表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デュアルリバース (Dual Rebirth)  作者: 善悪 亮 (Ryo Zenaku)
第1章:宿命の始まり
9/33

大きな冒険の始まり 第5話 (後編)

第5話の後半をお届けします。物語は少しずつ、緊張感を増していきます…

その瞬間、リョウはサムが去り際に残したカードを、横目で追った。

サムもまた、リョウに引けを取らない存在だった。その数値はリョウの記録とほぼ互角。さらに、そのカードには異質なスキルが刻まれていた。


「固有スキル:レッドドラゴン:126」


未知の力。そして、戦慄を覚えるほどの天賦の才。


リョウはカードをポケットに仕舞い、密かな安堵を感じていた。少なくとも、このカードは「永久パスポート」として機能する。これさえあれば、都市の検問で通行料を払う必要も、毎月の書類更新に追われることもない。一生モノの登録証だ……死が二人を分かつまでは。


リョウは静かに目を閉じた。亡命の疲れと登録の手続きによる疲労が、彼を深い眠りへと誘っていく。あとは、サムが食料を持って戻ってくるのを待つだけだった。


一方、サムは頭の中で計算に没頭しながら歩いていた。ギルドから前借りした「小さな財宝」で、どれだけのパンとチーズが買えるか。


サム:「(パン屋はどこだ……? 二人の腹をしっかり満たせるものを買わないとな……)」


ドンッ!


不注意がたたり、サムは正面から誰かと衝突した。衝撃で地面に突き飛ばされ、小銭が石畳の上に転がりそうになる。サムは慌ててそれをかき集め、顔を真っ赤にしながら、謝罪のために顔を上げた。


サム:「本当にごめんなさい! 前をちゃんと見てなくて……っ」


だが、言葉が喉に詰まった。目の前で肩をさすりながら立っていたのは、先ほど見かけた燃えるような赤髪の少女だった。夕暮れの光に照らされた彼女の瞳は、まるで燃え盛る残り火のような濃いくれない色で、深く、そして神秘的だった。サムは再び、その眼差しに吸い込まれるような感覚に陥った。


ルシア:「大丈夫、気にしてないわ」


彼女の声は、柔らかくも芯の強さを感じさせた。サムはハッと我に返って立ち上がり、彼女を助けようと手を差し伸べた。驚いたことに、少女はその手を拒まず、謙虚にサムの助けを借りて立ち上がった。


サム:「あの……一つ聞いてもいいかな? この近くにパン屋さんはどこにあるか教えてくれない?」


ルシアは一瞬、彼を観察するように見つめた。このおっちょこちょいだが、お人好しそうな少年が一体何者なのかを見定めているようだった。


ルシア:「いいわよ。この道をまっすぐ行くだけ。店が見える前に、香りがしてくるはずよ。この辺りで一番大きなパン屋さんだから」


サム:「本当にありがとう! あの……」

(サムは一瞬ためらい、後頭部をかいた)

サム:「失礼だけど、名前を聞いてもいいかな?」


ルシア:「ルシア。私の名前はルシアよ」


サム:「ありがとう、ルシア。俺はサム。会えてよかったよ」


ルシアは、その年齢からは想像もできないほど落ち着いた表情を崩さず、わずかに会釈を返した。


ルシア:「私もよ。それじゃあ、もう行かなくちゃ。姉が待っているから」


サムはその場に立ち尽くし、人混みの中に消えていく彼女の背中に手を振った。しばらく鼻の下を伸ばしてニヤけていたが、ふと、厩舎で腹を空かせたリョウが待っていることを思い出した。彼は慌てて踵を返し、新たな活力を得たかのようにパン屋へと走り出した。


店内に足を踏み入れると、そこは焼きたての酵母と香ばしい砂糖の香りが混じり合った、温かな空気に包まれていた。


サム:「こんにちは!」


カウンターを布巾で拭いていた肩幅の広い店主の女性が顔を上げ、プロらしい愛想のいい微笑みを浮かべた。


店主:「いらっしゃい。何にするかい、坊や?」


サム:「クリームパンを銀貨2枚分ください!」

(サムは、その甘い香りを想像して生唾を飲み込んだ。リョウを元気づけるには最高の贈り物だと思ったのだ)


店主:「ああ、すまないね。それはもう売り切れだよ。さっき女の子が来て、全部買い占めていったんだ」


サムは目を見開き、動揺を隠せなかった。厩舎に戻る前に、せめて何か本当に美味しいものを食べようという最後の希望が打ち砕かれたのだ。


サムは目を見開き、動揺を隠せなかった。厩舎に戻る前に、せめて何か本当に美味しいものを食べようという最後の希望が打ち砕かれたのだ。


サム:「本当……ですか? ちなみに、それがどの子だったか分かりますか?」


店主:「ああ、もちろんさ。ギルドのVIPの妹さんだよ。この街で最高の冒険者のね。なんでも、ドラコン王国へ旅に出るらしくて、道中の食料として持っていったんだよ」


サムは考え込み、その情報を整理した。ルシアは、ただ自分を釘付けにした紅い瞳の少女ではなかった。この地域で最も強大な権力を持つ人物の一人の妹だったのだ。あの時、水をくれた赤髪の少女は、ただの冒険者ではなかった。


サム:「(……なるほど。なら、邪魔しない方が良さそうだ。そんなに重要な人たちなら、トラブルは避けたいしな……)」


(サムはため息をつき、諦めたように言った)


