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「裏の意図」第79話 ブロック4


女性は完全に仮面を取り去り、その素顔を周囲の視線にさらした。富美子に匹敵するか、あるいはそれを凌駕するほどの圧倒的な美貌の持ち主だった。背中まで流れ落ちる美しいピンク色の長髪が柔らかい波を描き、白と黒を基調とした気品あふれる正装のドレスが、会場にいる誰よりも彼女を際立たせていた。ライバルのような過剰な装飾とは異なり、彼女の身につけているのは耳たぶにぴったりと張り付いた小ぶりな二つの金色のイヤリングと、首元にしなやかに沿う細いチェーンの中心で一粒の赤い真珠が上品に輝くネックレスだけだった。指輪も腕輪も、これ見よがしな装飾品は一切ない――そもそも、そんなものは必要とすらしていなかった。その顔立ちの中で最も人々を圧倒していたのは、揺るぎない気宇と冷徹なまでの厳格さを宿した、二つの鮮烈な青い瞳だった。


庭園を埋める貴族や執事たちは、その顔を見た瞬間に息を呑み、各テーブルからどよめきの連鎖が爆発した。


「嘘だろ……!? まさか、本当に……!」

「間違いない……あれは……!」

「霞家の当主、霞シオリご本人だ……!」


再び世界が凍てついた。 aristocratsたちの喧騒がかき消され、夜風がピタリと止まり、松明の炎が空間に固定されたかのように静まり返る。


ナレーター:「霞シオリ、三十三歳。独身にして子供はなく、かつて失った最愛の妹の記憶だけを胸に秘めて生きる孤高の存在。富美子・日野を遥かに凌駕する圧倒的な財力と、格上の血統、そして貴族社会の頂点に君臨する権威の持ち主だった。彼女の富と権力の源泉は、国家の財政や公金の掠め取りなどではない。霞家が代々継承してきた広大な直轄領土の支配、そして何よりもユーフラテス市と近隣地域を結ぶ海上・陸上交通の要所の完全な独占権にあった。あらゆる商業キャラバン、運ばれるすべての穀物、そして港を目指すすべての船団は、彼女の私有地を通らなければ目的地にたどり着くことができない。その結果として生み出される莫大な独立資本のゴールドと、その feudo(領地)で保護される数千人の農民、職人、そして従者たちからの絶対的な忠誠が彼女を支えていた。上流階級の目から見れば、霞家は財政的自立、独自の軍事力、そして揺るぎない気高さを兼ね備えた絶対不可侵の要塞そのものだった。リョウの当初のリストに彼女の優先順位は高くなかったが、アカリを巡るこの予期せぬ衝突によって、潜入計画の軌道は根本から書き換えられることになったのだった」


時間が再び一斉に動き出した。群衆の興奮したざわめきが、再び庭園の空気を満たしていく。


富美子・日野は、シオリの突き刺すような皮肉に激しい怒りを覚えていた。首筋の血管が怒張し、奥歯をギリギリと鳴らしながら彼女を睨みつける。だが、社会的な体面とプライドを守るため、富美子は無理やり表情筋を引きつらせて怒りを飲み込み、余裕の笑みを張り付けて言い放った。


富美子:「本気でその子を手放す気はないわけ……? なら交渉しましょうよ。いくら出せば私にその子を譲ってくれるの?」


シオリは足取りを緩めることすらなかった。顎を高く掲げたまま、アカリのそばで待機する自身のメイドのもとへと帝国的な優雅さで歩みを進め、富美子を振り返りもしずに冷たく言い放った。


シオリ:「私をあなたと同じだと思わないことね……金銭ですぐに買収できるような、浅ましい女と一緒にしないで。自分の欲望すら制御できない人間など、ただの快楽主義の……品のない牝犬にすぎないわ」


――ドンッ!!


