表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Γanthanoid Graffiti  作者: 次野/うずらの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/19

case 12 続・探偵マウロ



 外観とは裏腹に、埃っぽさはなかった。



 入ってすぐの礼拝堂にはベンチが並べられ、祭壇に十字架はない。かわりに、片腕と頭のない天使を模した偶像が高々と置かれ、地下につながっているであろう階段が丸見えだった。


「引き返すなら今だ」

「ひきかえさない。きっとツユが中にいる」


 白砂散らばる階段に、うっすらと足跡があった。


「ツユー!!」と階段を下りながら彼女を呼ぶが、声が吸収され響かず。下りれば下りるほど静けさが際立ち、足音まで立たなくなってくる。


「――禁止区域(スオウ)みたいだ」


 ぼそりと呟くマウロは いつになく真剣で。


「その口振りだと、行ったことがあるんだな」

「まあな」

「…………だから、思わないのか」

「ん?」

「禁止区域の惨状を見たのなら、薬などあったところでとな」

「もっとわかりやすく言ってくれ。よく分からない」

「キミは影津氏に、治療薬の開発に参加してもらいたくはないのかね。彼なら――」

「できないから しないんじゃないのか? それか、患者さん ゆーせんとかな」


 マウロにも影津氏の真意は分からない。

 けれど、怠慢でないことだけは はっきり言える。


「あいつなりに白砂病のこと勉強してるし、できるならやってる、とボクは思う」


 そうして階段を下りれば、病院のロビーのような空間に出た。


 電力は生きている。

 照らされた床に無数の足跡が。一番形がはっきりしているものは、自分たちより半歩前。

 そして右に――――『STAFF ONLY』の扉に入っていったようだが、開いてはくれない。


「ツユ、いるのか!! ボクだぞ、開けてくれ!! あ、おっちゃんもいるぞッ!!」

「……それで開けてくれるとは思わないが」

「おっちゃん、はっきんぐ、できないのかッ?」

「無茶を言うな。壊そうものなら一生開かなくなる」


 カードリーダーにイスを投げつけようとしていたマウロの手が止まった。


 扉がダメなら、診療室になにかあるかもしれない。

 ①、②、③、と。

 施錠はされておらず、どの部屋もデスクとパソコン、簡易ベッドがあるだけで、よくある病院の診療室だった。カーテンで仕切られた先には手術台があって、3部屋ともここに繋がっている。

 カルテはすべて電子で管理しているようだが、システム自体が破損して閲覧不可とのこと。

 男が診療室を物色している傍ら、マウロは一足先にカーテンの先へ足を踏み入れた。


 結晶化した内臓を取り出したり、移植するための設備だろうか。

 立派な手術室だった。


「点滴バックも多いな……ん? さい……? これ眠くなるやつだよな」


 豊富な薬品も揃っている。


「こっちは痛み止め……いや、ちがうな。なんだこれ」


 マウロに馴染みがなくても、男は職業柄よく知るものだった。


「――ずっと起きているための薬、だろう」


 しかし、脳を休ませない代償は白砂病よりも悲惨だ。そうまでして逃れたかった足掻きが、他の施設と変わらない全員昇華なんて皮肉なものだった。



 診療室には戻らず、手術室から出られる廊下を見つける。

 その先は『STAFF ONNY』の扉、再び。

 カードリーダーはなく、こちらからは自由に出入りができるようで、



三浦みうらさんは」

「キングのところだ」


 中から聞こえた話し声に、男は銃をかまえた。


「おいッ!!」と、マウロは声を荒らげるが……。


 ロビーを監視するモニター兼、休憩室のような部屋には、誰もいなかった。

 ロッカーや大きなテーブルなど、全体的にとっ散らかっていて、白砂もちらほら。


 男は部屋を物色する。が、身につけていた衣類なども一緒に散るため、IDカードの類いも見当たらなかった。

 ロビーに出られる側の扉は、こちらからだとすんなり開き、これで一通り見て回ったことに「あ痛ッ!?」――ならない、ようだ。


 足跡をたどっていたマウロは、ごちんと壁にぶち当たった。

 壁に半分飲み込まれた足跡と、()()に掛けられているホワイトボードが不自然で。おもむろに押すマウロに、男も手を貸した。


「ちょっと動いたぞッ」

「んっ」

「もっと本気で押せよなッ」

「キミもな……!!」

「ボクが本気で押したところでビビだぞッ!!」


 そうして動いた壁、もとい隠し扉の先にはさらなる奥に続く廊下が――――まっすぐ延びているわけではなく、すぐ左折を強いて、直進か右に。

 手術室からでもこの廊下に出られるようで、施術した人間を右に曲がった先に安置するのだろう。


 男とマウロが横並びになっても、まだまだ余裕のある廊下なのに、どこか窮屈に感じるのは安置する部屋のせいだった。

 独房のような小部屋とカプセルホテルよりも狭い、人ひとりが横たわれる空間が廊下を挟み込んでいて、盛り塩ならぬ盛り砂が所構わず点在して。


「ここも開かないな」と男は独房を。

「こっちもだ」とマウロは小さな空間の扉を、がちゃがちゃと開け閉め。


 こちらは透明な扉になっており、中の様子がよく見えた。

 ふかふかな四方とコードがたくさん。上部にはカメラがあって、目視できる情報はこれだけで。



 2人は奥へと進んだ。



 下り階段と部屋が3つ。

 どの扉もスチール製で、突き当たりと、左手前の階段横の部屋にはカードリーダーが。

 右の部屋にはそれがなく、中がどんな風になっているのか――――おそるおそる近づいたマウロに自動ドアが反応する。

 と、同時に卓上の機械が起動音を発した。


 形の崩れていない盛り砂が1つ確認できるだけで、男の腰のあたりまである台は、マウロにとって見えづらいものだった。


「おっちゃん、抱っこ!」


 視界が開けば、コーヒーメーカーのような機械のそばに置かれたトレーに、スプーンとIDカードが転がっていた。


「やったな!」と気を取られていると、隣の機械が水色のぶよぶよした、なにかを生成し始め、マウロは手を引っ込めた。


 あらかじめセットされていたボウルにとぐろを巻くが、最後はひとつにまとまるくらい、柔らかいものとなる。

 男はIDカードをマウロに、渡した手でスプーンを掴み、ぶよぶよをすくって見せた。

 見た目よりも粘度はなく、さくっと千切れて、無臭だった。


「……た、食べ物、なのか?」

「おそらく」


 被験者だけでなく、スタッフも、これ。

 白砂病に効く成分でも入っているのだろうか。

 仕方なく食べているのか、そうでないのか。



 教団の全貌はまだまだ見えてこなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