古の歌
「綺麗な歌だね」
浅い呼吸を繰り返し、戦車に寄りかかってようやく座れるような状況の中、将軍はレベッカの歌を聴いていた。不思議な旋律だった。今までに聞いた事のない音楽は、まるで母親の腕に抱かれているかのような安心感を与えてくれる。気がつけば、街に響き渡っていた阿鼻叫喚が止んでいた。きっと歌に導かれて、皆安全件に脱出したのだろう。将軍は美しい歌声を披露する歌姫に感謝した。
ただ一つ、歌詞の意味が分からないということが残念だったが。
「これは、君達の歌なのか?」
信じられないものを見るかのようにレベッカを見ている〝使徒〟達に聞けば、キキという少年が肯定した。
「でも、何で知ってんだ?古語は分からないって聞いたけど」
「……さぁ?」
レベッカの母親が研究者であることを知っていて、尚且つかつての腐敗していた軍の上層部の身勝手な要求に彼女が命を絶ったことを知る将軍は、何となく察しがついたけれど、それをレベッカの許可なく他者に言うつもりはなかった。
「ねぇ、キキ君。歌詞の意味を、教えてくれないか?」
「……そんな義理はねぇって、普段なら言うんだけどな……何か、あんた死にそうだし。全部は面倒だから、一番だけ。
神の作りし頂きに、汝の健を祈りたもう
神の恵みし清泉に、汝の純を契たもう
責を背負いし運命に
惑うことなく進みゆけ
誇り高き血と魂が
我が一族の誉れなり
眠れ、我らの子よ
眠れ、愛しき子よ
汝の業は、我らの業
汝の罪は、我らの罪
時が巡りて至るまで
眠れ、我らの愛しき子よ
……俺は、ずっと子守唄だと思ってたけど……ひょっとしたら、あいつの為の歌なのかもな」
「……そうだね」
古の一族も、残していく彼のことが少しは気がかりだったのだろうか。もしそうなら、彼も少しは救われるだろう、と自分の腕を持って行った憎い相手であるのに、将軍はそんなことを思った。
(嫌だな……まるで死ぬみたいじゃないか)
感傷的な自分にうんざりする将軍の横に、レイモンドは膝を付くと輸血を取りだした。
「将軍、いい加減死ぬんで輸血だけはさせて下さい」
そう言いつつ将軍の許可を得ないまま、レイモンドは太い針をぶっ刺した。
「レイモンド君……君、私が注射嫌いだって知ってるよね」
「ええ。勿論」
「それがどうかしましたか?」と何でもないように返され、将軍は反抗を諦めたのだった。
読んでいただきありがとうございました!




