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異空間 1

ちょっと長くなりました、すみません。

相変わらずあっさりですが最後に少しだけ戦闘描写があります。

 昨日神玉晶で確認した地点に行ってみると、よく手入れされた森の中に、黒い次元の穴がぽっかりとその口を開けていました。

 「大人三人が並んで通れるくらいはあるか。結構大きいな」

 「周囲が荒らされたような痕跡はありませんわね」

 用心のために少し手前で歩みを止めて、まずは全員で周囲の状況確認です。僕は地面に直接両手をついて、探るような魔力の波動を周辺に少しずつ、慎重に送り込んでいきます。

 ちなみに例の頭痛はずっと居座り続けていて、今も鍛冶屋とは言わないまでも、家具職人に脳神経をガシガシやられているくらいの痛みはあります。いや、別に家具職人でなくても、皮なめし職人だって肉ぶっ叩き中の料理人だって何だって良いのですが、とにかく昨日よりはマシなもののまだ痛いわけで。朝起きてから今までの自分の行動を分析したところ、普段と比べて動作には四パーセント、思考速度には三パーセントほどのラグが生じているようです。異空間に入ったら、常にこのラグを予測と行動に織り込んでおかなければ大変なことになりそうです。

 「どんな感じですか?」

 魔力を引っ込めて立ち上がると、すかさず心配そうな顔の紅に聞かれました。みんな昨夜から引き続き過保護なままなんですよね。

 「非常に安定しています。あの可視化されている範囲から外には、まったく漏れだしていません。侵食型でも吸収型でもなく、エネルギーが外に漏れている様子もないので、中に入りさえしなければ無害だと思います」

 「……良かった」

 安堵の息を吐きながら、どっと力が抜けたらしいレオニールがひと言だけぽつりと零しました。異空間は何があるかわからない場所ですから、魔王種ほどの頑強さを持たない彼には本当は来てほしくなかったのですが、残念ながら説得できませんでした。まあ、今回は僕も彼のことを言える立場ではないのですが。

 「やっぱ問題は中っすよね」

 「だな。もう一度だけ聞くが、蒼とレオニールは引き返す気はないんだよな?」

 「当たり前でしょう。サクサク行きましょうか」

 「ここまで来て引き返せとは酷だぞ」

 翠と珊瑚には懇願するかのような目で見つめられましたが、ここで頷けるわけもなく。四方から溜息を浴びせられて実にいたたまれない気持ちになりますが、折れたら負けですよ!

 「では先頭は翠と珊瑚、殿(しんがり)は私と萌黄ということで。蒼とレオニールは絶対に飛び出さないようにしてくださいね」

 明らかに渋々といった表情の紅にしっかりがっちりと念を押されてから、ようやく僕たちは黒い穴へと向かうことになりました。でも、僕も体が少ししんどいだけであって、別に力が使えなくなったわけではないんですけどね。なんでみんなこんなに過保護なのかなあ。


 黒い空間の歪みに一歩足を踏み入れると、まるで油膜か何かを突き破ったかのように全身に纏わりつく感覚がありましたが、それもほんの一瞬のことで、すぐに六人全員で小部屋か踊り場のような空間に降り立ちました。三方は壁で、正面に向かって一本だけ通路が伸びています。

 「やけに整った内装ですね、この異空間……」

 ひどく嫌な予感がしてそう呟けば、レオニール以外の全員が同じ思いを抱いていたようで、みんな非常に居心地が悪そうに目を泳がせています。いや、僕もそうたくさんの異空間を見てきたわけではありませんが、大抵は洞窟っぽい空間だったり、岩山だったり、鬱蒼とした森の中だったりと、有機的なのが多いんですよ。

 ですが周囲を見回すとそこは非常に無機質でありながらも洗練された空間で、床は金属的な輝きを持つ小さなタイルがまるでモザイクのように複雑な模様を描き出しています。周囲の壁はもっと大きな金属のパネルで、ランダムに空中に浮かぶ拳大の光源からの光を受けて、床と共に不思議な靄のような輝きを放っています。ただ僕の予想が正しければ、この壁と床は結構厄介な代物なんじゃないでしょうか。

 「みんな気を付けてください。この光には僕たちの距離感覚を狂わせる効果があります」

 「錯覚か?」

 先頭で注意深く周囲を伺っていた翠が怪訝そうな顔で振り返ります。

 「ええ、特殊な色調だけフィルターされている上に、壁と床の乱反射で余計に距離や対象物の大きさが測り難くなっています。戦闘時は間合いと接触ポイントに注意してください」

