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Γanthanoid Graffiti  作者: 次野/うずらの


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12/13

case 10




 “禁止区域のような場所だから、義行に要請が来た”

 “そして、そこはARでも立ち入れる”


 動物は白砂病にならず、元が動物のARも無縁だ。

 管理の観点から活動範囲も限定的で、FOCUSのある中心街と、ARの管理局がある隣の地区の2ヶ所のみで、だいぶ絞られてくる。




 義行の独り言を得た、その翌日。

 さっそく、それらしい建物を探しにかかった。


 お店のことは心配いらない。

 元々ケイを迎えに行くつもりで、数日間閉める予定を変更せず。


 昨日の雨が嘘のようだった。

 晴れ渡った空の下、カアナとマウロはサングラス姿で仁王立つ。SPを意識しているわけではなく、強い光から眼球を守るためのもの。と、分かっていても、タイチは横目でため息をついた。


「……なんで、俺?」


 バンダナを外した素の彼は、不満を口にする。


「時間がないの。3人で探すより、4人で二手に分かれたほうがいいじゃない」

「外す必要がねえ」

「1番つよそうだろ!」

「あ?」


 素であれなかれ、マウロは怯まない。


「ボクとおまえとじゃ、動けないしな」

「カアナとでも良くはねーんだよ」


 原則、ARだけで行動することは禁止とされている。が、カアナはぱっと見た感じヒトなので、なんちゃって保護者を装えるのだ。


「ツユがおそわれたら、ボクじゃ太刀打ちできないッ。猫かぶってるシバ(おまえ)は とにかく優しいから、素のタイチ(おまえ)がテキニン!」


 そう言って、タイチに抱っこをせがんだ。首を傾げつつ望み通り抱き上げると、マウロはふつうのバンダナを彼の首に巻く。


「もっと持ち上げてくれ!」

「ん」


 タイチの顔に全身押し当てて、首の後ろで必死に結ぶ。早くしろとも、自分でやるとも言わないタイチは、マウロが落ちないようにそっと背中に手を添えるだけ。

 それを1歩引いて見ていたツユに、カアナは耳打ちする。


「――――あんなんだけど、よろしくね」

「こ、こちらこそですっ……」


 つられて小声になるツユに微笑んだ。


「怖がってないみたいでよかった。ずっと矯正しっぱなしってのも良くないから」

「変な気遣いすんな」


 ばっちり結んでもらったタイチが、カアナのそばにマウロを降ろした。


「おまえも無理に――」

「またっ、お話したいと思って、いたのでっ……!」


 よろしくおねがいします、とツユは頭を下げた。


「……かしこまるな、慣れてない」

「す、すみませんっ」

「謝るのもなし」

「りょ、りょかい……です」


 なんだか悪くない雰囲気だ。


「カアナ、ボクたちはおじゃまだッ。早く行こう!」

「あらやだ。こーいうことは気が利くのね」


 タイチに睨まれる前に。2人は足早に出発する。

 猫ちゃんの逃げ足はなかなかのものだった。



「体調、ヤバくなったらすぐ教えろよ」



 2人とは逆の方向に、ツユとタイチも歩き出す。

 中心街の広場から、外れにある集合場所の公園まで。何カ所か怪しいところを回るが、距離はそんなに、だ。


 それを引け目に感じる余裕がないくらい、ツユの体力は度重なる嘔吐で低下していた――――にも関わらず、雑居ビルならガンガン入って行くし、塀で囲まれている私有地となれば、人目のつきにくいところでタイチに肩車してもらい、内部を覗き見……、と積極的に動いていく。


「そこでなにをしている」


 運悪く見つかっても、変におどおどせず。


「風で、地図が……。こちらに飛んできたはず、なんですけど」


 逃げるでもなく、本当に地図を拾ってきてもらい、不審者を回避する芸当も。対岸の建物を使って覗き見する予定を、良い意味で崩してきた。




「ちょっと休まないか」



 タイチの呼びかけに、ツユはきょとん。

 細い腕をくの字に曲げて、まだまだ行けるアピールをするが、2時間が経っていた。


「場所の確認と水分補給も。春先だからって油断してると痛い目みるぞ」


 突然ぶっ倒れてしまっては元も子もない、と適当に見繕った飲み物片手に、遊歩道のベンチに腰掛けた。


 タイチは水。

 ツユは、ハニーレモネード。


 潤わない滋養(スムージー)にするか、潤うだけ(レモネード)にするか。迷った上での、潤う滋養(ハニーレモネード)は、タイチが選んだものだ。


 ツユはゆっくり、噛むように飲んでいく。


 その傍らで、タイチは地図を開いた。怪しい場所と優先度が書き込まれており、今のところ優先度無視で進んでいる。

 そろそろ このあたりを切り上げて、郊外に向けて歩き出してもいい頃合いだ。


 横目でツユの様子を窺うと、ハニーレモネードを太陽に透かしていた。

 煌めく黄金色の液体と氷を見つめて、また飲み始める。を繰り返すが、口に合わないことはないようだ。


 一抹の懸念も無くなり、タイチは地図に視線を戻した。

 行った場所に×印をつけていると、今度はツユが。おずおずと覗き込んでくる。


「――次は、どこにします、か?」

「そうだな……」


 タイチは集合場所の公園を指さした。


「何ヶ所か経由つつ……いや、そんなに寄らねえ」


 現在地から目的地まで、控えめな手つきがえげつないルートを提案してくる。


「アンタ、時々大胆だよな」

「か、可能な限り、確かめたい、というかっ」

「優先度が低いのは下調べの段階でシロなんだと。でもまあ、その。アンタのそういう姿勢は嫌いじゃない」


 ほんの少しだけ口角を上げて、タイチはツユの意志を尊重した。

 全部は回れないが、まっすぐ向かうつもりだった道のりをちょっとだけ。



 ――あー、ちょっとまだ通れないだ。

 ――すみません、あちらから迂回してもらえたら。

 ――車が立ち往生しちゃってんだ。ありゃあ当分動かないね。



 ちょ――――っとだけ逸れたはずが、工事や修繕など至る所で通行止めをくらい、えげつないルートばりに遠回りをする羽目となった。




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