第8話 第2巻「啓示」その2
リョウの新たな計画が動き出す。影からすべてを支配しているのは一体誰なのか、その真実を目撃することになる。だが、リョウは自らの手で勝利を掴み取ることができるのだろうか。
リョウは手を引き、いつもの無表情に戻ると、まるでずっと引き延ばされてきた決断を促すようにサムへ視線を向けた。
リョウ:「おい、サム……。一日前にアカリから聞かれた質問に、そろそろ答えてやったらどうだ?」
サムは一瞬困惑してリョウを見つめ、状況が理解できずに瞬きを繰り返していたが、やがて記憶が脳裏をよぎると、顔を真っ赤に染めた。
サム:「質問って……あああ! でも……リョウ、お前は本当にそれでいいのか?」
リョウは他愛のない日常会話に向けるいつもの冷淡さと、完全に平坦な表情で答えた。
リョウ:「俺は一向に構わない。だが、最後に決めるのはお前だ、サム」
サムは息を吐き出すと、アカリに向き直って満面の笑みを浮かべ、熱意を込めて答えた。
サム:「もちろんさ、アカリ! 喜んで!」
アカリは歓喜のあまり飛び跳ね、サムの腰に力強く抱きついた。栗色の髪の少年もすぐに笑い声を上げて抱き締め返し、彼女の嬉しそうな様子に相好を崩した。
リョウはその光景を数秒間見つめていたが、持ち前の現実的な口調でその瞬間を遮った。
リョウ:「よし、そこまでだ。地平線にはすでに夕闇が迫っている。配置も作戦もすべて整った。LET'S GO!」
リョウは親指で背後を指し、出発の時間を告げると、毅然とした足取りで物置小屋を後にし始めた。アカリとサムは最後にもう一度視線を合わせ、力強く頷き合うと、村を影から救い出す作戦を実行するために少年の後ろを追いかけた。
三人の少年少女は、最終確認のために一度散った。その後、夜が更けた頃、リョウとサムは孤児院の外に立っていた。彼らは体にしっかりと固定された小さなリュックを背負い、背中にはそれぞれの剣を帯び、施設から支給された簡素な衣服を身にまとっていた。
マリア修道女と孤児院の子供たちは、二人を見送るために玄関口に集まっていた。修道女の輪郭は室内の消え入りそうな明かりに照らされ、彼女はいつもと変わらぬ無表情で二人を見つめていた。
マリア修道女:「ここで良い時間を過ごせたことを願います。そして、あなたたちの旅路に幸多からんことを」
その瞬間、まるで訓練された機械のように、すべての子供たちが同時に一寸の狂いもないお辞儀をし、抑揚のない揃った声で一斉に叫んだ。
子供たち:「旅路に幸多からんことを……!!」
リョウは子供たちの群れに冷徹な視線を走らせ、それからマリア修道女に目を向けると、いつもの単調で落ち着いた声で返した。
リョウ:「俺たちも、これまでのすべてに感謝します。それでは、行きます」
修道女は何も答えず、ただじっと二人を見つめ続けた。リョウが踵を返すと、サムも即座にそれに倣い、少しだけ明るい声を出しながら宙に手を振って別れを告げた。
サム:「さようなら! みんな元気でね!」
リョウとサムは歩き出し、街道を進んで遠ざかっていった。背後からは、孤児院の重々しい扉が閉まる音と、錠前が締まる鋭い金属音が響いた。子供たちと修道女は中へ戻り、建物の正面は再び闇に包まれた。
二人の若い冒険者は、村の石畳の道を進み続けた。明らかに、今夜の空気はこれまでのどの夜よりも敵意に満ちていた。屋根の上から濃く白い霧が立ち込め、地面を覆い尽くして視界を奪っていく。まだ早い時間であるにもかかわらず、村はまるで墓場のようだった。窓の明かりは完全に消え去り、店は閉まり、周囲には人っ子一人見当たらなかった。
サムは肩をすくめ、霧の向こうを警戒しながら左右を見回した。
サム「通りには本当に誰もいないね、リョウ……。少し不気味だよ」
リョウ:「ああ、お前の言う通りだ。だが、おそらくこれは俺たちが静かに立ち去るための状況だろう」
サムはかすかに身震いし、体を温めようと両腕をこすり合わせた。
サム:「うぅ……それにしても今夜は本当に冷え込むね。指先が凍りそうだ」
