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デュアルリバース 転生. (Dual Rebirth)   作者: 善悪 亮 (Ryo Zenaku)
第2章『蛇の目を持つ村』
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第2巻 第10話「光が消えゆく場所で」



いかに明晰な頭脳であっても、猛る夜の凶暴さに呑み込まれてしまうことがある。


戦略を支えていた柱が崩れ落ち, 鮮血が大地を染める時、現実は容赦なき敵へと変貌する。光が消えゆく場所には、もはや救いの答えなど残されておらず、ただ絶望の叫びの残響と、絶対的な暗闇の冷たい抱擁だけがある。これは旅路の終焉なのか、それとも永き悪夢の始まりなのだろうか。

アカリは、ケンゾウのその無残な姿を目に shita瞬間、完全に正気を失った。パニックが彼女を支配し、恐怖に引き裂かれた声で少年の名を叫んだ。


アカリ:「ケンゾウ!!」


少女は彼の救助に駆けつけようと必死に立ち上がろうとしたが、足を動かした刹那、矢傷のせいで両足が激しく震え、湿った土の上に膝から崩れ落ちた。立ち上がるための力は残されていなかったが、それでも相棒の名を呼び続けることをやめなかった。


アカリ:「ケンゾウ!!!!」


その頃、赤髪の少年は徐々に意識を失いかけていた。視界は霞み、周囲の顔は歪み、瞼は信じられないほど重く感じられる。マリアの手を首から引き剥がそうとする腕の力は、すでに尽き果てていた。薄れゆく意識の最中、純粋な生存本能に突き動かされたケンゾウは、自らの胸元へと視線を落とした。そこには、ポケットの縁から覗く緑色の葉があった。全部で三枚。一枚は激しい攻防の末に地面へと落ちており、残りの二枚も今にも滑り落ちそうになっていた。


その葉の鮮やかな色彩を目に shita瞬間、ケンゾウの脳裏を一筋の閃光のようにある記憶がよぎった。今朝、リョウが書き残していった手紙の、あの的確な一節だ。


「食事に出される緑の葉を保管しておけ。――リョウ」


ケンゾウは一瞬でその作戦を理解した。身体に残された最後の力を振り絞り、首を絞めるシスターの手から指を離すと、ポケットへと手を伸ばして三枚の緑の葉を必死に掴み取った。そして、マリアが技の執行による負荷で口をわずかに開けている隙を突き、迅速かつ荒々しい動きでその葉を彼女の喉の奥深くへと押し込み、強引に飲み込ませた。


効果は劇的だった。未知の味覚と窒息感に動揺し、少年の首を絞めるシスターの指の力がわずかに緩んだ。ケンゾウはその刹那の隙を逃さず、左拳を固く握り締めると、マリアの顔面へと乾いた一撃を叩き込んだ。衝撃により女性はバランスを崩して右側へと倒れ込み、少年の喉は完全に解放された。


マリアはすぐには起き上がれなかった。地面に両手と両膝をついたまま動けない。彼女の世界は猛烈な速度で回転を始め、瞳孔は散大し、それまで維持されていた完璧な軍隊式の集中力は瞬時に霧散した。視界は完全にぼやけていた。彼女はふらつきながら立ち上がろうとしたが、まるで泥酔したかのように千鳥足になり、未だ地面で激しく呼吸を荒らしているケンゾウの元へと不確実に歩み寄った。


しかし、シスターが再び彼を捕らえようと手を伸ばした瞬間、その肉体から完全に力が抜け落ち、草生した地面へと崩れ落ちてそのまま気絶した。


ケンゾウは地面からその姿をじっと見つめ、誰もが予想しなかったこの死闘に辛うじて勝利したことを確信しながら、深く長い安堵の息を漏らした。


ケンゾウ:「はぁ……はぁ……、やったぞ」


その光景を離れた場所から見ていたアカリは、ケンゾウが生き延び、あの悍ましい戦いが終わったことを確信し、純粋な喜びの涙を頬に伝わせた。


赤髪の少年はゆっくりと立ち上がった。明らかに足を痛めており、全身の筋肉が悲鳴を上げていたが、その痛みを無視してシスター・マリアが横たわる場所へと向かった。彼女の身体を慎重に仰向けに引っくり返すと、黒い法衣の折り目やポケットの中を丹念に捜索し始めた。ある特定の物品を探しているのだ。


