第34話 五人目、六人目
それから三日が経ち、藍川の風邪もすっかり治っていた日の放課後の事。
部活に向かおうと廊下を歩いてラウンジの前を通り過ぎる時、背後から声が聞こえた。
「おーい、凪」
「あ、棺先生」
白衣姿の棺先生が、プリント片手に立っていた。
近くを通り過ぎて行く女子生徒達がきゃあきゃあと小声で黄色い歓声を上げている。
「どうかしたんですか?」
「いやな、今日の授業の所なんだけど……」
その時、ラウンジの窓付近がざわつき始めた。男子も女子も数人が集まり、何か一点に集中している。
所々の単語で、「煙……」とか「火?」とかの言葉が聞こえている。
「? 何かあったのか?」
棺先生が興味津々にそちらへ向かう。授業の所はどうした。
棺先生が来たのに気が付いた女子達が少し赤い顔になる。一言二言話して棺先生も窓の向こうを見た。そして「凪、凪、おいで」と手招きをする。
「何ですか?」
前の方に立っている男子の所為でよく見えない。ぴょんぴょんと飛び跳ねてもさっぱり分からない。「抱っこしてやるよ」「結構です」とかそんな会話を棺先生としていると、女子の視線が少し痛かった。
それでも何とか前の方に辿り着き、その光景が見える。
何てことは無い。ちょっと離れた所の一軒家から煙が出ているだけだった。
「……え、何あれ。火事?」
近くの女子生徒が誰に言うでもなく呟いた。
あの辺りは畑があるわけでもないから、黒っぽい煙がもくもく出ているのはどう見てもおかしな光景だった。
「焚き火で焼き芋してんじゃない?」「それだけであんな煙出るか?」「焼畑!」「だから畑ねえっつーの」「えーなになにぃ? 何かやってるのぉ?」
わらわらと人が集まって来て、押される圧迫される。そしてそんな何人もの視線が集まっている一軒家から出ていた煙が、一瞬ゆらりと動いた。
そして次の瞬間、大きな火が上がった。
「キャアアッ!」
ざわつきが大きくなり、女子の悲鳴が上がる。同時に外からサイレンの音が聞こえ、消防車の姿が見える。
明らかに騒がしくなったその場から、一度抜け出す。同じように棺先生も人混みから離れていた。
ぐしゃぐしゃになった髪を手で軽く直し、視線を合わせる。棺先生は少し笑って言った。
「見に行くか!」
今日の部活は休みにしよう。
現場は凄い騒ぎだった。
家からは火が上がり、絶えずパチパチと焚き火の時のような音が聞こえる。燃え上がる一軒家を見る野次馬達は、不安そうな表情をしながらも携帯で写真を取る人が多かった。
到着していた消防隊員達が周囲の野次馬に離れるよう呼びかけ、ホースを片手に周囲の地面に水撒きをしていたりした。家の火元を目がけて水をかける。当たった部分は少し火の勢いが弱まるが、他の部分の火は燃え広がって行く。
「これは時間かかりそうだな」
棺先生が冷静に呟いた。
この家の中に人はいるのだろうか。いるとしたら、助かるのだろうか。そう思ってから、辺りにいる野次馬を眺めていた。
真剣な表情で火を見つめる初老のおじいさんや、好奇心旺盛に輝く瞳で火を見つめる少年達。老若男女問わずその火元を眺めていたが、そんな中で二人の子供がこの場から離れて行くのが見えた。
「あれ?」
別に、野次馬に飽きたとかそういう理由なのかもしれない。けれどその二人の後姿に、少し見覚えがあった。
棺先生もそんな私に気が付いたのか、「どうした?」と声をかけて来る。説明するのは難しかったので、曖昧に返事をしてその二人を追いかけた。棺先生も付いてくる。
二人は小学生くらいの男女で、私達には気付かず早歩きでその場を去って行く。二人で何かを喋っていたようだったが、私達には聞こえない。
火事現場から少し離れた所で二人が裏路地を通り抜けようとしていたので、声をかける。
