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デュアルリバース (Dual Rebirth)  作者: 善悪 亮 (Ryo Zenaku)
第1章:宿命の始まり
14/33

断たれた意識と漆黒の変貌 第9話

第9話。狂気溢れる戦いと、予期せぬ変貌。ここから彼らの運命が真に動き始めます。

それでは、本編をどうぞ!

闇は完全であり、まるで石油のように濃密だった。

リョウは地下の巨大な崖の壁から、かろうじて突き出た小さな岩の足場に横たわっていた。

耳の奥で、鋭く鳴り響く一定の金属音――ピィィィィィィィィィン!――が脳を突き刺し、彼を朦朧とさせ、感覚を狂わせていた。


衣服はボロボロに引き裂かれ、体中の生々しい傷口に血まみれの布切れが張り付いている。切り傷からは、すでに血が乾き始めていた。

頭の中の耳鳴りがようやく収まった時、リョウは激しい痛みに耐えながら、片手をこめかみに当てて体を起こした。彼は崖の縁まで這っていき、奈落の底を見下ろした。


底では、あの巨大なワームの巨体が、鋭く尖った無数の岩の山に突き刺さっていた。岩が怪物の体を完全に貫通している。――獲物は死んでいた。


その瞬間、アドレナリンの衝撃と共に記憶がフラッシュバックした。

リョウはあの悪夢を追体験した。あの円形の巨大な口に丸呑みにされた瞬間を。

怪物の喉を下っていく時の感覚。カミソリのように鋭い歯の列が、彼の皮膚と衣服を引き裂き、内部の肉壁が彼を押しつぶそうと収縮していた。


(あぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!)