耳をつんざくような激しい爆音が庭園を揺るがした。その衝撃は木製の床を激しく震わせ、孤児院の窓ガラスを激しく鳴らす。その場にいたすべての貴族や従者たちは恐怖に息を呑み、一斉にシオリの方へと視線を釘付けにした。


冷たい青色の魔力が闇夜を駆け抜けた。だが、次に露わになった光景は、周囲の人間を完全に凍り付かせた。状況は一瞬にして変貌していた。シオリの頭部を斜め下から直撃すべく、地面を突き破って猛烈な勢いで伸びてきた巨大で鋭利な土の槍が、彼女の脳天を狙って突進していたのだ。しかし、その致命的な一撃は、直撃のコンマ一秒前に展開された分厚い氷の壁によって完全に軌道を逸らされていた。


その氷の壁は、シオリの側に控えていた彼女のメイドの足元から瞬時に生成され、冷気の突風を纏いながら主の直前へと割り込んでいた。だが、土の槍が削り飛ばした衝撃の余波がシオリの左頬をかすめ、一筋の鮮血が白い肌を伝って流れ落ちた。


あきらかに殺意を持ってその土撃を放ったのは、富美子・日野の専属メイドだった。二人のメイドの腕は、いまだに魔法を放った余韻でピンと伸びたままだった。富美子のメイドが放った石の槍は、シオリの頭蓋骨を粉砕する計算で放たれたものであり、それを間一髪で防いだのは霞家のメイドの神業的な反射神経だった。


富美子・日野はその衝撃を冷淡な瞳で見据えると、自分のメイドへと一歩歩み寄り、何食わぬ顔で声をかけた。


富美子:「気にするな、シYO(シヨウ)……ただの些細な口論よ」


十九歳になるその若いメイドは、荒い息を整えていた。背中まで伸びた艶やかな焦げ茶色の髪と、同じ色をした瞳には、煮えたぎるような怒りの炎が揺らめいている。彼女は戦闘態勢を解かぬまま、主を見上げて答えた。


シヨウ:「富美子様……ですが、あのような侮辱を受けるいわれはありません」


シヨウは殺気を孕んだ目をシオリへと向けた。しかし、シオリは怯むどころか、顎を一層高く掲げ、その怒りに満ちた若いメイドを見下ろしながら冷徹な声で告げた。


シオリ:「お前ごときが私に触れることなど永遠にできないわ、小娘……目の前にある本物の格の違いすら見抜けないうちはね」


その瞬間、信じがたい現象が起きた。シオリの頬に残っていた浅い切り傷が、淡い緑色の奇跡的な光を放ち始めたのだ。傷口は常軌を逸したスピードで塞がり、流れ出た血は消え失せ、滑らかで完璧な白い肌が瞬く間に復元されていく。まるで、最初から攻撃など受けていなかったかのように。


シオリは足を止めることなく、優雅な足取りでメイドの待つ場所へと歩みを進めた。彼女が通り過ぎた後、巨大な氷の柱は細やかな結晶となって霧散し、地面を突き破っていた土の槍もまた、サラサラとした砂塵となって崩れ落ちていった。


これ以上ないほどの緊張が走る中、カルラ修道女が両手を広げて素早く割って入った。


カルラ修道女:「おやめください、皆様! この神聖な場での暴力行為は固く禁じております!」


富美子・日野は豪奢な赤と金のドレスの裾を乱暴に払うと、修道女を冷ややかに見据えて吐き捨てた。


富美子:「もう用はないわ。私たちはお暇(いとま)させてもらう」


それ以上の一言も発せず、富美子とシヨウは踵を返し、足早に庭園の出口へと去っていった。残されたテーブルはぽっかりと空洞になり、貴族たちは動揺のざわめきに包まれたまま立ち尽くしていた。


シオリが忠実なメイドの元にたどり着くと、その少女はすぐに主の体を心配そうに見上げ、声をかけた。


メイド:「お怪我はありませんか、霞様――」


シオリの側に控えるそのメイドは、すっきりと切り揃えられた青い短髪が端正な顔立ちを引き締め、主と同様の深い青い瞳には揺るぎない忠誠心と冷徹な実務能力の色が宿っていた。