「ねえ、ちょっと!」
「「っ!」」
二人は息を飲み、同時に勢い良く振り返る。思った通り、その顔には見覚えがあった。
二人とももう十月半ばなのに、夏に会った時の半袖短パン姿だった。胸に書かれている『男』、『女』という文字は少し色褪せていた。
天然パーマの茶髪で、女の子の方は吊り上がった瞳、男の子の方は垂れた瞳で。夏に海で出会った双子だった。
「えっと、みつきちゃんとほしとくん……だったよね?」
そう言うと、二人は一瞬だけ顔を見合わせて訝しげな表情になった。けれどほしとくんが、
「あ……海で会ったお姉さん、でした、よね?」
と言うので、「そうだよ」と微笑みと共に言った。すると二人は少し慌てながら、
「そっ、そうよ。また会ったわね、お姉ちゃん」
「お久しぶりです、お姉さん」
「うん、久しぶり」
まさか『久しぶり』という言葉を使うとは思っていなかった。もうこの二人に会うことは無いだろうと思っていたから。
棺先生にも一応紹介しておいた方が良いかなと思って見たけれど、みつきちゃんの方をじっと見つめていたから何も言わないことにした。このロリコンめ。
「二人ともこの近くに住んでるの?」
「そうです。両親と一緒に」
はっきりとほしとくんが言う。みつきちゃんもこくこくと頷き、そこでふと気になっていることを尋ねてみようと思った。
「ところで何であそこにいたの?」
「それは……いきなり火が出てて、驚いたから…………」
そう言ったっきり二人は下を向いて黙り込んでしまった。少し体を強張らせ、両手を握り締め、視線を定めていないその姿が、まるで私が虐めているかのようで少し気が引ける。
「あ、それじゃ、ぼくたちはこれで……」
おどおどとしたままで、ほしとくんがそう言って立ち去ろうとする。少し変だなとは思ったけれど、私も手を振って別れの挨拶を言おうとした時――
棺先生が、ひょいとみつきちゃんを抱き上げた。
「きゃあっ!?」
「おー、軽い軽い」
「何すんのよ! 離しなさいよぉ!」
突拍子の無いその行動に少し驚き、呆れる。ほしとくんも必死なみつきちゃんを見て、慌てた様子で棺先生を睨んで叫ぶ。
「何するんですか! 海月を離してください!! ……っあ」
海月?
棺先生はその台詞にほしとくんを見下ろしたが、特に気にしない様子でそのまま抱き上げたまま。頬ずりをしたり頭を撫でたりと、遠慮が無い。
「あーもう、本当幼女は可愛いなああ!」
「その発言犯罪ですよ」
棺先生はすすっと手の位置を移動させる。頭から、ズボンに。正確にはズボンのポケットの中に。
みつきちゃん……は、思い切り目を見開く。そして棺先生の手から逃れようと細い四肢を動かしジタバタ。けれど棺先生は顔や肩に拳が当たっても気にしないで、ポケットの中からお目当ての物を取りだす。みつきちゃんをひょいと地面に下ろし、
「ライターゲットだぜ!」
言った通り緑色のライターを右手に持ち。みつきちゃんが取れないよう高々と上空に上げて。子供と大人の身長差、更に高身長の棺先生の手からライターを取ることは難しい。
「ちょっ」みつきちゃんはぴょんぴょんと飛び跳ねるが、「返し」ジャンプしても手が掠る事さえ無い。「てよっ!」
同じクラスの男子にからかわれて帽子を取られた時のような悔しさと焦りがあるのだろうか、みつきちゃんは少し涙目になっていた。
ライターか……前に海で会った時にはマッチ箱を持ってたんだっけ。
マッチにライター。どちらも、火を付ける為の道具だけど……。
「こんなのどこで拾ったんだ? お前らが買えそうな物じゃないよな」
あくまで冷静に淡々と尋ねる棺先生だったが、尋ねられている二人は少しおびえているような気がした。何に対して脅えているのだろうか。
