平穏な風景ですね
率直かつ簡単に言わせていただこう。
僕は男が怖くなってしまった。
主に前日のアレのせいだとは思う。あんなに乱暴に扱われ、なおかつ力で全然歯が立たなかったのだから、僕でなくても恐怖心を植え付けられるだろう。
もちろん、男がみなあんな奴らばかりでないことは元男の僕が一番知っている。男の大半が良い奴だし、親切だという事も分かってる。
それでも、だ。それでもこの感じは抜けない。なんて言えばいいのだろうか…こう、よく知らない人間が話しかけてくると、どうしても構えてしまう。僕ぁおかしくなったのだろうか?良からぬ事を考えて僕らに近づき、先日のように乱暴されるのではと勘ぐってしまい一向にクラスのみんなと打ち解けられていない。
えぇ。もちろん努力はしていますとも。してない奴がこんなグチグチ言う資格はないって思ってますよ。当たり前でしょう?話しかけられるのを待つんじゃなく、話しかけたりもしましたよ。男にも女にも分け隔てなくね。
女の子は、ギリギリセーフだった。内容について行けはしなくとも、話しかけ、軽いジョークで笑い合うくらいならお茶の子さいさいですよ。
問題は…ね。男子生徒な。話しかけれたっちゃ話しかけられたよ。
これがまた、続かないんだなー会話が。なんていうか、相手の目を見て話せられないんだよ…うん…
最初の数秒は頑張ってみる。でもすぐにモヤモヤが出てきて、こう…分からないかな…その場から逃げたくなるんだよ。分か…らないよな。
そんなこんなでゲッソリ。僕の頬こけてないか?大丈夫か?
ぐったりしてると、後ろの席の百合が話しかけてきた。
「うわっ、ちょっと葵大丈夫?かなりぐったりしてるけど…?」
「うん、大丈夫大丈夫。ヨユーヨユー。」
「嘘だ!余裕の言い方が適当だったもん!適当に返したら嘘ついてるって数日一緒にいるだけで分かるんだからね!」
そうか。女の子って洞察力に優れてるんだな。凄いな。
「…やっぱりまだ痛むんじゃ…」
おーい、洞察力帰ってこーい。痛そうな顔してたか僕ぁ?してない。少なくとも僕はしてないと思う。
「あー、そこは大丈夫。まじな方で余裕だからね。心配してくれてありがと」
「はいはい。して、それ以外では思いつかないのですが…?」
「えっとねー…怖いんだ…」
百合がぽかんとする。なにを言ってるの?という顔に変わり、ほぼ同時にその疑問を言葉でぶつけられた。
「説明しにくいんだけど…」
と前置きし、さっき述べたことと同じようなことを話す。すると百合はなるほどという顔になった。
「なるほど。つまり、男の子が怖く感じてしまうと。そういうことね?」
「ご名答。さすがは名探偵百合。」
「ふっふっふ、今の細やかな話からこの結論に達することなど簡単なのだよ葵くん。」
見た目は爆弾、中身は可憐ってか。それにしても良いノリでノってくれる。良い子だなぁ。
あ、そうだ。聞きたいことがあったんだわ。この楽しげな空気を壊してしまうかもしれないが、質問させてもらうとしようか。
「そういえば、結構気になってたんだけど…僕が叫んだ後無事に逃げられた?ケガとかなかった?」
これは前から思っていたことだ。勝手に僕が巻き込んでしまったので、ケガとかさせていたら本当に申し訳ない。
「うん。おかげさまで、この通りピンピンしてますよー。」
ピンピンのところで袖をまくって白い肌を露出させ、小さな力こぶを作りながらムンッと胸を張って僕に言う百合。
行動の一つ一つが可愛い。凄く可愛い。これが素でも可愛い。計算され尽くした仕草だとしても可愛い。
結論:百合は可愛い。
顔の筋肉をだらけさせまくっていると、男の子が話しかけてきた。誰にかって?僕にだよちくしょう。
名前は確か…昴。里山昴。僕の要注意人物だ。
サッと立ち上がり百合の後ろに隠れ、彼と言葉を交わす。
「…な、なんですか?」
少しぶっきらぼうだが、仕方ない。なんせこいつは初対面でうなじがどうのこうの。挙げ句の果てには耳に息をうんぬんかんぬん。危険極まりない男なのだ。ちゃんと返せたことが自分でも凄いと思う。誰か褒めてー。
「そ、そんなに警戒しないでおくれよぉ…ぼ、僕は葵たんが思ってるほど危なくないよぉ?」
「別に警戒しているわけではありません。ただ、貴方には僕の背後に立って欲しくないだけです。」
「それを警戒してるって言うんじゃないかぁ…」
「そうですか?気のせいではありませんか?」
「敬語になってるしぃwwwさっきまで百合たんと楽しそうに話してたのにぃwww敬語のうえに無表情だしぃwww完全に警戒されたでござるぅwww」
「別に警戒しているわけではないと先ほども申しました。用件を済ませたのなら速やかに席へ戻ってください。」
「ちょwww冷たいwww葵たん冷たいwww」
「速やかに、席に、戻りなさい!」
だめだっ!奴のペースに飲まれそうだっ!危険はすぐに回避しないといけないのに!