その瞬間、ケンゾウの脳裏に、これまで明かされていなかったもう一つの隠された記憶が蘇った。


それは作戦開始前のこと、リョウがいつもの分析的な冷徹さで彼を凝視しながら告げた言葉だった。


「ケンゾウ、お前の言葉だけでは、奴らがすぐに正気に戻る可能性は低い。もし事態が拗れたら、シスター・マリアの衣服の中を徹底的に探れ。何らかの魔導具、あるいは神秘的な触媒を所持しているはずだ。恐ろしいことに、その物体こそが、敵が遠隔から人々を支配し続けるための主結節点である可能性が極めて高い」


現在。ケンゾウがシスターの内ポケットに素早く手を差し込むと、指先が硬く冷たい感触に触れた。それを固く握り締めて引き抜くと、彼の手のひらの上で、小さな青い結晶が輝きを放っていた。それはまさにその瞬間、地下空洞でリョウとサムが対峙しているあの巨大な白蛇のクリスタルと、全く同じ色彩と魔力を持った結晶だった。


ケンゾウ:「これだ……。見つけたぞ」


地面を這うようにして近づいてきたアカリが、怪訝そうに彼に尋ねた。


アカリ:「それは何、ケンゾウ?」


ケンゾウ:「これが、すべての人々を元に戻す鍵だ」


一秒の躊躇もなく、ケンゾウはベルトから台所のナイフを抜くと、両手でそれを頭上へと掲げ、ありったけの力を込めて青い結晶の中心へと突き立てた。金属の刃が神秘の表面を貫き、それを真っ二つに叩き割って完全に破壊した。


しかし、その魔導具は平穏には消滅しなかった。破壊された瞬間、結晶は耳を聾するような爆音とともに激しい衝撃波を放ち、ケンゾウとアカリの聴覚を完全に麻痺させた。二人は顔を覆って身を縮めることを余儀なくされ、周囲は濃い灰色の粉塵と、残留した魔法の火花で満たされた。


やがて粉塵が薄れ始めると、粉々に砕け散った結晶の破片が地面に散乱していた。それらはかつての青い輝きと色彩を完全に失い、今やただの濁った死んだ石ころと化していた。そして全く同じ瞬間、街道を取り囲み、つい先ほどまで凶悪な眼差しで松明を掲げていた無数の村人たちが、まるで糸を切られた人形のように一斉に地面へと崩れ落ち、昏睡状態に陥った。


ケンゾウは膝をついたまま、平衡感覚を取り戻し、目眩を払い、視界を鮮明にしようと頭を激しく左右に振った。


アカリ:「あいたたた……、今のは何だったの?」


ケンゾウ:「おそらく……一瞬耳が聞こえなくなったみたいだ」赤髪の少年は、耳鳴りのせいで少し歪んだ声で答えた。


爆発の衝撃から立ち直ると、ケンゾウは疲労困憊の身体でよろめきながらアカリの元へと歩み寄った。痛みに顔をしかめつつも、いつものぶっきらぼうな口調を維持しようとしながら、右手を彼女へと差し出した。


ケンゾウ:「大丈夫か、チビ」


アカリは友人の手を取って立ち上がろうとしたが、脚の矢傷による激痛のせいで、片足だけで身体を支えるのが精一杯だった。


アカリ:「うん、大丈夫。だと思う……」


少女はバランスを崩して転倒しないよう、ケンゾウの屈強な胸元に強く寄りかかった。二人は完全な沈黙の中、周囲に何十人も転がっている村人たちの圧倒的な光景を見つめていた。しかし、その懸念は長くは続かなかった。その刹那、人々の身体が微かに動き始め、それぞれが意識を取り戻し始めたのだ。


村人:「うう……」あちらで苦悶の声が上がる。


村人:「何が……一体何が起きたんだ?」こちらでは、一人の女性が完全に混乱した様子で頭を押さえながら呟いていた。


術式は解けた。群衆は一人、また一人と立ち上がり、なぜ自分たちが真夜中に農具を手にして森の境界に集まっているのか理解できず、互いに顔を見合わせていた。その中には、以前の森のリーダーであったあの男も含まれており、自らの両手を見つめながら、完全に困惑して地面に膝をついていた。


ケンゾウはアカリが脚を休められるよう、近くの木の根元に慎重に座らせると、確かな足取りで村人たちの元へと向かった。そして、リーダー格の男の目の前に毅然と立った。男は知った顔の存在に気づき、視線を上げると、少年の紅い瞳を認識した。


