第1巻・第2部 見知らぬ場所のように|エピソード3・第1分冊
立ち上がる時だ。そして、ただ前へ進め
街道の空気は、一瞬にして凍りついた。つい先ほどまで重苦しく感じられていた空気が、突然、首筋の毛を逆立てるような息詰まる圧迫感へと変わる。本能によって感覚が研ぎ澄まされたヴィクトルは、森が禍々しい電気を放出しているのを感じ取った。
ヴィクトル:「一体、何なんだこれは……?」
ヴィクトルの声が、グループの硬直を破った。
全員が馬車の縁から身を乗り出し、消えゆく太陽の光の中で木々が身悶えしているかのように見える鬱蒼とした森を凝視した。その時、再び悲鳴が空気を引き裂いた。先ほどよりもさらに痛切で、近く、絶対的な絶望に満ちていた。
「助けてえええええ!! お願い! 助けてえええ!!」
ヴィクトルはもう迷わなかった。誰かが本当の危機に瀕しているのなら、躊躇は許されない贅沢だった。
ヴィクトル:「今すぐ確かめに行くぞ! 誰かを見殺しにはできない。武器の準備を!」
ヴィクトルが指示を終える前に、スリが驚くべき敏捷さで馬車から飛び降りた。
スリ:「俺が馬を繋ぎ止めて、怯えないように荷物を固定する。みんなは武器を用意してくれ!」
スリは街道沿いの開けた場所に、機械的な手際の良さで馬車を寄せた。準備が整うと、一行は草むらへと足を踏み入れた。森は乾燥した葉のきしむ音と、奇妙な臭いで彼らを迎えた。湿った土と、どこか金属のような、まるで錆のような臭いが混ざり合っている。ヴィクトルは先頭に立ち、あらゆる脅威を警戒しながら、樹齢数百年の巨木の間に広がる暗闇の隅々まで鋭い視線を走らせた。
ほんの数メートル進んだ時、地面にある何かが彼の目を引いた。ヴィクトルは急停止し、静かにするよう手で合図を送ると、その場にしゃがみ込んだ。そこには、湿った土に完璧な形で残された、ブーツの足跡が深く、鮮明に刻まれていた。彼は指を伸ばし、その痕跡に触れた。泥は非常に新しく、縁の土はまだ崩れ落ちていく最中だった。
ヴィクトル:「おい、この足跡を見てくれ……新しい、かなり新しいぞ。1分も経たないうちに誰かがここを通ったんだ。だが……何かがおかしい」
彼の声には完全な不信感が滲んでいた。足跡の位置の何かが、逃げ惑う者のそれとは一致しなかったのだ。5人組はすぐに近づき、緊張した半円を描いてヴィクトルを取り囲んだ。アカネとルシアが屈み込み、地面を見つめたが、その顔には困惑だけが浮かんでいた。
アカネ:「足跡ってどれ? コケと枯れ葉以外、私には何も見えないんだけど」
ヴィクトルはアカネが集中していないのだと思い、眉をひそめた。しかしルシアも同じように身を乗り出し、疑問を重ねた。
ルシア:「私にも見えないわ、ヴィクトル。そこにはただの平らな土があるだけよ。本当に何か見たの?」
完全に困惑したヴィクトルは、ほんの1秒前に自分の指が湿った泥を感じ取ったまさにその場所へと、再び視線を落とした。彼の心臓がドクリと跳ね上がった。彼は、何もない地面の上に手を浮かせたまま、完全に硬直した。
そこには何もなかった。足跡はおろか、押しつぶされた一本の草すらなかった。地面は、まるで何十年もの間、誰の足にも踏まれていないかのような佇まいを見せていた。
彼は一歩後退し、背筋に冷たい戦慄が走るのを感じた。ヴィクトルは明らかに動揺し、眉を跳ね上げた。
ヴィクトル:「だが……確かにそこにあったんだ。誓ってもいい。俺は触れたんだ、たった今、ここで土の湿り気を感じたんだぞ!」
森はまるで彼らを閉じ込めるかのように迫り、再び沈黙が支配した。女性の悲鳴と、幻の足跡の謎をさらに恐ろしくさせるような、濃密な沈黙。その場所では、現実そのものがほつれ始めているかのようだった。まるで、すでに彼らの五感の上に罠が閉じられてしまったかのように。
森のそのエリアの空気は非常に濃くなり、息を吸い込むたびにヴィクトルの肺が焼けるようだった。最初の混乱は、急速に本能的な警戒感へと変わっていった。
ヴィクトル:「何も分からん……こんなのは筋が通らない」
顎を固く噛み締め、彼は来た道を戻ることを決意して、不意に振り返った。大股で歩きながら、頭の中で歩数を数える。街道から約12メートル進んだことを明確に覚えていた。しかし、理論上の出口に到達した時、そこにあったのはアスファルトでも、馬車でも、開けた地平線でもなかった。ただ、さらにねじれた巨木が続き、低く立ち込めた霧が茂みの間を這い始めていた。
