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『僕の周りの怪異たち〜学校の怪談や都市伝説と、なぜか普通に友達やってます〜』  作者: ハジェリ


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2/9

第二話 みんな、ほんとごめん。リア充の青春ってこうなんだぜ!


――プルルルル。


その電話は、夜の十時を少し過ぎた頃にかかってきた。


二階の自分の部屋で寛いでいた時のことだ。


液晶画面に表示されたのは、見覚えのない十桁の数字。


普段なら無視して放置するところだ。


こんな時間に非通知でもない見知らぬ番号からかかってきて、素直に出る人間など今の時代そうはいない。


(※はじめは闇バイトかもしれないからという理由で、ほとんどの電話に出ません)


――プルルルル。


だがその夜は、なぜか虫の知らせのようなものがあった。


理由なんてわからない。本当になんとなく、出なければいけない気がしたのだ。


――プルルルル。


親指でスライドし、受話器を耳に当てる。


「……はい、境さかいです」


『……私、メリーさん。今、駅前にいるの』


プッ、ツー、ツー、ツー。


受話器の奥から聞こえてきたのは、どこか幼さの残る可愛らしい女の子の声だった。


声量は小さく、どこか怯えているようにも聴き取れる。


自己紹介したかと思ったら、一方的に電話を切られた。


(これは…間違いない。ゴーイング的なやつだ)


都市伝説『メリーさん』


正直、聞き間違いかと思った。


僕は短く息を呑んだ。


昭和の都市伝説としてあまりにも有名すぎる名だった。


捨てられた西洋人形が電話をかけてきて、徐々に自分の居場所を告げながら近づいてくるというアレだ。


「……なんで僕の電話番号知ってんだよ」


一瞬、「花子か?」とも思ったけど、電話番号を教えていない。花子とはLINE通話しかしていなかった。


かの有名なメリーさんから電話がかかってきたのは、芸能人が間違えて電話かけてきたのと同じ類の感動を覚えた。


(一度かかってきたということは、おそらく、またかかってくるよな…わくわくしてきたぜ)


スマホを構え、すぐに電話を取れるようにしておく。


すると五分後……。


――プル「もしもし!メリーさん?」


『あっ、えっ、私、メリーさん。今商店街にい――』


「――どこのお店の前?八百屋さんあたり?」


『……今商店街に――』


「今日寒いよね。風邪ひかないように気をつけてね」


『……え? あ、うん、ありがとう』


プッ、ツー、ツー、ツー。


(なにこの子、めっちゃいい子っぽいぞ。次の電話までにメリーさんについて調べてみるか)


伝承では、少女に捨てられた西洋人形が意志を持ち、元飼い主の少女に電話をかけてくるのがお決まりのパターンだ。


(要するに、何度捨ててもひとりでに戻ってくる、髪の伸びる和人形のハリウッド映画版ってところか)


定型文のように「私メリーさん。今、〇〇にいるの」と、電話がかかってくるたびに少しずつ被害者の自宅へと接近し、最終的には「今、あなたの後ろにいるの」と言って背後から包丁などで襲いかかる……というのが一般的な怪異としての姿であるらしい。


起源については諸説あり、アメリカの怪談『ベッドの下の男』などの都市伝説が日本に輸入されて変化したという説や、実在する玩具メーカーの着せ替え人形(いわゆる香山リカちゃんなど)の誤送信・悪戯電話が尾ひれをつけて広まったという説など、怪談好きなら一度は耳にしたことがあるだろう。


『後ろにいる』という不可避の恐怖と、段階を踏んで距離が詰まってくるカウントダウン式のプレッシャーが、被害者を追い詰めるリアルなトラウマとして語られている。


ネットコミュニティでは、メリーさんを困らせることで助かるという投稿が多いようで、「壁ぴったり背中をつけて座ってるけど?」や「ベッドで仰向けだけど?」などウザさ全開で逃げ延びるらしい。


他の方法も似たようなものだった。


しかも、現代だと知らない電話番号に出る人のほうが少ないのでは無いだろうか。


僕はメリーさんが少し気の毒になった。


さっきは好奇心が前に出過ぎて、最後まで聞いてあげられなかった。あれも、怪異からしたらある種のカスタマーハラスメントだったのかもしれない。


*


――プルルル、プルルル、プルルル。


「あっ、やばい」


トイレに行ってる間に電話がきてしまった。慌てて用を済ませ、部屋へと戻る。


「はいはーい」


「私、メリーさん。今公園にい――」


「ごめん、電話出るの遅くなって。ちょっとトイレ行ってた」


「……………電話、出てくれないかと、思った」


(ナイーブ!)


