「破滅の序曲」第98話 ブロック5
ナレーター:――愛とは世界で最も美しい出来事であり、存在の最も暗い隅々を照らし出すことのできる避難所であると言われている。しかし、その感情が歪み、恐怖を糧にする時、それはもはや贈り物ではなく、容赦なき執着へと変貌する。そうした腐敗した愛は後悔を知らず、息の根を止めることに対して決して許しを乞わない。それどころか、完全なる所有こそが唯一の正当な愛情の証であるという冷徹な確信のもと、他者の人生に居座るのである。
そのような愛にとって、他者の自由は許しがたき侮辱であり、境界線など存在しない。一歩一歩を監視すること、絶対的な排他性を要求すること、そして個性を剥奪することに罪悪感はない。なぜなら、「世話をする」とは「鎖につながれる」ことと同義であるという前提のもとで、自らを正当化しているからだ。自分のもとから遠く離れてその人物が輝くのを見るリスクを冒すくらいなら、鉄の意志で手綱を握りしめることを好む。こうして、かつては幸福の約束として生まれたものを、誰も抜け出すことのできない、そして決して後悔することのない牢獄へと変えてしまうのだ。
魔法アカデミーの側廊の静寂は濃厚で、ほとんど呼吸ができないほどだった。不透明なガラスの高い窓からは、空気中に漂う埃の粒子をかすかに照らすだけの青白い光が差し込んでいるだけであった。周囲には誰もいなかった。他の生徒たちはすでにそれぞれの教室にいるか、午後の実習に向けた準備を進めていた。
計算されたその孤独の中で、二つのシルエットが全く異なる姿勢で向き合っていた。サユリが胸に本を抱えながら授業へ向かおうとした時、一人の人影が柱の暗がりから現れ、彼女の進路を完全に塞いだ。ジュリアン・ヴァンスだった。彼の金髪は冷たい優雅さを放っていたが、その顔には普段公の場で浮かべているよそよそしい親切心の欠片も残されていなかった。彼の黄金の瞳は血を凍らせるような、秘められた執着に満ちた陰鬱な強さをもって彼女を射貫いていた。
ジュリアン・ヴァンス:「――一昨日、あの男と何を話していたんだ?」
前置きもなく、ジュリアンは唐突に尋ねた。石の壁に反響するその声は、低く、制御され、氷のように冷徹であった。
サユリはピタリと足を止め、胸の内で心臓が跳ね上がるのを感じた。すぐさま困惑に打たれ、そして何について言及しているのかを理解した瞬間に深い怒りの火花が燃え上がった。
カスガ・サユリ:「――私のこと、つけてたの……?」
サユリは青い目を大きく見開き、不信感と怒りを露わにして言い放った。
カスガ・サユリ:「ねえ、それって私のプライバシーに対する完全な侮辱よ。私の行動を監視する権利なんてあなたにはないわ!」
彼の支配的なトーンに付き合う気など毛頭なく、サユリは教室へと向かうために体を乱暴に翻した。
だが、反応する余裕など微塵もなかった。
一歩を踏み出すより早く、ジュリアンの手が野獣のような素早さで彼女の右手首を掴んだ。その握力は残酷なほど強靭で、まるで獲物を無力化するために設計された鉄の万力のように硬かった。サユリは突然の痛みと驚きに、小さな息を漏らした。
ジュリアン・ヴァンス:「君は生まれながらの貴族であり、そして僕の正式な婚約者だ」
ジュリアンは一歩踏み込んで距離を詰め、彼女の目を真っ直ぐに見据えるように強制しながら、残酷な警告の色を帯びた声で吐き捨てた。
ジュリアン・ヴァンス:「他の男たち、ましてや廊下をほっつき歩く下劣な平民などに、軽々しく注意や言葉を向けたりしていい身分ではないはずだ」
怒りと、突如として押し寄せる息苦しいまでの閉塞感が、サユリの胸の中で爆発した。彼女は彼の手の枷から逃れようと、腕を引き抜こうと全力で暴れたが、力の差は圧倒的だった。
カスガ・サユリ:「――何よ一体……!」
サユリは怒りに震える声を荒らげ、どうにか振り払おうと試みた。
