表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
危機のたびに異世界の職業を思い出すおっさん、ダンジョン社会で生きる  作者: kage3
第三章 おっさんは警備員

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/45

第40話 嫉妬と火球

 課長が見えなくなったのを確認すると、岸本は軽くスキップするような足取りでアイノに近づいた。


「アイノちゃん、これってどういう状況?」


 グループで来ていることを配慮してか、岸本さんは小さな声で聞いた。

 ――そんな配慮できたんだ、と私は少しだけ意外に思う。


 アイノはわずかに首を傾げた。


「成り行き」


 それだけだ。説明らしい説明はない。


 アイノと話すことが目的なので返事は二の次なのだろう。うれしそうにウンウンと頷いている。


「……成り行きなら仕方ないな」


 あっさりと受け入れる。


 だろうな、と私は思う。


 岸本さんの目的は会話なのだから当然の反応だ。


 この一カ月で、アイノに説明力を求めるのは間違っていると、私も十分に理解させられているわけだが。



 アイノの隣に立っていた小坂さんが、はっとしたように目を見開いた。


「私ともなかなか会話してくれなかったあの氷姫が、ずいぶん打ち解けてるのね」


 羨ましさと、それ以上にどこか嬉しそうな色が混じった表情だった。


 アイノは小さく眉を寄せる。


「……ん」


 明らかに不服そうな返事だ。


 そのやり取りに、空気が少しだけ和みかけた、そのとき。


 鬼頭がすっとアイノと岸本さんの間に割って入り、そのまま岸本さんを睨みつけた。


「ずいぶんスヌーさんと親しいようですね」


 声は抑えられているが、滲み出る感情までは隠し切れていない。


 岸本さんは気にした様子もなく、むしろ面白そうに口角を上げる。


「名前で呼ぶ仲なんで」


 その瞬間、鬼頭の顔がかっと赤くなった。


「名前で呼ぶのは家族だけでしょう。……他人のあなたが、軽々しく」


 和みかけていた空気に、ぴんと緊張が走る。


 アイノは淡々と口を開いた。


「別にいい」


「そんな簡単な話じゃないでしょう」


「すきにすれば良い」


 鬼頭は一瞬、言葉を失った。


「……アイ――」


 呼びかけかけて、周囲の視線に気づく。

 生暖かい目が向けられている。


 小さく咳払いをひとつ。


「……スヌーさん」


 呼び直したあと、改めてこちらへ向き直った。


「彼らの同行者としての実力を確認させてもらいます」


 アイノが小さく頷く。


「ん」


 ――なぜそこでお前が了承する。


 思わず、心の中で突っ込んだ。



「探索の前に怪我をしても困りますからね」


 山本さんが、やんわりと割って入った。


 年長者として場を収めようとする落ち着いた声音だった。

 だが鬼頭は、その言葉をまともに受け取ろうとしない。


 課長が下手に媚を売った結果、こちらを上位者として扱う気がないのが、態度からはっきり伝わってくる。


「学生に怪我をさせられるような同行者なら、最初から必要ありません」


 挑発的な視線が向けられる。


 ――いや。


 お前たちが怪我したら困るのは、こっちなんだが。


 心の中でだけ、ため息をつく。


 山本さんは一瞬だけ表情を曇らせ、岸本さんへ小声で何かを伝える。

 岸本さんも顔を寄せ、短く応じた。


「……このままだと話が進みませんし、後で課長に何か言われても面倒ですからね」


 小さな相談の末、結論は早かった。


「わかりました。では、軽く模擬戦を」


 班長である山本さんが前に出る。


「私が相手を――」


「いえ」


 鬼頭の目が、こちらを射抜いた。


「あなたではなく、彼に。……もっとも警護には不釣り合いに見える、その人を」


 ――俺か。


 理屈は分かる。

 だが、本当にそれだけか。


