戦闘開始
戦闘シーンがあります。
苦手な方はご注意下さい。
バ―ダ―を駆っ飛ばし、キキ達は夜明けの一時間ほど前に目的地に辿り着いた。時間的余裕はある。しかし精神的余裕は、彼らにはなかった。茂みの中から見える敵の基地の全容に、全員が緊張し体を強張らせていた。
〝無敗将軍〟の本拠地は、街から少し離れた場所にあった。背中を絶壁に預けた荒野に建つ建物は主に二つ。兵士たちの宿舎と、職務を行なう為の執務舎だ。どちらも実用性重視なのか、目立つ造りではない。もし街にあったなら団地だと思っても不思議ではないような見た目だった。キキ達が固唾を飲んで見つめているのは、建物の周囲に立つ防壁だ。高さはそれほどないが、等間隔に覗き窓が取り付けられ、明らかに中に人が入れる造りになっているそれは、この距離からは分からないが、恐らくどこかしらの壁が開きそこから銃器が飛び出すような仕組みになっているに違いない。四角い防壁の角は壁よりも高くなっていて、先端がなぜか丸みを帯びているのも、何かありますと言っているようで怪しい。しかも、キキ達が身を隠している茂みより先には、障害物が一切ない。この茂みから基地まで、凡そ三百メートル。飛び出していけば、確実に集中砲火を浴びることになるだろう。
半端ない威圧感を放つ基地を見て、キキは「基地っていうより、要塞だよな」と素直な感想を口にする。だがいつもならキキの軽口を咎める仲間が誰も何も言わないので、軽口を叩けるだけ自分はマシのようだ、とキキは暗くて顔色を確認できない仲間達の状態を知った。
「あんたなら、ここから攻撃することも出来るのか?」
空気が重苦しくて、キキはわざと明るく聞く。
「あぁ。だが、姿を見せないと意味がないからな。ある程度近付いてから攻撃する。……キキはどうやって侵入するんだ?ここからは近づけないだろう?」
「透明人間にでもなんなきゃ、ここからは行けないだろうな。――この基地の生活排水は、街に流れてんだ。街から下水道を通って侵入する。……臭いんだよね~、だからあんたに押し付けたのに」
「……精々臭くなってレベッカに嫌われろ」
ヴィラの憮然とした空気が可笑しくて、キキは笑う。それに釣られる様に仲間達の空気も和らいでいくのを感じて、キキは安堵した。
「……さっさと行け。一時間後には攻撃に入る」
少し恥ずかしかったのか、ヴィラが素っ気なくキキに言う。そうしていると、まるで里の小さな子ども達のようで、キキは決意を新たにした。
「了解。こっちは任せろ。必ず彼女を助け出すから」
段々と東の空が明るくなってきて、ヴィラは後ろを振りかえった。もうお互いの顔を確認できるようになり、ヴィラにも皆が緊張しているのが分かる。誰がどう考えたって、あそこに突っ込んでいくのは自殺行為だ。彼らはヴィラの力がどれほどの物か知らないし、それも無理のないことだろうとヴィラは思う。だから、ササを見据えてヴィラは命じた。
『僕一人で行く』
『な、何を言うのです?!我々とて、貴方様の盾となる位には――』
『そういう意味じゃない。全員で突っ込んでも死者が増えるだけだから、僕が行って目ぼしい武器を沈黙させる。合図を出すから、それを見て加勢しろ。これは命令だ』
『命令』という言葉に、ササは口を噤む。これがキキなら梃子でも付いてくるのだろうが、彼のように真っ当な〝使徒〟ならこの言葉で動きを制約出来た。
気を落とす彼らに、ヴィラはついでとばかりにもう一つ命じる。
「それから、彼女は古語が話せない。今から古語は禁止だ。いいな?」
どうにか頷くササ達を置いて、ヴィラは一人立ち上がると前進する。恐怖はない。相手がいきなり攻撃してくる訳がないと分かっていた。
半分ほど距離を詰めた時、ゴゴゴゴゴ、という地響きのような音がして、ヴィラは防壁に目を向ける。怪しさ満点だった角の先端が回り、長い銃身が現れてヴィラに照準を合わせた。続くように防壁の覗き窓のすぐ下の壁に穴が空き、これまた長距離射撃用の銃器が現れる。
ヴィラはそこで足を止めた。
「あー、あー、うん。ちゃんと入ってるね。初めまして、審判者君。いや、君は〝ヴィラ〟という名前の方が好きかな?」
壁に取り付けられた拡声器から流れてくる声に、ヴィラは眉を寄せる。苛々する声だった。
「それにしても驚いたよ。まさか君が一人正面から乗り込んでくるとは……〝使徒〟に正面から襲撃させて、君はこっそり忍び込んでくると思っていたのだがね。ほら、やっぱりお姫様を救うのは勇者っていう決まりがあるだろ?出来れば守って……まぁ結果オーライ。それで、正面から来たということは、我々と交渉する気があるってことで良いのかな?」
ヴィラは答えない。それが分かっていたのか、向こうは自分達の要求を一方的に告げた。
「我々の要求は二つ。一つ目は、人類を滅ぼす兵器のスイッチを我々に渡すこと。二つ目は、我が軍の下に入ること。――この要求を呑んでくれれば、彼女の身の安全は約束するし、何なら二人の愛の巣を私が用意するよ」
「将軍」と咎める声が小さく入って、この声の主が敵の総大将だとヴィラは知った。
(拡声器を使う者――目印があって分かりやすい)
ヴィラは一人ほくそ笑んだ。
「十秒あげよう。イエスなら前に、ノ―なら後ろに、進んでくれ」
将軍が「いーち、」と間延びさせながらご丁寧に数を数える。そんな彼に、十秒もいらない、と心の中で返事をして、ヴィラは両腕を上げた。
「っ、撃てーーーー!」
将軍の反応の速さは称賛に値すると思いながら、ヴィラはそれすらも嘲うかのように衝撃波を放った。
ヒュン、という独特の音を奏でながら、超圧縮された空気の塊がヴィラの掌から放たれ、重厚な防壁を粉砕する。遅れて荒野に爆音が響き渡り、地を揺らした。その間に、将軍の攻撃命令に反応出来た優秀な者達が放った銃弾を、ヴィラは衝撃波で返り討ちにし、動力を流し加速させた足でかわす。その一波が去ると、相手の攻撃が止んだ。基地を見れば、防壁は三つに分断され、空いた空間には瓦礫が山をなしていた。
ドン、という轟音が響き、角の砲撃台からの攻撃がくる。連射が出来ることに驚きつつも、ヴィラは難なくかわして反撃する。狙い違わず一つ目を撃破し、反対側を狙おうと前進したところで、今度は正面の壁からの砲撃がくる。バックステップで避けたヴィラだったが、足元から、カチ、という不吉な音がして、反射的に防御能力を上げる。次の瞬間には足場が爆発し、空中に吹き飛ばされた。力に逆らえず空中をクルクルと回りながら、ヴィラは〝使徒〟を連れてこなくて正解だったと、己の判断の正しさを噛みしめたのだった。
読んでいただきありがとうございました!
戦闘シーン、書いてて楽しかったけど、銃器の知識がないため微妙な表現に……精進致します。