記憶の中で、リョウは絶叫した。


怪物の歯が動くたびに肉に食い込んでいく中でも、リョウは決して死を受け入れなかった。

荒々しく、絶望的な動きで、彼は剣の柄に手を伸ばした。

刃を抜くと、純粋な生存本能から生まれた力で、ワームの内臓を内側から猛烈に切り裂き始めた。

一撃ごとに切り傷の痛みは増していったが、リョウは手を止めず、ついに空中を落下しながら怪物を真っ二つに両断したのだ。


その衝撃で、怪物の残骸から引き離された。

リョウは崖の壁へと吹き飛ばされ、奇跡的にその小さな岩の足場に着地した。一方、ワームは虚空へと落下し、底の岩原でその最期を迎えた。


リョウは震える自分の両手を見つめ、それから周囲を包む圧倒的な暗闇を見上げた。

生きている。だが、一人だった。


リョウ:「サム……サム! サムを、探さないと……」


かすれた声で叫んだが、返ってきた唯一の残響は、怪物の血が岩に滴り落ちる――ポタ、ポタ――という音だけだった。


地下の空洞に広がる完全な静寂。

リョウは疲れ果てた筋肉に鞭打ち、立ち上がろうとした。しかし、わずか一歩を踏み出した瞬間、限界を迎えた体が崩れ落ちる。

彼は岩の地面に激しく倒れ込み、完全に意識を失った。


その死のような虚無の空間に、わずか五秒が経過した時、おぞましく非現実的な現象が起きた。


岩壁に微かに映し出されていたリョウの影が、不自然に伸び始め、密度を増していった。

そして、絶対的な闇の中から、人型の影が姿を現した。


全身が不気味な薄闇に包まれており、容姿の大部分は隠されていた。辛うじて見えるのは顔の下半分だけだったが、影の滝のように長く伸びた髪が確認できた。


その影は、横たわる少年の体へと近づいた。

恐ろしいほどの親しみを持って手を伸ばすと、リョウの顎を優しく愛おしそうに撫で、妖しく謎めいた微笑を浮かべた。


それから、ゆっくりと、まるで儀式のようなリズミカルな動きで、手をリョウの背中へと移動させた。

影の唇が動き、虚空へと消えていく言葉を紡ぐ。それは、生者の耳には決して届かないメッセージだった


謎の影:「………………」


直後、赤黒く濃密なオーラがリョウの体を包み込んだ。

その魔力は彼の傷口を塞ぎ始め、切り傷を焼き裂き、魔法のように出血を完全に止めていく。

役目を終えると、その影は一切の痕跡を残さず、まるで最初から存在していなかったかのように、再び闇へと溶け込んで消え去った。


一方、別の場所では――。


サムの悪夢はリョウのそれとは異なっていたが、同じように息が詰まるものだった。

意識を取り戻した瞬間、湿った熱気と胃液の臭いが彼を包み込んだ。


彼はワームの食道に閉じ込められており、わずか数メートル下で泡立つ胃酸の湖へと、抗うことなく滑り落ちていた。彼と一緒に落ちた木の枝が、その液体に触れた瞬間に数秒で溶けていくのが見えた。


サム:「はぁ……っ」


息を吸おうとしたが、ワームの筋肉が油圧プレスのような強烈な力で収縮し、彼を胃酸の深淵へとさらに押しつぶそうとしてくる。


恐怖が彼を支配した。怪物の歯によって体中に刻まれた深い切り傷や擦り傷が、動くたびに激しく燃えるように痛んだ。


(俺は……こんなところで死ぬのか? ここで終わるのか……!?)


恐怖をねじ伏せるように、彼は目を閉じた。

脱出する方法を必死に考えていたその時、彼の高い戦闘本能が、手の届くところにある剣の柄を捉えた。空間があまりにも狭く、剣を抜くこと自体が物理的に不可能に思えた。


サム:「んんんんん……っ!」


押し殺したうめき声が、肉壁の内部に響き渡る。胃酸はすでに、彼のブーツの数センチ下にまで迫っていた。


彼は上を見上げ、目を閉じ、脳内からすべての恐怖を消し去った。


サム:「ふぅぅぅぅ……」


サム:「あぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


純粋な気迫の叫びが彼の肺を切り裂き、次の瞬間、彼の体は眩く輝く青いオーラに包まれた。その魔力は、彼の持つ鋼の刃へと一気に広がっていく。

超人的な力を振り絞り、彼は制約を跳ね除けて剣を引き抜くと、うごめく肉壁に突き立て、完璧な垂直の一閃を刻み込んだ。


ワーム:「ギィシィィィィィィィッ!!」


怪物が悶絶の悲鳴を上げる。サムはその裂け目から外へと飛び出し、岩の地面に転がり落ちた。致命傷を負ったワームは、ここから遠く離れた地中で死を迎えるため、大地の奥深くへと再び潜っていった。


サム:「ごほっ……げほっ! うっ……っ」


サムは膝をつき、激しく咳き込みながら、必死に酸素を肺に送り込もうとしていた。


ようやく視線を上げたその瞬間、彼の全身の血が凍りついた。

彼の目の前に広がっていたのは、まさに地獄の絵図そのものだった。


巨大な空洞の行く手、不気味に燃え盛る溶岩の光に照らされたその場所では、無数の人狼ワーウルフ、オーク、ゴブリン、そしてエルフの群れが、手にした鞭や拘束具を鳴らしながら巡回していた。

そこでは、何百人もの人間――男、女、そして子供たち――が奴隷として囚われていた。

自分の体重の3倍はある巨石を運ぶ者、手が血に染まるまで岩壁を掘り続ける者、そして、溶岩を鉱物で満たされたバケツへと流し込むために、巨大な歯車を必死に押し回す者たちの姿があった。