「さっき拾ったのよ! あの家の近くでっ! 何か文句でもあるの!?」
苛立ったように睨まれる。でまかせだろうと何だろうと、勢いで言ったのであろうことは分かる。
だから棺先生は更に追い打ちをかけた。
「それ本当か?」
「……本当よ!」
少し間が開いた返事が返って来た途端、棺先生はわざとらしく素っ頓狂な声を上げた。
「えー! それは大変じゃないか! だったらあの家の火事は放火の疑いがあるってことだろう? 犯人が落としてった道具かもしれない!」
その台詞に、二人が目を見開いたのが分かった。少し唇が震えていたが、それを私達に気付かれないように隠そうとしているのも。
棺先生はそれに気付かないフリをして、私も何も言わないままで、二人の反応を見続ける。
「ボヤでも何でも、放火は犯罪だからなー。このライターから指紋が検出されたりしたら犯人も見つかりそうだよなー」
大根役者さながらの演技でも、今の二人には相当堪えているようだった。
何をそこまで脅える必要があるのか。どうして顔が蒼白になっているのか。大体予想は着くけれど、完全に確信が持てるまで待つ。
それは、そう待たなくても大丈夫だった。
「どうしよっかなー。どうする? 凪」
私に振って来たので、顔の表面に微笑みを張り付けて「警察に届けたらどうでしょう?」と答えてみる。
棺先生は満足気に頷き、声を少しだけ大きくして言った。
「じゃあ、今すぐ警察に届けて来るよ!」
「駄目っ!!」
大声を出してそれを制止したのは、みつきちゃんだった。
棺先生がニコニコと微笑んだまま、軽い口調で「どうして?」と聞く。
「それ、は……その、えと」
震える声と涙目を我慢しつつ、納得して貰える答えを必死で探す。棺先生がその姿を見て「可愛いなあ」と真顔で言ったのが少し不気味だった。
ほしとくんも何も言えず、黙ったままでみつきちゃんの手を握る。
そして最後にもう一度、棺先生は尋ねた。
キョロキョロ辺りを見回して、人が誰も通って無いことを確認してから、
「お前らが燃やしたの?」
二人の肩が跳ね上がった。顔は更に血の気が失せ、震えが大きくなる。必死で首を横に振り、何か言おうと口を開きかけていたが、そこから言葉が出る事は無い。どっちにしろ、その行動で確信が持てたけれど。
二人はお互い涙目になった顔を見合わせて、小鹿のように震えたままで、そしてほしとくんがみつきちゃんの手を強く握ったのを合図として、
「逃げろっ!」
その場から逃げ出した。そして、
「逃がさんっ!」
「うわあっ!」「きゃあっ!」
棺先生に、背後からお腹を抱えるように捕まった。
二人とも必死にもがくけれど、子供と大人の力の差じゃあ抜け出せそうに無い。棺先生も棺先生で、「二人とも軽いなあ。つか本当軽過ぎ、ちゃんと飯食ってる?」とか言いながら頬ずりをしている。
「じゃー取りあえず移動するか。逃げようとしてもすぐ捕まえるからね」
「っ…………」
「…………」
棺先生のその言葉に顔を歪めて、大人しくなった二人を抱えたまま棺先生はどこかへ歩き始める。私もその後を追った。
「ここどこよ」
「俺の家」
二人を拉致するような格好のまま向かった先は、棺先生の家だった。壁に貼られたポスターや本棚に置いてある本などを見て、みつきちゃんの顔がさっきとは違う意味で青ざめる。ほしとくんもみつきちゃんを自分の背後に隠すようにして、棺先生を警戒している。
「やだなあ、何もしないってばぁ」
へらへらと笑う棺先生を睨み、みつきちゃんは無愛想に尋ねる。
「じゃあ何でこんな所連れて来たのよ。拉致監禁? 誘拐されたの? あたし達」
その台詞にほしとくんも脅え始める。震える視線は主に棺先生に注がれていたけれど、私にも微量注がれた。何か悲しい。
