case 11 探偵マウロ
「待てー!!」
住宅地に響く、よく通るマウロの声。
ここも例のごとく至る所で工事をしており、闇雲に追いかけても体力ばかりが削られる。
小さな歩幅がもどかしかった。
いつ見失ってもおかしくないくらいの距離感に、マウロは自分の中で『非常事態』を発令する。
二足歩行になったとて、ヒト以上に跳躍力があれば、バランス感覚だって健在だ。ARの身体能力をフルに使って、ブロック塀や屋根を横断、男を直線距離で追った。
「そこの男ーッ、止まれぇーッ!!」
男の進路に先駆けて、彼めがけてダイブ――――したマウロを男はキャッチする。
「止まったッ!?」
「……これ以上、不審者扱いされたくないのでね」
そう ため息をついて、マウロをゆっくり降ろした。
逃げ出す様子はない。
「怪しいから仕方ないだろッ」
「捜査官には見えない、と?」
しゃがみ込む男に、マウロは大きく頷いた。
「おっちゃんだろ。病院に きょーはくぶん送ってきたの」
手紙と同じ匂いが微かにする、とド直球に告げれば、男はすんなりと認めた。
「私は、彼が零〈ゼロ〉に関わっている資料を探している」
「先生は きょーそさまじゃない!!」
「それは零〈ゼロ〉の施設に行けば分かること。そこに入るには彼女が――マミヤツユの協力が必要不可欠なんだ」
施設に資料がなければ先生の無実は証明され、そこを調べればツユの詳細も自ずと……。
「共に、悪魔の証明といこうじゃないか」
立ち上がった男は、手を差し出してくる。
マウロに断る理由はなかった。
「ツユに乱暴なことしないな?」
「今の説明でする意味はあったかな?」
「ない!」
*
男に付いていくと、行き止まりに案内された。
「ここだ」なんて。お世辞にも綺麗とは言い難い、パンクした自転車や脚の折れたテーブルなどが不法に放置されている。
マウロのじとっとした視線を感じ取った男は、奥を指さした。
うっすら開いた勝手口。
その先は手入れのされていない雑草が蔓延る庭と、外壁にツタがからみついた教会が、ぽつん。
「順調にいけば、彼女はここにたどり着いたはずだ」
「自信たっぷりだな」
「そうなるよう、工事や修繕の注意書きに手を加えたからな。連日の雨様々と言ったところかな」
この敷地に入るための正面の門は、鎖でぐるぐる巻きにされていた。
よじ登れそうな足場はなく、教会に身を隠して追跡を逃れるしか方法はなさそうだ。現に、勝手口から教会の入り口にかけて、雑草が倒れている箇所がある。
「入るぞ」
男はガスマスクを手にしており、おそらくツユにと用意していた1つをマウロに渡した。が、マウロにはその必要性が分からない。
「言わずもがな、ここに零〈ゼロ〉の地下施設がある。気休めだろうが、」
続くのは言葉ではなく、砂だった。
「おっちゃんッ!!」
「……っ、私も、例の……流行、病だ」
魔の領域にあてられたようだ、と冷静に受け止め、息を整えて言った。
「これでも末期でね。一瞬で散らなくてよかったよ」
「そう、なのかッ?」
「染めなければ彼女くらい真っ白だ。私は進行が遅いみたいでね」
壮年に見える男の実年齢は、もっと、うんと上、なのかもしれない。
孫、ひ孫……もしくは、玄孫。それくらい年の離れたマウロを案じてガスマスクを勧めるが、魔の領域なら、やはり必要のないものだ。
白砂病患者がここで散らない根拠はないが、渡されたガスマスクはツユのため。
腰にぶら下げ、いざ内部へ――――。




