検温の時間にございます
入院生活には馴れたもの。なんだかんだで早4日が過ぎたのなー。早いですわー。
退屈以外のなにもない。あるのは隣の点滴と小綺麗な病室。いや、病室があるんじゃなくて僕が居るのか。ニホンゴムツカシーネー。
せめて複数人で泊まる病室が良かったなー。個室はなー。話し相手が欲しい…退屈…
そんなことを考えていたらコンコンとノックが。時計を見ると検温の時間か。
はーいと返事をし、入室の許可を出す。入ってきたのは人当たりの良さそうなおばちゃんと、胸に研究生のプレートを下げた若いお姉さん。
おばちゃんには前々からお世話になっている。記憶障害で運ばれたときも、太ももを刺されたときも、今回の怪我の時も。忙しいはずなのに、僕が入院すると1日に1回は会いに来てくれる。優しいおばちゃんだ。
「やっほー。元気かい?」
「こんにちは玉城さん。まぁまぁですねー。」
「あっはっは。康子で良いんだって。」
「でも、年上ですし。」
「マジメだねぇ…でも、女の子に歳の話ししちゃだめよ?」
「女の子…?」
「そこに疑問を持たないの!女の子は幾つになっても女の子よ!」
「あー…ははは。」
「流したわね!全くもぅ…」
「頬を膨らませないで下さい。マスコットキャラクターにしか見えなくなります。」
「ぐさっ!康子は300のダメージを受けた。」
「なんでゲームっぽくなるんですか。」
うむ。やはり玉城さんとの会話は楽しい。なんて言うか、友達みたい。
しょうもない会話をしていると、隣のお姉さんがあの…と話しに入ってきた。
「…玉城さん…検温…」
「ん?あぁ、忘れてたわ。」
「…ちゃんと、仕事してください…」
「はいはい。美鈴ちゃんも院長みたいなこと言うわねぇ…」
「…玉城さんが仕事しないだけかと…」
「失礼ね!アタシだってちゃんと仕事しますぅー!」
「………」
「…はい、ちゃんとしますー。」
玉城さんが口を尖らせたまま体温計を取り出して僕に手渡す。苦笑いでそれを受け取り、脇に挟むためにボタンを2つ外す。
脇に挟んで…美鈴…さん?を見る。僕の方を見ていたらしく、慌てて顔を背けた。割と短く切りそろえられた真っ直ぐの黒髪が表情を隠したが、顔が赤かったのを僕は見逃さなかった。熱でもあるのかな?
「あー!美鈴ちゃん、今、葵ちゃんの胸見たわねー?」
そんなことを言い放つ玉城さん。え、胸見えてたんですか?
視線を下げると、ギリギリで見えなかった。気にしすぎだね。うん。そもそも相手は女性じゃないか。
「玉城さん…僕の胸見えませんよ?」
「チッチッチ。甘いねー葵ちゃんは。」
「???」
「今は見えなくても、動いているときは見えてたさ!」
ドヤァと背後に文字で出てきそうな顔で言う玉城さん。そんなまさかと思いながらさっきの行動をリプレイ。
…見えた。桜の花びらが舞っている柄のブラジャーが。しかし、こんなんで顔を赤くするだろうか?しかも同性のブラジャー如きで。
あ、胸が見える位置みっけ。これが見えるのは…
「玉城さん。」
「ん?どうかしたかい?」
「胸が見えるの…玉城さんの位置ですよ?」
「…バレた?」
てへっと舌を出しおどける玉城さん。よし。
「明日から玉城さんは来ないで下さい。」
「えー!?いーじゃん減るもんじゃなし!」
「僕の心が傷つきました。」
「こんな些細なことで!?」
「思春期の男の子は複雑なんです。」
「いやいや、今は可愛い女の子じゃないの。」
「そうですけど。」
「ナルシスト発言!!!」
「あ、36.4でしたよ。」
「スルーした!今完全に!スルーした!」
「…あ、体温計、お預かりします…」
「美鈴ちゃん!?アタシ抜きで仕事しないで!?」
「あ、はい。お願いします。」
「ちょ、ヤメて!放置はキツいわよ!」
「…では、また明日来ますね…」
「はい。お願いしますね。美鈴さん。」
「アタシも混ぜてええええええええええ!!!」
検温だけというのに、なんでコントみたいになるのか…それはさておき、美鈴さんは結構ノリが良さそうだ。きっと人見知りで話せなかっただけなんだよね。はー、人見知りの女の子可愛い。
バタバタしていたけど、それなりに楽しかった2人との会話は終わり、また静かな病室に僕1人。
暖かい会話が終わるとなんだか寂しくなるなぁ…
そうして僕はまた退屈を手に入れた。
退屈なんていらない。騒がしさが欲しい。
バカやって、笑いあって。時に真剣な話ししたり、恋バナしたり。泣いたり、慰めてもらったりしたい。
悩み…なのかな?人肌恋しい季節だし、普通かな?なんだかモヤモヤした感じが胸の奥に溜まった。
うーっ!と唸りながら足をバタバタさせ、力を抜いた。
はぁ…早いけどもう寝よう。あ、この間よりシミが拡大してる。
そんなどうでも良いことを考えて、僕は目を閉じた。




