case 9
晴天続きだった空模様は、その日朝から ぐずついて。
午後からは手がつけられないほど、大荒れとなる。
「通り雨……じゃなさそうね」
横殴りから土砂降りに変わっただけで、止みそうにない昼下がり。
開店休業状態のFOCUSでは、マウロとツユ、カアナの3人がテーブルを囲って作戦会議なるものを開講していた。
「それではッ、第1回、思い出だっかん作戦会議をはじめたいと思うッ!!」
タイチは火傷の治療のため欠席。
ツユを待ち伏せた男の話を、今一度整理する。
「その男が捜査官だったとして、ゼロっていうのは彼らが呼んでる通称なんじゃないの?」
アーカイブにヒットなし。
「中2階の事務所あさってもなにもなかったしな」
「ファイル出しっぱなしにしてたの、アンタだったのね……。せめて元に戻しなさいよ」
「どこまで見たか分からなくなるだろ」
「こっそりの意味ー」
義行のところに情報がないのは、想定内だ。
調べる必要がないものの情報は集まらない。
「管理局にいる子たちから聞いた話だと、氷山の一角だって。法人語ってる場合もあって、宗教団体に限った話じゃないみたいね」
発症しました。即、隔離します――――ではない、今日。
入院するタイミングは任意だ。
ここ数年でだいぶ見直されてきた。
感染るものから、そうでないと分かって、動けなくなる前に入院してほしいのが臨時政府の見解で。
それがうまく伝わらず、皆、疑心暗鬼なだけ。
なにが正しくて、なにが間違っているのか。その基準が定まっていないのも少なからず影響している。
未だに謎めいている、白砂症候群。
緩やかになる老化の代わりに、最期は骨も残らず昇華していく、治療法のない不治の病。
故に有識者が集まって、非人道的な方法であっても可能性を模索して、人体実験を繰り返している――――――それがゼロの実態なのかもしれない。
『記憶を消す施術をされ、生まれ変わったんだ』
あの男の人も言っていた。
彼なら詳しく知っているし、場所も分かるかも。
「アタシは反対」
「ボクも」
接触を試みようと提案したツユに、満場一致で否決。
「だ、だめっ?」
「85点だな。作戦としてはおもしろい。そいつがソーサカン、だったらな」
カアナも頷く。
「警察に問い合わせたところで教えてはくれないでしょうし、こそこそツユさんに逢いにきたのが不審者すぎるのよ」
「ボスはケーサツに協力したって言ってたしな。ミモトヒキウケニンだって、どーどーと来ればいいのに。そーしなかった、ということは――――」
ちょっとわざとらしく、マウロは顎に手を当ててパチンッと指を鳴らした。
「ボクが思うに、そいつはゼロの関係者だな。ゼロはたくさんあって、その内のひとつがトラブって、キセキ的に生き残ったツユを回収したいってサンダンだ!」
「あら、珍しく意見が合う」
「――俺も教団関係者だと思う」と、マウロに同意したのは、雨でケイたちを迎えに行けなくなった義行だった。
駐車場からFOCUSまで、そんなに距離がないのに、全身びっしょびしょ。床にまで滴る……が、そんな有り様よりも、義行が口を出してくることがびっくりだった。
カアナはタオルを渡しながら、マウロの期待や疑心が入り交じった視線を代弁する。
「ノータッチじゃなかったの?」
「相づちぐらい良いだろ」
人目を、義行の不在時を狙ったかのような男に警戒するのは至極当然のこと。
ただ、教団を取り締まるのは警察だ。
義行ではない。
しかし、このままではツユが謎の男を追ってしまいそうだった。
義行ができる遠回しな忠告――――をいち早く受け取ったマウロは、にやり。邪悪に微笑んだ。
「ゼロの場所、おーしーえーろーよー」
連れて行け、と言わないあたり、マウロなりに言葉を選んでいる。
「……そうくるよな」
聞き役に徹しているツユと、ちらっと目が合った。
ここ数日で見違えるように生き生きとした彼女が、それで納得するなら。
「いいか。これは俺の独り言だからな」
「大きなひとりごとで頼む」
「『あー、ARでも助けられるって分かったら、俺はお役御免だなぁ』」




