「アルス・ゲティア、悪魔の書」第92話 ブロック5
午前六時の霧が、冷たく重い毛布のように農地に降り注ぎ、植物を眠らせ、大理石の屋根瓦を凍てついた朝露の薄い層で覆っていた。ユーフラテスの夜明けにおける完全な静寂は、地殻の揺れによって暴力的に引き裂かれた。
空気が鋭い風切り音を立てて引き裂かれ、その直後、一つの影が中央の中庭へと真っ逆さまに激突した。衝撃の威力は乾いた轟音を響かせ、石畳をクモの巣状にひび割れさせ、霧の中に立ち込める粉塵と破片を瞬時に拡散させた。
邸宅の内部、薄暗い主寝室のベッドでは、リョウが羽毛のマットレスに身を横たえていた。顔の上半額をすっぽりと覆う真っ黒な睡眠用アイマスクを装着している。突発的な揺れは部屋の壁を震わせ、基礎の深部まで鳴り響いたため、リョウはベッドシーツの上に跳ね起きるように上半身を起こした。突然の目覚めと休息の強制的な中断により、彼はひどく当惑していた。
揺れの原因を頭で処理する間もなく、玄関の木製ドアを叩く硬質なノックの音が廊下を伝わって規則正しく響き渡った。
深い眠りから無理やり引き剥がされた者の持つ気だるさを纏いながら、リョウは足を引きずるようにして玄関へ向かった。身につけているのは、黒い綿のショートパンツと、すり切れた質感の灰色のスリッパだけだった。上半身は裸であり、艶やかな黒髪は完全に乱れ、前髪やうなじに無造作な束となって垂れ下がっている。室内の冷気が一瞬で玄関ホールへと侵入し、無防備な肌に直接ぶつかったことで、彼はわずかに身を震わせた。
分厚いオーク材のドアを開け、彼は従者の圧倒的なシルエットと真正面から向き合った。
オロバス:「主様、すぐに聞いていただきたい非常に重要な情報を持ってまいりました」
リョウは敷居に立ったまま左手を額まで伸ばし、黒いアイマスクの左側を押し上げて、その下から赤く輝く左目だけを露出させた。疲労で重くなった瞼が半分ほど下がり、凍てつくような霧の中、瞳は冷徹にその悪魔を値踏みするように見据える。
リョウ:「オロバス……今は午前六時だ。それが分からないわけじゃないよな?」
従者は完璧な姿勢を保ったまま、わずかに袖口を整えたが、その肩に宿る緊張感が旅の切迫感を物語っていた。
オロバス:「承知しております、主様。大変申し訳ありませんが、今すぐお伝えしなければならない情報がごさいます」
リョウは気だるさに塗りつぶされた顔のまま、不快感を露わにするように片方の眉をひそめてじっと見つめた。
リョウ:「今すぐ……もっと遅く来ることもできたはずだ」
オロバス:「本当に申し訳ありません、主様。しかし、これは一刻を争う案件です。地獄に関する事柄なのです」
朝の冷気がリョウの剥き出しの胸板を容赦なく刺し、開いた口からは白い吐息が漏れていた。
リョウ:「地獄についての? それとも地獄の連中が起こした巻き添えのトラブルか? 後者なら興味ないね」
オロバス:「いいえ、主様。巻き添えに留まりません。この世界に『プリンシパリティ(公国級)』のボリュームが存在している疑いがあります」
リョウは露出している片目を細め、眠気で働かない頭でその専門用語を必死に咀嚼した。
リョウ:「『アルス・ゲティア』のことか?」
オロバス:「左様でございます、主様」
重苦しい沈黙が数秒間その場を支配した。リョウは信じられないと言わばかりに長いため息をつき、わずかに首を傾げた。
リョウ:「おい……お前、まさか品質の怪しい粉ミルクでもキメてきたんじゃないだろうな?」
その告発は、従者の誇りを心臓の真ん中を貫く目に見えない針のように刺し抜いた。底知れぬ失望の震えがオロバスの胴体を駆け抜け、厳しい規律に支えられていた彼の姿勢がほんの一瞬だけ揺らいだ。
オロバス:「いいえ、主様……そのような真似は決して」
リョウ:「どうせ信用しちゃいないさ。一体どうしてこの世界に『アルス・ゲティア』なんぞが存在するんだ? 誰もプリンシパリティの存在なんて知らないし、信仰する神すらいないってのに……だいたい眠いんだよ、分かるか?」
まさにその瞬間、床に落ちていたリョウ自身の影が不気味にうねり始めた。足元の暗がりがまるで冷気の中で舞う黒い灰のように剥がれ落ち、瞬く間に彼の傍らで凝縮されてパンドラの姿を形作った。蒼白な肌の女は肩にかけた衣を整え、新参者へと穏やかな視線を向けた。
パンドラ:「どうしたの、オロバス。また会えて嬉しいわ」
オロバスはわずかに頭を垂れ、即座にいつもの冷静さを取り戻した。
オロバス:「パンドラ様、お目にかかれて光栄です」
パンドラ:「今の会話を聞いていたけれど……本当なの? 『アルス・ゲティア』のボリュームが存在しているという推測は」
オロバス:「間違いありません」
裸の胸元を守るように腕を組んでいたリョウが、相変わらず気だるげなトーンのまま再び口を挟んだ。