「ほんとごめん。で、今どこまで来たの?」


「私、メリーさん。今公園――」


「ゼロから始めるんだね。いや、別に良いんだけどさ。もう電話帳にメリーさんの番号登録してあるから、かかってきたらメリーさんってわかるし。普通に会話していいんだよ?」


「…………ごめんな、さい」


「あっ、いや、責めてるんじゃないよ?業務とはいえ大変だろうから、少しでも手間が省けたら――」


プッ、ツー、ツー、ツー。


「あっ」


切られた。


彼女は現代社会に疲れて、繊細になってしまっているのかもしれない。


少し、めんどくさっ、て思った。僕だって疲れている。明日も六時起きだし。


何よりもこの一方的に切られる感じ、花子を思い出した。いや、嫌いとかじゃないけど。


すると、今度は大して間を置かずに着信音が鳴った。


――プルルル。


「はーい」


「私、メリーさん。いま公園にいるの」


(あれ?さっきも公園っていってたよな)


「もしかして、なんか遊具乗ってたりした?ブランコとか?」


「乗ってないよ。…少ししか」


夜の公園に一人で、照明に照らされたブランコに乗っている。


哀愁漂いすぎだろ。


プッ、ツー、ツー、ツー。


「あっ」


また一方的に切られた。


このシステムうざいな。せめてもう少し会話してからにしてほしい。


まぁ駅から公園なら半分位は来た感じだ。


ここで断言しよう。


僕こと、境さかいはじめは、もう気付いている。


彼女は恐怖の怪異などではなく、「怪異としての業務」を大真面目に遂行しようとしては失敗を繰り返す、不器用なポンコツだということに。


だからといって油断してはいけない。背中を取られてしまったが最後なのだから。


それでも健気けなげな雰囲気の彼女には、元気ではいてほしい。


――プルルル。


「もしもーし」


「はぁ、はぁ、はぁ、私、メリー、さん。今、タバコ屋さんの、前に、いるの」


「はやっ!!走ったでしょ!!」


「はぁ、はぁ…走った、よ」


「……多分、じわじわの方がいいと思うよ?僕は早い方が助かるけどさ」


プッ、ツー、ツー、ツー。


(また切りやがった)


また待つようだ。寝たら怒るかな。


*


まずいことになった。かなり眠くなってきてしまった。


なんかしらんけど、待てど暮らせどメリーさんから電話が来ないのだ。


仕方なく、Switchで麺スターハンター(※三ツ星ラーメン屋を目指すゲーム)をやって時間をつぶす。


「ふぁーあ…メリーさん、どうしたんだろう。今日はもうやめたのかな。それならそう言ってくれないと寝れないのになぁ」


もう諦めて寝ようと、照明のスイッチに指をかけた時だった。


――プルルル、プルルル、プルルル。


「はぁい、やけに遅かったね」


「ふえっ。ぐすっ。私、メリー、さん。今、いま、いまぁ――」


(めっちゃ泣いてる!!!?)


