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 イルリットの和睦会合に便乗するダヴァルット

 バールデシタの帝都の城。摂政のダヴァルットの執務室。

 ダヴァルットは執務机で書類に目を通していた。


 〚旦那様。執事のメヴァールでございます〛


 「入れ」


 「失礼いたします」


 「何用か?」


 「ミウラール王国のイルリット第三王子の続報が届きました」


 「そうか。見せてくれ」


 「はい。どうぞ」




 「待て。これ


 「はい。特別回線でございます。何故か極秘とも言える内容です」


 「そうだな。イルリット・ファ・ウォーガット騎士爵か」


 「北の要に据えたようです。抑止力的効果を狙った事も考えられますが」


 「それも有るだろう・・・これは何だ」


 「イルリット・ファ・ウォーガット騎士爵が先ずはこちらと接触して和睦を進めたいのかと」


 【つきましてはバールデシタ帝国の定める国境線では無く、国際法が定める国境線上に於いて第一回の和平を前提とした会合を持ちたいと存じます。

 こちらからはわたくしイルリット・ファ・ウォーガット騎士爵と従者五名。領地軍十名。

 廃嫡された身では有りますが今現在新たな大使は任命されておりませんので、わたくしが今もって王命で全権を担っております。

 可能であればヴァラジルッド・バールデシタ皇帝陛下のご臨席を賜りたいと存じます。

 不可能であれば決裁権をお持ちのお方で同数の付き人。

 会合の日時はお任せいたしますが、これから冬となります。

 会合に同意いただき、陛下のご臨席を賜れば、その場で食料他のお礼(目録)を差し上げたいと思っております。

 ご返答をお待ち申し上げております】


 「やりよったな小僧め・・・ん?」


 「渡りに船とはこの事です」


 「そうか。そうだな。両方ともを潰すチャンスか?」


 「いえ。三か所です」


 「イルリット。兄。後は?」


 「ジルベイン・ヴァルイア伯爵」


 「なるほど。同行させて一網打尽か」


 「はい。事故に見せかけ、全てを死人に口無しのイルリット坊ちゃんに被せる。

 いくらお強いと申しましても、数十人を守りながらの奇襲攻撃には耐えられませんでしょう。

 そして、その責任はミウラール王国。

 バカ共しかおりませんので交渉はこちらが更に優位。

 賠償としてミウラール王国の国土の北の三分の一。少なくともウォーガット領。半分から進めるのも良いかもしれません。

 ヴァラジルッド・バールデシタ皇帝陛下の ご家族のお命 としては安いものでございます。

 護衛として赴いたジルベイン・ヴァルイア伯爵は我が国でも臣民に愛された軍師。副官を含めた ご家族のお命 は陛下と並んで何者にも代えられません。

 悲しむ帝国民に癒しが必要です。

 ナメナット女王国と国境を隣接している王国管理領地。ナールメイルを賠償として差し出す事。途中の国土の往来の安全の保障。

 どこかの 賊が襲って被害が出ればその領地を賠償として差し出す事。

 バカ共は気付く事も無いでしょう。

 ただ、雪が降りだしますと一回の往来に時間がかかります。早急なご判断が必要かと」


 「君も中々の悪だな」


 「摂政殿下ほどでは」


 「誰を使う」


 「捨て石で良いでしょう。冒険者崩れ百人程に往時の食事と酒と女性の無料保証。成功報酬金貨二枚で十分でしょう。後始末は旦那様のヘルクロウで確実に」


 「ダイナマイトで粉微塵か?」


 「バカたちも調査はするでしょうし、させない訳にもいきません。痕跡を残す訳にはいきません。あの地区では進軍以外には使った事が有りませんから」


 「いっそのことバカ共共々」


 「それは辞めになった方が良いでしょう。

 ピグダット・ファム・ミウラール国王陛下以下バカは残しておいて、こちらの都合の良いように操れば良いのです。他の十三国迄従います」


 「十三か国はピグダット・ファム・ミウラール国王陛下と懇意なのか?」


 「懇意とまでは行かずとも、それなりにお付き合いは有ると思います。でなければ他国も易々と従いませんでしょう。

 幾ら聡明だったお母上のマーリレス様の威光が有っても。

 六年前の国交断絶時もピグダット・ファム・ミウラール国王陛下の書簡を携えておりましたよ」


 「そうだったな。先ずはナメナット女王国のクールシャインナ・フラーナス女王陛下と会合としよう」

 

