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 カガミザキホテルの警備係

 「お帰りなさいませ。ブレンドル様。ラーライナ様」


 「ただいま」


 「ただいま。ミーリスさん」


 「こちらはルクイッドギルド長様と受付のメルナ様でいらっしゃいますね」


 「初めましてだな」


 「宜しく。んで、あの騒ぎは?」


 「申し訳ございません、騒がしくしておりまして」


 「あのガキ、スイートルームがどうのこうのって言ってないか」


 「直ぐに


 「ルクイッド行くぞ」


 「ああ。勿論だ」




 受付カウンターに右ひじを乗せ、乗り出すような姿勢のど派手な衣装の少年とミニスカートで仁王立ちの少女が居た。

 受付のお嬢さんは軽く頭を下げた状態で毅然と対応している。

 周りの客はソファに座ったり立ったままだったり、待合スペースで静かに成り行きを見ている。

 そして少年は遠慮の無い声で。


 「だからぁぁ何度言えば解かるのかな君達は。

 僕はぁ十四か国のギルドに色んな物を卸してる大商社。ジョゾウホン商会の長男でぇニックキガルド・ジョゾウホン。

 一昨日彼女と二人で卒業式だったから、彼女とスイートルームに泊まりたいの。解かる?

 お金なら五倍払うと言ってるでしょ。

 君達で話しが通用しないならぁユーナリ社長を呼んでって言ってるの」


 「あんたらいい加減にしないとうちの親父が出てくるよ。

 知ってるだろう。ウォーガット領の南でこの国を守っているヒルデンブルック・ファイア・ヒコットセン子爵。その次女のあたしがデラマジシー。

 西隣の領主はドーナッテン・ファイ・シラーケド子爵様だ。

 その嫡男ナンデネンはあたしの親友だよ。今回の卒業生の中で最強だよ。いいの?あんた達死ぬよ」


 「はい。お二人の事はよく存じております。ですが、現在スイートルームはお客様に


 「だからその客と話しをさせろって言ってんだよぉ。あたしが話しを付けてやるって言ってるだろうがぁぁ」


 「畏まりました。その様に致します」


 「三十分もイライラさせやがって。最初っからそういやぁいいんだよ」


 「で、そのスイートルームのお客様が俺達なんだがな。

 ヒルデンブルック・ファイア・ヒコットセン子爵の次女デラマジシーお嬢様」


 「あんた誰?」


 「悲しいわねぇ。わたくし達をお忘れに?」


 「ババァに知り合いはいねぇなぁ」


 「わたくし達はちゃぁぁんと覚えていますのにぃ。

 ヒルデンブルック・ファイア・ヒコットセン子爵に言いつけましょうか。

 領都の土トカゲを秒で屠ったエスランクのブレンドルとラーライナを忘れてしまったって」


 「あっあぁあぁ


 領都で甚大な被害を出していた七メートル級の土トカゲ。

 ヒルデンブルックは領地軍も壊滅的被害を受けてからようやくギルドに依頼。ただ、人的被害も時間的猶予も無かった。

 と言うのは建前で領都の城に向かって土龍が動き出したため、自分達の命に危機が迫ったから。

 そこでわたくし達に直接依頼が来た。そして二人で正に秒で討伐した。

 彼女がへたり込むのも当然。向こうから提示の報酬の残り半分の金貨二十枚を踏み倒そうとしているのですから。


 「おらっお嬢逃げんな」


 「ゆ 許してぇぇ」


 「何を」


 「お お金は払うからぁぁ」


 「そりゃ払わなきゃお嬢と姉ちゃんが身売りって親父が契約してたもんな」


 「あ”ぁぁぁ」




 「よぉ久しぶりだなぁ。ニックキガルド・ジョゾウホン」


 「ルクイッドギルド長様ぁ。メルナ様もぉ」


 「ジョゾウホン。息子君の躾がなっていないようだな」


 俺はニックキガルドが直ぐに解ったので、親父を呼んで後ろに控えさせておいた。

 親父は俺の後ろで五体投地しやがった。

 それに寄り添うように息子が。


 「パパぁぁ」


 「申し訳ございませんでしたぁぁ」


 そりゃそうなる。何せ俺が全てのギルドの仕入の元締め。

 初めの頃はいい奴だったんだが徐々に悪い噂しか聞かなくなった。そろそろ周りに示しが付かないと思っていたころだ。

 息子は威張っちゃいたが数ある仕入先でも半分以下の位置だ。儲かってはいるようだが。


 「五体投地したって今更だ。ギルド契約で社長は人間性に問題あり。跡継ぎは人に迷惑を掛けるクソ人間。十四か国のギルド全てに出入り禁止を通達する」


 「そこを。そこは何とかぁぁ」


 「十三か国の国王陛下や女王陛下が気に入って、ここを守ると仰った。お前も聞いていてその条項にサインもしているよなぁ」


 「はいぃぃ」


 「で、他の客に迷惑を掛けての営業妨害。ナメナット女王国の女王陛下が聞いて首は繋がっているんだろうかぁ」


 「お見逃しを」


 「受付のお姉さん」


 「タイプスと申します。ルクイッドギルド長様」


 「タイプスさん。こいつらこういった妨害工作は何回目だ」


 「録画の証拠がある限りで、本日で丁度十回目でございます」


 「録画「してたの?」


 タイプスが再生ボタンを押し、カウンターに声が響いた。


 『僕はぁ十四か国のギルドに色んな物を卸してる大商社。ジョゾウホン商会の長男でぇニックキガルド・ジョゾウホン』


 「「あ”ぁぁぁぁ」」


 「映像も残っておりますよ」


 「完璧でございますね。で、最低十回たぁまた凄い回数で」


 「おやじさんよぉやってんなぁおいっ」