「………もしかして、迷った?」


「……うん。…ぐすっ」


(ポンコツすぎるだろ)


「あっ、先に言っとくけど、勝手に電話切らないでね。いい?挨拶もなしに電話切られるの、すんごく嫌いだからさ」


「…うん」


「よし。じゃあ、まず周り見てみようか。何か目印になりそうな物見える?」


「ぐすっ。さっき、コンビニ過ぎて。いま、コインランドリー、ある」


(駅から公園まで来てて、それからコインランドリーって言ったら、あそこしかないか)


そう遠くない距離なのは分かった。


けど、方角が全然違う。放っておいたら多分辿り着かないだろうことも判明した。


そこで僕はひとつ、提案した。


「そこで、ちょっと待っててくれない?」


「……んぅ?」


「すぐ迎えに行くから、そこから動かないでよ」


「……うんっ!」


「じゃあね」


プッ、ツー、ツー、ツー。


初めて僕から電話を切った。


上着を羽織り、ホッカイロを手に取る。


「母さん、ちょっと出かけてくる。すぐに戻るから」


「どこ行くの?」


「西松屋の隣のコインランドリー。友達が迷子でさ、今待機させてる」


「車出そうか?」


「大丈夫!いってきます!」


(車で行ったらどうなるんだろ。それはそれで気になるな)


「気をつけなさいよー。闇バイトだったら家の敷居は跨げないと思いなさいねー」


*


こんな夜更けに出かけるのは初めてだ。夜更けと言っても、まだ十一時だけど。


力強く、自転車のペダルを漕ぐ。


その間、色々考えてしまった。


それはメリーさんの事なんかではない。僕はリアリストだ。


(通報されないだろうな。補導されたらどうしよう。自転車で来たけど、二人乗りしてたら捕まるかな。怪異との法律ってどうなってんだ?そもそもメリーさんは警察から見えるのかな)


そんなくだらないことばかりだった。


十分弱くらい漕いだら、コインランドリーの明かりが見えてきた。


闇夜に浮かび上がる、明るい店舗の看板の下。


そこにメリーさんはいた。


声をかける前に、一つ。


まず、見た目だ。


メリーさんは、ボロボロの西洋人形などではなかった。


フリルの付いた、可愛らしい白いワンピースを着た、どこか幸の薄そうな白い肌の普通の女の子だ。


花子もだが、怪異は総じて顔がいい。この子も相当整っている。何故なんだ。


そして手に持っているのは、呪われた黒電話ではなく、液晶が割れたスマートフォン。(※本人曰く、電話切った後に落としたらしい)


閑話休題


自転車でメリーさんの傍まで来た。


スマホを見ていた顔を上げ、ビクッとしていた。


(なんで怪異が人間にビビってんだよ)


「お待たせ!メリーさんだよね?」


「わ、私、メリーさん…です」


「はじめまして。境はじめです」


「…その、あの、いま、あなたの前にいるの!」


「うん、そうだろうね。僕も君の前にいるよ」


「いま、いま、ぐすっ。あなた、ふえぇ」


定型文が如く名乗りを上げる。


そして、これまた決まり文句の居場所説明。


僕の背後じゃないのがミソ。


そして、そりゃそうだろと、そのまま受け入れたら、半べそかきはじめてしまった。


(うーん。あっ、もしかして……!)


「うわっ!びっくりしたぁ!メリーさんだ!しかも目の前かよ!ビビったぁ……」


大根役者にでさえ怒られそうな演技力で驚いてみせる。怪異にもルールとマナーがあるからね。


すると、メリーさんは一度、ぽかーんとした表情を浮かべ、その後に屈託のない笑みを浮かべた。


「ふふふっ。怪異のメリーさんです……驚いてくださってありがとうございます…」


というと、気恥かしそうにはにかみながら、ペコペコお辞儀をされた。


怪異にお礼を言われて、普通の挨拶までされてしまった。あまりの丁寧さにこっちまでぽかーんとしてしまった。


「どういたしまして。じゃあ、寒いし、行こっか。送っていくから後ろに座って」


「……うし、ろ?」


(あっ、やべ。背後取られる。…まっ、いいか)


「うん。駅って言ってたけど、どうやってきたの?」


「電車」


どうやら、メリーさんは電車通勤らしい。


「そっか。駅まで送ってもいいけど、電車ないよね?」


そう言うと、少し悲しそうにコクリと頷いた。


(怪異なんだから、夜に活動してんじゃないの?いつも終電ないだろ…まさか始発まで改札にいたりして)