サムは岩の影に身を潜めたまま、その残虐極まりない光景に息を呑み、完全に立ちすくんでいた。

そこは魔物たちが支配する鉱山作戦の中心地であり、子供たちまでがそんな過酷な環境で働かされているという地獄の現実に、彼は胸を締め付けられた。


凄惨な光景を前に、恐怖と怒りで呼吸を乱すサム。その時、彼の右側から、岩を叩くツルハシの絶え間ない金属音を切り裂くように、ひとつの音が届いた。――すすり泣きだ。

彼は本能的にその方向へと顔を向けた。


そこでは、埃にまみれ、骨が浮き出るほど痩せ細った人間の少女が、その小さな体では到底持ち上げられないような巨石を運ぼうと必死に抗っていた。


顔に傷跡のある大柄なオークが、腰に鞭をぶら下げて彼女を至近距離から監視している。

疲弊し、限界を迎えて震える少女は、ついに耐えきれず抱えていた岩を落としてしまった。巨石がゴロゴロと音を立てて岩の地面を転がっていく。


恐怖に怯えた少女は、慈悲を乞うような目でオークを見上げながら、激しく泣き崩れた。

少女:「ごめんなさい……お願い、許して……」


だが、オークに慈悲など微塵もなかった。

怪物は喉の奥で低く唸り声を上げると、金属で補強された木製のこん棒を振り上げた。仕事の手を抜いた罰として, 小さな少女に容赦のない一撃を叩き込もうとしたのだ。


こん棒が少女に直撃する――まさにその瞬間、薄暗闇を青い稲妻が駆け抜けた。

背後から放たれた、水平かつ完璧な横一閃。それがオークの巨体を真っ二つに両断した。

怪物の内臓と鮮血が奔流となって激しく噴き出し、地面をどす黒い深紅に染め上げる。――ドシャッ。


そこには、斬撃を終えた残身の構えのまま佇むサムの姿があった。

彼の歯は砕け散らんばかりの力で強く噛み締められ、その瞳は炎のような鋭い輝きを放っている。そして彼の身体からは、先ほど彼を救ったあの眩い青いオーラが激しく揺らめいていた。


激突を覚悟して目を閉じていた少女が、恐る恐る目を開けた。

絶命したオークの身体は、悲鳴を上げる暇さえなく、彼女の両脇へと崩れ落ちていった。

少女は、目の前に現れた見知らぬ輝く戦士に救われたことに、驚きと深い感謝の念を抱きながら、瞳を輝かせてサムを見つめた。

しかし、ぶちまけられたオークの内臓と生臭い新鮮な血の臭いは、瞬時に周囲の警戒網を刺激した。


他の魔物たち――ゴブリン、コボルト、オーク、そして人狼ワーウルフ――が、一斉に作業や懲罰の手を止め、轟音の鳴り響いた場所へと首を巡らせた。

サムの立ち位置が、完全に看破されたのだ。


「グルァァァァァッ!!」


「侵入者だ! 人間がいるぞ!!」


四方八方から魔物たちが武器を構え、地響きを立ててサムへと襲いかかる。逃げ場のない包囲網。しかし、サムの瞳に宿る炎がさらに激しく燃え上がった。


次の瞬間、巨大な洞窟は一転して凄惨な「屠殺場」へと変貌した。

数分前までは残酷な支配者だった魔物たちが、いまや戦神の如き神性を宿して暴れ狂う一人の少年の、圧倒的な暴力の前にただただ蹂躙され、恐怖に慄きながら後退していく。

サムは青いオーラを刃に纏わせ、光の軌跡を描きながら魔物の群れへと突撃した。


一振りごとに肉が裂け、骨が砕け、首が宙を舞う。返り血を浴びながらも、サムの猛攻は止まらない。


サム:「おい、クソ野郎ども……。ここからは、俺が相手だッ!!」


怒号と悲鳴が洞窟内に木霊し、奴隷として囚われていた人間たちは、暗闇の中で突如として始まったその圧倒的な無双劇を、ただ呆然と見つめるしかなかった。


(クソッ……完全に囲まれた……!)