 「りょーかいでっす。魔法はそれなりに使えるみたいっす」

 「転位や通信鏡の類いは使えません」

 手の平に氷を出現させた珊瑚に続き、紅が気遣わしげに報告してくれます。魔法が使えるのは有り難いですが、やはりいつでも好きな時に脱出というわけにはいきませんか。

 「外に出る手段だけは確保しておきたいな」

 「大丈夫ですわ、この壁の模様が先ほどの歪みに繋がっているみたいですから」

 萌黄が背後の壁に描かれた模様に片腕だけを突っ込んで教えてくれますが、何ですかね、この至れり尽くせり感。どう考えても天然じゃないでしょう、この異空間!

 「何かこう、すごく嫌な可能性を感じるのは僕だけですか。内装もどこかで見たようなセンスですし」

 「まだあの人だと決まったわけじゃないし、考えたら心が折れるから考えるな」

 急降下する僕の機嫌を宥めるかのように翠に頭を撫でられますが、確かにその通りです。これから何があるかわからないのに、今冷静さを失うわけにはいきません。

 「とりあえずお出迎えが来たみたいっすよ」

 そう言って両腕に武器を出現させた珊瑚の視線の先から、螺鈿のような乳白色の四足獣が数頭駆け寄ってくるのが見えました。やはり光の吸収と反射を意識したデザインです。

 「基本は俺と珊瑚で受けるから、紅と萌黄は何かあれば魔法で援護射撃してくれ。蒼は動くなよ」

 巨大な両手持ちの大剣を肩に担いだ翠が立ちふさがるかのように一歩踏み出し、珊瑚もそれぞれの手に長めの刀身を持つ短剣を持って身構えます。

 「ギャオゥッ!!」

 爪で床を蹴る耳障りな金属音をかき消すかのように、まずは二頭の獣が奇声を上げながら飛びかかってきましたが、一瞬にして翠の大剣の横薙ぎの一撃で地面に斬り捨てられました。すかさず別の一頭が、腕を振り切った翠の隙を突くかのように飛びかかりますが、珊瑚がうまく体を割り込ませて喉笛の位置を正確に短剣で掻き切ります。

 「あー、蒼さんの言っていた意味が分かるかも。間合いが正確じゃないから、刃に負担がかかってすぐに刃こぼれしそうで怖いっすね」

 猫のようにしなやかに身を引きながら、珊瑚が眉根を寄せてぼやきます。地面に落ちた獣の体は、その間に真珠色の淡い燐光となって消えてしまいました。やはりどう考えても美観にこだわってますよね、この空間設定。

 「んじゃ残りは俺が引き受けるわ、こいつは刃こぼれの心配ないから」

 そう言って翠は新たに飛びかかって来た三頭を相手にさらに一歩踏み出すと、正面に迫った最寄りの一頭を剣身の柄に近い部分でたたき割るように床に打ち落としました。そのまま剣の角度だけを変えて振り上げることで左から迫っていたもう一頭を斬り裂き、斬撃の遠心力を利用して変えた位置から余裕を持って三頭目を仕留めます。

 いつ見ても惚れ惚れする大剣技です。身長も腕力も微妙な僕にはとても真似できません。

 「いやはや、魔王というのはやはり強いものなのだな。萌黄どのも同じくらいお強いのだろうか」

 隣でレオニールが感心したように呟いていますが、萌黄は嫌そうに眉をしかめただけで答える気はないようでした。

 「とりあえず奥に進みますか。これって絶対に僕たちのプロジェクトの一環な気がしますし」

 「まあ、そうだな。そんな気がするな」

 「蒼、ここを出るまでは平静を保ちましょうね」

 みんなの同情的な視線を一身に浴びながら、僕は奥へと向かう通路へと足を踏み出しました。ああ、家に帰ったら、今度こそアホ上司を気が済むまでサンドバッグにしたいものです。

お読み下さってありがとうございます。

またお気に入り登録やポイント評価にも大変感謝しています。励みにさせていただきます。


戦闘描写が下手すぎて、いたずらに言葉を連ねて長くなってしまいました;

もっとしっかりと伝わるように精進しますが、次話ももう少し下手の横好きのバトルシーンにお付き合い下さいますようお願いいたします(汗)

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