 「申し訳ございませんでしたぁぁメルナ様ぁぁ」


 「僕ちゃん」


 「はい。ルクイッドギルド長様」


 「お前のこの行動をお父ちゃんは知ってたか?」


 「し しりゃないと


 「受付のわたくしの目の前で伝授しておいででした。

 その時の録画も保存しております」


 「はい終了。メルナ」


 「十四か国全てのギルドに通達した。

 違反したギルド長はクビだ。そりゃ各国の陛下達に睨まれるからな。いくら国とは別機関と言っても。

 で、既に納入した物品は別として、本日契約分は返品返金と予約発注分はすべてキャンセル。損害請求の一切は受け付けない。

 当然だ。反社会店舗とマーリレス様がお造りになったギルドは契約しない」


 「パパぁどうしようぉぉ」


 「ドーナッテン・ファイ・シラーケド子爵様に相談してみる」


 「何だよ知らねぇのか。ついさっきその嫡男のナンデネン。王城の処刑台で首が落ちた。

 家族全員も今日中に後追うぞ」


 「う そ。ナンデネンが」


 「なぁお嬢様よ。五千人の見受け人が居て、ギルド長が居て、ギルド受付嬢が居て。エスランクの俺達が嘘つける訳ねぇだろう」


 「ゴクマーズも」


 「家族って言ったろう。当然だ」


 「い いやぁぁぁ」


 (へたり込んで顔を覆って泣いても今更だよ)

 「イルリット第三王子に学校内で暴行を働いた罪で不敬罪の適用だ。

 あぁあ。お嬢様が貴族の名前なんか出すからぁ公安様のお出ましだ。

 デラマジシーお嬢様はご存じ無かった?ニックキガルドはどうなんだ?」


 五人の公安が帯剣を押さえながら入って来た。


 「通報を受けて参りました公安のカルットアです。ルクイッドギルド長。メルナ。ブレンドル?ラーライナ?」


 「ご苦労さん」

 「ひっさしぶりだね」

 「よっ」

 「おひさぁ」


 「ルクイッドギルド長。私達必要でした?」


 「お貴族様のお嬢様がそこで泣いているよ。

 一番事情を知っているのがこちらのタイプスさん」


 「タイプス殿。少々伺っても」


 「はい。・・・・




 「タイプス殿。ご協力に感謝いたします。証拠映像は後程取りに伺います。

 転移紋をお借りしても?」


 「あの者がご案内いたします」


 「三人を連行しろ」


 「「「「はっ」」」」

 「おらっ立て」

 「いやよぉぉ離してぇぇ」

 「頼む許してくれぇぇ」


 「皆さん少々お耳を」


 「どうしたカルットア」


 「詳細は省きますが、実はデラマジシーの一家は・・・・


 「「「「まじでぇぇぇ」」」」


 「はい。では失礼します」


 「「「ご苦労さん」」」

 「ご苦労様でした」


 「ってぇぇカルットアぁぁ待てぇ」


 「何でしょうか?」


 「俺達ヒルデンブルックから土龍の報酬を貰ってないの」


 「後、金貨二十枚」


 「判りました。確認後、申請しておきます」


 「頼む」

 「お願いね」


 「では」


 「ギルドを通さねぇからだよ」


 「緊急事態だった」


 「嘘こけ」


 「はぁあ。タイプスさん遅くなって悪かった。ケガとかは無いか」


 「お気遣いありがとうございますブレンドル様。至って無事でございます」


 「ルクイッドギルド長さん。お茶してく?」


 「判ってて聞くんじゃありませんよ。あいつ等の事後処理が出来た。メルナ行くぞ」


 「頑張ってきて」


 「うんな訳にいくかよ。イルリット殿下の件はブレンドルに任せる」


 「だわなぁ。また今度頼むわ」


 「頑張ってねぇ」


 「で、俺達はリットにまんまとはめられたと」


 「はめたかは判りませんが、茶髪のリット様が当ホテルの専属警備ですから」


 「こうなる事が解かっていて、スイートルームを提供する代わりに警備依頼ですか。あの子もなかなかしたたかになったわね」


 「ブレンドル様。こちら茶髪のリット様にお支払いする予定だった報酬の金貨十枚です。お受け取り下さい」


 「ユーナリ社長から?」


 「さようでございます」


 「判った。貰っておくよ。ラーライナ。サイン頼む」


 「はい」


 「それで、そのユーナリ社長に会えないか?」


 「理由をお伺いしても?」


 「イルリット第三王子が廃嫡されただろ。ユーナリ社長は友人と聞く。イルリット第三王子の件を聞きたいんだが」


 「ユーナリ社長もその件で確認に出かけております。

 他国からの問い合わせも多いので」


 「そうか。何か解かったら教えて欲しいんだが」


 「承知いたしました」


 「ウォーガット領に行ってみる?あの大河を渡るのは至難の業だけど」


 「それもいいがリットにここを頼まれた訳だ。手伝ってやらねぇ訳にもいかねぇさ。

 生きてはいるだろうがな」


 「そうねぇ。タイプスさん。何か有ったら遠慮なく声かけてね」


 「ありがとうございます。そうさせていただきます」


 「お嬢さんの腕なら俺達の出番は無さそうだがな」


 「力と力であれば対応できますが、権力が相手となりますと地位がございません」


 「「なるほどっ」」


 「はい。貴族最上位公爵級エスランク様に頼らざるを得ません」


 「そうだったぁぁあのやろぉぉ」

 「そうでしたわぁぁあの子わぁぁ」


 「ホテルの方から、お茶をごちそういたしますよ」


 「「頂きますぅ」」

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