サムの恐怖は、瞬時に盲目的な怒りへと昇華した。

爪と牙の濁流に向かって正面から突撃しながら、彼は声帯を切り裂くような雄叫びを上げた。


サム:「あぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


最初に彼を迎え撃ったのは人狼ワーウルフの群れだったが、青いエネルギーに包まれたサムの身体は、まるで外科手術のような精密さで動いていた。


迅速かつ残虐な一閃が放たれるたび、獣人たちの四肢が宙を舞う。ある者は一撃で胴体を真っ二つにされ、ある者はその顎を閉じる前に首を跳ね飛ばされた。


まさに地獄絵図だった。

首、内臓、そして肉片が四方八方に飛び散り、洞窟の岩壁を深紅の雨で染め上げていく。

顔に返り血を浴び、瞳を怒らせたサムは、完全に理性を失った怒りに身を任せていた。

彼の側面を突こうとしたゴブリンどもは一瞬で細切れにされ、圧倒的な怪力で圧殺しようとしたオークたちも、少年の放つ眩い鋼の刃の前に次々と肉塊へと変えられていった。


耳をろうするような大虐殺。しかしその混沌は、圧倒的な存在感の出現によって突如として静まり返った。


不気味に燃え盛る溶岩の影から、その「頭目」が姿を現したのだ。

それは、異様なほどに背の高い、老いたオークだった。その眼光には、底知れない悪意と無数の死線を潜り抜けてきた経験が宿っている。

怪物が手にしていたのはこん棒ではなく、溶岩の光を浴びて妖しく煌めく、一連の「投げナイフ」だった。

サムの目でも到底捉えきれない神速の動作で、老オークは二本のナイフを放った。


――シュパッ、シュパァンッ!!


鋭い刃がサムの両脚に深く突き刺さり、一瞬にして腱を切断した。

激痛に襲われた少年の身体から青いオーラが文字通り霧散し、彼は立ち上がることすらできず、悲鳴を上げながら岩の地面へと激しく崩れ落ちた。


老オークは、自らの部下たちの血を躊躇うことなく踏みつけながら、ゆっくりと彼に向かって歩を進めた。

少年の前に立つと、敬意と残酷さが入り混じった歪んだ視線でサムを見下ろした。


オークの頭目:「大した度胸だ、ガキが……」


サムが反応する隙など与えず、オークは少年の顔面に向けて破壊的な拳を叩き込んだ。

その衝撃は凄まじく、サムの視界は一瞬で漆黒へと染まり、自らが引き起こした惨劇のただ中で、彼は完全に意識を失った。


     * * *


オークの頭目の一撃がサムの意識を刈り取った、まさにその同じ瞬間。

リョウは岩の足場で唐突に目を見開いた。

彼はゆっくりと身体を起こした。骨の奥にはまだ重い疲労感が残っていたが、先ほどまで彼を苛んでいた激しい激痛は綺麗に消え去っていた。


己の身体を確かめてみると、傷口が塞がっているだけでなく、傷跡さえもほとんど目立たなくなっている。そして彼の眼差しには、驚きの色は微塵も浮かんでいなかった。

しかし、最も異常だったのはその驚異的な治癒能力ではなく、彼自身の肉体だった。

リョウは、自分のズボンの丈が明らかに短くなり、手足が以前よりも長く伸びていることに気がついた。

かつては腰のあたりまでしかなかった漆黒の髪は、いまや彼の脚にまで届くほど、まるで黒夜の滝のように長く伸びていたのだ。


リョウ:「地底にいるっていうのに、時間の歪みは相変わらずか……。一体、何年が経過した? おそらく3年から5年といったところか……。だが、空間の歪みは消え去ったようだな」


彼は下方を見つめた。岩原の上で腐敗しつつあるワームの死骸がそこを動かずに残っていることが、空間がもはやループしていない事実を証明していた。


リョウは合理的な動作で、ボロボロに引き裂かれた衣服の一部を破り取ると、異様なほど長く伸びた髪を頭の後ろで高いポニーテールに結び上げた。


リョウ:「サムを見つけないと……。さもなければ、俺はここで老いさらばえて死ぬだけだ」


彼の虚ろな瞳が、深淵の圧倒的な暗闇に固定される。

階段も道もない。ただ、無限の虚無へと消えていく傾斜した断崖の壁があるだけだった。

彼は平らな石を拾い上げ、地面に叩きつけて硬度を確かめ、摩擦の負荷でも砕けないことを確認した。


リョウ:「あの底でも時間の歪みは同じままなのか? もしかすると、範囲に限界があるのかもしれないな……」


彼は静かに独りごちた。


リョウ:「ふぅぅぅぅ……」


躊躇いはなかった。リョウは足元にその平らな石板を構えると、そのまま虚空へと身を投げ出した。

まるで土砂の斜面や崖の急壁をスノーボードで滑走サーフィンするかのように、彼は凄まじい猛スピードで降下し始めた。

地底の突風が耳元で激しく鳴り響く中、彼の姿は一瞬にして、虚無の完全な暗闇の中へと呑み込まれて消え去った。

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