case 10
“禁止区域のような場所だから、義行に要請が来た”
“そして、そこはARでも立ち入れる”
動物は白砂病にならず、元が動物のARも無縁だ。
管理の観点から活動範囲も限定的で、FOCUSのある中心街と、ARの管理局がある隣の地区の2ヶ所のみで、だいぶ絞られてくる。
義行の独り言を得た、その翌日。
さっそく、それらしい建物を探しにかかった。
お店のことは心配いらない。
元々ケイを迎えに行くつもりで、数日間閉める予定を変更せず。
昨日の雨が嘘のようだった。
晴れ渡った空の下、カアナとマウロはサングラス姿で仁王立つ。SPを意識しているわけではなく、強い光から眼球を守るためのもの。と、分かっていても、タイチは横目でため息をついた。
「……なんで、俺?」
バンダナを外した素の彼は、不満を口にする。
「時間がないの。3人で探すより、4人で二手に分かれたほうがいいじゃない」
「外す必要がねえ」
「1番つよそうだろ!」
「あ?」
素であれなかれ、マウロは怯まない。
「ボクとおまえとじゃ、動けないしな」
「カアナとでも良くはねーんだよ」
原則、ARだけで行動することは禁止とされている。が、カアナはぱっと見た感じヒトなので、なんちゃって保護者を装えるのだ。
「ツユがおそわれたら、ボクじゃ太刀打ちできないッ。猫かぶってるシバは とにかく優しいから、素のタイチがテキニン!」
そう言って、タイチに抱っこをせがんだ。首を傾げつつ望み通り抱き上げると、マウロはふつうのバンダナを彼の首に巻く。
「もっと持ち上げてくれ!」
「ん」
タイチの顔に全身押し当てて、首の後ろで必死に結ぶ。早くしろとも、自分でやるとも言わないタイチは、マウロが落ちないようにそっと背中に手を添えるだけ。
それを1歩引いて見ていたツユに、カアナは耳打ちする。
「――――あんなんだけど、よろしくね」
「こ、こちらこそですっ……」
つられて小声になるツユに微笑んだ。
「怖がってないみたいでよかった。ずっと矯正しっぱなしってのも良くないから」
「変な気遣いすんな」
ばっちり結んでもらったタイチが、カアナのそばにマウロを降ろした。
「おまえも無理に――」
「またっ、お話したいと思って、いたのでっ……!」
よろしくおねがいします、とツユは頭を下げた。
「……かしこまるな、慣れてない」
「す、すみませんっ」
「謝るのもなし」
「りょ、りょかい……です」
なんだか悪くない雰囲気だ。
「カアナ、ボクたちはおじゃまだッ。早く行こう!」
「あらやだ。こーいうことは気が利くのね」
タイチに睨まれる前に。2人は足早に出発する。
猫ちゃんの逃げ足はなかなかのものだった。
「体調、ヤバくなったらすぐ教えろよ」
2人とは逆の方向に、ツユとタイチも歩き出す。
中心街の広場から、外れにある集合場所の公園まで。何カ所か怪しいところを回るが、距離はそんなに、だ。
それを引け目に感じる余裕がないくらい、ツユの体力は度重なる嘔吐で低下していた――――にも関わらず、雑居ビルならガンガン入って行くし、塀で囲まれている私有地となれば、人目のつきにくいところでタイチに肩車してもらい、内部を覗き見……、と積極的に動いていく。
「そこでなにをしている」
運悪く見つかっても、変におどおどせず。
「風で、地図が……。こちらに飛んできたはず、なんですけど」
逃げるでもなく、本当に地図を拾ってきてもらい、不審者を回避する芸当も。対岸の建物を使って覗き見する予定を、良い意味で崩してきた。
「ちょっと休まないか」
タイチの呼びかけに、ツユはきょとん。
細い腕をくの字に曲げて、まだまだ行けるアピールをするが、2時間が経っていた。
「場所の確認と水分補給も。春先だからって油断してると痛い目みるぞ」
突然ぶっ倒れてしまっては元も子もない、と適当に見繕った飲み物片手に、遊歩道のベンチに腰掛けた。
タイチは水。
ツユは、ハニーレモネード。
潤わない滋養にするか、潤うだけにするか。迷った上での、潤う滋養は、タイチが選んだものだ。
ツユはゆっくり、噛むように飲んでいく。
その傍らで、タイチは地図を開いた。怪しい場所と優先度が書き込まれており、今のところ優先度無視で進んでいる。
そろそろ このあたりを切り上げて、郊外に向けて歩き出してもいい頃合いだ。
横目でツユの様子を窺うと、ハニーレモネードを太陽に透かしていた。
煌めく黄金色の液体と氷を見つめて、また飲み始める。を繰り返すが、口に合わないことはないようだ。
一抹の懸念も無くなり、タイチは地図に視線を戻した。
行った場所に×印をつけていると、今度はツユが。おずおずと覗き込んでくる。
「――次は、どこにします、か?」
「そうだな……」
タイチは集合場所の公園を指さした。
「何ヶ所か経由つつ……いや、そんなに寄らねえ」
現在地から目的地まで、控えめな手つきがえげつないルートを提案してくる。
「アンタ、時々大胆だよな」
「か、可能な限り、確かめたい、というかっ」
「優先度が低いのは下調べの段階でシロなんだと。でもまあ、その。アンタのそういう姿勢は嫌いじゃない」
ほんの少しだけ口角を上げて、タイチはツユの意志を尊重した。
全部は回れないが、まっすぐ向かうつもりだった道のりをちょっとだけ。
――あー、ちょっとまだ通れないだ。
――すみません、あちらから迂回してもらえたら。
――車が立ち往生しちゃってんだ。ありゃあ当分動かないね。
ちょ――――っとだけ逸れたはずが、工事や修繕など至る所で通行止めをくらい、えげつないルートばりに遠回りをする羽目となった。