村人:「ケンゾウ……」


一方その頃、洞窟の深淵。リョウとサムは老人の前にいた。老人は虚ろな目を向け、両手を震わせながら、絶望に満ちた声で懇願した。


老人:「頼む、お前たち……。私の言う通りにしてくれ、私を殺してくれ! これを終わらせてくれ!」


サムはその悍ましい要求に完全に困惑し、当惑しながら一歩身を引いた。


サム:「殺せって……? なんでそんなことを言うんだ?」


リョウは前へ出ると、いつもの平然とした様子で老人の元へと歩み寄った。その黒い瞳に迷いは一切なかった。


リョウ:「早く終わらせられるのは良いことだ」


老人の背後にそびえ立つ巨大な白蛇が、石壁を震わせる地響きのような威嚇の音を立てた。その巨大な黄色い瞳でリョウを睨み据え、轟くような声で嘲笑した。


蛇:「大した度胸だな、小僧……。だが、私がどのように人間を支配しているかも知らぬ身で、どうやって私を殺すつもりだ? 慈悲深い私が直々に説明してやろう。少しは抗う機会を与えてやるためにな」


怪物は巨体をうねらせてとぐろを巻いたが、リョウはピタリと足を止め、爬虫類に向けて冷徹な視線を突き刺すと、鋭くその言葉を遮った。


リョウ:「もう黙れ」


白蛇は少年の予期せぬ返答に戸惑い、張り詰めた沈黙を保った。老人もまたリョウの冷酷さに目を見張り、震える声で問いかけた。


老人:「何を……何を言っているんだ?」


リョウ:「そんなことはすべて知っている。お前はすべての手がかりを隠しもせず晒している愚かな怪物だ。お前の精神支配の本質は力任せの強奪ではなく、『誘導』の罠だ。人間を支配するためには、対象がお前の提示したアイデアを受け入れ、それを自らの意志で行っていると誤認して実行する必要がある。奴らがその誘導を受け入れた瞬間、お前はその精神へと侵入できる」


リョウは老人へと視線を移し、その作戦の全容を解体していった。


リョウ:「だが、巨大な蛇であるお前が自ら人間に助言をして回るわけにはいかない。そんなことをすれば誰もが恐怖し、信用するはずがないからな。だからこそ、お前はこの村の長と手を組んだ。この老人は完璧な使者だった。彼が村人たちに近づき、『森に入って何かを探してこい』と微かな暗示を植え付ける。彼らがそれに従った瞬間、お前の精神支配の罠に嵌まるんだ」


リョウはさらに一歩前へ進み、老人を指差した。


リョウ:「お前は街道で俺たちに出会った時も、全く同じことをやろうとしたな」


その瞬間、その場にいた者たちの脳裏に、隠された記憶が鮮明に蘇った。それはリョウとサムが村へと向かう街道で、馬車に乗った老人に遭遇した時のことだ。去り際、老人は親しげな笑みを浮かべてこう言っていた。


「若者たち、腹が減っているようだな。この先にある森に入ってみるといい。あそこにはいつも仕留め甲斐のある立派な獲物がいるからな」


記憶の中の、リョウは礼儀正しくこう答えていた。


「ありがとうございます。そうさせていただきます」


現在。老人はリョウの言葉を理解し、驚愕に目を見開いた。一条の冷や汗がその額を伝い落ちる。


老人:「では……、お前たちは私の助言に従って森に入ったわけではないというのか!?」


リョウ:「そうだ。確かに森には入ったが、決定的な違いは、俺たちはあの街道でお前に出会う遥か前から、あの森に入る計画を立てていたということだ。だから俺たちはお前の支配を受けなかった。お前の暗示によって動いたのではなく、それが最初からの俺たちの予定だったからだ。お前の能力は、行動の起点が『お前の誘導』である必要がある。対象が最初から自発的にそれを行う予定だった場合、お前の支配の楔は精神に固定されない」


リョウは再び巨大な白き怪物を見据え、軽蔑を込めて言い放った。


リョウ:「一つの村やギルドがこれほど容易く制圧されるのは不自然だと思っていた。巨大な蛇が街を歩いて平然と受け入れられるはずがない。だから人間の内通者が必要だった。お前の戦略のすべては、この老人に依存していたんだ」


サムは口を開けたまま、完全に圧倒されてリョウを見つめていた。村を包む異常な空気の裏に、これほど歪で完璧な仕組みがあったとは想像だにしていなかった。ましてやリョウが、街道での一度きりの遭遇を分析するだけでその謎を解き明かしたことに、ただただ驚嘆するしかなかった。


