第2巻 第6話 「縫合(ほうごう)Ⅰ篇」
「泣き叫ぶ理由がどこにある? 壊れたなら、ただ縫い合わせればいい」
精神を苛む激痛の中、少年はただ淡々と、鬼気迫る覚悟を以て針を肉に突き立てる。
涙も、躊躇も、妥協もない。その手から溢れるのは、弱さではなく、死すら恐れぬ鋼の如き不屈の意志だ。
その底冷えするほどの冷徹さと、自らの肉体をも厭わぬ気高さに、目覚めたばかりの刃は、己の新たな主がただ者ではないことを確信する。
地平線の彼方へと太陽光が減衰を開始し、天空を橘色と暗灰色に汚染していく間、夜の昆虫たちが低木林の内部で固有の羽音を響かせ始めていた。完全な夜陰が到来しつつあった。しかしながら、古い納屋の内部において、リョウは濃密な酸化層を剥離すべく、確固たる意志を以てライラの刃を研磨し続けていた。
最後のブラシの移行を敢行した後、少年は疲弊の長い溜息を放出した。
リョウ:「はぁ……」
自らの前腕の背部で額の汗を拭い、彼は減退していく昼の明瞭さの下で自らの労働の成果を検証した。
リョウ:「よし、終了だ。全力を尽くしたな……。専門の鍛冶屋ではないが、相当に良好な状態に変転した」
リョウは評価を下すべく、自らの顔面の高位へと剣を上昇させた。金属の刃は、最初に発見したコンディションと比較して顕著に清浄化されていた。鉄の内部に嵌入した一部の強固な暗黒の錆の斑点は残留していたものの、変転は劇的であった。木製の柄も、表面的な汚濁を除去したことで遥かに清浄な外見を呈していた。当然ながら、汚濁の洗浄と古いパーツを新品に交換することは完全に異なる次元の事象であり、それ故に柄は未だやや損傷し摩耗した状態を維持していたが、審美目的においては十分に許容可能な範疇にあった。
ライラはその瞬間、可視化されていなかった。リョウは床から起立し、事前に準備していた清浄な包帯を採取すると、武器自体の鞘が存在しないという事実に起因し、慎重に刃を包囲していった。区域の保護が完了すると、歩行の過程で背部から脱落するのを阻止すべく、胸部を対角線状に通過する形式でそれを堅固に結合させた。
リョウ:「さて、ここから離脱するか」
納屋から退出するために歩行を開始した刹那、固有の花柄の着物を着用したライラの精神的顕現が、彼の側面の真空から具現化した。彼女は肩の上に紅い蛇の目傘を調整し、少年の歩調と同調して歩行を開始しながら、自らのエレガントな声音で沈黙を切断した。
ライラ:「私を洗浄し、あの全ゆる汚濁を排除してくれたことに深く感謝するわ」
リョウ:「気にするな。実際の戦闘において、完全に酸化した剣を帯同しても実用性は皆無だからな」
ライラ:「ええ、分かっているわ」
二人は沈黙を維持して前進し、午後の最後の残光を活用しながら、教会の主要構造体の方向へと裏庭の密集した低木林の進路を切り開いていった。歩行の最中、ライラはリョウの背後を検証すべく二、三歩後退した。彼の確固たる歩調と、周囲から距離を置いた姿勢を凝視しながら、彼女は自らの精神の内奥で自問した。
ライラ:(未だ少年であるにも関わらず、真に驚異的な成熟性を宿しているわ……。それは、私の先代の主を強く想起させる……)
数十年前の古い記憶が、ライラの精神の内部に完全な明瞭さを以て定着した。過去のビジョンにおいて、彼女自身が幼い少女の外見を宿し、記憶の残光に起因してその輪郭を識別できない長身の神秘的な男性の正面で、工房に直立していた。幼いライラは、絶対的な崇拝と献身の充填した双眸で彼を凝視していた。その瞬間、職人は彼女の頭部へ手を配置し、深い音声で会話を展開した。
マエストロ:「ライラ……、お前は私の第二の完全なる創造物だ。将来的に全ゆる普遍的な人間に帯同されることは可能だが、この世界全体において、お前を真に完璧な形式で行使可能な男は単一しか存在しない。いつの日かお前が彼と遭遇するか否かは確約できないが、確実なのは、彼と衝突したその日、お前は彼を深く崇拝することになる……それこそ、現時点で私に向けている崇拝を遥かに凌駕する強度でな」
