第四話 花子解放戦線!!
〈結論〉
今回の調査では、花子さんがハリウッド版映画の利益を受け取れるかどうかについて、明確な結論を出すことはできなかった。
しかし、調査を通じて、怪異の存在と権利の帰属には複雑な問題があることが分かった。
今後は、世界各地に存在する花子さんの情報共有の仕組みや、怪談と実在する怪異の関係について、さらなる調査が必要である。
また、本人が新しいパソコンを欲しがっていることを踏まえ、映画の制作会社に問い合わせることも検討したい。
なお、今回の調査で最も重要だと感じたのは、花子さんが「私は私」と発言したことである。
世界中に何人の花子さんがいたとしても、僕が知っている花子さんは、僕が知っている花子さんなのだと思う。
追記:
もし本レポートが映画の権利関係に関与するきっかけとなった場合、僕は適切な報酬を要求したい。
その報酬で花子さんにパソコンを買ってあげるかどうかは、今後の協議によって決定する。
以上。
――
「よし、レポート完成」
受験も終わり、僕の中学校生活はいよいよ終わってしまう。
思い返せば、人間関係に碌な思い出のない中学校生活だった。
まずは入学式。あれは酷かった。いや、言葉で話すのはやめておこう。
とにもかくにも、まともな青春など一つとしてなかったと言えば、分かってもらえると思う。
でも一つだけ、青春は間違いなく存在した。
それは、お便所系配信者『花子・ザ・ウォシュレット』との出会いだ。
正直、怪異でも何でもいいくらいに顔が可愛いし、優しい。口は悪いけど、ツンデレなのもまたいい。
心配性で不安になりやすいくせに、楽観的。自分と僕のことでいつも悩んでいるのに、すぐにケラケラと笑って忘れてしまう。
そんな花子のことが大好きで、毎日のようにトイレに通った。
でも、中学生というのもあり(※強がり)、僕は彼女と身体的な接触をしたことがない。
花子から「手相を見る!(※必死)」という理由で手に触れられたことはあるが、キスさえしたことがない。
だから、花子が絶壁だからといって何も思わなかった。友達のようにいつもバカみたいに喋っているだけで満足していた。
けど、去年、お別れした。
皆さんも(※第一話を読んでくれていたら)ご存知だろう。
このまま卒業したら、僕はなかなか会いに来られなくなるのだ。
捕まったとしても、在学中なら何とか適当にごまかすこともできる。かもしれない。
だが卒業したら確実にアウト。あと、いつも出入りしている窓も鍵をされたらアウト。そもそも女子トイレで喋っているとか逃げ場がないしアウト。
いろいろなアウトが積み重なって、タイキックでは許されなくなる。
だけど、どうにもできずにお別れしたら……秒でベートーヴェンと付き合いやがった。
僕だって受験がなかったら、彼女を作りたかったけどね。環境のせいですぐに離れ離れになるかもしれないから作らなかったけど(※強がり)。
閑話休題。
何をこんなに長々と語っているかというと、そんなこんなで受験も終わり、時間ができた。
どうにかして引きこもり配信者を外に出せないか、考えているのである。
レポートには書いたが(※小説原文には未掲載部分)、花子という怪異の概念体系を分析すると、そもそも親玉となる花子がいるはずなのだ。
じゃないと、日本中に花子がいること自体、話が合わない。
花子が言うように、花子は花子なのだ。唯一無二。僕を知っている花子がほかにもたくさんいるのかは分からない。情報として知っているかもしれないが、僕のことを知っているだけでなく、同じ見た目をしていたり、配信(※怪異専用配信サイト)までしていたりするとは限らない。
本体はいる。でも、それぞれ独立した花子もいる。かもしれない。
伝承の怪談にはルールがある。だからこそ、花子は縛られているのかもしれない。
では、今の学校がなくなったら、僕の知る花子もいなくなるのだろうか?
否――。
花子がいるトイレは、一度、夏休みに工事されている。やつはサイボーグなのだ。
しばらく会えなかったから、花子は無残にも便器と共にバラバラにされたかと思った。
だが、和式便器が撤去され、壁のタイルも剥がされて新しくなり、オストメイト対応設備まで設置された。ウォシュレットも付いて、花子と僕にとって広々とした最高の愛の巣に変わったのだ。
要するに、便所がそこにひとまずあれば、花子は滅亡しない。工事の様子を見ていたと言っていたし。
あれ?論点がズレた。だめだ、滅亡する。
やはり学校がなくなれば滅亡するかもしれない。
だが、それは現段階では話が飛躍しすぎている今は、早々に会えなくなることが問題なのだ。
友達一人救えないなんて、なんて卑猥なんだ。
ん?卑猥?まぁいいか。
僕はこれから、怪異について調べまくって、どうにかして花子を自由にしたいと思っている。
だが、本当に何の解決の糸口もない。
なぜ花子はトイレの花子さんになったのか。伝承など当てにならない。ルールは人間からの認識による縛りなのか。ならば、認識を阻害する何かを作ればいいのか? だが、下手したら成仏しやがる。本末転倒なのだ。
あの頭の良い、スタイル抜群の爆美女に会えば、いろいろ教えてくれるかもしれない。でも、開幕で「むりね」で終わったらと思うと怖くて連絡が取れないのだ。
そもそも、怪異のルールがよく分からない。なんでサキコさんもメリーさんも、あんなにヤバい怪異なのに、優しくて良い人なのか。
伝承なら悪魔だぞ。
でも、縛られているのは確かだし、人殺しはしていないようだし。
図書館に行ってみようかな。
*