自らの秘密を完全に暴かれ、子供たちによってその計略を瓦解させられた白蛇は、激怒のあまり激しい地響きのような咆哮を上げた。


蛇:「ならば死ねぃ!!」


凶暴かつ迅速な動きで、白蛇はその重厚な尾を洞窟の天井へと叩きつけた。凄まじい衝撃によって堅牢な岩盤に亀裂が走り、巨大な岩の破片や鍾乳石が、少年たちの頭上へと容赦なき死の雨となって降り注いだ。


リョウとサムは押し潰されるのを避けるため、全速力で疾走せざるを得なかった。二人は左へと跳躍し、地面に激突して激しい粉塵を巻き上げる巨石を辛うじて回避した。相棒と並んで走りながら、サムは信じられないという称賛の声を張り上げた。


サム:「リョウ! 洞窟や村にいたあのわずかな時間だけで、そこまでの結論に達したのか!?」


リョウ:「大して難しくはなかった。村人たちの行動、シスターのルーティン、街道での遭遇を分析し、パズルのピースを繋ぎ合わせただけだ」


サムは降り注ぐ岩を躱しながら、胸中に確固たる決意を滾らせて自問した。


サム:(信じられない……。リョウは完全に別次元にいる。俺一人じゃ、逆立ちしたってここに辿り着けなかった。早く強くなって、知恵を磨いて、彼のような男になりたい)


岩の雨が突如として止み、空気は呼吸を困難にさせるほどの灰色の粉塵で満たされた。サムとリョウは洞窟の壁から数メートルの位置で足を止め、筋肉を緊張させて身構えた。霧の立ち込める地下の奥深くから、白蛇の二つの巨大な黄色い瞳が冷徹な怒りを放っていた。怪物は音を立てず、ただ静かに這い回り始めた。


全長百メートルに及ぶ怪物の機動は、見る者を戦慄させた。その巨体は四肢を必要とせず、ただ鱗が石の地面を擦るだけで、さながら暴走する列車の如き轟音を轟かせて凄まじい速度を生み出していく。蛇は自らの上半身を「S」の字に引き絞ると、鞭のような速度でその巨大な頭部を前方へと射出し、二人の若者を地面ごと粉砕せんと襲いかかった。


サムは純粋な本能で右へと跳躍した。空中で剣を引き抜き、回避の勢いを利用して、真横を通り過ぎる怪物の頭部の側面にありったけの力を込めた一撃を振り下ろした。金属の刃が硬質な白い鱗に激突し、深い肉肉しい裂傷を刻み込む。しかし奇妙なことに、その傷口からは一滴の血も流れ出なかった。サムの剣の刃は怪物の肉を瞬時に灼き焦がし、不可視の熱によって血管を即座に閉塞させ、露出した組織に黒い焦げ跡を残したのだ。


蛇:「ぎゃあああ!!」


白蛇は体内の灼熱の痛みにのたうち回り、激しく苦悶の声を上げた。


怪物は即座に反撃へと転じた。再び噛み付くのではなく、自らの圧倒的な質量を利用したのだ。胴体を円柱のように回転させ、右側面による豪快な薙ぎ払いへと移行した。それは地面全体を覆い尽くす、動く鱗の城壁そのものだった。安全な距離からサムの攻撃を観察していたリョウは、その衝撃の軌道を瞬時に計算した。彼は両脚を屈伸させると、極めて高い跳躍を敢行し、怪物の巨体を自らのブーツの遥か下方へとやり過ごした。


空中に浮かびながら、リョウは蛇の頭部を凝視した。怪物の背の上へと着地すると、不安定な表面で数歩進んでバランスを維持し、怪物の尾が自らを捕らえんと巻き付いてくる寸前に、滑り込むようにして地面へと降り立った。


サムは息を荒らしながら相棒の隣へと駆け寄った。洞窟内の異様な魔力の重さが、徐々に彼らの肺を圧迫し始めていた。


サム:「リョウ! あいつの鱗は鋼のように硬い。それにあの巨体であの速度は異常だ。洞窟の隅に追い詰められたら終わりだぞ!」


リョウは衣服の襟を整えるために一瞬の猶予を取った。その表情は完全に平坦なままだったが、その瞳はすでに洞窟の構造と巨獣の死角のすべてを看破していた。サムの剣が外部構造を破壊するのに有効であることは分かっていたが、疲労で圧殺される前に、怪物の質量を崩すためにより強力な攻撃が必要だった。