 「当然必要な事でしょう。バールデシタ帝国。九代目。ダヴァルット・バールデシタ皇帝陛下のお披露目ですから」


 「そうだったぁぁ。よっしゃぁぁ。よっしゃぁぁ。おっ。うっうん」


 「イルリット坊ちゃんに足を向けて寝られなくなりましたな」


 「良い子だと最初っから思っておったよ。

 棺に入れる副葬品は何が良いと思う?我が国の最高品をプレゼントしなければならぬだろうな」


 「十七歳にお成りになった聡明でお美しくお優しいユファイン姫様との許嫁の打診」


 「良いではないか」


 「六年前にイルリット坊ちゃんもお会いになっています。

 戦略的婚儀は珍しい事ではありません。

 相手が十二歳にして世界を股に掛け、十八歳となった今でも女性にとことんお優しいと伝わってきているイルリット坊ちゃんであればヴァラジルッド・バールデシタ皇帝陛下もカチューシャ皇妃殿下もご納得のお相手でしょう」


 「爵位の差を不思議に思うのではないか?」


 「和睦を望む皇帝陛下が帝国内の無能貴族のドラ息子におもちゃにされるより、イルリット坊ちゃんと言う和睦に最も近いお方に嫁がせた方が得策とお考えになると思いますよ。

 イルリット坊ちゃんもそのくらいは想定されるでしょう」


 「なるほど。その通りだな。最高のプレゼントではないか。金も掛からんし。

 ついでだ。ヴァノシャル皇子の許嫁となっているシャルーナお嬢も


 「さすがにそれはお止めになった方が良いでしょうな。

 先にも言いました通り、イルリット坊ちゃんは女性に親しいお方。あっちだこっちだはお望みではないでしょう」


 「知らんから良いのではないか?」


 「ヴァノシャル皇子殿下がご同行しますが?」


 「口を滑らす可能性が有ると?」


 「幼馴染の大の仲良しです。まぁ極論の例えですが、ヴァラジルッド皇帝陛下は国の命運より二人の幸せを選ぶでしょうね」


 「兄貴よ、それでいいのか。まぁそれも然りか。シャルーナをユファインと同じように扱っているからな」


 「ですからご退場いただくのです。

 毒で思考が混濁しているとは言え、聡明なお方です。いらぬ思惑に感付かれても困ります。それは無しと言う事で。

 ユファイン姫様だけで十分でございますよ」


 「この二十五年。ようも生きたわ」


 「間違っていないかの確認で何人死んだことか。

 致死量を遥かに超える量も数度。不思議でございます」


 「例の計画は?」


 「最終段階に来ております。もう間もなく手に入ると連絡が来ております」


 「それが手に入れば猛毒も可能なのだな」


 「はい。歴史上、口伝にしか存在しない猛毒となります」


 「ドラゴンの卵とはなぁ」


 「旦那様」


 「おおすまん。だが、直接殺した方が早いのではないか?」


 「旦那様もお疲れになって、わたくしも一旦は諦めましたが猛毒が手に入るのであれば、わたくしも意地でご・・・もう必要ございませんな」


 「あっ。そうだな。中止にしよう」


 「現在念話が届きません。それなりに対応いたします」


 「まぁいい。それも含めた、その苦労もここまでだ。僅か金貨二百枚程で私の夢が叶うな」


 「いえいえ。あくまでも成功報酬。払う相手が居なくなります」


 「そうであったな」


 「体と武器程度。転移紋を使わせれば凡そ二日の行程。摂政殿下が飽きて来たという女性を城から出せば大した出費にはなりません」


 「新しい娘は用意できるのか?」


 「早急にご用意いたします」


 「益々イルリット様様ではないか。わぁぁはっはっは。

 本日中に計画を策定できるか」


 「お任せください」


 「向こうへは両日中に返答する」


 「畏まりました」

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