シオリはわずかに柔らかな笑みを浮かべ、片手でそれを制した。


シオリ:「心配いらないわ、アオイ。見てごらんなさい、何ともないわよ」


アオイと呼ばれたメイドは、深く、そして完璧な角度でお辞儀をした。その声にはわずかな自責の念が混じっている。


アオイ:「申し訳ございません、私の油断がこのような無礼を……」


シオリ:「気にする必要はないわ」


その一件を背後へと追いやり、シオリはカルラ修道女の元へと歩み寄った。彼女の前に立つと、きれいに頭を下げて騒ぎを起こしたことへの謝罪を述べる。


シオリ:「カルラ……私のせいで素晴らしい夜会を台無しにしてしまったわね。すまない」


カルラ修道女は、いつもの穏やかな笑みを浮かべながら首を横に振った。


カルラ修道女:「怪我人が出たり、建物が全壊したりするような大事にならなくてよかったわ。それだけで十分よ」


アオイもまた一歩前に出て、修道女に向けて丁寧に頭を下げた。


アオイ:「私も、護衛として至らなかったことを深くお詫び申し上げます」


カルラ修道女:「顔を上げてください、アオイさん。あなたに悪気はないわ」


シオリは再び顔を上げ、庭園の中央で静かに佇む少女に視線を固定したまま、正式な意向を告げた。


シオリ:「修道女……その子を、私が引き取らせてもらうわ」


カルラ修道女:「アカリを……? ええ、構わないわ。手続きは後ほど進めましょう」


シオリは深く頷き、心からの敬意を示した。


シオリ:「感謝するわ、修道女」


カルラ修道女:「ええ、よろしく頼むわね」


すべての取り決めを終えると、シオリとアオイは静かに踵を返し、庭園の最も奥にある静かなテーブル席へと戻り、再び穏やかな傍観者の位置についた。


その光景から数メートル離れた場所で、リョウは一切の感情を排した無機質な瞳のまま、すべてのやり取りを凝視していた。彼の脳内では、この想定外の変数が都市のパワーバランスと自身の極秘計画に及ぼす影響が、一秒間に何億回もの演算スピードで解析されていた。


リョウは、優雅に席へと戻る霞シオリの背中を冷ややかに見つめながら、自身の意識の底で独り言を呟いた。


(本来の計算では、アカリを市の財務官であるあの強欲な女に送り込むはずだった……だが、この狂いが生じたことで計画の再構築が強制される。もっとも、あの霞シオリという女も聖人君子ではない。海の深淵のように暗いその青い瞳の奥には、計り知れない秘密が隠されているな。……ふっ、むしろ好都合だ。あの女から直接機密を引き出すか、あるいは別の手段で財務官を消す口実を作るか、やりようはいくらでもある)


夜風が庭園の木々を揺らし、富美子の退場によって静まり返った空間に再び落ち着きが戻る。カルラ修道女は再びステージの中央へと歩み寄り、上品に両手を重ねながら、集まった貴族たちに向けて声を張った。


カルラ修道女:「さて……それでは次なる選抜に移りましょう。まだ二人の優秀な子どもたちが残っております。どなたか、彼らに関心をお持ちの方はおられますか?」


庭園のあちこちで、貴族たちが次の一手を窺うように息を潜めていた。その中で、一際暗い影を落とすテーブル席から、一人の男がゆっくりと姿勢を正した。


ギルドマスター・ホセの血縁者である玄黒(ゲンクロ)クロガネだった。彼は最高級の黒と白のフォーマルスーツに身を包み、その頭にはツバの深い黒いフェドラハットを浅くかぶることで、周囲の貴族たちから自身の表情を巧みに隠していた。


彼はこれまでの全ての茶番劇を、一言も発することなく冷徹に観察し続けていた。わずかに顎を引いたまま、玄黒は頭の中で自らの思考を巡らせる。


(まったく……あのアホな兄弟の言う通り、ただのガキどもと侮るわけにはいかないようだな。貴族たちがこれほど必死に奪い合うとは……面白くなってきた。そろそろ、俺が動く番のようだな)


帽子(フェドラ)の影に隠された彼の鋭い眼光は、表面上はただの物静かな観覧者を装いながらも、庭園に立つすべての若者たち、そして何よりも、その中心で奇妙な存在感を放つリョウの挙動のすべてを、一秒たりとも逃さずに捉えていた。


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