リョウ:「明らかに今夜は他の夜より気温が低い。この霧の濃さからして、気温は氷点下2度、あるいはそれ以下だろう。だが、悪くない……。この極限の寒さは、俺たちの頭を冷やすのに役立つ」
サムは頷き、リュックのストラップを締め直して、これから起こる出来事に向けて精神を研ぎ澄ませた。リョウとサムの輪郭は白い霧のベールの中に徐々に溶け込み、確かな足取りで進むにつれて、完全にその姿を消していった。
一方、上階の部屋の死のような静寂の中に閉じ込められていたケンゾウは、木製の窓枠の傍らで微動だにせず立っていた。彼の暗く固定された視線は、教会の外を飲み込んでいく濃い霧をガラス越しに見つめていた。異常な極寒のせいで、ガラスの表面は急速に白く曇りつつあった。自らの呼吸から吐き出される白い息が、窓枠の隅に結晶化し始めた霜と混ざり合う。
ケンゾウは片膝を曲げて座り、その上に右手をしっかりと置いていた。その指の間には、曇った古い銀色のロケットペンダントが握られており、冷たい金属の感触が彼の皮膚に伝わっていた。彼は異常な力で拳を握り締め、金属の浮き彫りの角を掌に食い込ませた。正気を失わないための錨として、物理的な痛みを必要としていたのだ。赤色の瞳を霧の奥へと突き立て、彼は苦渋と決意に満ちた囁き声で己に誓った。
ケンゾウ:「必ず取り戻す……。姉さん」
その頃、孤児院の女子寝室の様子は全く異なっていた。アカリは小さなベッドに横たわり、極寒の空気から身を守るために毛布にくるまっていたが、その目は大きく見開かれ、天井の闇をじっと見つめていた。彼女は全く眠っていなかった。アドレナリンと責任の重さが、彼女の意識を緊張した覚醒状態に留めていた。
機械的で重苦しい寝息を立てる他の孤児たちを起こさないよう、アカリは細心の注意を払って藁の枕の下に手を滑り込ませた。指先が、素朴な金属製の鍵の冷たい感触を捉えた。彼女は慎重にそれを取り出し、薄暗い部屋の中で見つめた。隙間から差し込むかすかな月光が、鍵の表面の凹凸を淡く照らし出す。それを握りしめた瞬間、数時間前の出来事が鮮明に脳裏に蘇り、彼女の意識はリョウと対峙した物置小屋へと引き戻された.
記憶の中のリョウは、いつものように平坦で計算高い表情で彼女の前に立っていた。彼は無事な右手を差し出し、無造作に灰色の金属片を彼女に見せた。
リョウ:「持っておけ……。この鍵を使えば、上の階にあるケンゾウの部屋を開けられる」
アカリは困惑と疑念の入り混じった表情で鍵を見つめ、震える指先でそれを受け取りながら、眉をひそめた。
アカリ:「でも……どうやって手に入れたの? マリア修道女は鍵束を絶対に手放さないし、いつも腰にぶら下げて細心の注意を払っているのに」
リョウ:「食事の時や廊下ですれ違う際、彼女の観察を続けていた。鍵の正確な形状、刻みの長さ、そして錠前の構造をすべて記憶した。先日、俺たちがサムの剣や使えそうな道具を探しに廃納屋へ行った時、お前たちが去った後も俺がしばらく残っていたのを覚えているか? 奥にあった古い鍛冶道具を使い、余った金属を溶かして、この鍵を手作業で鋳造した」
リョウは腕を組み、極めて重要な警告を付け加えながら、厳しい視線を彼女に向けた。
リョウ:「手製の手作り複製鍵だから、本物と比べて精度は100%ではない。差し込んで回す際、少し引っかかるかもしれない。錠前を噛み合わせるには、多少の力とコツが必要だ。だが、極めて迅速に行動しろ。この施設の巡回パターンを調べた結果、マリア修道女は3時間おきに孤児院全体の巡回を行っている。猶予時間は非常に短い。素早く行動してケンゾウを解放し、自らの役割を果たせ」
アカリは生唾を飲み込んでその言葉を咀嚼し、鍵を隠しながら力強く頷いた。
アカリ:「うん……。よくわかったわ、リョウ兄ちゃん。絶対に失敗しない」
現在に意識が戻ると、現実が少女の引き締まった表情に影を落とした。アカリは毛布から抜け出し、冷たい床に素足を踏み下ろした。
