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Γanthanoid Graffiti  作者: 次野/うずらの


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14/15

case 11 探偵マウロ



「待てー!!」



 住宅地に響く、よく通るマウロの声。

 ここも例のごとく至る所で工事をしており、闇雲に追いかけても体力ばかりが削られる。


 小さな歩幅がもどかしかった。


 いつ見失ってもおかしくないくらいの距離感に、マウロは自分の中で『非常事態』を発令する。

 二足歩行になったとて、ヒト以上に跳躍力があれば、バランス感覚だって健在だ。ARの身体能力をフルに使って、ブロック塀や屋根を横断、男を直線距離で追った。


「そこの男ーッ、止まれぇーッ!!」


 男の進路に先駆けて、彼めがけてダイブ――――したマウロを男はキャッチする。


「止まったッ!?」

「……これ以上、不審者扱いされたくないのでね」


 そう ため息をついて、マウロをゆっくり降ろした。

 逃げ出す様子はない。


「怪しいから仕方ないだろッ」

「捜査官には見えない、と?」


 しゃがみ込む男に、マウロは大きく頷いた。


「おっちゃんだろ。病院うちに きょーはくぶん送ってきたの」


 手紙と同じ匂いが微かにする、とド直球に告げれば、男はすんなりと認めた。


「私は、彼が零〈ゼロ〉に関わっている資料を探している」

「先生は きょーそさまじゃない!!」

「それは零〈ゼロ〉の施設に行けば分かること。そこに入るには彼女が――マミヤツユの協力が必要不可欠なんだ」


 施設に資料がなければ先生の無実は証明され、そこを調べればツユの詳細も自ずと……。


「共に、悪魔の証明といこうじゃないか」


 立ち上がった男は、手を差し出してくる。

 マウロに断る理由はなかった。


「ツユに乱暴なことしないな?」

「今の説明でする意味はあったかな?」

「ない!」




     *




 男に付いていくと、行き止まりに案内された。

「ここだ」なんて。お世辞にも綺麗とは言い難い、パンクした自転車や脚の折れたテーブルなどが不法に放置されている。


 マウロのじとっとした視線を感じ取った男は、奥を指さした。


 うっすら開いた勝手口。

 その先は手入れのされていない雑草が蔓延る庭と、外壁にツタがからみついた教会が、ぽつん。


「順調にいけば、彼女はここにたどり着いたはずだ」

「自信たっぷりだな」

「そうなるよう、工事や修繕の注意書きに手を加えたからな。連日の雨様々と言ったところかな」


 この敷地に入るための正面の門は、鎖でぐるぐる巻きにされていた。

 よじ登れそうな足場はなく、教会に身を隠して追跡を逃れるしか方法はなさそうだ。現に、勝手口から教会の入り口にかけて、雑草が倒れている箇所がある。


「入るぞ」


 男はガスマスクを手にしており、おそらくツユにと用意していた1つをマウロに渡した。が、マウロにはその必要性が分からない。


「言わずもがな、ここに零〈ゼロ〉の地下施設がある。気休めだろうが、」


 続くのは言葉ではなく、砂だった。


「おっちゃんッ!!」

「……っ、私も、例の……流行、病だ」


 魔の領域にあてられたようだ、と冷静に受け止め、息を整えて言った。


「これでも末期でね。一瞬で散らなくてよかったよ」

「そう、なのかッ?」

「染めなければ彼女くらい真っ白だ。私は進行が遅いみたいでね」


 壮年に見える男の実年齢は、もっと、うんと上、なのかもしれない。

 孫、ひ孫……もしくは、玄孫。それくらい年の離れたマウロを案じてガスマスクを勧めるが、魔の領域なら、やはり必要のないものだ。



 白砂病患者がここで散らない根拠はないが、渡されたガスマスクはツユのため。

 腰にぶら下げ、いざ内部へ――――。



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