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危機のたびに異世界の職業を思い出すおっさん、ダンジョン社会で生きる  作者: kage3
第三章 おっさんは警備員

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第41話 決着と誤魔化し

 鬼頭の火球が、爆ぜた。


 炸裂と同時に灼けつくような熱風が周囲を薙ぎ払い、遅れて衝撃が地面を揺らす。乾いた土煙が巻き上がり、一気に視界を塞いだ。さらに焦げた匂いが鼻を刺す。


「……っ」


 鬼頭の喉が、小さく鳴った。


 やり過ぎた。


 相手の力量を測る、そのつもりだった。だがこの一撃は明らかに過剰だ。

 もともと魔法を使うつもりはなかった。ただの模擬戦、技量を見るだけでよかったはずだ。


 だが——相手は想像以上に強かった。


 スヌーさんに自分の実力を示すために始めた模擬戦なのに、まったく見せ場を作れない。


 その焦りが胸を焼き、気づけば頭に血が上っていた。後先も考えず、本来使うつもりのなかった魔法を解き放っていた。


 鬼頭は思わずスヌー――アイノへ視線を向ける。どう思っているのか、その表情を探る。だが、そこにあるのはいつもと変わらない静かな顔だった。


 本当にいつも通りすぎる。そのことに、逆にわずかな違和感を覚える。


 だが、それを深く考えている余裕はない。


 鬼頭は顔から徐々に血の気が引いているのが分かる。


 近づいてきた小駒も息を呑む。


「鬼頭……おい……」


 鬼頭の異変につられるように、小駒の顔色も青ざめる。


「おい……やりすぎだろ……?」


「……黙ってろ」


 即座に返した声はいつも通り荒い。

 だが、拳は強く握られていた。


 観戦していた山本さんが険しい顔で詰め寄る。


「模擬戦でなぜ魔法を使った。怪我するに決まっているだろうが」


 岸本さんがすぐに割って入った。


「説教はあと! まず救助!」


 そのとき、小坂がはっとして前を指さした。


「……あっ、あそこ――」


 小坂が、土煙の向こうを指さす。


 その瞬間、煙の向こうに人影が浮かび上がった。






 フォレストビーストのときのトラウマが、こんな形でよみがえるとは思っていなかった。あのとき焼かれた感覚が、一瞬だけ脳裏をかすめる。


 大した効果はない。だが、日々修練していたおかげで魔術でとっさに対応できた。そうでなければ、最悪――死んでいたかもしれない。


(無傷ってわけにはいかないな、あちこち火傷している)


 袖の内側も、脇腹も、じくりと痛む。


 土煙が周囲の視線を遮っているうちに、こっそり治癒魔術で火傷を治療する。派手な光は出さず、痕が残らない程度に。完全ではないが、見た目には分からない。


 怪我したことを隠す理由は単純だ。課長に報告したら、絶対に三時間は無意味な説教を聞かされる。


 「……あぁ、びっくりした」


 焦げた服の裾を軽く叩きつつ、いつもの調子で言う。


 山本と岸本がすぐ近くまで来て、無事を確認する。


「無事か」


「怪我はないか?」


「大丈夫です」


 軽く肩を回してみせる。


(かなり高威力の魔法だった)


 あれは模擬戦で使うような魔法ではない。


 主人公は、鬼頭のさきほどの顔を思い出す。血の気が引き、目だけが見開かれていた一瞬。


 あの表情は、勝負に熱くなった者の顔ではない。


 ――やってしまった、という顔だ。


 鬼頭は腕を組み、平然と立っている。


 だが、感知する魔力の流れは、模擬戦前とは比べものにならないほど乱れている。表面は整えていても、内側はまだ波立っている。


(……焦ったんだな)


 暴走寸前まで拡散させた。あれは偶然じゃない。もし魔力が拡散されず、収束したままだったら――私の即席の魔術など何の役にも立たなかっただろう。


 小坂が目を輝かせて駆け寄ってくる。


「すごいです! あんな魔法を受けて立ってるなんて!」


「いえいえ、鬼頭さんが手加減してくれただけです」


 さらりと答える。


「……手加減したけど、防ぐとは。実力は十分だな」


 鬼頭は内心を隠してぶっきらぼうに言う。


 アイノが一歩前に出て来て、なぜか胸を張っている。


 わずかに口元が緩んだようにも見えた。


 鬼頭の視線が、わずかに揺れる。


 ほんの一瞬、悔しさが滲んだことに私は気づいてしまった。


 アイノが主人公を評価するほど、鬼頭は心穏やかではないだろう。ただ私を貶したり、アイノを煽てても、振り向かないことは分かっているはずだ。


 主人公もどうにかしてやりたい気持ちはある。だが、そういう経験値がない。

 だからおっさんにできるのは、せいぜい空気を読んだふりをするくらいだ。


 視線を巡らせれば、小駒は困り顔で様子をうかがい、小坂さんは状況を深く理解している様子もなく、ただニコニコしている。


 どうすることもできなさそうだ。


(……頑張れ、鬼頭)


 せめて心の中でそう呟くにとどめた。





「この後の巡回同行は中止だ。」


 山本が宣言すると空気が止まる。


「……なんでだ」


 鬼頭が即座に食ってかかる。


「あわや怪我人が出そうだったからに決まっているだろう」


 山本はこの場の責任者として正しい判断を下す。


「感情が乱れている状態でダンジョンに入らせるわけにはいかん。同行は後日にするだけだから安心しろ。」


 鬼頭は理由が理解できるために言い返せないようだ。


 だが、受け入れられないことは表情からよく分かる。


 私との模擬戦で良いところを見せられなかったため、ダンジョン内で力を見せたいのだろう。

 だから、このまま終わるのは嫌なのだろう。


 心の中で「頑張れ」と言った手前、ここで知らん顔も気分が悪い。


「私は大丈夫なんで行きましょう」


 山本が眉をひそめる。


「何を言っている。お前はさっき——」


「とりあえず少し休憩すれば、気持ちも落ち着きますよ。何より課長に報告事項が増えるのは嫌なんで。」


 穏やかに続ける。


「ダンジョン内ではいろんなことがあります。彼らには感情が多少乱れていても、落ち着いて行動する練習になりますしね。」


「おあつらえ向きに、ここのモンスターは弱いですし」


 山本は呆れたように言う。


「なぜ怪我させられそうになった本人が勧めるんだ」


 空気が重い。

 こういうときに間に入るのが、よく私の役目になる。

 誰に頼まれたでもないのに。


「させられ“そう”になっただけです」



 小坂が両手を合わせた。


「お願いします! せっかくの機会ですし!」


 小駒も続く。


「ちゃんと気を引き締めます。だからお願いします。」


 アイノはいつでも来られるからか何も言わない。


 岸本が静かに口を開く。


「どうせ巡回業務はするんだから良いんじゃないですか」


 山本は全員を見回し、ため息をついた。


「勝手な行動はするな。必ず指示に従え。いいな」


「……分かりました。」


 鬼頭は短く答える。

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