孤児院の暗い廊下を進みながら、右手の鍵を強く握りしめ、その指先は白くなっていた。木の床が自重できしむたびに呼吸を止め、下階を監視する修道女の超自然的な聴覚を警戒しながら、壁にぴったりと身を寄せて慎重に一歩一歩を進めた。
アカリ:(リョウ兄ちゃんは、ケンゾウを解放して、村人たちの目を覚ます作戦の段取りを助けてほしいって言った……。もう後戻りはできない。みんなのために、全力を尽くすんだ)
少女は、行き届いた清掃が行われて不気味なほど整然とした中央廊下を通り抜けた。極端なまでの秩序こそが、この場所の支配を象徴しているかのようだった。木製階段の前に到達した彼女は、胸の高鳴りを感じながら一段一段を登り、ついにケンゾウの部屋の重い扉の前に立った。呼吸を整え、勇気を振り絞るために一瞬立ち止まると、彼女は静かに自らに囁いた。
アカリ:(いくよ……)
アカリは震える、しかし決意に満ちた指先で複製鍵の位置を合わせ、ゆっくりと鍵穴に差し込んだ。リョウが予言した通り、最初は鍵が引っかかり抵抗を見せた。少女は下唇を噛み締め、両手で鍵の根元を掴んで内側へと強く押し込み、金属の刻みを無理やり押し進めた。すると、重く乾いたきしみ音を立てて、内部の錠前が完全に解錠された。
部屋の反対側では、ケンゾウが解錠の音に即座に反応していた。彼は窓際から素早く立ち上がった。すでに極寒に備えて厚手の旅用コートを着用し、リョウから受け取ったキッチンナイフをベルトの内側にしっかりと固定していた。彼は扉の目の前で身構え、筋肉を緊張させて侵入者を迎撃する態勢を整えた。
その瞬間、木製の扉が内側へと開いた。アカリが扉を押し開け、素早く顔を上げた。そこには、完全な暗闇の中で仁王立ちするケンゾウの威圧的なシルエットがあった。13歳にして、彼は彼女を遥かに凌駕する高い身長と、頑強で発達した体格を備えていた。ツンツンと逆立った無造作な赤髪と、闇の中で鋭く、冷たく、そして野性的な輝きを放つ同色の瞳に、少女は圧倒されてその場に硬直した。
その威圧的な姿に直面した恐怖はあまりにも大きく、アカリはパニックのあまり小さな悲鳴を漏らし、思わず一歩後退した。
アカリ「ひゃっ……、う、ぅ……!」
ケンゾウは少女の恐怖を察知し、それがマリア修道女ではないと気づくと、すぐに肩の力を抜いた。彼は俊敏に身を屈めて彼女の目線に合わせ、安心させるような視線を送りながら、低く嗄れた声で問いかけた。
ケンゾウ:「準備はいいか、おチビちゃん?」
アカリは数回瞬きをし、見慣れた孤児院の仲間の姿を確認したことで、体温が戻るのを感じた。彼女は拳を握り締め、残った恐怖を飲み込んで、毅然とした声で答えた。
アカリ:「うん……! 準備はできているわ!」
ケンゾウは少女の勇気に満足し、不敵な笑みを浮かべた。彼は背中を彼女に向け、膝をさらに深く曲げると、首を振って指示を出した。
ケンゾウ:「よし。早く俺の背中に乗れ。この冷たい床の上でお前の歩調を気にするより、この方が早く移動できる」
アカリは躊躇わなかった。一歩前に踏み出して彼の首に腕を回し、その背中にしっかりと掴まった。ケンゾウは巧みな動作で彼女を背負い直し、脇腹のナイフの重みを感じながら真っ直ぐに立ち上がると、出口に向かって力強く歩み出した。危険の待つ廊下へと降りていく直前、彼は揺るぎない覚悟を込めて告げた。
ケンゾウ:「よし、一気に片付けるぞ!」
皆さん、おはようございます。いつも通り、素晴らしい一日をお過ごしください。
さて、少し皆さんに説明しておきたいことがあります。リョウが言った「LET'S GO」という言葉ですが、あえてそのまま英語で表現しました。これは、リョウが世界中のあらゆる言語を話せるということを、皆さんに気づいて察してもらうための伏線です。
なぜ彼がそんなことができるのか、すでに想像がついている方もいるかもしれませんね。ですが将来、彼の過去を描く時に、彼の行動やいくつかの謎の理由がすべて繋がって理解できるはずです。
それでは、これ以上多くを語ることはありません。また明日お会いしましょう。良い一日を!