リョウ:「で、何がそれを確信させたんだ?」
オロバスは一歩前に踏み出し、儀礼的な距離を詰めた。
オロバス:「主様、私が出会ったのは……」
従者はリョウの耳元へと顔を寄せ、風の音にかき消されるほど低い囁き声で、特定の名前を告げた。
その単語を聞き取った瞬間、リョウの赤い瞳が全開で見開かれた。顔に残っていた最後の眠気は一瞬で吹き飛び、代わりに冷徹で高度に研ぎ澄まされた戦術的思考の光が宿る。荒れていた表情は引き締まり、鋭い眼光へと変貌した。
リョウ:「なるほど……それなら、『アルス・ゲティア』が存在する可能性はあるな。いいだろう、入ってくれ」
リョウはドアの板を内側へ押しやって完全に道を開け、寒風吹きすさぶ早朝の冷気から小屋を守るためにしっかりと扉を閉ざした。
メインルームでは、朝陽が霧を切り裂き、別荘の窓ガラスを通して黄金色の光の束を投げ込んでいた。
リョウは衣装を着替えて再び姿を現した。裾や縫い目に鮮やかな赤のラインが入った漆黒の浴衣を身にまとい、その上から深紅の羽織をエレガントに羽織っている。額や目を覆っていた前髪や頭頂部の髪は後頭部で高いポニーテールにまとめられ、残りの黒髪は背中へと美しく流れていた。完全に顔立ちが露わになったのはこれが初めてであり、冷徹なまでの静けさを湛えた端正な顔立ちと、容赦のない異色瞳の輝きが際立っていた。
リョウは落ち着いた足取りで、従者の待つ中央のテーブルへと歩み寄った。向かい側の席に腰を下ろし、磨き上げられた木の上で両手を組む。
リョウ:「この世界に『アルス・ゲティア』の書が存在しているかもしれない、そうだな」
そのタイミングで、パンドラが湯気の立つお茶を乗せた木製の盆を持って歩み寄った。彼女は二つの茶碗を注ぎ、一つをリョウの前に、もう一つを自分の前に置いてから隣の席に腰掛けた。
パンドラ:「でも……そんなこと、いったいどうやって可能なの?」
オロバスは背筋を伸ばしたまま軽く上体を倒し、答えた。
オロバス:「分かりません。プリンシパリティに関する極めて深く直接的な知識を持つ者でなければ、記述することは不可能でしょうに」
リョウ:「『アルス・ゲティア』か……」
時間が静止したかのように、あらゆる方角から、底知れず重々しい声が虚空の何処ともなく響き渡った。
ナレーター:「『アルス・ゲティア』とは、処女の女性の生皮で作られ、赤子の血で記されたプリンシパリティの書物である。地球上には五つのボリュームが存在する」
19世紀末の1892年、ヨーロッパの大学でセム語と考古学の敬愛を集めつつも孤立していた学者、マラカイ・クロウエル教授は、禁断のテクストへの強迫的な執着から、他のいかなる学者も触れようとしない忘れ去られた粘土板や古文書の翻訳に没頭していた。禁忌の扉を開く数式を解読した末、マラカイは地底世界の真の存在たちと接触を果たすことに成功し、歴史上の実在する約二百の悪魔たちを一切の重複なく体系的に分類するため、自らの全知識を五冊の呪われたボリューム――第一巻のソロモンの72柱の精霊から始まり、第二巻の空中飛行軍団、第三巻のルシファーとその宰相たち、第四巻のルシフェル・ロフォカールの高位階層、そして第五巻の地表および死霊術の精霊に至るまで――として構築・記録していった。これほどの偉業を神聖化し、悪魔たちの本質を縛り付けるため、マラカイは黒魔術の最も堕落した手法に手を染め、五つの巻すべてを処女の生皮で装丁し、それぞれの封印を刻むために赤子の血を使用した。さらにページの文字を綴るために用いられたのは、ある赤ん坊の喉の骨から削り出された、禍々しい羽ペンであった。人間の発声を支え、無垢なる者の最初の泣き声を象徴するその脆いU字型の舌骨の構造が、禁忌の名を記す際に彼の握る柄となっていたのである。神をも恐れぬ啓示、耐え難いほどのパラノイア、そして自らの書斎に無理やり顕現させた悪魔たちの絶え間ない気配に精神を蝕まれた結果、彼の理性は恐ろしい地獄の幻覚の中で完全に崩壊した。それが1898年の自殺へと彼を駆り立てることになる。彼は自らの手で自らの目を抉り出した。幻覚が彼を苛み、おぞましい光景を見せ続けたからである。次に、赤子や女性を殺害して本を作った罪への償いとして、自らの歯で自分の指を噛みちぎり、最後には教会の尖塔で首を吊った。彼の死亡が確認されたのは午前2時34分のことであり、現在彼の魂は地獄をさまよい、その罪によって永遠に責め苦を受けている。
皆さん、おはようございます!公式に『デュアル・リバース』ブロック5へようこそ。心から楽しんでいただけることを願っています。このブロックでは、アカリと彼女の人生についてより深く描いていくつもりですので、きっと気に入っていただけるはずです。