静かな動きで、リョウは負傷していない右手を腰の剣の柄へと伸ばした。鞘から金属の刃が滑り出ると、その切っ先から微かな輝きが放たれ始めた。


リョウ:「よし、行くぞ。お前の輝く瞬間だ、ライラ」


その瞬間、ライラの神秘的な姿がリョウの背後に具現化し、再びその絶対的な忠誠を示した。


ライラ:「全力を尽くします、我が主」


剣が抜かれると、洞窟の空気は一瞬だけ凍りついたかのように錯覚させた。白蛇はリョウを凝視し、彼らに体勢を整える時間を与えなかった。怪物は頭部ではなく、その尾を巨大な槌のように利用した。それを高々と天へと掲げると、数トンの物理的圧力でリョウを圧殺せんと、垂直に叩き落とした。


リョウは最後の刹那まで微動だにしなかった。尾の影が自らを完全に覆い尽くす直前、彼は左へと一歩横にステップを踏み、怪物の四肢を自らのわずか数センチ横の地面へと激突させた。衝撃は凄まじい風圧と岩の破片を巻き上げる。リョウはその風の推進力を利用し、激突したばかりの尾の側面を真っ直ぐに駆け上がり、迅速かつ正確な足取りで怪物の円柱の身体を登り詰めていった。


サムは即座に自らの援護の役割を理解した。彼は巨大な黄色い瞳の注意を引くため、逆方向へと疾走した。


サム:「おい、この巨大ミミズ! こっちを見ろ!」


サムは右へと跳躍し、怪物の目を狙って斬りつけた。激怒した白蛇はその生意気な一撃を避けるため、激しく首を後ろへと振ったが、その運動は自らの顎の下の無防備な肉を晒す結果となった。サムはその回転の隙を見逃さず、喉の柔らかい肉に水平の斬撃を刻み込み、二本目の黒い焦げ跡を残した。そこから微かな煙が立ち上る。


怪物は耳を聾するような叫び声を上げ、激しく頭部を振り回すと、その吻部でサムを強く弾き飛ばした。衝撃により若い冒険者は洞窟の地面を激しく転がり、壁に激突してようやく停止した。


サムの攻撃によって蛇の注意が完全に逸れた隙を突き、リョウは怪物の頭部の真後ろ、最上部へと到達していた。リョウは跳躍すると、得物を突き立て、白蛇の右目を一文字に引き裂いた。眼球の組織は柔らかいため、刃は滑らかに通り抜けた。しかし、彼が地面へと着地する降下の最中、予測せぬ速度で怪物の尾が彼へと迫った。巨大な質量の一撃が彼の身体を正面から捉え、石壁へと激しく叩きつけて、小さなクレーターを作るほどの衝撃を与えた。


サムはリョウが壁に激突する光景を恐怖に目を見開いて見つめた。壁の高い位置に激突したため、相棒の身体は地面へと無残に落下し、激しい打撃を受けた。それを見たサムは即座に彼の元へと走り、絶望の声を張り上げた。


サム:「リョウ!!」


リョウは立ち上がろうとしたが、その動きは極めて緩慢だった。凄まじい打撃のせいで深刻な負傷を負っていたのだ。前方を見据えたその時、彼の髪の生え際から一筋の血が流れ落ち、顔の半分を赤く染めた。彼は奥歯を噛み締めて呪詛を吐いた。


リョウ:「クソ……、なぜ気づかなかった?」


白蛇は彼の前に立ちはだかり、再びその頭部を「S」の字に引き絞った。突如として、その巨大な喉が白熱した輝きを放ち始め、大きな顎が限界まで開かれた。そのエネルギーの収束を目に リョウは、怪物が何を企んでいるのかを瞬時に察知した。彼は自らの剣をじっと見つめ、相棒に告げた。


リョウ:「すまない、ライラ……。痛むぞ」


サムは全速力で走りながら、その光景を恐怖のあまり凝視していた。白蛇は完全に口を開くと、リョウを焼き尽くさんと猛烈な炎の濁流を放った。恐怖に駆られたサムは、ただ叫ぶことしかできなかった。


サム:「嫌だ!! リョウ!!」


リョウは剣を高々と掲げた。その瞬間、ライラの刃の全体が、宇宙の深淵の如き漆黒の炎で覆い尽くされた。自らの身を包む黒炎の気配を察し、ライラは武器の内部から苦悶の悲鳴を漏らさざるを得なかった。