棺先生は「対象年齢だから、出来るならしたいけどねー」とか意味不明なことを呟いていたが、不意にこう言った。
「まず自己紹介をしてみましょー!」
「「は?」」
二人の呆れたような声が重なる。私もそう言いたかったが言葉を飲み込んだ。確かに棺先生はちゃんとこの二人の名前を聞いたわけではないが、何故このタイミングで言うんだろう。
棺先生は無言で微笑みを絶やさない。しばし沈黙が流れてから、ほしとくんがようやく口を開く。
「…………田中、ほしと……です」
「……田中みつき」
続いて、みつきちゃんも渋々と。
棺先生はそれを聞いて少し頷く。そして、
「で、本名は?」
「「「……は?」」」
また二人の声が。それに私の声も重なった。何を言ってるんだこの人は。けれどよく見れば、みつきちゃんとほしとくんの顔は少し強張っていた。
棺先生は私達に説明するように、丁寧な物腰で話し始める。
「さっき、『海月』って言ってただろ? あれが本名で、みつきとほしとってのは偽名なんじゃないか?」
凪が名前を言った時も、ちょっと反応遅かったし。そう言って棺先生は二人を見据えた。
二人は無言で俯く。けれど、もう白状してしまうしか無いと分かったのか、諦めたように言葉を発した。
「青海海星です」
「青海海月よ」
え、嘘。偽名だったの? 全然気付かなかっ「えー! マジで偽名だったの!?」「おい」棺先生の驚く声に思わず突っ込む。
勿論二人もきょとんとして、その後すぐみつ……海月ちゃんが憤怒の形相になる。
「マジでって……! あんたまさか当てずっぽうだったの!?」「うん!」迷いの無い返事。「馬鹿野郎!」
立ち上がって棺先生に近付いて、足で軽く蹴ってまた戻って座る。「うわー、幼女キック」とか何か血迷った事を言っている棺先生の事は皆が無視を決め込む。
海月ちゃんはぶすっとむくれた表情で、海星くんはそんな海月ちゃんを少し心配するような目で見て。
「はい、お次は年齢家族構成職業その他諸々を教えてください、はいどうぞ」
まるで高校の先生が受験の面接の時に聞くかのような口調で……って、この人一応高校教師だったんだよな。愛称に『先生』は付くのに、全く教師って感じがしないぞこの人。
そんな私の心境は誰にも知られないまま、二人の言葉に忘れ去られる。
まず海星くんが、汗を一筋垂らしながらおどおどと。
「えと……十一歳、家族は双子の姉の海月だけです。それで…………」少し口籠ってからも、意を決したようにはっきりと、「今まで何人も、毒で殺してきました」と言った。
そしてそんな海星くんを見た海月ちゃんも、目を更に吊り上げて喋る。
「十一歳、海星は双子の弟。…………人を、燃やして殺した」
口をへの字に結ぶ。これでいいだろ? と言う風に二人はこちらを見つめ、別にこの場から逃げ出そうとしているとか、そういう感じでは無かった。
その場にじっと座ったまま、微動だにしない。
「…………ふむ、十一歳ね」
「そこだけ捉えますか」
さっきから年齢とかにしか興味行ってねえこいつ。この部屋の内装なだけあるんだろうか。「大丈夫だよ海月。海月はぼくが守るから」「私も守ってあげるからね」「う、うん」「あれ? 俺、四面楚歌?」
「それより……両親は?」
「それは――――」
海星くんが話そうと口を開く。けれど海月ちゃんがそれを遮り、「あたしが話す」と言った。
昔話が語られる。
「あたし達の家は、少しおかしかった」
その言葉を初めとして、次々に語られる。
「パパとママは、いつも喧嘩してて。あたしと海星はいつも怒られたり殴られてた。小学校にいる時だけが痛く無かったけど、家に帰るといつも痛かった。だからあたし達はそんなパパとママが昔から……大嫌いだった」
思い出したのか、ギリ、と歯を噛み締める。