「なーんだ。葵。心配してたけど結構大丈夫そうね?」
そう言いながらやってきたのは…杏奈っ!
救世主がやってきた。我らが杏奈は、男子を撃退する術を持っている女の子である。
「普通に楽しく過ごしてるじゃないの。」
訂正。我らが救世主の杏奈氏の目は節穴のようだ。
「杏奈…これのどこが楽しく過ごしてるように見えるんだよバカ!」
「ばっ、バカってなによ!バカって言う方がバカなんだからね!」
「そういう返しがバカって言ってんだよバカ!」
「バカバカ言うな!まるで私がバカみたいじゃないか!」
「ようやく気づいたか。」
「キイー!ムカつくー!その顔ムカつくー!なにさその哀れむ目は!ヤメなさいそんな目!」
いやーっはっはっは。イジり概のあるおなごよのぉ杏奈は。まったくもっておもしろい奴だ。
今度は慈愛の籠もった笑みで杏奈を見つめる。すると今度は杏奈からカウンターが飛んできた。
「そういえばそうとー?そこにいる男の子が仲間に入りたそうに見てるけどー?いいのー?」
と昴を見、ニヤニヤしながら煽ってくる。
まずい。この2人が手を組んだら止められる自信がない。なんでこんなときに杏奈はノリの良さを発揮するのだろうか…
「ほら、こっちおいでよ!えーっと…」
「あ、拙者でござるか?拙者の名前は「耳うなじマン」にござる。以後お見知りおきを…」
被せてやったぜ。名乗りさえさせないからな!
さぁ、どう返す?杏奈、昴!
「あー、なるほどなるほど。私の名前は「ヒラヒラのスケスケのラメラメパンツ」だよ!よろしくね!」
「御意。」
会話が成立した。なんだ何故誰も突っ込まないんだ?もしかして、本当は聞こえてたりするのか?
「それで、耳うなじマンは葵となに話してたの?」
「いやwwwそれがwww警戒されてましてなwww用件すら伝えてないのでござるよwww」
あー、聞こえてなかったんだな杏奈よ。てか、ネーミングセンスないな…なんだよ耳うなじマンって。あ、僕がつけたのか。
「それで、ヒラヒラのスケスケのラメラメ氏は如何様にてこちらへ参られたのかな?」
「私は、うーん…なんとなく?」
おい耳うなじマンよ。僕がさっき杏奈の名前言ったじゃん。お前は名前分かるだろなんでノってんだよ。
ていうか杏奈よ。なんとなくで来たのか。暇人みたいだぞ?悪く言えば、友達いないみたいだぞ?クラスでみんなと話しでもしてればいいのに…
そんなこんなでグダグダのまま休み時間は終わった。杏奈は教室を去り、昴は席に戻った。
やっと平穏な時間がやってきた…疲れた…休み時間って休むもんじゃないんだね…
そう思いながら次の授業に備える。
あ、次体育じゃん。早く着替えねばの。