ライラ:「あああ……っ!」


不退転の決意とともに、リョウは空間を水平に切り裂き、黒い炎を白蛇の業火へと真っ直ぐに放った。二つの炎が衝突した瞬間、リョウの神秘的な闇は怪物の炎を貪り食い、無残に消費し始めた。その反撃はあまりにも圧倒的で、漆黒の炎は怪物の火柱を逆流してその口内へと侵入し、内側からその喉を焼き尽くした。


蛇:「ぐあああああ!!!」


白蛇は激痛を抑え込もうと即座に口を閉じたが、損害はすでに決定的だった。その口内は完全に炭化し、口の周囲の硬質な鱗は焼き砕かれ、空気中に煙の柱となって消え去る灰へと変わっていた。怪物は信じられないという恐怖の眼差しでリョウを見つめた。


蛇/怪蛇:「何だ……、今の炎は一体何なのだ? 私の鱗さえも消費するとは……」


リョウは冷たい微笑を浮かべ、膝をついた身体を支えるために剣を地面に突いた。


蛇/怪蛇:「気に入ってくれたか、蛇の大怪獣」


サムはついにリョウの元へと到達した。彼の隣に這いつくばると、即座に手を差し伸べた。


サム:「行くぞ、リョウ。今すぐここから脱出するんだ!」


リョウはサムの手を握り、全身を走る激痛に耐えながら立ち上がった。一秒の猶予もなく、二人の冒険者は撤退を開始し、足を痛めながらも洞窟の入り口の通路へと向かって走った。


リョウとサムが暗いトンネルへと退却していく中、中央の空洞には怪物の断末魔の叫びが響き渡っていた。白蛇は動きを止め、深く呼吸を繰り返しながら、口内で荒れ狂う黒い炎の灼熱がさらに激しさを増し、自らの組織を蝕んでいくのを感じていた。


老人は、あの圧倒的な大蛇が少年の攻撃によって完全に敗北し、首を垂れている光景を目にし、震える足取りで近づいた。彼は通路の奥を見つめ、それから怪物へと向き直り、信じられないという様子で問いかけた。


老人:「一つ聞きたい……。本当にあの者たちを逃がすつもりなのか? 我らの秘密を知られたのだぞ!」


その抗議を耳にした瞬間、白蛇は自らの負傷による怒りと挫折のすべてを、その内通者へと叩きつけた。突如として反転し、壁を震わせるほどの悍ましい声で怒鳴りつけた。


蛇/怪蛇:「黙れ、この老害が!! 貴様が容易く見破られたからだ! あの冒険者どもには細心の注意を払えと、何度も警告したはずだ!」


老人は激怒した怪物の圧倒的な威圧感に恐怖し、冷たい石の上に膝をついて懇願した。


老人:「お許しください、我が主よ! どうか! まさかあのような一筋縄ではいかない者たちだとは思いもよらず……。村での計画は完璧だったのです……」


蛇/怪蛇:「黙れ! 愚かな老いぼれめが!」


一切の抱擁を失った白蛇は、弾力のある速度でその重厚な尾を伸ばした。老人の身体を強固に巻き付け、その悲鳴を圧殺しながら宙へと吊り上げた。そして手荒い動きで彼を洞窟の奥へと投げ飛ばし、周囲を極めて高い石壁に囲まれた深い穴へと幽閉した。常人では到底登ることのできない、天然の監獄だった。

穴の高みから、怪物はその黄色い瞳を覗かせ、冷徹に宣告した。


蛇/怪蛇:「体力を回復するために、今すぐ貴様を喰らわれたくなければ、そこでじっとしていろ」


老人は恐怖に震えながら、穴の底で身を縮めることしかできなかった。これ以上の時間を無駄にすまいと、巨大な白蛇は炭化した口内の痛みを無視し、その巨体をリョウとサムが逃れた通路へと真っ直ぐに進めた。彼らが地上に到達する前に、確実に狩り尽くす決意だった。


一方、リョウとサムはすでに通路を抜けていた。壁への激突でリョウが負傷していたため進みは遅かったが、それでも村へ向けて確実な足取りを維持していた。


その頃、森の境界では、ケンゾウが覚醒したばかりの村人たちと話をしていた。一人の村人が、混濁した頭を押さえながらケンゾウに告げた。


村人:「なるほど……、そんなことが起きていたのか。正直に言うと、最後に覚えているのは、いつもの日常の中で家族と一緒にいたことだけで……、気づいたらここにいたんだ」


