幻獣開発課 3
「ではまずは領域との繋がりについて。鱗瑛からお願いします」
ようやく今日の本題に入ることができました。とは言え、あれからどちらが先に答えるかでまたひと悶着しそうになったので、今僕たちの目の前には新たなコピ・ルアク・マンティコアがコーヒーサーバーに並々と注がれて置かれています。こんな危険物に頼らないとまともに話もできないなんて、面倒臭すぎる。
「はい、龍は本来自然の気が寄り集まって形を得る自然発生型なので、土地との結びつきはとても強いです。でも自然発生させずに、協会で生み出したものに領域を与えて結びつけるだけであれば、土地が弱った時の能力低下はさほどではないはずです」
「なるほど。ブレイズフィール、同じくドラゴンについてお願いします」
「ドラゴンは元々自分で縄張りを探して決めるタイプだから、領域との能力的な結びつきはないに等しい。その代わりに縄張りに対する執着心が強く、害されれば害されるほど怒って戦闘能力は跳ね上がる」
ふむ。土地の状態を管理するには龍が適しているけれど、領域が害された時の行動はドラゴンの方が望ましいと。
「次は戦闘能力について、鱗瑛から」
ちなみに受け答えの順番は、結局コイントスで決められました。それでも毎回話を先に鱗瑛に振るたびにブレイズフィールが悔しそうな眼をして、それを受けた鱗瑛が優越感に口元を歪めるのですが、冷静に見れば先攻した相手の受け答えを聞いてから自分の情報の印象を操作できるブレイズフィールの方が有利なんですよね。まあ、彼は性格がまっすぐ過ぎて、そんなことはまったく考えてもみないのでしょうけれど。
「龍の主な攻撃は魔法になります。特に水属性と風属性の魔法に優れているので、水中か空中での戦闘が望ましいです。龍は強大な魔法干渉力でほとんどの魔法攻撃を無力化できますし、飛び道具による攻撃は風か水の防御でほぼ完璧に防ぎます」
「過去に龍が人間に撃破された時の状況が聞きたい」
翠が淡々と問えば、鱗瑛の目が少し彷徨います。やはり隠し事というか、都合の悪いことは言いたくないようなので、これみよがしに紙コップにコピ・ルアク・マンティコアを注げば、鱗瑛は背中に鉄の棒を入れられたかのように背筋を伸ばし、はきはきと答え始めてくれました。隣でブレイズフィールまで無意識に後ずさっているのが可愛いですね。
「軍勢が相当に大規模だった場合が殆どです。捌かなければならない攻撃の数と種類が増えることによって防御と攻撃の切り替えのタイミングが難しくなり、そこを突かれました」
そう、 物理防御力がぺらんぺらんなのが龍の難点なのですよねー。
「じゃあドラゴンの戦闘能力について聞きましょう」
「ドラゴンはほとんどの物理攻撃を頑強な鱗で阻むから、接近戦に強い。強烈なテイルアタックとブレス攻撃である程度の範囲攻撃も可能だ」
「魔法干渉力は?」
「……初級はほとんど無効化できるが、上級になると多少の威力の軽減がせいぜいだ」
こちらも自分の種族の弱みは見せたくないようで、目を逸らしながら、口の中でぼそぼそと呟いています。竜種のプライドって本当に面倒臭い。
「同じく過去にドラゴンが人間に撃破された時の状況をお願いします」
「意図的に縄張りを荒らして激昂させられて、状況判断力を失わされた上でブレスのタイミングで口内に魔法攻撃を加えられた」
人間は作戦も本当に色々考えますね。まあ、毎回それなりの犠牲を払っていますから、トライアル・アンド・エラーに近い闇雲な進歩ではありますが。
「翠、どう思います?」
「話を聞く限り、どっちも一長一短なんだよなー。足して二で割れればいいんだが」
「ええ、足して二で――いや、割らないで、むしろ足したままにできませんかね」
翠の言葉にふと思いついたのですが、そうですよね。素体から作るとなると相当に面倒ですが、どうせ作るなら良いものを作りたいじゃないですか。
「鱗瑛、ブレイズフィール、龍とドラゴンを掛けあわせることはできませんか」
僕の言葉にふたりはそっくり同じタイミングで、ひどく嫌そうに顔をしかめて反論してきました。
「絶対にお断りです。高貴な龍が野蛮な生き物に汚染されます」
「なんだと、テメェ。こっちこそお断りだ。ドラゴンに軟弱さなんて必要ない!」
あー……また始まってしまいました。しかもふたりとも瞳孔が細く変化してきていますから、非常に危険な状態ですね。下手にマンティコアコーヒーをぶっかけたりしたら、今度こそ反撃されかねません。別に竜種の攻撃が怖いわけではありませんが、確実に建物に被害が出てしまいますからね。
仕方がないので、細心の注意を払ってふたりの間に自分の体を割り込ませて説得に当たることにします。
「鱗瑛、あなたは確かダーヴァラ様の界に自分の湖を持っていましたよね。あそこにコピ・ルアク・マンティコアの豆を大量に放り込んで、魔力で湖の水を沸騰させてみたらどうなるでしょうね」
白磁の肌が目に見えて青ざめ、青年の体がぐらっと揺らぎます。
「ブレイズフィールも僕の知り合いの界に縄張りがあるんですよね?マンティコアのコーヒー豆を挽いたものをねぐらにぶちまけたら、きっとお掃除なんてできませんよね。最悪巣穴の放棄ですかね」
それまでの激昂が嘘のように、大柄な青年の体も石のように固まったと思ったら、ブルブルと震えだしました。うん、これはあくまでも説得であって、脅迫ではありませんよ?
「テメェは鬼か……!」
ブレイズフィールの食いしばった歯の間から怨嗟の声が漏れ聞こえてきましたが、いつものポーカーフェイスで聞き流しておきます。床にへたりこんだ鱗瑛も、涙をいっぱいに湛えた懇願の瞳でうるうると見つめてきますが、情にほだされることもありません。
「蒼は仕事には妥協しないんだよ。お前ら、運が悪かったな」
なぜか苦笑している翠がふたりに歩み寄って、説得を引き継いでくれました。
「ベストの仕事さえ提供すれば何も面倒なことはないんだから、諦めろ。その代わり今頷いておかないと、あいつは本当に実行するぜ」
ふたりは翠の言葉にがっくりとうなだれて、不本意という言葉を体現したかのような動作で頷いてくれました。辞書の『不本意』の項目に彼らの表情を貼り付けておけば、それで立派に説明の役目を果たすのではないかというくらいの渋々感です。
しかし予想以上の幻獣の素体が手に入りそうで嬉しいです。このプロジェクトを始めて以来初の良いニュースなんじゃないでしょうか。今夜はささやかながらご馳走でお祝いしようかな?
お読み下さってありがとうございます。
お気に入り登録して下さった方も増えていて、おこがましくも「みなさまお優しい!」と感激してしまいました。
しかしHP9999/MP9999/知力9999のギガハ○ハ○ちゃんみたいな最強魔獣がどこかに落ちていないものですかね。