サム:「……それじゃあ、普通のパンを銀貨2枚分お願いします」


店主:「はいよ、喜んで」


店主は、香ばしく焼き上がった、まだ温かみの残るパンが詰まった紙袋を差し出した。サムは代金を支払い、店を後にした。普通のパンとはいえ、その香りは素晴らしく、クリームパンへの未練を忘れさせるほどだった。


夕暮れの光が窓に反射する中、サムは厩舎への道を戻りながら、ルシアとその旅路に思いを馳せていた。


サム:「(彼女はドラコン王国へ向かうと言っていたな……。ドラコン王国は、確か地の龍を祀る『地の王国』だったはずだ。ドラコン王国を含めて、この世界には四つの王国がある。炎のヴァレロストラ王国、水のルナリシア王国、地のドラコン王国、そして風のゼフィリア王国……。ふふっ、いつか俺も、その場所を訪れる日が来るのかな)」


そんな考えを巡らせながら、焼き立てのパンの香りに鼻をくすぐられつつ、サムはついにリョウの待つ厩舎の入り口へとたどり着いた。


しばらくして、サムがパンを手に厩舎へと戻ってきた。


サム:「戻ったよ、リョウ」


わらの上に横たわっていたリョウが体を起こし、短く応えた。


リョウ:「おかえり、サム。買いに行ってくれて助かった」


そうして二人は、終わりゆく一日の中で静かにパンを口にし始めた。しかし、その頃別の場所では、暗く悲しげな瞳をした二人の男女が、リョウたちとは対照的な絶望の中にいた。


ヴィクトルとセレーナは、家へと続く小道を重い足取りで歩いていた。かつては安らぎを与えてくれたはずの夕暮れのオレンジ色の光が、今は二人を追い詰めるかのように、長く、物悲しい影を落としていた。ヴィクトルは背を丸め、この世の終わりかのような打ちひcrがれた表情を浮かべていた。一歩一歩家へ近づくたびに、それがまるで裏切りであるかのように感じられた。


ヴィクトル:「何も見つからなかった……。あいつらがどこへ行ったのか、手がかり一つさえも」


その声は虚ろで、言葉そのものが枯れ果ててしまったかのようだった。


彼の後ろを歩くセレーナには、返す言葉がなかった。唇は震え、森に奪い去られた希望を取り戻せるような言葉は、どこにも見当たらなかった。


家にたどり着くと、打ちのめされるような沈黙が二人を迎えた。セレーナは機械的な動きで台所へ向かい、夕食の準備で何とか手を動かそうとしていた。一方、ヴィクトルは暖炉の前の椅子に力なく崩れ落ちた。火を灯したが、その瞳は温もりを求めているのではなく、激しく踊る炎の中に沈み込んでいた。


家にたどり着くと、打ちのめされるような沈黙が二人を迎えた。セレーナは機械的な動きで台所へ向かい、夕食の準備で何とか手を動かそうとしていた。一方、ヴィクトルは暖炉の前の椅子に力なく崩れ落ちた。火を灯したが、その瞳は温もりを求めているのではなく、激しく踊る炎の中に沈み込んでいた。


赤々と燃える炎の中に、ヴィクトルはただ一つの光景を見ていた。あの少年の虚ろな瞳。そして、自らが叫んだあの言葉の残響を。


「『偽物インポスター』め……!」


ヴィクトルは天井を見上げた。胸を締め付けるような圧迫感から、逃げ場を探すかのように。熱く、苦い涙が溢れ出し、彼の頬を濡らしていった。


ヴィクトル:「リョウ……っ」


(彼の声は震え、途切れた)


ヴィクトル:「あぁ……っ、うぅ……っ、はぁっ……」


喉に空気が詰まり、抑えきれない慟哭どうこくが漏れ出す。罪悪感が彼を窒息させようとしていた。台所でその声を聞いたセレーナは、手にしていたものを放り出し、彼のもとへ駆け寄った。彼女は後ろから彼を抱きしめ、絶望に抗うように、優しく、そして必死に自らの頬を彼の頬に寄せた。


セレーナ:「ねぇ、あなた……。必ず見つけるわ。絶対に。私に考えがあるの。もう一度、冒険者に戻りましょう。かつての生活に戻れば、国々を旅しながらあの子を捜せる。ここでただ待っているなんて、もう嫌よ」


ヴィクトルは腕で目元を覆い、もろさを隠そうとしたが、その体は嗚咽おえつで激しく震えていた。


ヴィクトル:「あぁ……」


(彼はかろうじて、囁くように応えた)


ヴィクトル:「……あぁ、そうしよう……」

投稿が遅れてしまい、申し訳ありません!実は『Re:ゼロ』にハマって見ていたのですが、ようやく第5話の後半をお届けできました。


現在、第1巻の第一部完結まで残り5エピソードというところまで来ています。第一部が終了した際には、ぜひ皆さんの率直な感想を聞かせていただけると嬉しいです。


ここで一つはっきりさせておきたいことがあります。ヒロインのルシアについてですが、よくある物語のように「女の子が登場してすぐに主人公たちと恋に落ち、一緒に旅を始める」といった展開にはなりません。


『Dual Rebirth』の世界は、そんなに甘くはありません。「仲間の絆」や「友情」なんてものは、この物語では何の役にも立たないのです。何かを成し遂げるために必要なのは、汗と涙、そして流される膨大な血だけです。


ルシアは将来的に重要なキャラクターになりますが、現時点ではリョウやサムとの接点はまだ先の話になります。この物語でロマンスが描かれるまでは相当な時間がかかりますし、特にリョウに関してはその手の展開は一番最後になるでしょう。


それでは、また次回お会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