ケンゾウ:「気にするな。お前たちが元に戻ったなら、それでいい」


その瞬間、森の静寂を引き裂くような絶叫が響き渡った。草木をかき分けながら走ってきたのは、リョウとサムだった。リョウは遠くに群衆のシルエットを認めると、肺にあるすべての力を振り絞ってケンゾウに叫んだ。


リョウ:「ケンゾウ!!! 走れ!!!!」


距離と夜風のせいで、ケンゾウは相棒の言葉を正確に聞き取れず、困惑して瞬きをした。


ケンゾウ:「何て言ったんだ……?」


村人:「確か……走れ、と言っていたような……」


二人は暗闇の中で目を細め、近づいてくる少年たちの姿を鮮明に捉えようとした。


ケンゾウ:「まさか……。聞き間違いだろう」


まさにその刹那、彼らの足元の地面が激しい地殻変動のように震え始めた。地面が裂け、その激しい振動のせいでケンゾウと村人はバランスを崩して地面へと転倒した。周囲にいた他の村人たちもその強烈な揺れを感じ、パニックになって叫び始めた。


村人:「何が起きているんだ!?」


村人:「一体何事だ!?」


突如として、大地が爆発した。地下から巨大な白蛇が姿を現し、岩を砕き、地面を破壊しながら、狂暴な勢いで地上へと飛び出してきた。ケンゾウは月を遮るようにそびえ立つ、その圧倒的な怪物の姿を見上げた。


ケンゾウ:「何だ……、何なんだこれはァ!!!」


白蛇は穴から完全に這い出た。リョウは今度は遥かに近い距離から、再び叫び声を上げた。


リョウ:「走れ!!!!」


白蛇は一分たりとも待たなかった。その頭部を下げた瞬間、怒りを爆発させて容赦なき虐殺を開始し、周囲のすべてを焼き尽くし始めた。村の家々に向けて巨大な炎の濁流を放ち、それらを一瞬にして灰へと変えた。近くにいた一部の村人たちは反応する時間すら与えられず、無慈悲な炎によって灼き焦がされていった。囚われた人々の悲鳴は悲痛極まりなかった。


村人:「ぎゃあああああああ!!!」


村人:「あがああああああ!!!」


それらは言語を絶する苦痛と苦悶を伝える、悍ましい悲鳴だった。村はわずか数秒で完全な混沌へと変貌し、人々は四方へと逃げ惑い、全身を炎に包まれた者が悶絶しながら叫んでいた。その惨状を目に 村人のリーダーは、周囲に向けて必死に叫んだ。


村人:「走れ!! 全員安全な場所へ避難するんだ!!」


即座に、彼は爆発によって地面に倒れ込んだ人々を救助するために走り始めた。


一方、リョウとサムも戦域へと近づいていた。しかし、リョウは負傷のせいでサムの肩に寄りかかっており、完全に足を壊した状態で進んでいた。周囲の凄惨な光景を見渡したリョウは、木の根元に座り、無駄に動こうとしているアカリの姿を認めた。彼女の怪我が深刻であることは一目で分かった。


リョウ:「サム……、アカリのところへ行け、急げ!」


リョウはこれ以上足を引っ張るまいと、決意を込めて友人の肩から手を離した。


サム:「あ……、ああ!」


サムは少女が待つ場所へと全速力で疾走した。彼女の元へ到達すると、その身体をしっかりと掴んで自らの肩で支え、その地獄から迅速に救出すべく、他の村人たちの避難を先導するリーダーの元へと彼女を連れ去った。


しかし、ケンゾウだけは動けなかった。彼は混沌の中央で完全に硬直したまま、巨大な怪物を凝視していた。その瞬間、抑圧されていた過去の記憶の奔流が、彼の精神を完全に埋め尽くした。


ケンゾウ:「お前……、お前があの時の怪物か……!」


ケンゾウは、自らの故郷の村が破壊され、両親が殺されたあの悲劇の日を思い出していた。当時、立ち込める濃い煙と粉塵のせいで視界は遮られており、彼自身も非常に幼い子供に過ぎなかったが、すべてを焼き尽くしながら進む、蛇のような細長くうねったシルエットを確かに目撃していた。現在に戻り、ケンゾウはその白蛇を見つめ、自分の過去と両親を奪い去った殺人鬼が目の前に立っていることを、恐怖と確信とともに理解した。