カスガ・サユリ:「私を自分の思い通りにできるものとでも思ってるの!? 離して、ジュリアン! くそっ、今すぐ私を離しなさいよ!」
圧力を緩めるどころか、ジュリアンは少女の手首の骨がわずかに軋むほど指に力を込め、純粋な痛みによる顔を歪めさせた。その顔立ちは、暗く病的な嫉妬によって歪んでいた。
ジュリアン・ヴァンス:「この世界の仕組みを理解していないのは君の方だ」
彼は威圧的な近さで顔を寄せながら、低く囁いた。
ジュリアン・ヴァンス:「君はスラムのゴミどもに笑顔を振りまき、分不相応な親しさを与えている。よく聞くがいい。君の注意も、言葉も、笑顔も……僕一人のものだ。僕のものなんだよ!」
サユリは完全に圧倒された。突如として湧き上がった怒りは、一瞬にして純粋な恐怖の冷たい悪寒へと変貌した。その抑圧された幼い心はパニックに陥り、容赦なき鉤爪から自分の腕を引き離そうと無駄にもがき続けた。
サユリ(思考):一体どうしちゃったの……? 彼、狂っちゃったの? 私がまだ人生を始めることもないうちに、閉じ込めようと本気で思っているの……? これは婚約なんかじゃない……終身刑の宣告だわ……!
アドレナリンで胸を高鳴らせ、青い瞳からあふれ出そうになる悔し涙を堪えながら、彼女はに残されたわずかなプライドを振り絞って言い返した。
カスガ・サユリ:「――誰と話すか、誰を見るかなんて、あなたが指図することじゃないわ! 私の人生よ! 誰に話しかけて、誰に話しかけないかなんて私が決めるのよ! 今すぐ……離しなさいよ、ジュリアン!」
――バシッ!
乾いた、暴力的な、響き渡る音が、誰もいない廊下の空気を切り裂いた。
開いた手のひらが肌を打つ衝撃が、まるで鞭のように炸裂した。コンマ数秒の間、時間が完全に停止したかのように思えた。サユリはその打撃の強さで横方向へと激しくよろめき、バランスを崩して冷たい石の床へと崩れ落ちた。
再び廊下に静寂が訪れたが、今度の静寂は耳を塞ぎたくなるような、恐怖に満ちたものであった。
サユリは床に倒れ込み、体を丸めながら、直ちに左手を震えながら左の頬へと当てた。その頬は瞬く間に真っ赤に染まり、熱を帯びたヒリヒリとする鋭い痛みに焼かれていた。数歩離れた場所で、ジュリアンは荒い息を吐きながら、平手打ちを繰り出した右手をまだ空中に残したまま立ち尽くしていた。その黄金の瞳は、抑えきれない怒りに満ちてギラついていた。
密閉された廊下に響き渡った平手打ちの音は、あまりにも強烈で、壁に反響しているかのようだった。彼女が言葉を発するか、あるいは自分が受けた絶対的な屈辱を処理しきれるより前に、ジュリアンは冷酷な軽蔑を込めて言葉を吐き捨てた。
ジュリアン・ヴァンス:「――その不吉な口の利き方に気をつけろよ、サユリ。二度目はない」
彼はゆっくりと腕を下ろしながら言った。
ジュリアン・ヴァンス:「二度とあのクズの平民に近づくな。君はアカデミーの廊下ですれ違う男たちに身体を売ったり笑顔を振りまいたりするような、安っぽい売女ではないはずだ」
それ以上の一言も加え背中を向けた彼は、反発を覚えるほど冷たい優雅さをもって身を翻し、確かな足取りでその場を去り、彼女を床に完全に置き去りにした。
気高く抑え込んでいた涙がついに青い瞳の決壊を破り、打たれた頬を伝って熱く流れ落ちた。サユリは震える手の甲で急いで顔を拭い、弱みを見せないために必死に嗚咽を飲み込んだ。不器用によろめきながら、その衝撃で痺れた身体に鞭打って立ち上がることを余儀なくされた。
スカートのほこりを素早く払い落とし、ピンクの髪の乱れた毛束を整えると、彼女は無意識のうちに右手首に目をやった。白い肌にはくっきりと濃い赤の円形の跡が残っており、彼がいかに暴力的彼女を掴んでいたかを物語っていた。
サユリ(思考):授業に遅れちゃう……それに、顔が完全に腫れ上がってるわ……。みんなの前でどうやってこれを隠せばいいの……? シオリに心配をかけずに、どう説明すればいいの……?
