中学初の友達
この子は何を言ってるのだろうか。
確かに物覚えの悪い頭ではあるが、名前と顔の一致までは出来なくてもうっすらと覚えていられることは出来る。しかも、こんなに可愛い子を僕が忘れるわけがない。僕なりに調べてみたりもする。
うーん…きっと、僕と同じ事考えてるな。
先ほど感じた"同じ匂い"。これにきっと彼女も気付いたのだろう。甘ったるいような、頭の中をとろけさせるような甘美な香り。しかしこの匂いは、服から香る洗剤及び柔軟剤の匂いではない。そもそも、この匂いを感じ取れる人は数少ないだろう。
これはきっと、同族同士で感じられる匂いに違いない。それならば、周りの子が分からなくても納得がいく。
ますますこの子の事を知りたい。
話している内に、僕と彼女の共通点が見つかるやもしれない。
だから、いや、そんな理由よりも。
僕は純粋にこの可愛い女の子と友達になりたかった。
僕にしては珍しく意気込んで答える。
「それはないと思うよ。僕、君みたいな可愛い子の事を忘れるなんて事ないもん。でも、なぜか懐かしい感じがする。きっと君もそうでしょ?」
…なんだろう。とても恥ずかしいことを口走った気がする。シンとした教室の空気が更に重くなる。
周りから、「えー、あの子同性愛者だったのかー。残念。」とか、「あの子、女の子が好きなのね。私にも友達になれるチャンスがあるかしら。」などと聞こえる。
今の僕の一言であらぬ誤解を与えたようだ。それは想像ではなく、事実だろう。
直ぐにでも訂正したいが、今話しているのは目の前の彼女。まだこの子の口から答えを聞き、話も終わっていない。故に、訂正は後からすることにした。
彼女は少し頬を赤らめながら
「えぇ。貴女の言う通りよ。なんだか懐かしい感じがする。だから、子供の頃の友達なのかなって思ったの。」と答えた。
ふむ。やはりな。僕と同じだ。
「君も感じたと思うが、僕は君から。君はきっと僕から甘い香りが漂ってきたんだと思う。それも、昔嗅いだことのあるような、甘い香りがね。」
そう少女に言った。
少し驚いた少女は、表情を引き締め真剣な顔をすると、その小さな鼻をクンクンと動かし匂いを探っている。
そして納得したように頷くと、確かにと呟いた。
「そこでだ。この原因を調べるために、僕は君のことを。そして君は僕のことをもっと知るべきだと思うんだ。だから、その、」
友達になって下さい。
この一言がとても言えない。すごく恥ずかしい。
あー、気持ちを察してくれないかなー?僕が言わなければいけないのは分かっているが、どうしても言えない。
ここまでまくしたてて、1人で腕を組み唸る僕に向かって、彼女は突然、
「私の名前は平良百合恵と申します。」
そう笑顔で名乗り手を差し出した。
「あ、えっと、僕の名前は鈴木葵だ。その、よろしく…」
僕も名前を名乗ると、差し出された手を握った。
小さくて暖かい手。
小さな肩。
小さな背(僕とそんなに変わらないが)。
可愛らしい髪型。
少しでも乱暴にしようものなら直ぐに壊れてしまいそうな、繊細な女の子がそこにいた。
うん。この子とは仲良くしていけそうだ。
理由は分からないが、そう確信した。この理由も親睦を深めるたびに分かっていくのだろう。
僕は一呼吸おいて、
「友達になって下さい!」
満面の笑顔で、百合恵にお願いした。
百合恵の返事はYes。一件落着。よかったよかった。
学校が始まって一日目。
どうやら僕は幸先の良いスタートを無事切ることが出来たようだ。




