自分の立場を理解できていないピグダット国王
ピグダットの執務室。
「それでマルージム隊長。これは何だ」
「陛下がご覧になった通りです」
「わしの名を勝手に使って増税か」
「はい。どうも陛下に対する領民の怒りが爆発しそうですよ。
ドーナッテン子爵は王命で逆らえないと言っているようです」
「捨て置けば」
「各貴族が陛下の名を使って傍若無人に振舞い、民衆によってここが攻められ陛下を弾劾。裁判を待たずして殺されるでしょう」
「お前達が居るではないか。国軍も」
「ええ。恐らく傍観者として」
「何故そうなる」
「この証拠書類は民を守る側の法を逸脱しています。
陛下が罪を捨て置けと仰るのであれば同罪。
後は現在の所はイルリット騎士爵に委ねる事になりますから」
「わしは国王じゃぞ。全てわしの命に従わぬか」
「ですから申し上げたではないですかぁ。きのうも誰一人動かなかったではありませんか。もう忘れています?
既に国王陛下は傀儡です。
いいですか。よぉぉくお考え下さいよ。
国王とは従える臣下が国王だと認めるから国王なのですよ。たったそれだけの事なんですよ。
その臣下の中に最強の力を持った者が主の命令だからと殺戮や粛清を行い付き従う者が増え、恐怖した者らが物言わぬ存在になって初めて国王。皇帝となるのですよ。
また、良き行い。英雄や勇者。冒険者のエスエス。今で言うところの茶髪のリットの様なお方が民衆の信頼を得て国王となるのですよ。
失礼ですが、最強の武力又は最優秀の戦略家はいらっしゃいますか?
陛下は英雄で国民の絶大な支持を受けていらっしゃいますか?」
「・・・」
「マーリレス様が豊かで平和なミウラール王国にして財政をも盤石にした。何もしなくて莫大な税金が入って来るまでにした。
そして今の貴族連中はあなたが国王で有れば甘い蜜を吸い続ける事が出来るから奉っているだけで、わたくしからしたら玉座の苔ですよ。
あなたに政の采配の能力が無い事位皆が周知の事実ですよ。
今、財務部が根底からひっくり返され逮捕者も含めて処刑も行う準備中ですよ。
あなたの元から甘い蜜が無くなった貴族は今度はイルリット・ファ・ウォーガット騎士爵に命乞いを模索中です。
その状況で『わしが国王じゃぁぁ。命令を聞かぬかぁ』と、恫喝しても誰も動きませんよ。傀儡国王の意味が解りました?
何か仰りたい事が有ればどうぞ」
「財務はわしの仕事だが」
「この八年。ダーレス宰相に全権を委ねて何もなさらなかった。
そして巨額の横領。貴族達も怒り心頭ですよ。
そしてイルリット第三王子殿下には銅貨一枚もお支払いなっていない。
それを全て認可したのはあなたですよ。
給金未払いから横領と詐欺罪の疑いが掛かっているのですよ。
国家予算の意図した無駄遣いをしたあなたを誰が認めると言うのですか。
今日からはイルリット・ファ・ウォーガット騎士爵が財務部の監査官です。
先程も言いましたが、財務部の全ての官職と職員はイルリット王子殿下の証拠の提示で逮捕者続出で逃亡したり、抵抗したりして処刑されています。
そして後続の官職と職員は十年前に解雇したマーリレス様派を再雇用致しました。
きのうの今日で、今朝の開城と同時にほぼ全てが揃いましたから、イルリット王子殿下は既に根回しをしていらっしゃったのでしょうね。
停滞すること無く、業務は執り行われています。
今後、あなたや犯罪者のイジルバーバラ妃様の一切の指示を受ける事はありません。
諦めてください」
「わ わしや貴族連中が認めんと
「だからもう陛下は必要無いんですよ。貴族連中も認めざるを得ない状況なんですよ。
先日のイルリット第三王子殿下の暴露で全ての貴族が気付いたのです。
マーリレス様がお造りになったミウラール王国で有る事。それを確実に継承なさったイルリット第三王子殿下こそが全ての政の実務を含めた国王だと。
詳細は後日としますが、既に凡そ三分の一の貴族がウォーガット領に向かいましたよ。あなたを此処に放置して。
実権はイルリット・ファ・ウォーガット騎士爵がお持ちです。
わたくし共も今の典範と規範。王国法を逸脱できません。
幾ら陛下の命であってもそれらを逸脱する場合はイルリット・ファ・ウォーガット騎士爵に伺う必要が有るのですよ。
はっきり申しましょう。
今この王城と貴族全ての生殺与奪はイルリット・ファ・ウォーガット騎士爵が握っているのですよ」
「バカを申すなぁぁ」
「まだ判りませんかね。多くの貴族は気付きましたよ。
いいですか。
イルリット・ファ・ウォーガット騎士爵はバールデシタ帝国の軍隊全てと魔物数十万匹の王ですよ。
国境砦を壊し、魔物の蓋を開け転移で逃げるだけです。
その後この国が消滅しようがどうなろうが知った事では無いんですよ。
あなた。陛下がしっかりとしないと全国民はあなたに殺されることになるんです。
今この話しをしましたが、これが表に出ればあなたは全国民に即刻殺されますよ。良いのですか」
「まだ第三王子であろう」
「既にウォーガット領にお入りになり、その書簡のサインもイルリット・ファ・ウォーガット騎士爵となっています。
前倒しは認めん。と、お渡しした書簡に記載は有りませんでした」
「まだわしに采配の実権が有るのか?」
「まぁイルリット・ファ・ウォーガット騎士爵が号令を掛ければ全てが動きますが、未だ国王だと認めていらっしゃるのでしょうね」
「はぁぁぁ。ひっ捕らえて処刑せよ」
「家族のみとなっていますのでその様に致します」
「良きに計らえ。で、外交官たちとの会見は」
「本日の十五時とお伝え・・・まだ見ていらっしゃらないのですか?」
「これか」
「いい加減になさらないと、どうなっても知りませんよ。失礼いたします」
(もう、終わりですね。イルリット様に勝てる方はいらっしゃいませんね。
ここまで言ってもお判りにならないとは。
今この時点からでもイルリット王子殿下に協力を申し出て、改心を示せばなにがしかの延命は受けられると私は思っているのですがねぇ。
このままだと、これからどんどん領地と寿命が無くなっていきますよ陛下)
「はぁぁぁ。国王様のわしに捨て台詞で颯爽と出て行きよったな。溜息しか出んわ。
執務室にたった一人。念話で呼んでも侍女さえ来ぬか。
近衛や軍ばかりではなく使用人達もわしを見放したか。
完全にわしは傀儡となったのかのぉ。
なんでわしはイルリットを嫌ったのかのぉ。寂しいっ」
既にマルージム隊長は十人の部下を引き連れドーナッテンの王都の屋敷に向かっていた。