純粋な復讐の本能に突き動かされ、ケンゾウはポケットから台所のナイフを引き抜いた。その顔は変貌し、盲目的な怒りの眼差しが宿っていた。ナイフの柄を両手で固く握り締めると、彼はありったけの力で巨獣へと突進し、その怒りのすべてを咆哮に変えて叫んだ。


ケンゾウ:「この化け物めが!! 殺してやる!!」


白蛇は少年の突撃を察知し、迅速にその巨体を反転させた。躊躇なく、その巨大な尾を、ケンゾウを一撃で両断すべく設計された、致命的な槍の刺突のような軌道で真っ直ぐに放った。


しかし、その刹那の瞬間、リョウがその場へと現れた。残された最後の息を振り絞り、彼は軌道を遮るようにしてケンゾウを激しく突き飛ばし、進路から排除した。


リョウ:「馬鹿野郎!! どけ!!!」


リョウはケンゾウを致命的な危機から辛うじて遠ざけることに成功したが、彼自身が前方を見据えた時には、すでに手遅れだった。乾いた破壊音、肉が貫通し骨が砕ける悍ましい音が、炎の轟音を越えて鮮明に響き渡った。


その頃、サムはアカリを村人たちの安全な避難所へと送り届けていた。彼女を保護すると、心配そうにその顔を見つめた。


サム:「大丈夫か、アカリ?」


アカリは言葉を発することができなかった。ただ前方を見つめたまま、その瞳は恐怖に大きく見開かれ、完全に虚無に染まっていた。

サムは少女のその異常な表情に困惑し、周囲の村人たちへと視線を巡らせた。誰もが同じように、彼の背後の一点を見つめながら、圧倒的な恐怖の表情を浮かべていた。胸中に突如として沸き起こった戦慄とともに、サムは何が起きているのかを確かめるべく、振り返った。


その光景を目に 瞬間、彼は言葉を失った。同時に、大粒の涙が制御を失って彼の目から溢れ出した。彼は両手で口を覆い、腰の力が抜けるのを感じながら、戦場の中央へと必死に駆け出した。


サム:「嘘だろ……、リョウ、嫌だァアア!!!」


リョウは宙に吊り上げられていた。その胸の全体を、白蛇の尾の先端が完全に貫通していた。


黒髪の少年は口から大量の鮮血を吐き出さざるを得ず、自らの顔を赤く染めた。怪蛇がその尾を激しい動きで引き抜くと、リョウの肉体は湿った地面へと無残に、重々しく崩れ落ちた。胸の中央に開いた悍ましい巨大な穴からは、大量の血が絶え間なく流れ出し、地面を濃い赤へと染め上げていた。そして彼の半開きの唇からも、絶えず血の筋が流れ続けていた。


その悲劇的な瞬間、ライラの精神的なシルエットがその場に現れた。サムや周囲の村人たちにはその精神的な性質ゆえに彼女の姿を視認することはできなかったが、死に瀕したリョウの目には、彼女の姿がはっきりと見えていた。その存在は彼の傍らで膝を折ると、その致命的な負傷を圧倒的な恐怖とともに見つめた。


ライラ:「嫌……、嫌です……。リョウ様、答えてください、我が主……! リョウ様!!!」


リョウはすでに答えることができなかった。胸の穴から命が急速に失われていく中、彼は血を吐き出し続けていた。サムがついにその場へと到達し、地面に滑り込みながら、リョウの頭部を自らの腕の中に極限の慎重さで抱きかかえた。そして、涙を堪えることもできず、引き裂かれるような絶望とともに彼の名を叫び続けた。


サム:「リョウオオオ!!! 嫌だ、リョウ!!! 答えてくれ……、リョウ!!!」


しかし、リョウの瞳からは急速に光が失われ、虚空の一点に固定されていった。サムの声は徐々に遠ざかり、燃え盛る村の光景も、炎の熱さも、混沌の悲鳴も……すべてが深く、絶対的な暗闇へと沈んでいった。


皆さん、おはようございます。この第10話をもって、無事に第2巻が完結となります。もし今巻が皆さんの期待に沿えず、至らない点があったなら心からお詫び申し上げます。これからも皆さんに楽しんでいただけるよう、より一層精進してまいります。


なお、このエピソードはこれで完全に完結しており、「後編(パート2)」はありません。次回、第3巻は8月1日に公開予定ですので、またお会いしましょう。 それでは、皆さん良い一日を。さようなら!

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