トリップ少女がやってきた(ウェオス編)
異世界からやってきた少女は、リナーシャに無礼な真似をした。そのことに、俺も、ルシアも怒りを感じていた。しかし、周りのものに「任せてください。勝手に動かれるとリナーシャ様に迷惑がかかります」と言われて、動けないでいた。
リナーシャに迷惑がかかるかもしれない、そう思うと俺もルシアも無理強いしてまで動こうとは思わない。……しかし、本当に皆、俺よりもリナーシャを慕っている。リナーシャが俺の敵に回ることでもあれば、俺はすぐに王位を追われてしまうだろう。尤もそんなことはないだろう。リナーシャには、俺を王位から落とそうとか、そういう野心はない。……まぁ、俺がちゃんと国王としての役割をできていなければ、配下の連中は一致団結して俺を廃するだろうし、それだけの力がある。それを理解しているからこそ、俺は王として……考えて行動している、つもりだ。
リナーシャは優しい。
優しいからこそ、八年も通わなかった俺が今更のように愛していると告げても、受け入れて微笑んでくれる。リナーシャがリナーシャだからこそ、俺は惹かれていて。リナーシャのためになんだってしてやりたいって、俺も含めて、皆が思っている。それはある意味危険な思考なのかもしれない。ある意味、リナーシャは傾国ともなり得る存在だとも言える。とはいえ、リナーシャは、そんな危険な願いをしない。リナーシャは何時だって、リナーシャで、だからこそ、俺達はリナーシャのことを好いている。
「俺は、いつリナーシャのために動けるんだ!」
「私も、母上のために動きたいのだ! そして母上に褒めてもらいたい!」
……俺とルシアは、逆に迷惑になるから動くなと言われておとなしくしていたが、他の連中がリナーシャのために動いているのに、俺が動けないのは不満であった。
カインは、そんな俺とルシアに対し隠しもせずに溜息を吐いて言った。
「異世界から来た少女と、あの馬鹿どもを対面させますから。その場はお二人でおさめてください」
「わざわざ対面させる必要があるのか?」
ルシアは不満そうだ。リナーシャの手を煩わせる存在にそんな手間をかける必要があるのだろうか、とでもいうようだ。しかし、俺には分かる。
「ルシア、リナーシャは異世界から来た少女に納得してもらいたいのだろう。このまま対面もさせずに彼らを処罰したとなれば、少女の心象は悪くなるだろう」
「その通りです」
リナーシャはそういう女なのだ。異世界から来た少女の事を本当に心から心配して、彼女に納得してもらってから処罰をしたいなどと考えているのだろう。ルシアは俺がリナーシャの心を理解していることにぐぬぬと不機嫌そうだ。
……ルシアは本当、何処でどう教育を間違ったのか、リナーシャ至上主義がひどいからな。俺も対外盲目だと思うが、ルシアのリナーシャへの盲目っぷりは将来王になった時のことを思うと少しだけ不安が残る。
「ルシア、リナーシャに良い所を見せようではないか」
「はい! 私は父上よりいいところを見せて、母上にかっこいいっていってもらうんです!」
親子が仲良いことはいいことだと思うが、ルシアの妻になるものは大変そうだと、笑顔のルシアを見ながら俺は思った。
そしてそんな会話の翌日、異世界から来た少女と他国の連中は引き合わされた。
異世界から来た少女は最初の対面の時の態度が嘘のように礼儀作法がちゃんとできていた。あれだけ酷かったのは周りの環境と、突然異世界に来てしまったが故の戸惑いからだろうと侍女長がいっていた。
確かに、突然違う世界に行くことになれば誰でも動揺するだろう。予定外に他国に行くだけでも動揺するものなのに、違う世界とは……想像するだけで、違う世界にはリナーシャはいないだろうし嫌だと思う。リナーシャがいれば、違う世界でも楽しそうだが。
そんなことを考えながら、俺やリナーシャに向かって礼儀正しく挨拶をする少女を、驚いたように凝視している馬鹿を見る。
彼らが、そのまま、受け入れて何もしなければ最低限の処分で済んだだろう。そしたら俺やルシアの出番も特にないまま、終わったわけだが、彼らは愚かだった。
