聖剣
変態勇者改めレオニールを懐柔するのは、意外と簡単でした。いや、意外でも何でもないんですかね。とにかく萌黄をご褒美にちらつかせれば大抵のことには答えてくれることに気付くのに、そうは時間はかかりませんでした。
偵察から帰ったレナードの様子があまりにもおかしかったのと、出陣するかしないかで大揉めしている教皇庁に焦れたレオニールは、自分の目で現状を確かめるべく、単身魔王城まで乗り込んで来たそうです。八つ当たりでリグヴァルド様のとんでもエピソードを吹き込んでしまったレナードには、本当に悪いことをしてしまったらしい。今は反省している。
ちなみに萌黄も魔王種であること、故に外見年齢に変化がないことなどを伝えた時に、レオニールが至極真剣な表情でぽつりと呟いた「魔王種、いいじゃないか……」というひと言が忘れられません。僕が標的ではないのに、今夜の夢に出てきそうな気色の悪さでした。そう、未来予測課に行った時と同じような感じの。
うん、萌黄には悪いと思っていますよ?でもこれぞチームワーク、役割分担ってもんだと僕は思います。
そんなわけで、今僕たちは実に平和的に昼食の卓を囲んでいます。
本日のメニューは鱈のセビーチェ、サヴォイキャベツとクリームを混ぜ込んだマッシュドポテト、人参のラペ、それにベーコンたっぷりの田舎風野菜スープです。
ここのところ忙しくしていたせいで、裏庭のハーブ園がごっそりと茂ってしまっており、セビーチェにかなりの量の香草を漬けこむことで有効活用させてもらいました。
「しかしレオニールは、歴代の勇者とはかなり違うタイプですよね……」
変態的な意味で、という言葉は懸命にも胸の奥に呑みこんでおきました。
「これでも聖剣との同調率は相当に高いと言われたんだがな。うん、この魚は実に美味い。昨夜の飯もそうだったが、蒼は料理上手だな」
彼にしてみれば敵陣の真っただ中でしょうに、僕の料理を実に美味しそうに食べて、普通に食卓に溶け込んでいます。料理人としては、それだけで相手の色々な欠点にも目を瞑れる――と言いたいところですが、やはり変態はないですね。
しかし聖剣というのは、僕たち魔王種だけでなく世界管理者にとっても厄介な存在です。それと言うのも、聖剣は元々世界管理者の創造物ではなく、人間種の願いが実体化した呪物的存在だからです。もっと分かりやすく説明しますと、聖剣とは人間種の「生きたい」という願いそのものが、魔王に対する呪いとして形になったもの、でしょうか。更にぶっちゃけてしまうと、「私たちは生きたいから、お願い、魔王は死んでね☆」って感じの願いですね。
願いを実体化させるほどに、人間種の意識は強いのです。
で、人間と敵対する立場を取ることが多いものの、人間種を含む世界そのものを愛してやまない僕たちは、聖剣に凝縮された「生きたい」というお願いに弱いんですね。生物としては至極当然の願いですから。喩えるなら、おいたをしたペットを叱ろうと思ったけれど、うるうるの瞳で見つめられて「しょうがないなあ、もう!」ってなっちゃう感じ、でしょうか。
「でも聖剣との同調率って、魔王を憎む気持ちがどれだけ強いかで決まるんだろ?こんな風に一緒に飯を食えるやつがそう高いとも思えないんだが」
翠が不思議そうに問えば、他の面々も神妙な顔で頷きます。ちなみに、萌黄が発言するたびに勇者の偏執的な一面が暴走するので、彼女は意識して口を開かないようにしているようです。
「そうでもないぞ?オレは、幼女を脅かす存在は魔王だろうが何だろうが許せんと強く思っていたからな。それがまさか、魔王自身が麗しい幼女だったとは……」
そう言ってうっとりと萌黄を見つめるレオニールは、やはり色々な基準が歴代の勇者とは違うようです。皿に集中しているフリをして上目遣いに他の魔王たちを伺ってみると、紅は諦めたかのように小さく首を振っていますし、あの珊瑚でさえ薄気味悪いものを見るかのような目でレオニールを凝視していました。萌黄に至っては、片手で顔を覆ってがっくりとうなだれています。
さりげに僕よりも運が悪いな、萌黄。
彼のペースに合わせていると非常に疲れることこの上ないのですが、それでも大事なことは聞いておかなければなりません。
「でもそれなら、今のレオニールは聖剣を扱うことができなくなっているのではないですか?」
「ああ、そうかもしれんな。そこで相談なんだが」」
実にすっぱりと言い切りましたよ!いっそ晴れやかな笑顔です!
「君たちのプロジェクトに、オレも人間代表として加えてくれ」
そう言ってぐっと身を乗り出したレオニールの口から、まったく予想外の提案が飛び出しました。これもいわゆる『悪堕ち』って言うんですかね?
いつも読んで下さって有り難うございます。
リアル多忙につき、少し更新頻度が落ちるかもしれません、すみません。
あと今回の料理名はあまり知名度が高くないみたいなので、活動報告の方にもう少し詳しい説明を書いておきます。
需要は多分ないかと思いますがっ。