小学校にいる時だけが『楽しい』じゃなくて、『痛くない』。『あたし』じゃなくて、『あたし達』。
「それで、半年前。パパが凄く怒ってて、あたしを何回も蹴った。海星が止めてくれようとしたけど……パパには勝てなかった。でもその日の夜遅く、あたしがトイレに行こうとしてリビングに行った時……」「パパとママは、リビングで倒れてたんです」
海星くんが後を引き継いで喋る。海月ちゃんは不安そうに海星くんを見たけれど、海星くんはそれに曖昧な微笑みで答えるだけだった。
「パパもママも、いつも遅くまで起きてコーヒーを飲んだりしてたから。それに二人とも、眠れない時はお薬を飲んでたのを知ってるから。それが、睡眠薬ってことも。だから……ぼくは、コーヒーにお薬をたくさん混ぜた」
すると当然、二人は眠くなって寝てしまう。睡眠薬にも色々あるし、即効性だったり遅効性だったりするだろうけど、量が多ければその分眠くなる……と、思う。よく分からないけど。
「その時に海月が起きてきてそれを見て。凄く驚いてたよね、あの顔」少しくすっと微笑んで、海月ちゃんを見る。海月ちゃんは少し困ったように微笑んだ。そしてまた海月ちゃんが語り部を引き継ぐ。
「そして、海星があたしに『一緒に逃げよう』って言ったの。パパとママの知り合いは一人もいなかったし、近所の人もあたし達を避けてた。つまり、頼れるのは自分達だけ。……パパとママをこのままにしてたら大変だから。パパとママはもういなくなって欲しかったから。だからあたしは、家に火を付けたの」
少し遠い目をする海月ちゃんは、切ない笑顔になりながら溜息を付く。「綺麗だったなぁ」と呟いて。
「で、あたし達はその後ずっと二人で暮らしてきた。家から持ってきたお金はすぐ無くなったし、子供二人だけの生活は凄く不便だった」
「行く当ても無いし、ぼくたちはもうここで死んでしまうのかなって思った時。ぼくたちは決意したんです」
「「人を殺して、生きて行こう」」
人を殺したりしない限り、お金を得ることは出来ない。その時の二人はそう思っていたらしい。
きっと他にいくらでも手段はあっただろう。優しい人に頼れば、殺人なんてしなくても幸せに生きて行けただろう。
だけどまだ幼過ぎる二人には、そんな簡単な考えさえも難しい事だったのだろうか。
「……それで、今ここにいるの」
海月ちゃんがそう言って話を終える。私も棺先生も黙り込んで、二人を見つめていた。
「そうか」
そう言って棺先生は、両手を二人の頭に乗せる。そしてわしゃわしゃと無造作に撫で、微笑んだ。
「お前ら、偉いなあ」
「ぅ……あ、べ、別にそんな…………」
少しパニックになる海月ちゃん。顔を少し朱に染めて、目を白黒させる。海星くんも大体同じような感じだったが、少し顔がまどろんでいた。
「大丈夫だよ、安心して。私達は君達のことを警察に言ったりしないから」
「え? 何で、ですか?」
驚く海星くんに、棺先生が答える。
「俺達も同じだからだよ」
「え…………え!?」
その反応に微笑んで、棺先生が立ち上がる。
「取りあえずこれからどうする? 風呂でも入る? 俺と一緒に」変態だ。
「うあ……お風呂…………」
そう言うと海月ちゃんはちょっと黙ってしまう。けれど妙にそわそわして、私や海星くんをチラチラ見ていた。
やっぱり入りたいんだろうかね、女の子なんだし。生活に苦しいと言うなら、お風呂だってあまり入って無いだろう。
「どうする?」
私が尋ねると、海月ちゃんは少し照れながら俯いた。
「……入りたい」
ん、よし。
「じゃあお姉ちゃんと一緒に入ろうか。海星くんもね」
「え、ぼくもですか?」
「勿論」
「俺は?」
「後でお願いします」
四面楚歌ーと不貞腐れる棺先生に苦笑いをしながら、私達はお風呂を借りることにした。