とりあえず、図書館のトイレで長々とスマホを使って調べまくってきました。
端的に言うと、花子・The・ボッチのシステム設計を踏まえると、「個体の霊を成仏させる」という従来の除霊方法では、花子さんを解放できそうになかった。
なぜなら、目の前にいる花子さんは「親概念から一時的にダウンロードされた出力結果」にすぎず、本体は「人々の認知や集団的トラウマ」そのものだから。
このシステムにおいて、花子さんという存在を縛りから解き放ち、真の意味で自由にする方法には前例がない。
前例がない以上、賭けの要素が多すぎるのだ。
そこをもう少し個室トイレで調べていこうと思う。
*
まず、解放と言えば、システムのシャットダウンだ。
花子さんというプログラムは、人間の「恐怖心」や「噂」をエネルギーにして稼働していると仮定する。
本来の解放手順として考えられるのは、全人類が「花子さん」という存在を完全に忘れること。
あるいは、学校のトイレがすべて開放的で明るい最新設備になり、「怖い場所」という認識そのものが地球上から消失すること。もしくは、学校のトイレを消滅させること。
結果として、観測する人間がゼロになることで、親概念は一度も呼び出されなくなり、永続的なスリープ状態、あるいは概念の破壊による強制ヘブンに入る。縛り付ける観測者がいなくなることこそが、怪異にとっての「解放」となる。
だが、これでは僕の知る花子もろとも爆散南無阿弥陀仏だ。
ということは、花子単体を書き換えなくてはいけない。こんなことを言ったら、花子に「システムみたいにいうな!」って怒られるかもしれないけど。
おっと、誰かがノックしてきた。今どきノックだなんて時代遅れだな。
*
図書館を出ました。。長く個室を利用しすぎたみたいで職員の方に注意を受けました。ごめんなすん。ご心配おかけしました。
続きは家に帰ってからにします。
*
だいぶ調査も進みましたよ。
次に、パッチ適用による「概念の書き換え」を思いついたのです。
最大の特徴は、「人々の噂や認識によって行動パターンを書き換える」という点。
まず、僕がヤバいくらい影響力のある配信者か、世界レベルのアーティストになる。その後、全国規模で「花子さんはもうトイレの恐怖から解放されて、外の世界へ旅立ったんだよーん」「呼び出すと『ありがとう、もう自由になったよ』と言って消えるよーん」と歌って踊り、新しい都市伝説を意図的に拡散させます。
結果として、親概念のプログラム自体が「自由になった存在」として上書きされます。
今後、誰かがトイレでノックしても、縛られた恐怖の怪異としてではなく、「自由になってどこかへ去っていった存在」としてしか出力されなくなり、概念ごと解放されます。
やがて、花子は親とともに天国へ。
ダメだ。いまのだと花子が死んだ。これだと、まずい方の解放となる。
やはり、単体のシステムエラーを考えなくてはいけない。
*
メリーさんからLINEラッシュが来た。LINE漫画でラブコメを読んだら大変なことになったらしい。
こちらとしては、調査が遅れたが、だいぶ進んだ。
お風呂で思いついたのは、フリーライセンス化だ。
あえて「学校のトイレ」という特定の物理端末にしか出力できないという縛りを解除するアプローチ。
手順としては、まず僕が有名人になり、「花子さんはトイレの神様・守り神になったぜ」「ノックすれば空や海、どこにでも現れて遊んでくれるぜ」という認識を広めます。
結果、「3階の女子トイレの奥から3番目」という狭い密室の縛りが解除され、どこにでも自由に存在・移動できる「フリーな概念」へと昇華されます。
……どうしても有名人にならないとダメだ。しかも、ヘイトを集めていない純粋なタイプの。しかもこれだと世界中花子だらけになる。
くそ。詰んだのか?
*
おはようございます。天啓です。
目が覚めたら降ってきました。
花子さんの正体は、やはり「データ」なのです。
花子さんはトイレに縛られた幽霊ではなく、ノックされた瞬間だけ出力される「プログラム」。
トイレはただのポータルにすぎず、「3階トイレの奥の個室」は、あちらの世界から現世へ出てくるための、ただの接続口にすぎないはず。
本来は!!
ただ、あいつはなぜかずっと出力され続けている。
それがバグなのかアホなのかは分からないが、僕はそこに目をつけたのだ。
出力されっぱなしの花子を、トイレから持ち運べる何かに付け替えれば、理論上は連れ出せるはず。
花子自身がそれを持ち、自由に移動できるかはまだ分からない。だが、少なくとも僕が持ち歩けるアイテムを新しいポータルとして認識させれば、学校のトイレに縛られず、外の世界へポータルと共に自由に移動できるようになる。まさに天啓だ。
一言で言うと、大掛かりな除霊は不要で、ポケットに入る新しいドアを一つ渡してあげるだけで外へ連れ出せるってこと。
しかも、他の案のような成仏のリスクも、知名度も必要としない。最高にして最後の案だ。
一つ必要なのは、おそらく花子からの信頼。信頼の構築がトリガーだ。
僕が彼女にとって「自分を自由にしてくれた唯一の観測者」として認識される必要がある。
信じてもらえなければ詰む。望まれなくても詰む。まぁ、望まれなかったらそれはそれ。少しさみしいけどね。
花子・The・ロンリネスは、恐らくアホだし、僕への信頼も厚い。
そして、ポータルも何でもありではない気がする。だが、僕には最強のカードがある。
プレゼントした陶器の便器だ。まさにうってつけ。ほかに存在しないレベル。
これならやれる!!待ってろ!花子!!映画いけるかもよ!!




