いので、狩られない程度に強くあること――そんな感じでしょうか」


 僕が唖然としながらもどうにか会話に口を挟もうとしている間に、紅は淡々とこちらの事情を説明していきます。

 そしてそれを聞いたウロボロスは満面の笑顔で言い放ちました。


 「我がその守護者とやらになれば、それで万事解決だな?」

 「そうですね。ご理解いただけてありがたいです」


 ――!?


 「ちょっ、紅!どこがどう万事解決なのですか!?」

 さすがに黙っていられなくて、にっこりと笑顔で頷きあうふたりの間に割って入ると、紅の呆れたような視線を浴びせられました。


 「蒼、さっきも少し落ち着けって言いましたけど、ちょっと冷静になって考えてみてください」

 溜息と共に僕に向けられた言葉はまるで出来の悪い生徒に諭すような口調で、いたたまれない感がひしひしと湧きあがってきます。


 「世界が消滅してもなお再生するウロボロスですよ?最強の守護者じゃないですか」

 「ま、まあ、それは確かに……。でも領域は?」

 「クリスティルダ全土を領域と見なせば何も問題はないでしょう?」

 「えーと、人化もしちゃってますし……」


 紅の無言の威圧感を前に僕がへどもどと言い訳すると、ウロボロスが見た目だけは愛くるしいきょとんとした子供の顔で問いかけました。

 「人化すると何が問題なのだ?」

 「竜種は愛情の強い種族ですから、人間種を番にされるとまずいのですよ」


 しかし紅の説明に彼が喉の奥で零した笑いは、子供らしさとは無縁の、まさに異形の蛇のものでした。

 「我は一にして全、全にして一。完全なる存在である我は番など持たぬ」


 「ほら、蒼も観念なさい。むしろ理想的な守護者じゃないですか」

 「というわけで、契約者どの、よろしくな?」


 赤と青の瞳にそれぞれにっこりと笑いかけられれば、全面降伏以外に僕に道は残されていませんでした。

 でもいくら理想的なスペックでも、相性の問題ってあると思うんですよ……!

読んで下さってありがとうございます。


仕事が少し忙しくなって参りましたので、一週間ほど更新不定期になります。

この期間に突入する前に終わらせる予定はどこに家出した……orz


懲りずにお付き合い下さると嬉しいです。

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