城内でイルリット騎士爵暗殺計画
その一か所。
玄関ホールの壁際では下級貴族の五人が集まり。
「おい。本当に処刑されたぞ」
「エヌスリー。不敬罪の塊だ。当然と言えば当然だろう。
子爵もどうにかしている。
さすがに俺でも陛下の名を使って増税などしないぞ」
「エヌツーが言う通り、すぐにばれるとは思わなかったのか?上位の子爵で失礼だが、アホだろう」
「エヌフォーよ。ただ、俺達ものほほんとはしていられないのは明らかだ」
「エヌスリーが言う通りそうだな。
領地開拓、開墾予算。
街道整備。治水工事予算。
魔物対策予算。
新技術開発予算。
ギルド協力金。
他も有るが、全てマーリレス元妃殿下の肝入りの国土開発費用。
これをここの全員が結託して横領」
エヌスリーが。
「いい小遣いなんだよなぁ」
エヌフォーが。
「恐らく他の奴らもやっていると思うぞ」
エヌワンが。
「他の奴ら等いい。
問題は八年間何もしてこなかった事だ。
領地を見られたら一発でバレる。
新技術の開発部門など部屋があるだけで人員も研究機材も無い。
一年間の結果報告も論文も過程報告書すら無い。
エヌフォーの所など、橋が壊れたから渡し船にして料金をくすねているだろう」
「うるせぇ。儲かればいいんだよ。
と、言っていられなくなるだろうな。
それでエヌワン。呼び寄せた理由は何だ」
「財務部をイルリット騎士爵が完全に抑えた」
「「「「何ぃぃ」」」」
「元財務職員で残っているのは居ないと言っていい。
元マーリレス妃殿下の傘下でイジルバーバラ王妃とダーレス宰相に強制退職させられた者達が戻って来ているようだ」
「全員か?」
「そうなるだろうな。
財務部が在る三階のフロアーは貴族も含めて部外者立ち入り禁止となっている。
近衛兵の見張りが就いた。
現状は誰が財務職員か判らない。
抱き込む事も脅迫も出来ない状態だ」
「三階から降りてくる者をチェックすればいいだろう」
「常時張り付いていれば怪しまれる」
「入れ替わったのはどうして判った」
「職員の逃走者。逮捕者。処刑者続出で判った。
それとマーリレス元妃殿下が前国王の許可の元でお建てになった王城三階への直通後宮が特定の人員のみに開放されている。
あの後宮は数十家族が住める仕様になっている。
で、そこに裏手から移り住む者を数人の使用人が目撃したようだ。公安が警備に当たっていたようだな。
八年間イルリット第三王子殿下でも入れなかった場所だが、地下牢に行ったダーレスも毒殺疑惑のイジルバーバラ王妃も何も言えないようだな。
完全にイルリット騎士爵に首を掴まれた陛下も無理だろう」
「そこまでなら何とかなるのじゃないか?」
「バカかエヌスリー君は。
イルリット騎士爵がマーリレス元妃殿下の行動を継承しない訳が無いだろう。
マーリレス元妃殿下はほんのちょっとの事でも現地に赴き確認をなさって行った。
それこそドーナッテン・ファイ・シラーケド子爵の領地で起きた前陛下肝いりの開拓集落が魔物で壊滅した時に、剣を携え魔物の巣窟に向かったぐらいだ。
そしてマーリレス元妃殿下の調べで状況証拠と物的証拠なる物が出てきて国家予算の横領が暴露された」
「「「「あぁぁぁ」」」」
「ウォーガット領を容易く離れられないイルリット騎士爵が直接巡察に回るとは思わないが、そう言った部門を必ず創設させるはずだ。
想像だが、その部門は公安の傘下となるはずだ。
そうなれば具の音も出ん」
「お前は一体何が言いたいんだ。
今から八年分を取り繕うことは無理だぞ」
「まぁ待てエヌツー。