痛む頬に触れながら、肉体的なヒリヒリ感とプライドを引き裂くような圧倒的な屈辱感が競い合うのを感じていた。震える足を安定させるために深く息を吸い込み、腫れ上がった顔を見られないように床に視線を固定したまま、彼女は傷ついた魂を抱えてその廊下を立ち去った。
数分後。
アカデミーの中庭の開放的な空気は、緊張感、そしてオゾンと熱せられた金属の独特な匂いに満ちていた。すべての生徒たちが広大な訓練エリアを占拠し、屋外できれいに整列していた。敷地の中央には大きな実習用サークルがそびえ立っていた。固められた石の床の上には赤と白の同心円状の帯が描かれ、遠距離からのアーチェリーや魔法の投射物の精度を測るために通常使われるものであった。
生徒たちは完全にまっすぐな列に並んでいた。シオリは右側の最前列に立ち、両腕をぴんと伸ばして前方に視線を固定していた。少しして、サユリが慌てた様子でグループの間をすり抜けながら駆けつけ、姉のすぐ隣に滑り込むようにして右列の先頭に立った。彼女は手を背後に回し、左手で右手首をき強く握りしめることで、隠しきれない痣の痕跡を必死に隠していた。
遅れて到着したことに気づき、シオリは即座に顔を向けた。その鋭く保護的な視線は妹を全身舐め回すように見据え、その顔の状態を見た瞬間にピタリと動きを止めた。
カスガ・シオリ:「――お姉ちゃん、どこにいたの……? それに、頬っぺたどうしたのよ? 真っ赤になって、ちょっと腫れてるじゃない……」
サユリはビクッと身を縮こまらせ、直接的な問いかけに心臓が飛び出るかのように感じた数分前の恐怖と屈辱感を露見させないため、作り笑いを交えて軽やかに答えた。
カスガ・サユリ:「――あぁ……これ? なんでもないの、ただ……廊下を曲がるときに不覚にも転んで、柱にぶつけちゃってさ。本当に、大したことないから」
心の中では、冷徹な葛藤が思考を駆け巡っていた。
サユリ(思考):シオリに本当のことを言うわけにはいかないわ。もしジュリアンが私に何をしたのか知ったら、あの子は怒りで狂ってしまう。そして事態をさらに悪化させ、私たちの家族にさらなる災難を引き寄せるだけだわ。黙っていなきゃ……あの子のためにも、私自身のためにも。
シオリは深い不信感を宿した目を向け、青い髪の隙間から眉をひそめた。
カスガ・シオリ:「あとで医務室に行って軟膏でも塗ってもらいなさいよ。それとも……今すぐ私の魔法で治してあげようか?」
サユリは震える笑みを無理やり作り出し、平手打ちのヒリヒリ感をごまかそうとしながら両腕をさらに後ろへ押し込み、左手が痛む手首を完全に覆っていることを確認した。
カスガ・サユリ:「本当にありがとう、お姉ちゃん。でも、本当に大丈夫だから……」
その瞬間、生徒たちのざわめきがかき消された。魔法戦闘の講師が堂々と実習サークルへと足を踏み入れたからである。その女性は三十代ほどの圧倒的な存在感を放ち、厳格で形式的なお団子にまとめた漆黒の髪は妥協なき軍規を物語っていた。鋼鉄の灰色の瞳は容赦のない厳しさで生徒たちを見渡し、バレロストラ公爵領の階級章で飾られた灰色と銀色のダークなチュニックをまとっていた。
講師は列の前に立ち、訓練の号令を下す前に権威を込めて腕を組んだ。
講師:「全員、聞きなさい!」
その声は訓練場全体に力強く響き渡った。
講師:「本日は魔力を用いた剣術の展開を実践する。マナを集中させ、剣の切っ先へとエネルギーを込め、地面に描かれた的の中心に向けて直接炎の攻撃を放ちなさい。――わかったか?!」
「「はい、先生!」」
十代の多くの声が声を合わせて返答した。
その課題を聞き、サユリは胃が凍り付くような感覚を覚えた。
サユリ(思考):炎で的当て……? でも、シオリは炎が使えないのに……これじゃみんなの前で晒されちゃうわ! またあの子が辱めを受けてしまう!
