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異空間 2

引き続き戦闘描写&足がいっぱいあるムッシーが苦手な方は、ブラウザバックでお願いします。



 あれからいくつかの階層を経て、今僕たちはちょっとした難敵に直面しています。

 この異空間の仕掛けとコンセプト自体は、入口の階層の最奥にたどり着いた時に概ね明らかになりました。ひとつの階層の最深部には必ず眩い金塊か煌びやかな宝玉が用意されていて、それを手に取った瞬間に次の階層へと転位させられるのです。かろうじて一階の最奥にのみ入口へと転位させてくれる仕掛けがありましたが、二階に進んでしまったら最後、もう戻る術は見当たりません。少しずつ強くなっていく敵と戦いながら、いつになったら辿りつけるのかも知れないこの空間の果てを目指して、ひたすらに前に進むしかないのです。この終わりの見えない焦燥感とじりじりと追い詰められていくかのような絶望感は、結構精神的に辛いんじゃないでしょうか。しかも抱えた財宝で懐はどんどん重くなり、体力も消耗するという超不親切設計……!

 あ、でもこれは中に入る冒険者にしてみれば不親切設計ですが、設置者的には親切設計ってことになるんですかね。とにかく欲深くて、尚且つ優れた戦闘能力を持つ人間から優先的に排除しようという意思が透けて見えるデザインです。

 そしてそんな設計者の意図を実現すべくこの階層で待ち受けていたのが、今僕たちを追いまわしている巨大ムカデ的な何かでした。

 「先輩、危ないっ!」

 萌黄の叫び声が聞こえる前から回避行動には入っていましたが、走るとやはり頭痛に響きますね。脳神経ぶっ叩き中の家具職人が鍛冶屋に転職するために筋トレを始めて、効果を実感しだしてから二週間目、みたいな。いや、自分でもわけのわからないことを言っているとは思います。でも頭痛って本人にしか分からない痛みですから、説明しようとするとこんな意味不明な感じになっちゃうんですよ!

 そうそう、今はとにかくこの巨大ムカデででしたね。どこからともなく出現して奇襲をかけられたせいで、全員が散り散りに分断されてしまっていて、もはやおとなしく守られているような状況ではありません。レオニールも少し距離を保ちながら、剣を抜いて必死に応戦しています。

 「クソッ、こいつめちゃくちゃ硬いぞ!全力でやってようやくヒビが入った!」

 「火属性と風属性魔法も弾かれます!」

 僕たちを押し潰そうとするかのようにうねる長大な胴体の上から翠と紅の声が響いてきました。翠の全力でヒビしか入らなかったということは、外殻越しに傷を付けるのはほとんど無理ということです。魔法攻撃もほぼ完全に防ぐとなると、ちまちまと地道に弱点を狙うしかないのですかね。

 しかも厄介なことに、この怪物の無数に蠢く足がいやに正確に僕たちを狙ってくるんですよね。頭部にある目からは死角になっているはずの位置にいても、必ず近くの足が執拗に攻撃をしかけてきますから、目以外の感覚器官も持っているのでしょう。

 目前に迫って来た節足を試しに剣で斬り飛ばしてみますが、うん、確かに硬いです。でも切れないレベルではない……と思っていたら、斬り落としたはずの節足が器用に傷口にくっついて、みるみる間に元通りに復元されてしまいました。

 「再生能力もハンパないですよ!斬り落とした足が再生しました!」

 仲間たちに注意を促せば、アクロバティックな動きで前方の注意をひきつけていた珊瑚からも厄介な情報がもたらされました。

 「コイツ、口から毒液を飛ばすみたいっす!大きく口を開けたら側頭部付近に即退避してください!」

 これで正面から目や口内を攻撃する作戦は消えました。でも生物としての形態をかなり強く残したデザインですから、どこかには必ず突破口があるはずなんですよね。まあ、訪れる人間の生理的な嫌悪感を煽ることを意識しているだけかもしれませんが。