「ユイにそのようなことを強要するなんて!!」
「ユイは騙されているのです!!」
そんな声を上げるぐらいに盲目で、少女に愚かでいてほしいと望んでいたのだろうか。
少女は、驚いた顔をして、唖然として、そしていう。
「どうして、そんなことをいうのですか? 私は騙されてなどいません。寧ろ、今までどれだけ無礼なことをしてしまったのか、理解したからこそなのです。ここは他国の王宮ですから、この態度は、当たり前です」
少女は、侍女長からしっかりと学んでいた。だからこその態度。此処は他国の王宮だからそのような態度をしてはダメだよと、その目は、男たちに訴えている。しかし、彼らは———それを理解しない。リナーシャが困ったような顔をしている。
「ユイ!! 貴様ら、ユイを洗脳して許されると思っているのか」
「逆に問うが、貴君らのその態度は許されると思っているのか?」
俺がそう問う。問うても、こやつらは理解しない。元から悪評がそれなりにあるような連中だったらしいが、こんな連中が、権力を持っている国には正直驚く。こういう事態になるまで、助長させてしまっていた国の責任もあるだろう。
「何をいっているんだ。俺たちは——」
「貴君らは既に、身分をほとんど失っている。国に帰っても今まで通りの生活は出来ない」
「なっ」
ドルガがこやつらはなっしか言わないといっていたが、本当にそうなのだななどと考える。
「理解しておらぬだろう、自分たちの立場を」
「本当に愚かですね、父上」
ルシア、俺だけが会話しているのに我慢ならなかったのか割り込んできた。ちらっとリナーシャを見ているあたり、かっこいい姿見てくださいとでも思ってそうだ。
「貴方たちは他国の王宮で、醜態をさらしている自覚がありますか? ないというのならば本当にどれだけ頭が弱いのでしょうか。普通に考えてですね、一人の少女を追いかけたいからという理由で国を開ける権力者など、いらないのですよ」
「俺に何を——それに、いらないはずはない!! 俺は特別なんだ」
おおう、どれだけ自意識過剰なんだ。どうやったらこうなるんだろうかと疑問だ。
39歳の王までそれに頷いているのは、なんなんだろうか。よくその国もったな。よっぽど側近が頑張っていたのか……? まぁ、確かに王位を廃することには労力がいるし、滅多なことではしないだろうが、此処まで放っておいたのは酷いぞ。
「特別? この世で特別なのはたった一人だけです。貴方たちなんて邪魔になれば排除されるだけの存在です」
……リナーシャのことをいっているのだろうなとわかる。
「ルシアの言うとおり、貴君らは、祖国に見捨てられている。それはなぜか、貴君らが、それだけのことをしでかしているからだ。我が国は、貴君らがそれを理解し、反省の様子を見せるのならばと期待していたのだが、それはどうやら無駄だったようだ。異世界より来た少女よ」
俺は、リナーシャの前であるしと威厳のある態度を心掛けていう。
「――は、はい」
「貴君は、彼らへの処罰は正当だとわかるか?」
「………はい。皆は、とても失礼なことをしています」
ユイ・カンザキがそういった瞬間、男たちが「ユイ!?」と叫んでいたが、もう放置である。彼らが処罰されても仕方がないと、少女は理解した。ならば、目的はもう完了している。
「では、その無礼ものを連れていけ」
「はっ」
命令を下せば、騎士たちは彼らを連れて行った。さてあの面倒な連中を処罰して、国に送り返さなければ。我が国におかれても面倒なだけだ。
その後、リナーシャは異世界から来た少女に選択肢を与えたいと色々と面倒を見ることになる。俺とルシアは、リナーシャが異世界から来た少女に構いすぎていることにもやもやした日々をしばらく過ごすのであった。
一応これで終わりです。
気づいたら更新止まってたりして、完結まで長かったですが、書ききれてほっとしています。
少しでも読者様が楽しんでいてくださればと思います。
ドロドロしていない後宮ものは書いていて結構楽しかったです。
2017年12月20日 池中織奈




