悪いのはどなたでしょう?『一郎side』
どうも。お久しぶりです。お元気でしょうか?
あ、誰だお前はって聞こえましたので、改めまして自己紹介を…
拙者の名前は佐藤一郎と申す。ここいらではよく聞く名前ではありやせんかい?聞かない?そうですか。いやなに、昨日見た時代劇の真似ですよ。こんな感じでしょう?
さてさて。
この間話した凄く可愛い女の子。覚えていらっしゃいますか?あの子、鈴木葵さんって名前らしいです。いや、ストーカーとかではないんですが、たまたま同じクラスでして。
たまに盗み見ては可愛いなぁと呟く。また盗み見ては可愛いなぁと呟く。そんな感じで過ごしていたら、後ろの席の子に話しかけられる。名前は…里山昴。
なんか、シュっとしてそうな名前なのに外見は太り気味。口調もなんだか陰気くさいし、発言も少しアブノーマル。アブノーマルって使い方で当たっているか分からないが、あの子の髪綺麗だねーとか手スベスベそうだねーってのはまだ良い。
あの髪はきっといちご味に違いないとか爪の先切って僕にくれないかなぁとかやっぱりいちご味だったとか言うのはヤメてほしい。危ない感じがする。
昴くんもどうやら葵ちゃんのことが気になるらしく、話したいけど接点がないと肩を落としていた。
それは僕も同じ事。女の子と話したこともなければ、気の利いたおもしろい話もできない。
どうすればいいのかと悩んで2日目に入る。
すると、葵ちゃんの姿が見えない。
真面目そうな彼女のこと。なにか理由があるのかもしれない…
と思っていると、先生がやってきて席に座らされるりみんな大人しく指示に従った。それから誰かが「あれ?葵ちゃんは?」と言った。それから堰を切ったようにザワザワし始める。
全く…全員が座ってから居ないことに気付くとは。薄情な奴らめ…あ、昴がいない。
と、ともかく葵ちゃんがいないのは事実。先生がみんなを静かにさせ、話し始めようとしたその時。
外から廊下をドスドスと駆けてくる音が。
みんな口々に「あー、葵ちゃんは遅刻だったかー」「お寝坊さんなんだからー」とか言っている。僕も顔は笑っているが、違和感が拭えない。
まず第一に、葵ちゃんの後ろの席の平良百合恵ちゃんの表情が暗いこと。初日にあれだけ話せてたんだし、なにか事情を知っているのかもしれない。
第二に、走ってきたということ。
彼女の場合、鐘が聞こえてからダッシュを始める。一度しか見ていないが、彼女は間に合わないと踏んだら諦めて歩いてそうだ。完全にイメージだけど。
最後に、ドスドスという音。
みんなも薄々気付いているだろうが、葵ちゃんは走るとき、パタパタという音が鳴る。これは上履きを履いているのだが大きく、走るとパタパタ鳴るのだ。歩くときはペタペタ。とても葵ちゃんに似合っている。閑話休題。
さて、ではこのドスドスという音はなんだろうか。なにか、重い物が走っているように感じる。つまり。これは昴くんじゃないかな?
予想的中。みんなのブーイングを背に頭を掻きながら席に着く昴くん。
改めて先生の口から言葉が発せられる。
「えー…大変言いにくいのですが…鈴木葵さんはケガのため病院で療養中です。ケガの原因は刃物による刺し傷。幸い深くはなく、少ししたら戻ってくるとのことですので…以上です。」
そう言って立ち去る先生。
僕たちは呆気にとられて、なにも言えなかった。
我に戻ったときには授業が始まり、とりあえずは保留となった。
休み時間。みんなどうしたんだろうとか友達と話している。そんな中、やはり暗い表情のままの百合恵ちゃん。
これは絶対に経緯を知っていると確信した僕は、勇気を出して話しかけた。
「百合恵…ちゃん?」
「は、はいっ!」
「えっと、葵さんについてなにか知ってたりする…?」
無言。どうやら僕の勘は当たったらしい。
震えながらも、百合恵ちゃんは僕に話してくれた。
高校生に絡まれたこと。
無理矢理カラオケに連れて行かれたこと。
葵ちゃんが百合恵ちゃんと隣のクラスの中村杏奈さんを逃がしてくれたこと。
その後…病院で横たわっていたこと。
患部は太もも。包帯でグルグル巻きだったという。
僕らは唖然とした。そんな、そんなつまらない理由で葵ちゃんは刺されたのか、と。
許せない。絶対にそいつらのことが許せない…
しかし、なんとか高校生を伸し、近くにいたおじいちゃんに抱えられて病院に行ったらしい。
そうか、伸したのか。葵ちゃんって可愛いだけじゃないんだな。かっこいいな。
それから2日後。葵ちゃんはクラスに戻ってきた。
いつもと変わらない姿。変わらない笑顔。でも、時折その表情が歪む。主に男子生徒が話しかけたときと歩いている途中にだが。
早く治ると良いな。心の底からそう願った。
それから昴よ。葵ちゃんにそんな言葉をかけるでない。怯えてしまっているではないか。