焦燥感に駆られ、サユリは慌てて首を巡らせて姉を見つめた。シオリは規定の剣の柄を鞘の中で見つめながら、絶望的な恐怖に満ちた表情で立ち尽くしていた。彼女は極度に緊張し混乱しており、その呼吸は制御できないほど荒くなり、震える指先はミリ単位で武器を引き抜こうとしていた。いざ炎を呼び出さなければならなくなった瞬間、クラス全体の面前で完全に無能であることが露呈してしまうことを知っていたからだ。
惨事が間近に迫っていることを見て取り、サユリは一瞬たりとも迷わなかった。彼女は一歩踏み出し、プロトコルを破って絶叫するように叫んだ。
カスガ・サユリ:「――先生! お願いです、止めてください!」
講師は荒々しく首を向け、驚きと邪魔立てされたことへの不快感を交えながら、冷たい灰色の目をサユリに突き刺した。
講師:「今度は何だ、カスガの娘?」
カスガ・サユリ:「先生……シオリの具合がとても悪いんです。胸がすごく痛くてめまいがするみたいで、すぐに医務室に連れて行ってもいいですか?」
姉妹の予想外の言い訳を聞き、シオリは純粋な不信感に身震いし、驚きで青い目を大きく見開いて妹を見つめた。
シオリ(思考):何やってるのよ、バカね……私なんて完璧に元気なのに!
講師は目を細め、長く緊張感漂う数秒間、じっと二人を観察した。彼女の即興の言い訳を完全に信じたわけではなかったが、シオリの手の顕著な震えとその顔に浮かぶ純粋な恐怖を認め、その状況の裏には深く痛ましくプライベートな事情が隠されていることを理解した。厳格な指導者ではあったが、バレロストラの高貴な家々が抱えるデリケートで暗い秘密を認識していた彼女は、これ以上追及せず、生徒を不必要な公開処刑に晒すことを避けることにした。
重いため息をつきながら、講師は冷たい身振りでそれを許可した。
講師:「いいだろう……医務室に連れて行け。だが、あまり時間をかけるな。すぐに訓練に戻りなさい、カスガの娘よ」
カスガ・サユリ:「本当にありがとうございます、先生!」
一刻の猶予も置かず、サユリは腕を伸ばし、困惑する姉の手首をしっかりと掴むと、全速力で駆け出し、アカデミーの薄暗い廊下の奥へと彼女を引きずりながら安全な場所へと逃げ込んだ。
二人の姉妹の足音の残響は、アカデミーの石の回廊の奥へと消え去り、冷たいバレロストラの微風がアカデミーの旗を揺らす訓練場に後に残された。
厳格に結い上げられた髪の指導者は中断を無視し、残された列を見据えながら鋭い声で授業の主導権を取り戻した。
講師:「よろしい、訓練を続行する」
講師は腕を組みながら、若い継承者たちの列を見渡した。
講師:「課題の基準を示すための実演が必要だな。ヴァンス」
ジュリアン・ヴァンスは機械的な優雅さで顎を上げた。その金髪は、一歩前に踏み出すにつれて、冬の太陽の弱々しい光のきらめきを捉えた。
ジュリアン・ヴァンス:「何でしょうか、先生」
少年は、絶対的な、ほとんど不遜なまでの自信を漂わせた完璧に調整されたトーンで答えた。
講師:「お前が実演のテストを行え。この学年全体で最も進んだ炎の適性と領域を持つのはお前なのだからな」
指導者は高貴な血筋に宿る天賦の才能を当然のものとして、ごく自然に指名した。
ジュリアンは受け入れの意を示して、わずかに頭を下げた。
ジュリアン・ヴァンス:「御意のままに」