記憶は夜の微風と同化しながら、女性の精神の内部から緩慢に霧散していった。ライラは少年の歩行を護衛し続けながら、それ以上の言語を排除して胸中に機密を幽閉した。
数分間の歩行の果てに、二人は最終的に孤児院のドアへと到達した。リョウが建物の内部へと境界を通過した際、回廊を整理していた数名の修道女が彼の帰還を視認し、親愛を込めて挨拶を出力した。
修道女:「おかえりなさい。夜陰が到来する前に帰還されて安心しました」
リョウは静止することなく通路を直進し、宗教者たちが自らの労働を継続する間、微に肯定を示すのみに限定した。中央食堂の正面を通過した際、秩序が維持されている事実を監視するシスター・マリアの厳格かつ常時警戒する眼差しの下、数名の児童が未だテーブルに着席して自らの配給を完了しようとしている光景を感知した。
テーブルの角で熱狂的に咀嚼を展開していたレイが、旅行者のシルエットを視認し、彼を呼称すべく声音を上昇させた。
レイ:「おい、リョウ! こっちに来て一緒に夕食を食べようよ!」
リョウは一瞬静止し、挨拶のジェスチャーとして流血の痕跡を宿す布で包囲された左手を上昇させ、無関心を伴って返答した。
リョウ:「今は空腹ではない、感謝する」
それ以上の会話の端緒を排除し、リョウは通路を直進した。レイはそれ以上の執着を示さず、自らの食事を享受し続けた。少年は居住区の全ゆるセクションを前進し、休憩室を探索していたが、一階の客室の一つから、極めて疲弊した音声の残響が彼の聴覚へと到達した。
サム:「うわぁ……。本当に疲れた、もう限界だよ。俺が今求めているのは、夜の残りの時間を睡眠に費やすことだけだ」
リョウはドアのフレームから自らのシルエットを出現させ、平穏なトーンでその独白に介入した。
リョウ:「未だ極めて早期の時間だ。真にそれほど疲弊しているのか、サム?」
その聲音を聴取した刹那、サムは迅速に頭部を回転させ、自らの旅の相棒を視認した事実による純粋な感情でその輪郭を発光させた
サム:「リョウ! ついに帰還したか! 新しい剣の洗浄と修復はすでに完了したのか?」
リョウは腕を胸部の上で交差させながら、リラックスした形式で自らの肉体の重量を木製のフレームの側面に依存させた。
リョウ:「あぁ、本日の基礎的な事象は完了した。私もこれから自らの部屋へ移動して休息を敢行する」
サム:「そうだな、俺も同様の措置を講じるべきだ。今日一日中、アカリと一緒に庭園全体を疾走して遊んでいたからな……。完全に枯渇したよ。彼女はすでにベッドの上で深層の睡眠に突入している」
サムは隣の簡易ベッドを指で指示した。リョウは自らの双眸をマットレスへと変位させ、肩まで被覆された状態で平穏な睡眠に没入している幼いアカリを発見した。
リョウ:「あぁ、視認した」
まさにその緊迫の刹那、シスター・マリアの圧倒的かつ沈黙を維持したシルエットがリョウの背後の真空から具現化し、自らの権威的なトーンを以て環境を震撼させた。
シスター・マリア:「上層階の指定された客室へ移動する時間です、リョウ青年。私に追随してください」
リョウ:「あぁ、分かった。行こう」――少年はフレームから身体を離脱させ、友人を凝視した――「また明日、サム。明日の第一時に、我々は任務を要請すべくギルドへ向かう」
サム:「了解した、休息してくれ」
シスター・マリアは回廊を通過してリョウを先導し、鍵による保護が維持されている上階の同一の客室に到達するまで、摩耗した石造りの階段を登攀した。宗教者は金属の束を抽出して重厚なドアを開放し、少年が内部へ侵入するのを許可すると、即座に外部からそれを閉鎖し、乾いたラッチの音を以て錠を確実にした。
部屋の内部において、リョウは自らのベッドに着席して全ゆる書類を閲読していたケンゾーと再遭遇した。新規の進入者を視認した際、ケンゾーは好奇を伴って挨拶を出力した。
ケンゾー:「やぁ、調子はどうだ? この街での最初の段階はどうだった?」