 視線の奥にあるのは、単なる確認ではない。

 どこか試すような色が混じっている気がした。


 周囲の視線が一斉に集まった。



 模擬戦の空気が張りつめる中、小坂さんがそっと近づいてきた。


「鬼頭君が、すいません……」


 申し訳なさそうな小声。


 俺は苦笑いして首を振る。


「気にしないでください。どうしてか嫌われているみたいですけど」


 岸本さんだけでなく、自分まで敵視されている理由は正直わからない。

 心当たりがあるとすれば――いや、それも確証はない。


「それは……」


 小坂さんは一瞬、言うべきかどうか迷うように視線を彷徨わせる。


「鬼頭君は、アイノのことが好きみたいなの」

「あなたのことアイノが話してるのを、どこかで聞いたみたいで……」


 なるほど。


 思わずアイノを見る。


 だが当の本人は、こちらにも鬼頭にも特に反応を示さず、静かに様子を見ているだけだった。表情は読めない。


 ……それで敵意か。


 納得できるような、できないような微妙な気分になる。


 ひとつ小さく息を吐く。

 学生達の視線が、じわりと熱を帯びているのを感じた。


「まだですか。早くしてください」


 鬼頭の苛立ちを含んだ声が飛ぶ。


 距離を取り、軽く構える。その姿勢には隙がない。

 魔力の流れも安定している。強気な発言を裏付けるだけの実力は、確かにあると分かった。


 俺が前に出ると、山本さんが口を開いた。


「怪我をさせるなよ」


「……は?」


 鬼頭の眉が吊り上がる。


「俺が怪我をするってことですか?」


 露骨な不快感。


 だが山本さんは、俺の実力を知っているからこその発言だ。

 その視線が一瞬こちらに向き、苦笑いが浮かぶ。


「――絶対にこちらから攻勢に出るな。受けに徹しろ」


 小声で、しかし強く言い含める。


 確かに、こちらから攻勢に出なければ怪我をさせることはない。

 それには納得できる。


 ……ただ、避けてばかりでは舐められていると思って不機嫌になりそうだ。


 上手くやらないとさらに敵意が高まりそうだ。





「よし、俺が審判をやる」


 山本さんが中央に立つ。


 両者が準備できていることを確認する。



「始め!」


 合図と同時に、鬼頭は魔力を全身に巡らせ、地を蹴った。


 爆発的な踏み込み。


 ――速い。


 普通の高校生が出せる速度ではない。

 だが体感としてはワイルドウルフ程度。十分に見切れる。


 振り下ろされる刃も、ハイオークの一撃に比べれば遠く及ばない。


 その程度では、あの時の記憶は呼び覚まされない。


 余裕をもって回避する。


 続く斬撃も、横薙ぎも、最小限の動きでいなす。


 これだけ綺麗に避け続けて反撃しないのも不自然だ。


 俺はこん棒を振り上げる。


 「――!」


 鬼頭の視線がこちらに集中し、即座に飛び退く動作に入るのを確認。


 その瞬間、こん棒を振り下ろす。


 当然、当たらない。


 だが“反撃できる”という意思表示にはなったはずだ。


「なら――これはどうですか!」


 鬼頭の掌に魔力が集まり赤い光が灯る。


「《ファイヤーボール》!」


 圧縮された魔力が弾け、火球が生まれる。

 空気が歪み、周囲の温度が一瞬で跳ね上がった。


 「おい、やり過ぎだ!」


 山本さんが怒声をあげ、学生の二人が息を呑む。


 魔力により放たれた火球が一直線に迫る。


 避けられない速度ではない。


 だが、炎を視界に捉えた瞬間――


 喉の奥が焼けるような錯覚。

 耳鳴りが走る。

 視界が真っ赤に染まる。


 脳裏に蘇る、フォレストビーストの最後の一撃。


 一瞬、足が鈍る。


 ――まずい。


 咄嗟に魔術で、風と水を生み出し衝撃と熱を少しでも和らげる。


 爆ぜる音。


 熱風が身体を打つ。


「きゃあっ!」


 小坂さんの悲鳴が、空気を裂いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