お前達も聞いた通り、イルリット騎士爵はエスランク冒険者にも国軍兵にも負け無しだ。かなり腕は立つのだろう。
だが、所詮は一人
「まさかお前」
「ああ。イルリット騎士爵には死んでもらう」
「「「「んんんん」」」」
「俺達の命と贅沢三昧の生活が懸かっている。
むざむざと断頭台に送られるのはごめん被る。
徹底的に反抗する。
で、無能で甘い汁をたんまり分けて下さるピグダット陛下とイジルバーバラ王妃。ダーレス宰相を憂いから解放する。
そうなれば功績を認められ下級貴族などと言われない子爵や伯爵だ」
「「「「おぉぉぉ」」」」
「俺達が支えるメドーダス殿下が次期国王。
正規の息子でなくても解放の功労者である俺達が指示を出して陛下の養子にすればいい。
ダーレス宰相も陛下暗殺を暴露された以上は何も言わないだろう。
いや、俺達がそう仕向ければいい。
何なら教会の孤児院からいい子を連れ来て、陛下の元で幸せに暮らせるようにすれば教会も何も言えないだろう。人質だ。
そしてお前や俺の所の娘を差し出して、陛下の子が生まれれば男子なら正規の王位後継者。女児でも政略的に使える。
俺達五人で巨万の富のミウラール王国を裏から操れるようになる。
取り敢えず、ピグダット陛下を含めた六人で現状維持をすれば俺達の将来は安泰だ」
「「「「乗ったぁぁ」」」」
「いいか。極秘案件でこの五人以外の貴族の協力者を募るな。必ず話しが広まって露見する。
そしてイルリット騎士爵を暗殺するのは俺達じゃない。
食うに困っている冒険者や冒険者崩れを集める。
食と住居。領内の女をあてがってやれば即従順になびく。
金などほとんど掛からない。
どうだ。
今から俺の屋敷で詳細を詰めないか」
エヌフォーが。
「期日的な予定は?」
「まぁ、それも含めて話しをする予定だが、ウォーガット領が完全に落ち着くまで。
自給自足が出来たとしても、野菜が育つまで何日もかかり一人で出来ることも限られている。
実行は一週間から十日以内と言ったところか」
「「「「行くぞ」」」」
「何だ。いきなりか」
エヌフォーが浮足立ったように。
「善は急げだ」
「判った。行くぞ」
「「「「おぉぉ」」」」
五人は走る寸前の歩みで玄関へ向かっていった。
少し離れた壁際の柱の陰に貴族的な衣装を纏って、身を潜めていた公安の一人が。
「バカな奴らだ。完全に無警戒で骨の芯まで平和ボケに犯されちまったのかねぇ。
何がエヌワンだ。顔を晒している時点でバレバレだアホ。
端っから屋敷で話しをすればいいものを。
それにしてもイルリット王子殿下は凄いですねぇ。
こういった話しが必ず出てくるから貴族が集まっていたら可能な限り聞いて下さいとは。
おい。お嬢様。そっちはどうだ」
「まぁお嬢様だなんて、嬉しくなっちゃうわ。
どう?このドレス似合う?」
「ああ。とってもお転婆お嬢様だ」
「うんもぉ。素直に褒めてくれればいいのに」
「素敵な殿方でも言い寄って来たのか?」
「ぜぇぇんぜん。だぁぁれも。素敵なお嬢様がここ居たのにぃ。
でも、お陰でとても面白いお話しが聞けましたわよ。
さすがはマーリレス様の御曹司様であらせられます。
必ず罪人を解放して国家転覆を目論むお方達が出てきます。って。
こんな大事の捜査なんて、お坊ちゃん。お姉さんはワクワクしちゃいますわ」
「確かにな。今までには無いやりがいを感じるな。
そっちは」
「「「「ばっちり」」」」
「大方終わったようだな」
「玄関外もその様です」
「屯所に戻って隊長に報告だ」
「「「「「了解」」」」」