それは言わないでおいた。泣きそうだから。


「だったらさ。始発まで、うちに来なよ。ほら乗って」


そう言うと、コクリと頷いて、横向きに自転車の後ろに座った。


腰につかまる手が、思ったより冷たくなかった。


出発してから、若干気まずい空気だった。


だけど、少ししたら向こうから話しかけてくれた。


《《この》》メリーさんは、どうやら最近「怪異」として活動し始めたらしく、都市伝説のルールを守ることで精一杯らしかった。


根が真面目で大人しい性格のため、脅かす威圧感はゼロ。


可愛すぎるだろ。怪異やめたほうがいいと思う。


*


「これ使って。知ってる?ホッカイロ、暖かいやつ」


「……ありがとう」


女性との自転車の二人乗りは人生で初めてだった。


まぁ、初めて出来た彼女はトイレから出て来れなかったから当然だけど。別れたけど。


段差を越えるたびに、荷台から小さな悲鳴と笑い声が聞こえる。


お尻が痛いとか、公園に猫がいるとか。


横座りはお互いにバランスが取りづらい。


しかしメリーさんは、すっかり僕に全幅の信頼を置いているようだった。


気恥ずかしさからくる抵抗を諦めたのか、ついに背中からお腹の方へ手を回して、僕の背中に、こてんっと頭を預けてきた。


緊張した。正直。


怪異とはいえ、アイドルでさえ霞む程の美少女が、僕の背中に頭をつけて抱きついている。


(見たい。この絵を客観的に見たい!写真とりたい!)


知能の低そうな事を考えながら、揺らさない様にゆっくり自転車を漕いでいると、規則的な小さな呼吸の音が聞こえてきた気がした。


「え?寝てないよね?」


「……寝てない、よ。…温かいなーと思って」


背中から直接、脳髄を揺らすような声で言われて、ハンドルを握る手が思わず力んだ。


立ち漕ぎできない為に、脚はパンパンだったけれど、この時間が少しでも長くなればいいと心から思ってしまった。


(これが下心ってやつなのか?ちがうか。よくわからんけど、なんでもいっか)


今の僕にできるのは、少しでも揺れを抑えるように慎重にペダルを漕ぎ続けることだけだった。


*


それから家についてすぐ、温かいお茶で冷えた体を温めることにした。


メリーさんは紅茶の方が好きらしいので、お客さん用の少し高めの紅茶を出してあげた。母親には内緒だけど。


色々怪異の話を聞きたかったけど、明日も早いので、すぐに寝ることにした。


無論、ベットはメリーさんに譲って、僕は床に軽くブランケットを敷いて寝る事にした。


ジェントルはじめ。


「メリーさん、おやすみ〜」


「はい、はじめさん。おやすみなさい」


(はじめさん、だって。新婚かよ。可愛すぎかよ。花子も見習ってほしいもんだよ全く)


「あっ、そういえばさ」


「はい」


「さっきも言ったけど、わざわざ名乗らなくていいからね」


「……」


(でた!悲しみムーブ。余計なことだったか)


「勿論、ダメって言ってるわけじゃないからね。ただ――」


「……」


「僕達…もう友達じゃん?」


「…と、友達、ですか?」


「そう。だからさ、今後は普通に連絡してきてよ。じゃ、おやすみ!」


「………………はぃ。おやすみ、なさい」


恥ずかしくなった僕は背中を向けて布団を頭から被った。


少しして、メリーさんは本当に小さな声で「ありがとう、はじめさん」と言ったのが聞こえた。


――


朝、目が覚めると、メリーさんはいなくなっていた。


(帰ったのか。駅まで送ってくのに)


その日以降、メリーさんから電話が来たことは一度もない。


*


でも、LINEが頻繁に来るようになった。電話だと、「私、メリーさん」って名乗ってしまうかららしい。


別にそれはそれでいいんだけどね。ほんと律儀な性格してるな。生きづらくないといいけど。


そうだ。


今度、花子に怪異の友達が出来たって報告しておこう。


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