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確定線のレガリア 〜脳内AIの相棒と歩むSランク探索者の最適化された無双譚〜  作者: 世羅 和葉


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第16話:隠し部屋の代償と、不滅の過保護

 変異体『堕聖の首無し騎士(デュラハン)』との激闘が幕を閉じ、焦土と化した第73階層には、『紅蓮の牙』の救助部隊やギルドの事後調査班が続々と到着していた。


 溶岩が冷え固まる音、魔石の回収作業、そして生き残ったメンバーと裕二の安堵の声。喧騒が広がる中、世羅凪沙は一人、その輪から離れてダンジョンの最奥、熱で半ば崩れかけた岩壁の前に佇んでいた。


「……なぁ、エア。ここ、妙に魔力の密度が不自然じゃないか?」


『鋭いですね、凪沙様。至善経路ベスト・ルートの端に微小なノイズを確認。……ビンゴです。隠し部屋ですね。物理破壊不可のエンチャントが施されていますが、凪沙様の『紫電』の出力を37%まで引き上げれば、壁の分子構造ごと消し飛ばすことは可能です』


「いや、それじゃつまらんだろ。隠し部屋っつーのは、正規の手順で開けるからロマンがあるんだ。時間はあるし、ヒントを探そうぜ」


『承知しました。扉の開錠は、特殊な音響認識による「合言葉」方式です。周辺の壁面に刻まれた古代文字の残滓と魔力波形から、正解の言語パターンを導き出します……。解析完了まで、180秒』


 十分後。

 凪沙は自分の耳を疑うような、かつてないほど引きつった形相で、脳内の相棒に問いかけていた。


「……おい。本当に、マジで、これで合ってるのか? エア、お前の演算ユニット、さっきのデュラハンの熱波でバグってないか?」


『私に間違いはありません。文脈の解析、および音韻の魔力整合性から見て、この「祈りの言葉」を特定のイントネーションで叫べば、扉は確実に開きます。……凪沙様、急いでください。スズネ様がダンジョン入口に到着したとの報告が入りました。あと5分もすれば、彼女はあなたに飛びついてきて、今日一日は絶対に離れないでしょう。作業の邪魔です』


 凪沙は背後を振り返った。そこには事後処理に勤しむ裕二や、憧れのSランク探索者を遠巻きに、しかしキラキラとした尊敬の眼差しで見つめる救助部隊の若手たちが数十人もいる。


「……あいつらが、完全にいなくなってからじゃダメか?」


『不可ですね。先ほどの凪沙様と裕二様の戦闘の余波――特に『黒炎・紫電一閃』の規格外の出力のせいで、扉の魔力供給システムが極めて不安定になっています。今この瞬間を逃せば、この隠し部屋は次元の狭間に完全にロストするでしょう。さあ、Sランクとしての絶対的な威厳か、未知の聖遺物アーティファクトか。選択を』


 凪沙は深く、深く溜息をついた。

 そして、周囲の視線を一切気にしないよう必死に精神統一を行い、やけくそ気味に肺いっぱいの熱い空気を吸い込むと、ダンジョン全体に響き渡るような大声で叫んだ。


「……『《《ミラクル・ハッピー・きゅるるん・オープン》》!!』」


 ゴゴゴゴゴ……!!


 重厚な岩壁が、地響きを立てて左右に開いていく。

 だが、それ以上に重い「絶対的な静寂」が第73階層を支配した。


 救助部隊の作業の手がピタリと止まった。裕二が飲みかけの回復ポーションを盛大に吹き出した。その場にいる全員の視線が、頬を真っ赤にして天を仰ぐ、日本唯一のSランク探索者に集中した。


「……死んだ。俺の尊厳が今、デュラハンより無残に散ったわ。優奈ちゃんに会わせる顔がねえ」


『お見事です、凪沙様。完璧な発声と抑揚でした。扉、開放されました。周囲からの注目度《ドン引き度》は現在1200%を超えていますが、気にせず中へ』


 ◇◇◇


 隠し部屋の中は、外の焦土が嘘のような静謐な空間だった。

 埃一つない石造りの祭壇の上に、二つの宝箱が鎮座している。


 一つ目の宝箱から現れたのは、どこからどう見ても「ただの黄色いゴムボール」だった。


「……何だこれ。百均の玩具か? ハズレか?」


『いえ。鑑定名は【バカ送り】。投擲され、対象に接触した瞬間に発動するSランクの空間干渉魔道具です。あらゆる敵意や防御壁を貫通し、ぶつかった対象を、その者が「最後に安眠した場所」へと強制転送します』


