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行動の理由・見栄の張り合い②

                ※                ※                ※




「まあ、半分くらいは信じることにして。そのデータベースを管理する組織は何者なんです? せっかくだから聞かせてくださいよ。もう一杯、コーヒー頼んでしまいましたし」


「……君という奴は。まあいい。呼んだのは私だし。今のは許してあげようじゃないか」ぴくりと瞼を震わせ、なにがしかの感情をこらえるようにこめかみを押さえ、先輩は窓の外を眺めた。つられて清治も外を見る。雪は止んだようだが、到底軽装では外出したくない光景が広がっている。息を吐いて仕方なさげに先輩は口を開く。




「もともと彼の組織は、道路や鉄道、電力、通信といった他のインフラにならぶ位置づけだった。本来の意味のデータベース<文書録>を管理する国の機関。確か名前は、日本情報保全機構。税金が投入される機関にありがちの話だが、幹部の資金私的流用が表ざたになることもしばしばあったらしい。もっとも、後ろ暗いと言っても、税金をうまく使って夜遊びする程度のかわいいものだったと聞いている。それがある時、内閣が強硬に民営化を推し進めた。今から七五年前の話だ。……とはいっても君のことだから知っているだろうけれど」




「恨むなら普段の先輩の行動を見直してからにしてください。……日全なんて、そりゃ標準カリキュラムの中に入っているから知ってますが。わざわざ掘り下げるような中身でもなかったでしょう。確か池永藤吉とかいう、時の総理大臣が強硬に推し進めたとか」


 彼女のコーヒーはどう見ても冷めていた。冷めたコーヒーほどまずいモノはないと個人的には思うのだが、それでもマドラーでずっと液面をかき混ぜ続けていて口をつける様子はない。




「その通り。そしてできた組織がJapan Database Management。表向きは変わらず、データベースの管理の請負を継続。日本情報保全機構は晴れて民間企業の一員となった」


「表向きは?」裏があるような言いぶりに、清治は視線を手元から上へと上げた。底の見えない栗色の瞳が気圧される。


「――きっかけはとある技術の進歩だった」




                 ※                ※                ※




「何故そこまでこだわる? あなた方にとってはもう終わった話でしょう。旧本なんて放っておけばいずれ無くなるというのに、何故?」


 状況から言って、彼らがそう、なのだろう。どこからか監視されていたと考えるのが自然。このタイミングで現れたこと、他に誰もいないことを踏まえるとまんまと誘い込まれたというところか。




 ただ、旧本だけに執着する意味が分からない。確かに知識を得る方法が一つに絞られれば、より彼らにとって都合がいいのは分かるが、現在の社会情勢だってほぼその状態だ。いくら毎日旧本を読んでいたとはいえ、それだけで清治がターゲットに入るのは考えにくい。この人数を動かして、通り魔的に旧本を奪うだけというのも違うだろう。




 ――なら、答えは。


「答える義理はないわ」即座にアンドロイドのような無機質な声で質問は切り捨てられた。そして、少し考え直すように数瞬おいて、


「同士になればすぐに分かるわよ。この世を統一するすばらしい考えをね。まあそんなに知りたいなら、横の女にでも聞いてみれば? おしゃべりはこれで終わり」女は引き金に指をかけた。冷たい銃身がこちらを向いて、鋭く、高く吠えた。




 ばすっという乾いた音。瞬間、右太ももを灼熱が襲う。ぐらりと視界が傾いて、


「……ぐうっ!」否応もなく漏れる声を口内に閉じ込めるために必死で歯を食いしばる。


雪の大地を鮮血が染め上げていた。それが自分の血であることをぼんやりと他人ごとのように感じている。背後で声にならない悲鳴を聞いた気がした。




「あら、いけない。普通の弾が入っていたみたいね、足を狙ってて良かったわ。いずれ同士になる素材だもの、優しくしなくちゃね」興味なさげな声が響く。二人組の他はだれも言葉を発しない。世界が終わったみたいに静かだった。


「おうおう、俺の相方は怖いねえ。ε-158F、おまえ分かってて撃っただろ?」


「どうかしらね。後、気安げに呼ばないで、λ-925R。不快だわ」コードネームを呼ばれた女はニコリともせず銃を構え直す。


「へいへい」




「清治!」「……まだいたんですか。とっとと、逃げろって、いったでしょうに」


「馬鹿! 君はそういうキャラじゃないだろう! 逃げるなら君もだ!」震えを帯びた声にいつもの余裕がない。いつの間にか背後から抱きしめられていた。振り返らなくてもどんな表情をしているかぐらい分かる。


「……たまには、いいじゃないですか。らしく、なくたって。早く逃げてくださいよ」




 右太ももに力が入らない? それがどうした。まだ片足がある。立てる。正面をにらみ返した。まるで右足に体温を吸収されているようだ。ここにきて急に身体が周囲を取り巻く寒気を思い出したようだった。


「いいか、よく聞け。自分は絶対に口を割らないし、あなたたちの仲間になどならない。思考を強制されるくらいならこの場で死んでやる」




 これは清治の意地だ。大事なモノを黙って踏みにじらせるほど、お人好しではない。頭からいろいろなモノが吹き飛んでいた。柄ではない、と自分でも思う。


「おもしろいわね。まだそんな口がきけるなんて。これはここで折ってやった方が楽しそう」


「待てよ。下手に傷つけると怒られんぞ」


「いいじゃない。あいつらそれ以上のことできないんだから。たまに仕事作ってやらないと」


「……待ちなさい」

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