リョウ:「やや多忙であったな……。ところで、質問がある。不測の事態に備え、私に貸与可能な針と何らかの糸を所持しているか?」
ケンゾーは少年の特異な要請に直面し、完全に困惑して眉をひそめた。
ケンゾー:「針と糸? こんな時間にいかなる理由でそれが必要なんだ?」
リョウ:「所持しているか否か、それのみを出力しろ」
ケンゾー:「あぁ、自らのケースの一つに残留している。時間を付与してくれ、探索する」
ケンゾーは自らの個人物品を攪拌しながら、木製の机の引き出しの方向へと移動し、裁縫用具を捕捉した。彼はそれをリョウの手へと引き渡すべく反転したが、至近距離まで接近した際、彼の双眸は即座に少年の左手の平を被覆する、粗野な流血の包帯へと固定された。
ケンゾー:「しかし……一体全体その手はどうしたんだ? 血液で充満しているぞ」
リョウ:「工具で微に自己を負傷させただけだ、特異な事象ではない」
リョウは完全な平穏さを以て針と糸のボビンを回収した。的確な動作を以て、彼は糸の先端を針の眼へと通過させ、それを木製のテーブルの上に一瞬静止させた。直後の挙動として、彼は自らの負傷した手から白い布を緩慢に解除し始めた。布の回転が床へと下落していくにつれ、残忍な現実が露呈した。事前の洗浄に起因して血液の大量の噴出は停止していたものの、酸化した刃によって拡張された空洞は完全に視認可能であり、組織の破壊の深刻さを証明する、深く紫色のトーンに包囲された皮膚の裂傷の境界を露呈させていた。
リョウは健全な右手に通糸された針を把持し、金属の先端を生身の肉体に接触させるまで数ミリメートルの距離に配置した。
少年は一瞬静止し、部屋の天井の方向へと頭部を上昇させると、精神的な準備を整えるべく一秒間両眸を閉鎖し、重厚な溜息を放出した。目撃する我々に対してすら、その後に発生する事象が激痛を誘発する事実が予測された。
一箇所の躊躇の痕跡すら排除し、リョウは開放された皮膚の境界へと直接針を突き刺した。彼は肉体の閉鎖を強制すべく、糸を一方の端から他方へと通過させながら、単独で傷口の縫合を開始した。激痛のプロセスの最中、彼はいかなる叫びも出力しなかった。緊密に閉鎖された唇の間から、純粋な苦悶に起因する小さな、くぐもった呻き声が漏出するのみの状態で、彼は恐るべき強度を以て歯を凝縮させていた。
リョウ:「くっ……、うぐっ……!!」
切断の第一の半分の縫合を完了すると、彼は手の平を手の背部の方向へと回転させた。そこは、剣の先端が同様に破壊を誘発した区域であった。戦慄すべき冷徹さを以て、彼は一秒の呼吸の静止すら敢行することなく、裂傷の境界を結合させながら、そのセクションへの穿孔と縫合を同様に開始した。激痛は許容限界を超絶しており、彼の顎の筋肉を極限まで緊張させた。
リョウ:「ぐっ……あぁ……」
最後の縫合を敢行した際、彼は糸を確実にするために歯を以て堅固な結び目を形成し、テーブルの表面の上へ流血の針を放出した。リョウは縫合糸の摩擦を回避すべく、左手を空気の中に完全に伸長させた状態を維持し、一方で右手の平を木材の上に依存させ、頭部を完全に下落させた。彼の胸部は激しく上下動を展開しており、怪異から逃走すべくマラソンを完了したかのように、迅速かつ絶望的な形式で空気の吸引と放出を開始した。夜用テーブルの表面は、複数の新鮮な血液の滴血によって被覆されていた。
自らのベッドの境界で静止していたケンゾーは、完全に恐怖し蒼白したまま、両眸を限界まで開放していた。彼は自らの双眸が目撃した事象に対して信頼を付与することが不可能であった。彼よりも顕著に年少の少年が、弱さの涙を一度も流出させることなく、これほどまでの自己縫合という外科的挙動を完遂したのだ。
ケンゾー:「おい……一体全体お前は何を考えているんだ?! いかなる種類のアクシデントが発生すれば、そのコンディションで終了することになる?! それに……どうして自らの力でそれを実行できるんだ?! 私であれば、最初の縫合を突き刺す勇気すら皆無だぞ! 狂気の沙汰だ……」




