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翌日もまた、私が学園へ向かうこととなった。
「オルコット様っ!!」
学園につくとすぐ昨日の女生徒が駆け寄ってくる。たまたまというわけではなく、どうも私を待っていたようだ。
「あら?貴女は…」
「レベッカ、レベッカ・トッテと申します。突然お呼び止めしてしまい申し訳ありません。ただ、ただ一言だけでも昨日のお礼をお伝えすることをお許しいただきたく…」
「そう…」
やはりオルコットに間違いはなかった。
「あのっこれっ、ありがとうこざいましたっ!」
レベッカがハンカチを差し出してくる。
昨日涙を拭った時にそのままあげた物だ。
「あのっ、大丈夫ですっ。ちゃんと洗ってあります。」
「もともとあげたつもりだしいらないわ。」
「…そっか…… それなら洗ったのもったいなかったなぁ。」
レベッカがボソリと呟いたその言葉は私には聞こえなかった。
…しかし、どうしたらいいのかしら?
正直、オルコットが何を企んでいるのか私にはさっぱりわからない。
レベッカの実家は貴族たちにお金を貸しているという話だが伯爵領は不景気から抜け出ているし、金融業として為替手形も販売しており金に困ってはいない。
純粋に商人として必要かと聞かれれば既にお抱えの商人は揃っている。
間者として使いたいのならこんな目立つ形でなくもっとうまく裏で手を回す。
どういう形かはわからないがレベッカの実家を利用しようとしていることはわかる。そしてそれはきっと彼女を不幸にする。
「あっあのっこれっ!御礼です。受け取ってください。」
そんなことを考えていたらレベッカが今度はクッキーを差し出していた。
私としてはレベッカには申し訳ないがあまり関わり合いたくない。
「オルコット様。」
私が下がらせようと口を開くより、早くコレットが口を挟んだ。
普通に考えれば『平民と仲良くするな』ということだが、たしかにその目は『仲良くするように言われているだろ?』と語っているようだ。
「…そうね。授業までまだ余裕もあるし、せっかくだから一緒にいかがかしら?」
「えっ……はいっ!!」
レベッカは本当に嬉しそうに満面の笑みで答えた。
「あのっお口に合いましたか?」
「ええ、美味しいわ。」
「よかったぁ…」
中庭へ移動し、2人でクッキーを食べる。
本当に美味しいわ。
それは私やオルコットの好みに合う素材を活かした素朴な物だった。
一般的に多くの貴族は高価なバターやクリーム、砂糖をふんだんに使ったお菓子を好む。昨日の今日で好みを調べてきたのだろう。
いや、優秀な商人なら突然のチャンスを掴むために有力者の情報は常を集めているもの。オルコットの好みも既に知っていたのかも知れない。
オルコットの狙いはその情報?
しかし一商人が集められる程度の情報をわざわざオルコットが欲しがるだろうか?
「平民で学園へ通っているということはレベッカの実家は商会? 何を営んでいるの?」
「はいっうちは宝石商をやっています。主な商売はダイヤの採掘、加工、販売ですが他所から仕入れての加工販売なんかもしています。」
「そう。」
宝石、それもダイヤを取り扱っているのなら貴族たちにお金を貸しているのも頷ける。この国は不況であるが多くの貴族たちはそんなのお構いなしに高価な宝飾品を買い漁っているし、奴隷の安い労働力で作ったものを他国に売れば莫大な財産となる。
採掘していると言ったし、その採掘権が狙い…?
普通に考えればおかしな話ではない。だがたったそれだけがオルコットの狙いかと思うとしっくりこない。
「あらオルコット。こんなところで何をしているのかしら?」
「これはソフィア様。」
考え事をしていたせいか、私はソフィアとその取り巻きたちの接近に気がつかなかった。
「それは… ぷぷっそれは鳥のエサかしら?」
「まぁ何てみすぼらしいものを食べているのでしょう。」
「しかも平民と一緒にいるとかあり得ませんわ。」
「…すみませんがソフィア様。私たちはお先に失礼させていただきます。」
とにかくこの場を離れたい。
私はレベッカの手を取る。
「待ちなさい。まだソフィア様がお話し中でしょうが!」
「あっ!」
取り巻きの一人に強く押され、私はクッキーを落としてしまった。
ぐしゃっ
そしてそれは追いかけてきた取り巻きに踏み潰されてしまう。
「あらごめんあそばせ。」
「でも細かくなって小鳥さんは食べやすくなったんじゃないかしら?」
「それよりも学園へごみを持ち込んだそちらが悪いのでなくて?」
その事にたいし取り巻きたちはクスクス笑う。
せっかくレベッカが用意してくれたのに…
「ソフィア。」
「あらジャック。」
長躯の男子生徒か割り込んでくる。
ジャック・ベルファスト。王国騎士団総長の息子で王太子カイルとは幼い頃からの友人のはずだ。
「…殿下は既に教室へ向かわれたが、こんなところで油を売ってていいのか?」
「あら? それは急がないと。それじゃオルコット、お先に失礼しますわ。」
そうしてソフィアとその取り巻きたちは急いで去っていく。
「あのっ…」
王太子と仲がいいと言うことはオルコットに良い印象を抱いていないはずだが、これは助けてくれたのだろうか?
「ふんっ。」
だが、私がお礼を言うより早くジャックは私を一瞥しただけで立ち去るのだった。
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