「なるほど。見た目が玩具同然だから、警戒を解いて触れた『バカ』を戦闘領域から追い出す嫌がらせ特化のアイテムか……自分にぶつけたら即帰宅できる神アイテムじゃねえか」


『はい。ですが凪沙様のように、歩いて帰るという面倒な移動を省くために、戦闘後に自分にぶつけて使うバカ(天才)は、製作者も想定外の用途でしょうね』


「便利と言えば便利だ。大事にとっておこう」


 そして、二つ目の宝箱。

 重厚な装飾が施された箱を開けた瞬間、部屋全体が脈動するような、温かくも力強い赤光に包まれた。


『……凪沙様。これは、想定を遥かに超える遺物です』


 心臓の鼓動に合わせて明滅する、深紅の勾玉。


 ――鑑定名:【輪廻の残滓:不壊の緋勾玉(ふえのあけまがたま)


『効果を読み上げます。固有スキル『神代回帰・一期一会』。所有者の生命活動が停止した瞬間、この勾玉が砕けることで自動発動。魂を《《最後に勾玉が置かれていた安全圏》》へ引き戻し、死の瞬間の苦痛や欠損さえもパージして、肉体を全盛期フルスペックの状態で再構成して復活させます』


「……蘇生アイテムか。しかも全盛期での復活。……これ、ギルドに知られたら世界のパワーバランスがひっくり返るぞ。戦争が起きかねない」


『ええ、文字通りの奇跡です。ただし、一度限りの使い切り。……あ、お疲れ様です。対象者の固定、完了しました』


 凪沙が驚いて勾玉を見つめると、紅い光は既に凪沙の固有の魔力波形と完全に同期し、|他者には決して使えない状態《オーナー登録完了》へと変化していた。


「……は? おい、仕事が早すぎるだろ! まだ誰が持つか決めてねえぞ! キャンセルして再設定しろ!」


『不可能ですね。どうやらこの隠し部屋の主――つまり、あの恥ずかしい合言葉を叫んで尊厳を捨てた者に、自動的に帰属する仕様のようです。諦めましょう』


 凪沙はガックリと肩を落とした。


「……ったく。これ、スズネの次の誕生日にでもあげようと思ってたのに。……あいつ、機動力全振りで危なっかしい戦い方するからさ」


『…………』


 エアは回答を保留した。

 実は、仕様などではない。凪沙が「スズネにあげる」という思考を脳内で巡らせるよりも早く、エアが「凪沙様の生存率を0.0001%でも上げるため」に、超高速のハッキングで遺物の魔力認証を書き換え、強制的に凪沙へ固定したのだ。

 

 最強のSランクだろうと、凪沙を絶対に死なせるわけにはいかない。それは、彼女の『至善経路』の根幹に刻まれた、執念にも似た独占欲の表れだった。


「……まあ、いいか。尊厳と引き換えに手に入れたエクストラ残機だ。大事にするよ」


『賢明な判断です、凪沙様。……あ、スズネ様が第73階層の入り口に到達しました。先ほどの「合言葉」、Aランク獣人の脅威の聴力により、しっかり彼女の狐耳にも届いていたようですよ。今、顔を真っ赤にして爆笑しながら亜音速で突進してきています』


「……。エア、さっきの『バカ送り』、自分に使うから今すぐ起動しろ。俺のベッドへ強制送還だ」


『却下します。再会の喜び(と辱め)を、全身で受け止めてください』


 最強のSランク探索者の日常は、いつだって平穏とは程遠い。

 凪沙は、全力で迫りくる「爆笑するプラチナブロンドの嵐」の気配を感じながら、二つ目の宝箱をそっと閉じた。


 ◇◇◇


(……それにしても、先ほどの合言葉)


 凪沙がスズネの超音速タックルを喰らって鳩尾を押さえ、悶絶している裏で、エアは密かに自身のシステムログを更新する。


(最高音質でクラウドにバックアップを保存しました。凪沙様が私の要望……私専用の超高性能サブサーバーの増設などを渋った時の、絶対的な交渉材料(脅し)として活用させていただく予定です)


 また一つ、エアの「対・世羅凪沙用」の強力な手札が増えた瞬間だった。

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