セリナ:「ちょっと、ヴィクトル! そんなに急いでどこへ行くの? 私たちを置いていかないでよ」
ヴィクトルは急停止した。答えなかった。完全に静止したまま、視線を地面の一点に釘付けにし、額からは冷たい汗が噴き出していた。重い汗の雫がこめかみを伝い、顎の輪郭をなぞって土へと滴り落ちた。
スリ:「ヴィクトル、どうしたんだ? 怖がらせないでくれ、早く答えてくれよ」
スリが近づきかけたが、リーダーの歪んだ表情を見て足を止めた。その時、あまりにも恐ろしい光景が明確に明かされた。ヴィクトルは虚無を見ていたのではなかった。彼は先ほど「消えた」はずの足跡を見ていたのだ。しかし今回、彼を石化させたそのディテールは、はるかに不気味なものだった。
ゆっくりと、ヴィクトルは自身の右のブーツを持ち上げ、泥の中の足跡とソールの模様を比較した。インソールのパターン、かかとの摩耗具合、そして模様に挟まった小さな石の位置までが、ミリ単位で完全に一致していた。彼が他人のものだと思い込んでいた足跡は、現実には、彼自身のものだったのだ。
ヴィクトル:「出口はどこだ……」彼は人間のものとは思えない掠れた声で呟いた。「俺たちは……円を描いて歩いているのか?」
彼の言葉を聞いた瞬間、残りのメンバーも本能的に自分の足元へと視線を落とした。恐怖が疫病のように一瞬で広がった。彼ら一人一人の足元の土には、自分自身のブーツと寸分違わぬ足跡が、覚えているはずのない無限の歩みのサイクルのように、幾重にも重なり合って刻まれていたのだ。彼らは12メートル進んでなどいなかった。ねじれ、歪む同一の空間の中に囚われ、同じ場所を回り続けていたのだ。森が単に道を隠しているだけでなく、彼らの「現実」そのものを飲み込もうとしているのだと理解した時、深い、根源的な恐怖が彼らの心を支配した。
◇◇◇
地上で森がヴィクトルたちの現実を貪り始めいていたその頃、リョウの運命は未だ未知の深淵へと落ち続けていた。
サムの叫び声の轟音と上方の混沌は一瞬にして消え去り、代わりに絶え間ない風のうなりが響いていた。リョウは完全な虚無の中を落下していたが、その様子はどこか現実離れしていた。彼の中にパニックは微塵もない。彼の身体は、まるで目に見えないベッドに横たわっているかのように、皮肉なほどリラックスした姿勢で宙に浮かんでいた。足を組み、両手を頭の後ろで組みながら、遠ざかっていく岩の天井を見つめている。
リョウ:(あとどれくらい落ち続ければいいんだ?)彼は氷のように冷徹な冷静さで自問した。(この穴は、呆れるほどに深いな)
待ち続けることに飽き、彼は空中で身体を反転させた。リラックスした姿勢を崩し、一瞬だけ身体を安定させるために両腕を「L」の字に伸ばすと、眼下に広がる暗黒を見据えた。彼の瞳に、わずかな焦燥の火花が宿る。
リョウ:「……少し、ペースを上げるとするか」
流れるような動作で両腕を体幹に密着させ、両足を揃えた。彼の身体は、一振りの人間の一矢へと変貌を遂げる。落下の速度は劇的に跳ね上がり、風のうなりが耳元で轟音へと変わる中、彼は猛烈な勢いで暗闇を切り裂き、真っ逆さまに突き進んだ。
極限の自由落下が約5分ほど続いた時、突如として暗黒が破られた。リョウは狭い垂直のトンネルを抜け、論理を凌駕するほどに広大な空間へと躍り出た。彼の眼下には、それ自体が独自の生態系を宿しているかのような、巨大な地下空洞――途方もない大洞窟が広がっていた。
そこには、赤い煌めきを反射する広大な湖があり、孤高の砂浜を思わせるきめの細かい土の岸辺が広がっていた。そしてそれら全てを取り囲むように、壁面にはマグマの川がうねりながら流れ、洞窟を永遠の、鮮やかな橙色の輝きで照らし出していた。
熱い空気が顔を叩く中、リョウはその光景の壮大さに目を見開いた。
リョウ:「信じられないな……」
間近に迫る激突の瞬間も忘れ、彼はその圧倒的な光景に、ただ心を奪われていた。
皆様、おはようございます。今日も素晴らしい一日になりますように。
まずは、最後まで読んでくださった皆様に心から感謝申し上げます。
ここで、皆様に一つだけ、小さくも非常に重要な事実をお伝えしておきたいと思います。
どうか、このエピソードのタイトルをよく覚えておいてください。なぜなら、3年後、このタイトルは皆様にとって非常に重要で、そして、痛烈に「痛みの伴うもの」になるからです。