 「とりあえず、紅、手伝ってください!」

 少し前方で三本の足を弾き返しながら氷漬けにしようとしていた仲間に声をかければ、すぐにこちらに気付いて飛んできてくれました。

 「僕は分析に回りますので、できる範囲内で指示通りの行動をお願いします」

 「わかりました」

 「まず、尾にできるだけ近い足を一本斬り落としてみてください」

 すかさず紅が動いて、牽制する尾の動きを俊敏に避けながら、愛用の刀で節足の一本斬り飛ばしました。その間に僕はその足が再生するまでの時間と胴体の動きの変化を脳裏に焼き付けます。

 「次、頭部に近いほうに移動して、そっちの足を一本!」

 大きくうねった胴体に慌てて飛びのけば、丁度ムカデ自身が方向転換をしてこちらに頭部を向けてくれました。その直後には紅がいくつかの足の間をかいくぐって、頭部にもっとも近い足を斬り落とします。僕はここでも再生までのプロセスを分析し続けます。

 「今度はどこでもいいから、何本か同時にお願いします」

 紅がまた低い体勢でムカデの懐に飛び込み、数回腕を閃かせて足を落としました。結果、尾に近いほうの足と頭部に近いほうの足の再生速度はほとんど同じで、何本か一緒に斬り落としても再生速度に変化は見られません。脳から最も離れた末端が頭部近くと同じだけの反射速度と再生速度を持っているということは――。

 「珊瑚も手伝って!」

 これから取る行動には紅や翠の武器は不向きなので、声を上げて珊瑚を呼びます。前方でムカデの意識をひきつけてその行動をある程度コントロールしていた珊瑚は、すぐにその役目を萌黄と交代してこちらに駆けつけてきてくれました。息の合った仲間に恵まれているって本当に素晴らしい。

 「紅、どこでもいいからもう一度足を斬り落としてください。珊瑚は紅が斬った足が再生する前に、付け根部分の甲殻の中に思いっきり短剣を突き立ててみて」

 しっかりと頷いた紅がまずは鮮やかな刀の一閃で節足を斬り落とすと、阿吽の呼吸で珊瑚が再生を始めた足の付け根に短剣を突き刺し、中を抉るような動作を見せてから飛び退りました。珊瑚が抉った傷口からは青みがかった体液がじくじくと漏れだしますが、落とされた節足が再生されることはありません。

 「やっぱり。コイツは節足ごとに補助脳を持っているから、末端の反応速度が速いんです!足を斬り落とした後で付け根を抉ってください!」

 「よし。俺ができるだけ多くの足を落とすから、レオニールも手を貸せ!」

 僕と紅と珊瑚で片っ端から補助脳を潰しにかかると、反対側で翠とレオニールも同じ作業に着手してくれました。補助脳を潰された体節は動作が格段に鈍るので、レオニールが近付いてもさほど危険ではないと翠も判断したようです。

 何十対もある節足を片っ端から潰していくのは実に根気のいる作業でしたが、ある程度続けるとムカデも胴体の自由が利かなくなって、うねったり暴れたりができなくなったようで、その時点で翠が首の後ろの体節の継ぎ目に大剣を突き立てて止めを刺しました。

 「あー、疲れた」

 他の階層と同様に巨大ムカデの死体が淡い光を放って消えると、翠がごろりと地面に転がってぼやきました。今回は結構な持久戦になりましたから、他のみんなもムカデが踏み荒らした地面に腰をおろしています。

 「蒼先輩、果てまであとどれくらいあると思います?」

 「これまでに見てきた異空間を考えれば、そろそろ辿りつくころだと思うのですけどね」

 異空間の中は異次元とは言え、あまり大きくすると世界法則を侵食しはじめるので、安定して設置できる規模には限りがあるそうです。

 「じゃあもう一息、気を引き締めていきますか」

 その紅のひと言で、僕たちは再び異空間の最奥へと歩みを再開させたのでした。



ご訪問くださいましてありがとうございます。


今回で異空間終える予定だったのですが、またもや長くなり明日に続くことに……。

本当に申し訳ありませんですorz

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